- 著者: Kenichi Koyama, Hiroshi Kagamu, Satoru Miura, Toru Hiura, Takahiro Miyabayashi, Ryo Itoh, Hideyuki Kuriyama, Hiroshi Tanaka, Junta Tanaka, Hirohisa Yoshizawa, Koh Nakata, Fumitake Gejyo
- Corresponding author: Hiroshi Kagamu (Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Japan)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2008
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 18980970
背景
小細胞肺がん (small cell lung cancer; SCLC) は、高い播種傾向を持つ侵襲性の高い悪性疾患である。新規診断患者の80%以上が遠隔転移を伴う進展期 (extensive-stage disease; ED) であり、限局期 (limited-stage disease; LD) は15-20%にすぎない。LD-SCLC患者は治療管理で治癒する例があるものの、局所治療単独 (外科切除・胸部放射線療法) のみで治癒する例はまれであり、全身性の微小転移 (micrometastases) の存在が示唆される。LD・EDいずれの病期においても循環腫瘍細胞 (circulating tumor cell; CTC) の出現が報告されている (Saito et al. 2003, Begueret et al. 2002)。しかし、なぜLD-SCLCではCTCが可視的な遠隔転移を確立できないのか、という免疫学的ギャップが本研究の出発点であった。LD-SCLCとED-SCLCの腫瘍細胞間に生物学的な差異が検出されていないため、この現象は未解明なままであった。
SCLCは、Lambert-Eaton筋無力症候群 (LEMS) などの傍腫瘍症候群を引き起こすことが知られており、これは神経腫瘍共有抗原 (onconeural antigens) に対する免疫応答を介する。興味深いことに、LEMSを合併するSCLC患者は長期的なLD状態を維持し、予後が良好であることが報告されている (Maddison et al. 1999)。このことから、神経筋系を攻撃する免疫応答が同時にSCLCの進行を抑制する可能性が示唆されてきた。
腫瘍免疫において、構成的にインターロイキン (IL)-2受容体α鎖 (CD25) と転写因子forkhead box P3 (FOXP3) を高発現する制御性T細胞 (Treg) が、自己抗原だけでなく腫瘍関連抗原に対する末梢性免疫寛容の維持に中心的な役割を果たす (Sakaguchi et al. 2001)。Treg細胞数はがん患者で増加し、その数が予後と相関することが報告されている (Viguier et al. 2004, Liyanage et al. 2002, Curiel et al. 2004)。本研究グループは先行するマウス研究において、腫瘍ドレナージリンパ節から単離したCD62Llow CD4+ T細胞 (エフェクターT細胞; Teff) が抗腫瘍活性を示し、CD62Lhigh CD25+ CD4+ Treg細胞の共投与によりその効果が抑制されることを、Teff/Treg比依存的に実証している (Hiura et al. 2005, Kagamu et al. 1996, Kagamu et al. 1998)。
これまでの研究では、ヒト悪性疾患におけるCD4+ T細胞のバランス (Teff vs Treg) が病勢や予後とどのように対応するか、特にSCLCにおいてLD病期とED病期との対応関係が未検証であった。この知識ギャップを埋めるために、本研究はヒトSCLC患者の末梢血におけるT細胞バランスを系統的に解析した。SCLCの全身性播種を制御する免疫学的メカニズムについては、まだ多くの点が不足している状況であった。
目的
本研究の目的は、SCLC患者の末梢血単核細胞 (peripheral blood mononuclear cell; PBMC) におけるCD4+ Teff細胞 (CD62Llow) とTreg細胞 (CD62Lhigh CD25+) のバランスを解析することであった。具体的には、以下の3点を明らかにすることを目指した。(1) このT細胞バランスが病期 (LD vs ED) を反映するバイオマーカーとしての価値を持つか、(2) 長期生存者および再発例におけるT細胞バランスの動態、(3) LD-SCLCで富化されるTeff細胞サブセット (Th17細胞など) と、それらを誘導する樹状細胞 (dendritic cell; DC) が産生するサイトカインのプロファイルを明らかにすることである。これらの解析を通じて、SCLCの全身性播種を制御するための免疫学的メカニズムを解明し、新たな治療戦略の基盤を提供することを目指した。本研究は、SCLCの病期進行における免疫応答の役割を理解し、将来的な免疫療法開発に貢献することを意図している。
結果
LD-SCLCでTeff細胞 (CD62Llow CD4+) が優位、ED-SCLCでTreg細胞 (CD62Lhigh CD25+ CD4+) が優位: PBMCの解析により、CD4+ T細胞内のCD62Llow細胞の割合は、LD-SCLC患者で健常人およびED-SCLC患者よりも有意に高かった (p<0.05) (Fig 1B)。対照的に、CD62Lhigh CD25+ Treg細胞の誘導はED-SCLC患者で有意に高かった (p=0.0009 vs 健常人) (Fig 1C)。Teff/Treg比 (CD62Llow% / CD62Lhigh CD25+%) はLD-SCLC患者でED-SCLC患者の約2倍高く (p<0.01)、両病期間で明確な相反的バランスが存在することが示された (Fig 1D)。CD4+ T細胞のFOXP3細胞質内発現は、CD62Lhigh CD25+サブポピュレーションにほぼ限定されており (Fig 2B)、in vitro共培養実験 (Teff:Treg = 2:1) において、Treg細胞はTeff細胞のIFN-γ産生を約70%低下させ (Fig 2C)、増殖をCFSE fold expansionで約40%低下させた (Fig 2D)。これは、ヒトCD4+ T細胞サブポピュレーションにおける古典的なTeff/Treg機能区分を直接的に実証するものである。LEMS患者4例は全てLD-SCLCであり、エフェクター優位のCD4+ T細胞バランスを示した。
LD-SCLCのTeff細胞はTh17細胞 (IL-17産生) が富化、DCはIL-23を多く分泌: CD62Llow CD4+ T細胞 (n=2×10⁵細胞) を抗CD3 mAbで48時間刺激した後の上清をCBA解析した結果、LD-SCLC患者由来のTeff細胞は、ED-SCLC患者および健常人よりもIL-17を有意に多く産生した (約3-5倍、p<0.01) (Fig 3B)。また、IFN-γ、TNF-α、IL-4、IL-5の産生もLD-SCLC患者で高かった (Fig 3A, 3C)。Th17系譜は他のTヘルパーサブセット (Th1・Th2) とは異なる系統で発達し、IL-23によって分化・維持されることが知られている。LD-SCLC患者由来のmDCをLPSで刺激すると、ED-SCLC患者および健常人よりもIL-23を有意に多く分泌した (約2倍、p<0.05) (Fig 3D)。この結果は、LD-SCLC患者においてTh17細胞を促進する抗原提示細胞プロファイルが存在することを示唆する。
長期生存者はTeff/Treg比を維持、再発例は比が低下: 長期生存者8例 (LD-SCLC治療後3年以上無病) は、治療後の経過観察期にTeff/Treg比を高く維持していた (Fig 5C、中央値比=2.1)。対照的に、再発例では治療後の再発時にTeff/Treg比が顕著に低下した (Fig 5C、相対値で約50%減少、Paired t-test p<0.05)。この結果は、T細胞バランスが個体内でも病勢を反映する動的なバイオマーカーであることを直接的に実証した。
外科切除後のSCLC患者で抗腫瘍特異的Teff応答を確認: p-T2N0M0のSCLC患者 (外科切除済み) のPBMCを、照射SCLC腫瘍細胞 (5,000 cGy) をパルスしたDCで刺激すると、CD62Llow CD4+ T細胞が抗原特異的なIFN-γ産生を示した (約120 pg/mL)。この応答は、CD62Lhigh CD25+ Treg細胞との共培養により抑制された (約30 pg/mLに低下) (Fig 3E)。これは、末梢血中のTeff細胞が腫瘍特異的な免疫応答能を保持し、Treg細胞がそれを直接抑制することの直接的な証明である。
化学療法後のTeff/Treg比変化: シスプラチンベースの化学療法後、LD-SCLC患者の一部でTeff/Treg比が上昇した (Fig 4C、p=0.004)。これは、化学療法誘発性免疫原性細胞死の仮説と整合する可能性が示唆される。ED-SCLC患者では、Treg優位の状態が持続する傾向が見られた。この観察は、化学療法と免疫療法の併用 (現在の標準治療であるアテゾリズマブ+EPなど) の免疫学的基盤を、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 登場以前の時代に予見するものであった。化学療法後のTeff/Treg比の増加は、Treg細胞が化学療法剤に対してより感受性が高く、Teff細胞が増殖能を保持している可能性を示唆する。この結果は、化学療法が免疫応答に与える影響を評価する上で重要な知見である。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、Treg細胞の癌患者末梢血での増加を示した先行研究 (Curiel et al. 2004の卵巣癌、Liyanage et al. 2002の膵臓癌・乳癌) とは異なり、(1) Treg細胞単独ではなく、Teff細胞 (CD62Llow CD4+) とTreg細胞 (CD62Lhigh CD25+) の相反的バランスに焦点を当てた点、(2) SCLCにおいて病期 (LD vs ED) との明確な対応関係を初めて示した点、(3) Th17/IL-23軸がLD-SCLCで富化されるという新規所見を加えた点で、これまでの研究とは対照的に新規な枠組みを提供した。本研究グループ自身のマウス研究 (Hiura et al. 2005) をヒトSCLCに直接拡張し、Teff/Treg比依存的な抗腫瘍免疫の臨床的妥当性を実証した。LEMS合併SCLCがLDに留まる現象 (Maddison et al. 1999) は、本研究のT細胞バランス理論で合理的に説明できる。
新規性: 本研究で初めて、(1) ヒトSCLCにおいてLD-SCLCとED-SCLCの病期がCD62Llow CD4+ Teff細胞とCD62Lhigh CD25+ CD4+ Treg細胞のreciprocal balanceによって反映されること、(2) 長期生存者で高Teff/Treg比が維持され、再発時にこの比が低下することをペア解析で示したこと、(3) LD-SCLCのCD62Llow CD4+ T細胞がTh17細胞 (IL-17産生) を多く含むこと、(4) LD-SCLC由来のmDCがIL-23を多く分泌することでTh17細胞の誘導を支持していること、が示された。これはこれまで報告されていなかったヒトSCLC免疫表現型の系統的全体像であり、新規な治療標的 (Treg細胞枯渇 + Th17細胞誘導戦略) を提示した点で独自である。
臨床応用: 本研究の臨床応用上の意義は3点ある。①末梢血Teff/Treg比はフローサイトメトリーで容易に測定可能なバイオマーカー候補であり、LD vs ED病期判別、予後予測、および再発モニタリングの臨床的有用性を持つ可能性がある。これはリキッドバイオプシーの一形態として、臨床現場での治療層別化に応用しうる。②Treg細胞枯渇 (抗CD25 mAb、低用量シクロホスファミドなど) とTh17細胞促進 (IL-23、IL-1βカクテルなど) は、新規免疫療法戦略として将来の臨床応用が期待される。本研究時点 (2008年) ではICIは登場していなかったが、後年のIMpower133試験 (Horn et al. NEnglJMed 2018 のアテゾリズマブ+EP) を予見する免疫学的基盤を提供する歴史的価値がある。③ベンチからベッドサイドへのトランスレーショナルリサーチの好例として、マウス腫瘍免疫研究をヒトSCLC末梢血解析に直接拡張するアプローチは、他疾患でも応用可能なパラダイムとなる。
残された課題 / limitation: 著者らが明示する今後の検討課題およびlimitationは以下の通りである。①SCLC患者35例および長期生存者8例というコホートサイズは、シグナルを得るには十分であったが、Teff/Treg比のカットオフ値の臨床的バリデーションには大規模コホートが必要であり、今後の検討課題である。②本研究は末梢血のみの解析であり、腫瘍微小環境内のT細胞バランス (Chan et al. CancerCell 2021 のscRNA-seqで報告された免疫冷淡 + 免疫隔離表現型) との直接比較が今後の研究展望として残されている。③Th17細胞の抗腫瘍効果はLD-SCLC長期生存者で関連が示唆されるのみであり、Th17系統の直接的な腫瘍細胞傷害性は未検証である点がlimitationである。④Treg細胞枯渇とTh17細胞促進の前臨床in vivo検証および臨床試験は本研究では未実施であり、今後の課題である。⑤本研究時点ではICI (抗PD-1/PD-L1) との関連は未検証であり、現代SCLC治療 (アテゾリズマブ+EP/デュルバルマブ+EP) におけるTeff/Treg比の予後予測/治療効果予測バイオマーカーとしての再評価が今後の検討課題である。⑥単施設、小規模コホート、日本人集団での解析というlimitationがあり、国際的な多施設共同研究によるバリデーションが推奨される。
方法
本研究は、新潟大学医歯学総合病院の単一施設において、連続するSCLC患者35例 (LD-SCLC 20例、ED-SCLC 15例)、長期生存者8例 (LD-SCLC治療後3年以上無病)、および健常人19例を対象とした (Table 1)。全ての被験者から倫理委員会承認後、書面による同意を取得した。患者の病期分類はTNM分類 (cT・cN・cM) に基づき、ED-SCLCはcTxNxM1、LD-SCLCはcTxNxM0と定義された。本研究はレトロスペクティブコホート研究として実施された。
細胞分離: PBMCはFicoll-Hypaque密度勾配遠心法により分離された。CD4+およびCD8+ T細胞は、Dynal Biotech社のCD4/CD8分離キットを用いたポジティブセレクションにより精製された。CD4+ T細胞は、抗CD62Lモノクローナル抗体 (mAb; クローン1H3) とヤギ抗マウスIgGコートT-25フラスコを用いたパンニング法により、CD62Lhigh細胞 (接着性) とCD62Llow細胞 (非接着性) に分離された。CD62Llow細胞の純度を高めるため、非接着性細胞からさらに抗CD62L mAbとヒツジ抗マウスIgGコートDynaBeads M-450を用いてCD62L陽性細胞を除去した。CD25+細胞は、抗CD25 mAbコートマイクロビーズとautoMACS (Miltenyi Biotec) を用いたポジティブセレクションにより純化された。全ての細胞分離において、細胞純度は90%以上であった。
単球由来樹状細胞 (mDC): CD14+単球は、抗CD14 mAbマイクロビーズを用いて分離された。分離されたCD14+細胞は、組換えヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (GM-CSF) 80 ng/mLとIL-4 10 ng/mLを添加した完全培地 (CM) で6日間培養され、未成熟DCが生成された。
フローサイトメトリー: FITC標識抗CD3 (HIT3a)・FITC標識抗CD4 (RPA-T4)・PE標識抗CD8 (RPA-T8)・PE標識抗CD25 (M-A251)・PE-Cy7標識抗CD25・PE-Cy5標識抗CD62L (Dreg 56)・PE標識抗FOXP3 (PCH101、eBioscience社染色キット使用) などのモノクローナル抗体を用いて、BD FACScanとCellQuestソフトウェアにより1サンプルあたり10,000細胞が解析された。FOXP3の細胞質内発現は、製造元の指示に従いPE標識抗ヒトFOXP3 mAb (PCH101) と染色キット (eBioscience) を用いて行われた。
サイトカインアッセイ: レスポンダーT細胞 (n=2×10⁵細胞) は、固定化抗CD3 mAbまたは腫瘍細胞パルスDCで48時間刺激された。上清はBD-Cytometric Bead Array (CBA) を用いてIFN-γ・TNF-α・IL-2・IL-4・IL-5が解析され、ELISA (eBioscience社キット) を用いてIL-17A・IL-23が定量された。DCはリポ多糖 (LPS) 10 ng/mLで24時間刺激後にIL-23が測定された。
増殖アッセイ: CD62Llow T細胞は5 μmol/L CFSEで標識され、抗CD3 mAb固定化96ウェルプレートで24時間刺激された後、IL-2 (10 units/mL) を含むCMで48時間培養された。CD62Llow細胞とCD62Lhigh CD25+細胞は2:1の比率で共培養された。増殖倍率 (Fold expansion) は、培養後のCFSE陽性細胞数と培養前のCFSE陽性細胞数の比として算出された。
統計解析: 統計解析には両側Student’s t検定が用いられ、p値が0.05未満を有意とした。化学療法前後の同一患者からの細胞の割合の比較には、対応のあるt検定が用いられた。本研究は探索的な性質を持つため、NCT試験IDは付与されていない。