• 著者: Joseph M. Chan, Alvaro Quintanal-Villalonga, Vianne Ran Gao, Yubin Xie, Viola Allaj, et al.
  • Corresponding author: Dana Pe’er (Memorial Sloan Kettering Cancer Center); Charles M. Rudin (Memorial Sloan Kettering Cancer Center)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-10-11
  • Article種別: Original Article (トランスレーショナル研究)
  • PMID: 34653364

背景

小細胞肺がん (small cell lung cancer; SCLC) は最も侵襲性の高い肺がん組織型で、診断時に大多数の患者が転移を有し、化学免疫療法併用でも生存期間中央値の改善はわずかである (Horn et al. NEnglJMed 2018 のIMpower133試験 (n=403) でアテゾリズマブ追加によりOS中央値が10.3→12.3か月、HR 0.70止まり)。限局期での5年生存率は15-30%、進展期では1%未満と長期予後は極めて不良である。

形態学的には均一に見えるSCLCだが、近年の遺伝子発現解析でASCL1・NEUROD1・POU2F3・YAP1の4転写因子発現に基づく分子サブタイプ分類 (SCLC-A/-N/-P/-Y) が提唱され (Rudin et al. NatRevCancer 2019)、George 2015 NatureのSCLC包括的ゲノム解析でも RB1・TP53変異がほぼ全例に存在することが示された。しかし以下3点のギャップが残っていた。①腫瘍内/腫瘍間不均一性の単一細胞レベルでの実態が未解明、②サブタイプと転移傾向・免疫微小環境 (tumor microenvironment; TME) の対応関係が不明、③免疫チェックポイント阻害薬 (immune checkpoint inhibitor; ICI) への低応答性の細胞分子基盤が不明。

これらの解明が遅れていた理由は、SCLCで外科切除が行われるのは5%未満 (Vallières et al. 2009) で、生検検体の多くがシングルセル解析に適した条件で保存されていなかったためである。何が足りなかったかと言えば、ヒト原発巣と転移巣の両方を含む大規模シングルセル+空間解析を統合したアトラスがこれまで存在しなかった点である。

目的

シングルセルRNAシーケンス (single-cell RNA sequencing; scRNA-seq) とMultiplexed Ion Beam Imaging (MIBI) ・Vectra多重蛍光イメージングを用いて、ヒトSCLC患者腫瘍の包括的アトラスを構築し、(1) 腫瘍内不均一性とサブタイプ特性、(2) 患者横断的に再発する転移性亜集団、(3) 免疫微小環境とその空間構造、を同時解析することで、SCLCの予後不良と免疫低反応性の分子基盤を明らかにする。

結果

SCLCはLUADより高い腫瘍間不均一性を示す: scRNA-seq 155,098細胞、21例SCLCで38上皮クラスター中5つがLUADに、25クラスターがSCLCに分類された (LUAD 7,635細胞 vs SCLC 55,815細胞)。患者横断のShannon entropy比較で、SCLC悪性細胞は治療歴で層別化してもLUADより有意に高い不均一性 (低entropy) を示した (Student’s t-test, p<0.001; Figure 1D, 1E)。SCLCのCNV負荷もLUADより高く (Figure S1F)、既報の高tumor mutation burdenと一致した。Markov absorption probability分類器でSCLC-A 14例・SCLC-N 6例・SCLC-P 1例が同定され、SCLC-YはSCLCではほぼ発現しないことが確認された (Figure 1F-H)。

SCLC-Nは転移部位に富化し、上皮間葉移行 (EMT) / 神経軸索形成シグネチャーを示す: SCLC-N細胞は転移部位 (リンパ節・遠隔) にSCLC-Aより有意に富化した (Dirichlet regression, p<3.4×10⁻⁸; Figure S2D)。サブタイプ別差次的発現解析でSCLC-AはEZH2標的・細胞周期・DNA修復遺伝子高発現、SCLC-NはEMTマーカー・transforming growth factor β (TGF-β) ・bone morphogenetic protein (BMP) ・signal transducer and activator of transcription (STAT) ・nuclear factor κB (NF-κB) シグナリング、加えて神経軸索形成 (axonogenesis) 関連のエフリン (ephrin) ・セマフォリン (semaphorin) ファミリーが高発現した (Figure 2A, 2B; Table S3)。CellPhoneDBによるリガンド-受容体ペア解析で、SCLC-Nは細胞間ホモタイプ相互作用が顕著に富化し、in vitro培養での密着増殖パターンと一致した (Figure 2C)。

Cluster 22: 患者横断的に再発するPLCG2高発現の幹細胞様・転移促進性亜集団: SCLC悪性細胞25クラスター中、Cluster 22は9/21腫瘍 (43%) で≥3%の頻度で出現する顕著に再発性の稀少亜集団であった (Mann-Whitney p<2.2×10⁻¹⁶; Figure 3A-D)。総計166細胞で構成され、全SCLCサブタイプ (A・N・P) ・治療歴・組織部位を横断して出現し、悪性度を示すCNV負荷も正常上皮より有意に高かった (Figure S3B)。Cluster 22はsubtype不確定性が他クラスターより有意に高く (Mann-Whitney p<2.2×10⁻¹⁶)、脱分化phenotype を示唆した。差次的発現解析でphospholipase C gamma 2 (PLCG2) が最上位の上昇遺伝子であり (Edgington’s combined p-value, Table S11)、knnDREMI解析でPLCG2と共変動する遺伝子モジュール3にはfibroblast growth factor receptor 1 (FGFR1) ・MTRNR2L8/MTRNR2L12 (humanin family) が含まれ、上位5%パスウェイにstemness (OCT4・SOX2標的) ・転移シグネチャー・Wnt・BMPシグナリングが濃縮した (Figure S3E, S3F; Table S13)。PLCG2発現は組織部位別に肺原発で最低、肝転移で最高であり (Bonferroni-adjusted Mann-Whitney p<1.00×10⁻²⁰⁰; Figure 3G)、転移促進性表現型と整合した。

PLCG2の機能的検証: 過剰発現で遊走・浸潤・in vivo転移増加: PLCG2過剰発現 (SHP-77・H446・H82) は遊走・浸潤能を有意に増加させ (Student’s t-test, log2 fold change > 2.0; Figure 4A)、心臓内注入xenograftでSHP-77の転移マウス比率を有意に上昇させた (Fisher’s exact test, p<0.05; Figure 4B, 4C)。逆にPLCG2 CRISPRノックアウト (H526) で同表現型の減弱が示された。Western blotでβ-catenin (Wntシグナリング) ・phospho-SMAD1/5 (BMPシグナリング) ・EMT/transition マーカー・stemnessマーカー (SOX2・OCT4) の発現上昇が確認され (Figure 4D)、Wnt reporter assayでWnt活性化も実証された (Figure S3H)。これはPLCG2が転移促進・stemnessの機能的ドライバーであることを直接実証した結果である。

PLCG2陽性比率 / Cluster 22 prevalenceは予後不良と強く相関する: 独立TMAコホート (n=37、進展期含む27例) のMIBI-TOFで、PLCG2陽性SCLC細胞比率は全生存と負相関を示し (Spearman r=-0.34, t-test p=0.04; Figure 4G)、PLCG2陽性>7%群はKaplan-Meier解析で有意に予後不良であった (p=0.00062; Figure 4H)。Cox proportional hazards model (NEUROD1陽性・治療歴・転移部位で調整) でもPLCG2陽性が独立予後因子であった (p=0.041)。Cluster 22比率 (scRNA-seq) は全生存とより強い負相関を示し (Spearman r=-0.65, t-test p=0.009; Figure 4I)、Cluster 22>0.75%群のCox HR=44.4 (PLCG2単独のHR 5.47を大きく超過; Figure 4J, Figure S4C) であり、Cluster 22の完全な転写表現型がPLCG2単独よりも強力な予後予測因子であることが示された。

SCLC TMEは免疫coldで、SCLC-Nで特にT細胞機能不全が強い: MIBI解析 (n=33) で20/33 SCLC腫瘍が免疫cold (>250 immune cells/FoV基準) であり、NEUROD1陽性腫瘍は陰性腫瘍より有意に免疫cold率が高かった (Fisher’s exact p=0.0066; Figure 5A, 5B)。免疫hot腫瘍内でも、SCLCの免疫-腫瘍mixing scoreはトリプルネガティブ乳癌 (TNBC) より有意に低く (Welch’s t-test p=0.026; Figure 5C)、免疫-腫瘍隔離 (sequestration) を示した。T細胞解析でnon-negative matrix factorization (NMF) によりCD4+ regulatory T cells (Treg, factor 4) ・CD8+ exhausted (factor 7) ・CD8+ effector (factor 28) を同定し、SCLC-NはSCLC-Aより有意に高いTreg・exhausted CD8+ T cells、低いCD8+ effector を呈し、CD8+ effector/Treg log ratioが有意に低下 (p=0.001; Figure 5E)。独立Vectraコホート (n=12) でも NEUROD1陽性群でCD8+T/Treg比低下 (p=0.009; Figure 5F, 5G) が再現された。

線維化促進・免疫抑制性Mono/Mφ亜集団がSCLCに富化しCluster 22と空間共局在する: SCLC骨髄系細胞 (n=2,951) を再クラスタリングし7 Mono/Mφ・4好中球・2樹状細胞クラスターを同定。Cluster 1・7・9・12はTHBS1+/VCAN+/S100A4/6/8/9+の特徴を持ち、特発性肺線維症 (idiopathic pulmonary fibrosis; IPF) 関連profibrotic macrophage signature (Adams et al. SciAdv 2020 の143遺伝子セット) と強い類似性を示した (Figure 6B-D)。Combined cluster 6 (SCLC由来514細胞 vs LUAD由来467細胞 vs正常肺0細胞) はSCLC原発・転移で有意に富化し (Mann-Whitney; Figure 6E)、未治療検体でこの傾向はより顕著であった。Cluster 1はCD14+/CD16+/CD81+/ITGAX+/CSF1R+ subpopulationで、FN1・CTSB/D・SPP1・CD74・VSIG4等の線維化促進+免疫抑制関連分子を高発現した (Figure S7D; Table S19)。

Cluster 22-Mono/Mφ-CD8 exhaustionの3者連関: 共変量調整Spearman correlation解析で、Cluster 22はMono/Mφ Cluster 1・7と有意に相関 (各p<0.01; Figure 7A) し、CD8+ exhausted T cellとの相関はSCLCサブタイプ中Cluster 22のみで有意 (p<0.0001; Figure 7B) であった。MIBI-TOF独立コホート (n=37) でも、CD14+/CD16+/CD81+ myeloid細胞比率はPLCG2+ SCLC細胞比率と全細胞タイプ中最も高い相関 (adjusted partial Spearman r=0.75, Bonferroni-adjusted p=6.71×10⁻⁸; Figure 7E, 7F) を示し、空間的にもPLCG2+ NEUROD1+ SCLC細胞と線維化促進Mono/Mφの隣接が複数患者で観察された (例: MIBI 12, MIBI 3; Figure 7C, 7D, S7H, S7I)。bulk RNA-seqデータ (George et al. Nature 2015, n=81) でも同連関が再現された (Figure S7G)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究はヒトSCLCで初の大規模 (155,098細胞) ・複数モダリティ統合 (scRNA-seq+MIBI+Vectra+FACS+bulk RNA-seq) のアトラスである。これまでのSCLCバルク解析 (George et al. Nature 2015Rudin et al. NatGenet 2012 のSOX2増幅解析) が均一性を前提とした解析だったのと対照的に、これまでバルクシーケンスで「隠されていた」高度な腫瘍内不均一性とPLCG2高発現のrare cell phenotypeを単一細胞解像度で初めて顕在化させた点が決定的に異なる。これまで報告されていなかった転移巣でのSCLC-N富化と、サブタイプ横断的なCluster 22 PLCG2高発現亜集団の存在は、SCLCの普遍的な侵襲性を説明する新たな細胞集団として位置づけられる。

新規性: 本研究で初めて、(1) SCLC-NがSCLC-Aより高い患者間不均一性を示すこと (LUADを上回る、Figure 1D)、(2) 全サブタイプ横断的に再発するPLCG2高発現幹細胞様亜集団 Cluster 22の同定とCox HR=44.4という極めて強力な予後関連、(3) Cluster 22-線維化促進Mono/Mφ-exhausted CD8+ T cellの3者の機能的・空間的連関、が直接実証された。新規な分子標的としてPLCG2を提示し、リン脂質代謝シグナリング阻害が転移抑制戦略となる可能性を示した点は、これまでのSCLC治療開発がDNA損傷応答阻害 (Sen et al. CancerDiscov 2019 のSTING/PARP阻害 etc.) や転写因子標的 (Gay et al. CancerCell 2021 のSCLC-I同定) に集中してきた中で、シグナル伝達分子としての新規軸を提供する。

臨床応用: 本研究の臨床的意義は3点ある。①PLCG2陽性比率 (>7%) はMIBI/IHCで容易に測定可能な予後バイオマーカーとして使用しうる (HR 5.47, p=0.041)、②PLCG2上流のFGFR1阻害剤 (FGFR1増幅は SCLCの6-9%に存在) はPLCG2高発現群への治療標的候補となる、③線維化促進Mono/Mφ標的療法 (CSF1R阻害剤・CD163標的等) とICIの組み合わせが免疫cold TMEを再編する戦略として有望である。臨床的有用性の観点では、本データセット (HTAN Consortium公開) 自体が新規治療標的探索・コンパニオン診断開発のリソースとなる。

残された課題と限界: 今後の検討課題は以下に集約される。①コホートサイズの小ささ (n=21 scRNA-seq、n=37 TMA、n=33 MIBI) は統計的検出力の限界 (limitation) であり、より大規模なvalidation cohortが必要、②生検検体由来でtumor全体の表現型を反映しない可能性、③Cluster 22 (166細胞・小集団) の起源細胞 (cell of origin) と進化動態は未解明、④PLCG2阻害剤・FGFR1阻害剤の前臨床試験は本研究では未実施で、本研究では臨床応用可能性のmechanism of action提示に留まる、⑤治療歴混在の交絡因子 (chemo/IO既治療と未治療の混合) は今後より統一されたcohortでの検証が望まれる、⑥SCLC-I (inflamed) サブタイプ (Gay et al. CancerCell 2021 で提唱) の存在がこのコホートで確認されなかった理由 (検体バイアスかコホートサイズか) も今後の検討課題である。

方法

コホート: 19例のSCLC患者から得た21検体 (原発巣・リンパ節転移・遠隔転移:肝・副腎・腋窩・胸水)、対照として24例の肺腺癌 (lung adenocarcinoma; LUAD) 検体、4例の腫瘍隣接正常肺検体を解析した。治療歴は未治療7例・化学療法既治療6例・化学免疫療法既治療8例の比較的バランスのとれた構成だった。

scRNA-seq: 10x Genomics Chromiumプラットフォームで総細胞数155,098 (SCLC細胞54,523、LUAD細胞7,635、免疫細胞16,475 SCLC由来+45,535 LUAD由来+10,934 正常肺由来) を取得。バッチ補正・正規化・MAGIC法 (k=30, t=3) による遺伝子発現imputationを実施。

変異・サブタイプ識別: MSK-IMPACT標的シーケンシング (Cheng et al. JMolDiagn 2015) でRB1・TP53・CREBBP・KMT2B変異を確認し、推定copy-number variation (CNV) で悪性細胞同定を補強。Markov absorption probability分類器 (PhenoGraph) を構築し、各細胞のSCLC-A/-N/-P/-Y所属確率を計算してサブタイプを推定 (Levine et al. 2015 Cell)。

MIBI/Vectra多重イメージング: 独立コホート (n=37、Tissue microarray; TMA) でPLCG2・NEUROD1・CD3・CD8・CD14・CD68・CD163・FOXP3・CD56等のマーカーをsingle-cell解像度で空間解析。免疫hot/cold判定はKeren 2018 Cellの基準 (800×800 μm FoVあたり>250免疫細胞) に準拠。

PLCG2 (phospholipase C gamma 2) 機能検証: PLCG2低発現3株 (細胞株: SHP-77 [SCLC-A]・H82・H446 [SCLC-N]) で過剰発現、PLCG2高発現2株 (細胞株: H526 [SCLC-P]・DMS-114 [SCLC-Y]) でCRISPRノックアウトを実施。in vitro遊走・浸潤・anchorage-independent growth assayに加え、in vivo転移評価ではmouse strainとしてNOD/SCID/IL2Rγ⁻/⁻ (NSG) マウスへの心臓内注入xenograft (intracardiac injection model) で評価日31日目に発光イメージングを実施した。

統計: Cluster 22出現頻度はMann-Whitney検定、サブタイプ-組織部位連関はDirichlet regression、生存解析はKaplan-Meier + Cox proportional hazards (NEUROD1陽性・治療歴・転移部位を共変量で調整)、相関解析はSpearman correlation。