• 著者: Cheng Y, Spigel DR, Cho BC, Laktionov KK, Fang J, Chen Y, Zenke Y, Lee KH, Wang Q, Navarro A, Bernabe R, Buchmeier EL, Chang JWC, Shiraishi Y, Goksu SS, Badzio A, Shi A, Daniel DB, Hoa NTT, Zemanova M, Mann H, Gowda H, Jiang H, Senan S (ADRIATIC Investigators)
  • Corresponding author: Suresh Senan (Amsterdam University Medical Centers, Amsterdam, Netherlands)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-09-13
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 39268857

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約15%を占める極めて悪性度の高い腫瘍であり、診断時の病期にかかわらず予後不良である。新規診断SCLC患者の約3分の1が限局型SCLC (LS-SCLC) として診断され、この病期では白金製剤とエトポシドによる同時化学放射線療法 (concurrent chemoradiotherapy; concurrent CRT) と、適応のある場合の予防的全脳照射 (prophylactic cranial irradiation; PCI) が根治的治療として標準的に行われる。しかし、根治的concurrent CRT後もほとんどの患者は治療開始から2年以内に再発し、5年全生存期間 (OS) 率は29-34%に留まることが報告されている Turrisi et al. NEnglJMed 1999。過去30年間で限局型SCLCに対する全身療法に実質的な進歩はなく、新たな治療アプローチが強く求められている状況である。

免疫チェックポイント阻害剤は、癌治療において画期的な進歩をもたらした。Durvalumabは選択的高親和性ヒトIgG1モノクローナル抗体であり、PD-L1 (programmed death ligand 1) に結合し、活性化T細胞上のPD-1 (programmed death 1) およびCD80との相互作用を阻害することで、腫瘍免疫応答を再活性化させる。非小細胞肺癌 (NSCLC) 領域では、PACIFIC試験において、切除不能なIII期NSCLC患者に対する同時化学放射線療法後の補助療法としてdurvalumabがプラセボと比較して無増悪生存期間 (PFS) およびOSを有意に延長することが示され、新たな標準治療として確立された Antonia et al. NEnglJMed 2017 Antonia et al. NEnglJMed 2018。また、進展型SCLCに対しては、複数の免疫チェックポイント阻害剤が化学療法と組み合わせることで有効性が示されており、例えばCASPIAN試験ではdurvalumabが白金製剤-エトポシド療法に上乗せすることでOSを有意に改善した Paz-Ares et al. Lancet 2019。これにより、免疫チェックポイント阻害療法は進展型SCLCの標準治療として確立されている Dingemans et al. AnnOncol 2021

これらの背景から、化学放射線療法が腫瘍微小環境を「プライミング」し、PD-L1/PD-1経路へのアクセス性を高める可能性が示唆されている。この「プライミング」効果は、腫瘍抗原の放出や主要組織適合性複合体 (MHC) 分子の上方制御を通じてT細胞の活性化を促進し、その後の免疫チェックポイント阻害剤の効果を増強すると考えられる。しかし、限局型SCLCにおける根治的CRT後の補助免疫療法の有効性については、これまで明確なエビデンスが不足しており、長期生存率の改善に向けた新たな治療戦略の確立が残された課題であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的として、限局型SCLCの根治的CRT後の補助療法としてdurvalumabの有効性を評価するADRIATIC試験が設計された。

目的

本研究の目的は、根治的concurrent CRTによる初期治療後に病勢進行がなかった限局型SCLC患者を対象に、補助免疫療法としてdurvalumabあるいはdurvalumabとtremelimumabの併用療法をプラセボと比較する第III相国際多施設無作為化二重盲検試験 (ADRIATIC試験、NCT03703297) において、durvalumab単独群とプラセボ群の2つの主要評価項目 (OSおよびPFS) に関する第1回計画中間解析の結果を報告することである。本解析では、durvalumab単独療法の有効性と安全性を評価し、限局型SCLCにおける新たな治療選択肢としての可能性を検証する。durvalumabとtremelimumab併用群の結果は、本中間解析時点では引き続き盲検化されている。

結果

2018年9月28日から2021年8月18日までの期間に、合計939例の患者が登録され、730例が無作為に割り付けられた (durvalumab群 n=264、durvalumab+tremelimumab群 n=200、プラセボ群 n=266)。本報告のITT (intention-to-treat) 集団は、durvalumab群 n=264とプラセボ群 n=266の合計530例であった。患者のベースライン特性は両群間で良好に均衡していた。患者の年齢中央値は62歳、男性が67-71%、III期SCLCが87%を占めた。前治療のconcurrent CRTでは、シスプラチン-エトポシドが66%の患者に、カルボプラチン-エトポシドが34%の患者に用いられた。放射線治療スケジュールは、1日1回照射が72%で、推奨線量である60-66 Gyを94%の患者が受療していた。PCIは54%の患者に施行された。

全生存期間 (OS) の延長: 主要評価項目であるOSにおいて、durvalumab群はプラセボ群と比較して有意な延長を示した。durvalumab群のOS中央値は55.9ヶ月 (95% CI, 37.3-未到達) であったのに対し、プラセボ群では33.4ヶ月 (95% CI, 25.5-39.9) であった (HR 0.73, 98.321% CI 0.54-0.98, P=0.01)。24ヶ月OS率はdurvalumab群で68.0%、プラセボ群で58.5%であり、36ヶ月OS率はそれぞれ56.5%と47.6%であった (Figure 1A)。データカットオフ時点での死亡イベントはdurvalumab群で115例 (43.6%)、プラセボ群で146例 (54.9%) であった。打ち切り例におけるOSの追跡期間中央値は両群ともに37.2ヶ月であった。

無増悪生存期間 (PFS) の延長: もう一つの主要評価項目であるPFS (BICR評価) も、durvalumab群でプラセボ群と比較して有意な延長が認められた。durvalumab群のPFS中央値は16.6ヶ月 (95% CI, 10.2-28.2) であったのに対し、プラセボ群では9.2ヶ月 (95% CI, 7.4-12.9) であった (HR 0.76, 97.195% CI 0.59-0.98, P=0.02)。18ヶ月PFS率はdurvalumab群で48.8%、プラセボ群で36.1%であり、24ヶ月PFS率はそれぞれ46.2%と34.2%であった (Figure 2A)。PFSイベント (病勢進行または死亡) はdurvalumab群で139例 (52.7%)、プラセボ群で169例 (63.5%) に発生した。

OSのサブグループ解析: OSのサブグループ解析では、ほとんどのサブグループでdurvalumabの優位性が一貫して認められた (Figure 1B)。特に、WHO PS 0の患者ではHR 0.55 (95% CI, 0.38-0.79) と顕著な効果が示された。また、カルボプラチン-エトポシドによる前化学療法を受けた患者群ではHR 0.56 (95% CI, 0.35-0.89) であり、シスプラチン-エトポシド群のHR 0.82 (95% CI, 0.61-1.10) と比較してより大きな効果が示唆された。放射線治療スケジュール別では、1日1回照射群でHR 0.72 (95% CI, 0.55-0.95)、1日2回照射群でHR 0.68 (95% CI, 0.40-1.14) であり、PCI施行の有無にかかわらず同様の傾向が認められた (PCI施行あり: HR 0.75, 95% CI 0.52-1.07; PCI施行なし: HR 0.71, 95% CI 0.51-0.99)。

奏効および後続治療: ベースラインで測定可能病変を有し、追加奏効評価が可能であった患者において、durvalumab群の客観的奏効率 (ORR) は30.3% (95% CI, 23.6-37.7) であり、プラセボ群の32.0% (95% CI, 25.0-39.6) と同程度であった (Table 2)。しかし、奏効が得られた患者における奏効持続期間中央値は、durvalumab群で33.0ヶ月 (95% CI, 22.4-未到達) と、プラセボ群の27.7ヶ月 (95% CI, 9.6-未到達) と比較して長期であった。18ヶ月時点での奏効継続率はdurvalumab群で71%、プラセボ群で55%であった。ITT集団において、後続の全身抗癌治療を受けた患者の割合は、durvalumab群で36.0%、プラセボ群で47.7%であった。細胞傷害性化学療法を受けた患者はそれぞれ31.1%と42.9%、免疫療法を受けた患者は6.4%と11.7%であった。プラセボ群でより多くの患者が後続治療を受けていた。

安全性: 安全性解析対象集団において、Grade 3または4の有害事象の発生率は、durvalumab群で24.4%、プラセボ群で24.2%であり、両群間で同等であった (Table 3)。有害事象による治療中止に至った患者の割合は、durvalumab群で16.4%、プラセボ群で10.6%であった。有害事象による死亡は、durvalumab群で2.7%、プラセボ群で1.9%であった。免疫関連有害事象はdurvalumab群で32.1%、プラセボ群で10.2%と、durvalumab群で高頻度に認められた。特に、甲状腺機能低下症はdurvalumab群で13.7% vs プラセボ群で3.4%、肺炎/放射線性肺炎はdurvalumab群で11.8% vs プラセボ群で3.0%であった。全グレードの肺炎または放射線性肺炎の発生率はdurvalumab群で38.2%、プラセボ群で30.2%であったが、Grade 3または4の発生率はそれぞれ3.1%と2.6%と両群で同程度であった。Grade 5の肺炎または放射線性肺炎はdurvalumab群で1例 (0.4%) 報告された。durvalumabに関連した免疫関連有害事象による治療中止は11.5%であり、そのうち肺炎/放射線性肺炎による治療中止は8.8%であった。

考察/結論

ADRIATIC試験の第1回中間解析において、LS-SCLCに対する根治的CRT後の補助免疫療法としてdurvalumabはプラセボと比較して2つの主要評価項目 (OSおよびPFS) の双方を有意に改善した。OS中央値は55.9ヶ月 vs 33.4ヶ月 (HR 0.73, 98.321% CI 0.54-0.98, P=0.01)、PFS中央値は16.6ヶ月 vs 9.2ヶ月 (HR 0.76, 97.195% CI 0.59-0.98, P=0.02) であり、これは過去30年間で全身療法の進展がなかったLS-SCLCに対する初めて明確な治療上の突破口となる。

先行研究との違い: プラセボ群のOS中央値33.4ヶ月は、従来の標準治療の代表的ベンチマークであるCONVERT試験の25.4-30.0ヶ月を上回っている。これは、本試験がCRT後に病勢進行のない患者のみを組み入れたこと、放射線技術の改善、および後続治療 (免疫チェックポイント阻害剤を含む) へのアクセス改善などが反映されている可能性がある。しかし、durvalumab群の3年OS率56.5%は特筆すべき成績であり、根治的CRTに補助durvalumabを追加することで長期生存率の改善が明確に示された点で、これまでの治療成績とは対照的な結果である。

新規性: 本研究で初めて、LS-SCLC患者において根治的CRT後の補助durvalumab療法がOSおよびPFSを有意に延長することが示された。この知見は、非小細胞肺癌におけるPACIFIC試験の成功に続くものであり、CRTが腫瘍微小環境をプライミングし、その後の免疫チェックポイント阻害剤の効果を増強するという、より広い機序に基づく効果を示唆する新規性がある。

臨床応用: 本試験の知見は、LS-SCLCにおけるCRT後補助免疫療法の新たな標準的アプローチとして、durvalumabの24ヶ月投与を支持するものであり、臨床現場における治療体系に変革をもたらす可能性を秘めている。長期生存率の改善は、この予後不良な疾患の患者にとって大きな臨床的意義を持つ。

安全性: 安全性プロファイルは、Grade 3/4有害事象の全体頻度が両群で同等 (約24%) であったことが重要な所見である。免疫関連有害事象はdurvalumab群で多く認められたが (32% vs 10%)、これは既知のdurvalumabの安全性プロファイルと一致しており、治療関連死亡率は低かった (0.4%が治療関連の可能性のある事象として)。肺炎/放射線性肺炎のGrade 3/4頻度は両群で同等 (約3%) であり、CRTそのものを原因とする肺障害の背景頻度が高いことを反映している。

残された課題: 今後の検討課題として、durvalumabとtremelimumab併用療法の結果、CRTと同時期の免疫療法、維持療法の最適期間、および異なるSCLCサブタイプにおける免疫療法の効果の評価などが残されている。また、本試験では黒人患者の割合が低かったというlimitationがあり、多様な人種におけるSCLCの臨床ケアとアウトカムに関するさらなるデータが必要である。これらの研究を通じて、LS-SCLCの治療体系の最適化が進むことが期待される。

方法

ADRIATIC試験は、国際多施設共同、二重盲検、無作為化、プラセボ対照の第III相臨床試験として実施された。対象患者は、18歳以上で、組織学的または細胞学的に確認されたLS-SCLC (AJCC第8版またはIASLCの病期分類に基づくstage I-III; stage I/IIは医学的に手術不能な症例に限る) を有し、根治的concurrent CRTによる初期治療後に病勢進行がなかった患者であった。Concurrent CRTは、化学療法サイクル2の最終日までに放射線治療が開始された場合と定義された。主要な適格基準には、WHOパフォーマンスステータス (PS) が0または1であること、および前治療のCRTによるGrade 2以上の肺臓炎の既往歴がないこと、あるいはGrade 2以上の毒性が遷延していないことが含まれた。

患者はCRT終了後42日以内に、durvalumab群 (1500 mg)、durvalumab+tremelimumab群 (durvalumab 1500 mg + tremelimumab 75 mgを4回投与後、durvalumab単独)、またはプラセボ群に1:1:1の比率で無作為に割り付けられた。2020年11月のプロトコル改訂後は、durvalumab群またはプラセボ群に1:1の比率で割り付けが変更された。各薬剤は4週ごとに最大24ヶ月間投与された。無作為化の層別因子は、病期 (I/II期 vs III期) とPCI施行の有無であった。

主要評価項目は、OSとPFS (RECIST 1.1に基づく独立中央判定委員会 [BICR] による評価) の2つであった。統計解析には階層的多重検定手順が採用され、OSの有意性閾値はP=0.01679 (両側)、PFSはP=0.02805 (両側、アルファ再利用後) と設定された。データカットオフは2024年1月15日であった。本報告では、durvalumab群とプラセボ群のみの結果を報告し、durvalumab+tremelimumab群の結果は引き続き盲検化された。

安全性評価は、治験薬またはプラセボを少なくとも1回投与されたすべての患者 (安全性解析対象集団) を対象に行われた。有害事象はNCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.03に基づき評価された。OSおよびPFSの解析にはKaplan-Meier法が用いられ、ハザード比 (HR) は層別Cox比例ハザードモデルにより推定された。95%信頼区間 (CI) はプロファイル尤度法を用いて算出された。サブグループ解析は、年齢、性別、人種、地理的地域、WHO PS、喫煙状況、病期、前化学療法レジメン (カルボプラチン-エトポシド vs シスプラチン-エトポシド)、前放射線治療スケジュール (1日1回 vs 1日2回)、concurrent CRTに対する最良奏効、CRT終了から無作為化までの期間、PCI施行の有無など、ベースラインの人口統計学的および臨床的特性に基づいて実施された。