- 著者: Xuezhi Hao, Lin Wang, Yanrong Hao, Yanping Hu, Chun Chen, Bi Chen, Yunchao Huang, Aimin Zang, Yan Wang, Zhendong Chen, Wu Zhuang, Jinsheng Shi, Xiubao Ren, Ligong Nie, Guohua Yu, Feng Luo, Yimin Mao, Xiang Wang, Baolan Li, Yuansong Bai, Jianhua Shi, Hongyan Ni, Xiaoli Hou, Haoyu Yu, Jing Li, Qingyu Wang, Jun Zhu, Yuankai Shi
- Corresponding author: Yuankai Shi (Department of Medical Oncology, National Cancer Center/National Clinical Research Center for Cancer/Cancer Hospital, Chinese Academy of Medical Sciences & Peking Union Medical College, Beijing, P. R. China)
- 雑誌: Cancer Communications
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-06-10
- Article種別: Original Article
- PMID: 42282892
背景
非扁平非小細胞肺癌 (nsq-NSCLC) は、肺癌全体の多くを占め、極めて予後不良な組織型である。ドライバー遺伝子変異 (EGFR/ALK/ROS1など) を持たない進行非扁平非小細胞肺癌患者に対しては、プラチナ製剤併用化学療法にペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) を上乗せする治療法が標準的な一次治療として確立されている。さらに、Socinski et al. (2018) によるIMpower150試験などの先行研究に基づき、抗VEGF抗体ベバシズマブ、抗PD-L1抗体アテゾリズマブ、および化学療法の4剤併用療法も一部の患者群で臨床的ベネフィットを示してきた。
しかしながら、その後の先行研究であるZhou et al. (2025) のIMpower151 (IMpower151 clinical trial) 試験では、中国人の進行非扁平非小細胞肺癌患者においてアテゾリズマブとベバシズマブ、化学療法の併用による有意な生存期間の延長効果は示されず、結果は極めて controversial (議論百出) であった。また、直接的にベバシズマブの上乗せ効果を検証したShiraishi et al. (2024) のAPPLE (APPLE clinical trial) 試験においても、アテゾリズマブ+化学療法に対するベバシズマブ追加の明確な上乗せ効果は認められていない。これらの先行研究では、EGFRやALKなどのドライバー遺伝子変異陽性例でチロシンキナーゼ阻害薬治療後に増悪した患者が混在していた。そのため、純粋な未治療ドライバー遺伝子変異陰性例における抗VEGF抗体追加の意義については、依然として未解明な部分が多く、臨床データが著しく不足していた。
さらに、これまでの臨床試験の多くは抗PD-L1抗体を用いたものであり、より強力なT細胞活性化作用が期待される抗PD-1抗体と化学療法の併用療法に対して、抗VEGF抗体を追加することによる相乗効果や生存期間への影響を直接比較した第III相ランダム化比較試験は存在しなかった。したがって、ドライバー遺伝子変異陰性の未治療進行非扁平非小細胞肺癌における、抗PD-1抗体+化学療法への抗VEGF抗体追加の臨床的有用性は確立されておらず、検証すべき重要な課題として残されていた。
目的
本研究 (ASTRUM-002試験) の目的は、EGFR、ALK、またはROS1の遺伝子変異・転位を持たない未治療の局所進行または転移性非扁平非小細胞肺癌患者において、抗PD-1抗体セルプルリマブ (serplulimab) +化学療法 (ペメトレキセド+カルボプラチン) に、ベバシズマブバイオシミラーであるHLX04 (HLX04 bevacizumab biosimilar) を追加した3剤併用療法 (A群)、セルプルリマブ+化学療法 (B群)、および化学療法単独 (C群) の有効性と安全性を直接比較検証することである。特に、中間解析で達成された主要評価項目である無増悪生存期間 (PFS) の結果を踏まえ、最終生存解析における主要な副次評価項目である全生存期間 (OS) の優越性を検証し、抗PD-1抗体+化学療法に対する抗VEGF抗体追加の真の上乗せ効果の有無を明らかにすることを目的とした。
結果
セルプルリマブ併用による全生存期間 (OS) の有意な延長: 最終生存解析において、追跡期間中央値45.4ヶ月以上の時点で、セルプルリマブ+化学療法 (B群、n=214 patients) は化学療法単独 (C群、n=210 patients) に対し、OSを統計学的に有意に延長した。OS中央値はB群で26.8ヶ月 (95% CI 21.2-30.9) であったのに対し、C群では20.3ヶ月 (95% CI 16.2-24.6) であり、死亡リスクを34%減少させた (HR 0.66, 95% CI 0.52-0.83, p<0.001) (Fig 3)。48ヶ月生存率はB群で34.0% (95% CI 27.0-41.1) であり、C群の16.2% (95% CI 10.8-22.5) と比較して長期生存割合の向上が示された。
後治療クロスオーバー調整後のOS解析: C群の患者のうち79例 (37.6%) が、病勢進行後にセルプルリマブ+HLX04治療へクロスオーバーした。このクロスオーバーの影響を2段階モデル (2-stage model) で調整したところ、C群の調整後OS中央値は14.2ヶ月 (95% CI 11.9-17.0) となり、B群のC群に対する調整後HRは0.53 (95% CI 0.42-0.68, p<0.001) と、より顕著な生存ベネフィットが確認された。また、RPSFTM (rank-preserving structural failure time model) を用いた調整でも、C群の調整後OS中央値は17.9ヶ月 (95% CI 14.2-20.3) であり、B群の優越性が維持された (HR 0.65, 95% CI 0.51-0.83, p<0.001)。
ベバシズマブバイオシミラーHLX04追加による上乗せ効果の欠如: セルプルリマブ+化学療法にHLX04を追加した3剤併用療法 (A群、n=212 patients) は、B群と比較して生存期間のさらなる改善を示さなかった。OS中央値はA群で23.7ヶ月 (95% CI 20.5-27.5) であり、B群の26.8ヶ月 (95% CI 21.2-30.9) に対し有意差を認めなかった (HR 1.12, 95% CI 0.88-1.42, p=0.363) (Fig 3)。主要評価項目である独立中央判定 (BICR) 評価のPFS中央値においても、A群は12.0ヶ月 (95% CI 8.7-13.9) であり、B群の11.0ヶ月 (95% CI 8.4-12.7) に対し有意な改善をもたらさなかった (HR 1.02, 95% CI 0.80-1.28, p=0.896) (Fig 2)。
奏効率 (ORR) および奏効期間 (DoR) の改善: BICR評価によるORRは、B群が52.8% (95% CI 45.9-59.7) であり、C群の27.6% (95% CI 21.7-34.2) に対し有意に高値であった (OR 2.85, 95% CI 1.91-4.26, p<0.001) (Table 2)。DoR中央値についても、B群は15.4ヶ月 (95% CI 11.1-23.7) と、C群の8.3ヶ月 (95% CI 5.5-12.5) に対し有意に延長した (HR 0.52, 95% CI 0.35-0.78, p=0.001) (Table 2)。一方、A群のORRは54.2% (95% CI 47.3-61.1) であり、B群に対する上乗せ効果は認められなかった (OR 1.05, 95% CI 0.72-1.55, p=0.788)。
安全性および有害事象のプロファイル: 治療関連有害事象 (TRAE) の発現率は、A群で98.6% (n=208 patients)、B群で99.1% (n=212 patients)、C群で98.6% (n=206 patients) と同等であったが、グレード3以上のTRAEはA群で71.6% (n=151 patients)、B群で67.8% (n=145 patients)、C群で56.9% (n=119 patients) であり、HLX04を追加したA群で頻度が高かった (Table 3)。主なグレード3以上のTRAEは好中球減少症であり、A群で50.2% (n=106 patients)、B群で44.4% (n=95 patients)、C群で35.9% (n=75 patients) に認められた。また、治療中止に至ったTRAEはA群で24.6% (n=52 patients) と、B群の15.9% (n=34 patients) やC群の7.2% (n=15 patients) に比べて高頻度であり、抗VEGF抗体の追加による毒性の増強が示された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、進行非扁平非小細胞肺癌の一次治療において、抗PD-1抗体+化学療法に対する抗VEGF抗体の追加効果を直接比較した初の第III相試験である。ベバシズマブ併用を基本骨格としたIMpower150試験やIMpower151試験と異なり、本試験では「抗PD-1抗体+化学療法」を対照群として設定した。その結果、抗VEGF抗体HLX04の上乗せはPFSおよびOSのいずれにおいても有意な改善をもたらさず、二重阻害の臨床的ベネフィットが限定的であることを、これまでのアプローチと対照的に直接的な比較によって初めて明確に示した。
新規性: 本研究は、EGFR/ALK/ROS1野生型の進行非扁平非小細胞肺癌において、セルプルリマブ+化学療法が26.8ヶ月という極めて良好なOS中央値を達成することを新規に示した。特にPD-L1高発現 (TPS ≥50%) 群におけるOS中央値は45.4ヶ月に達しており、これまでに報告されていない極めて有望な生存ベネフィットを提示している。
臨床応用: 本試験の結果は、実臨床における治療選択に重要な示唆を与える。抗PD-1抗体と化学療法の併用療法が確立されている現在、全患者に対して一律に抗VEGF抗体を追加する意義は乏しく、むしろ毒性増強のリスクを考慮すると、セルプルリマブ+化学療法の2剤併用が標準治療としてより適切であることが臨床現場に示された。これにより、患者の身体的・経済的負担を軽減しつつ、最適な治療効果を提供することが可能となる。
残された課題: 今後の検討課題として、本試験の対象が中国人のみで構成されているため、異なる人種や地域における外挿性の検証が必要である。また、今回は全患者群においてHLX04の上乗せ効果が否定されたが、血管新生阻害薬の恩恵を受ける可能性のある特定のバイオマーカーやサブグループが存在するかどうかについては、さらなるトランスレーショナル研究による探索が求められるという limitation が残されている。
方法
患者選択と試験デザイン: 本研究 (ASTRUM-002試験、NCT03952403) は、中国の72施設で実施された多センター共同ランダム化二重盲検第III相試験である。対象は18〜75歳で、組織学的に確認された未治療のステージIIIB〜IVの非扁平非小細胞肺癌患者であり、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、およびROS1転位陰性の症例とした。適格患者は、対話式Web応答システムを用いて、1:1:1の割合で以下の3群にランダムに割り付けられた。
- A群: セルプルリマブ (4.5 mg/kg) + HLX04 (15 mg/kg) + 化学療法 (ペメトレキセド 500 mg/m² + カルボプラチン AUC 5)
- B群: セルプルリマブ + HLX04プラセボ + 化学療法
- C群: セルプルリマブプラセボ + HLX04プラセボ + 化学療法
投与スケジュールと評価: 各薬剤は3週間に1回、静脈内投与された。カルボプラチンは最大4サイクルまで投与され、その後はペメトレキセドおよび抗体製剤による維持療法が病勢進行、忍容不能な毒性、または最大2年間 (35サイクル) に達するまで継続された。C群で病勢進行が確認された患者は、医師の判断によりセルプルリマブ+HLX04治療へのクロスオーバーが許容された。腫瘍評価は、ベースライン時、投与開始後48週間までは6週間ごと、その後は12週間ごとにCTまたはMRIを用いて実施され、RECIST v1.1に基づき独立中央判定 (BICR) および担当医によって評価された。
統計解析: 主要評価項目はBICR評価によるPFS、主要な副次評価項目はOSである。解析は意図した治療群に従うITT (intent-to-treat) 集団を対象に実施された。生存曲線の推定にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用い、群間比較には層別ログランク (log-rank) 検定を適用した。ハザード比 (HR) および95%信頼区間の算出には、層別コックス比例ハザード回帰モデル (Cox regression) を用いた。また、C群からA群へのクロスオーバーに伴う生存期間のバイアスを補正するため、2段階モデルおよびランク保存構造故障時間モデル (RPSFTM) を用いた感度解析が実施された。