• 著者: H.J. Mackay, M. O’Brien, S. Hill, S.M. Lees, N. Thatcher, I.E. Smith, D.J. Dunlop
  • Corresponding author: H.J. Mackay (CRC Department of Medical Oncology, Beatson Oncology Centre, Western Infirmary, Glasgow)
  • 雑誌: Clinical Oncology (Royal College of Radiologists)
  • 発行年: 2003
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (非無作為化第II相試験)
  • PMID: 12846495

背景

小細胞肺がん (SCLC) は急速な増殖・早期血行性転移・化学療法耐性の獲得を特徴とし、診断時に60%が広汎型 (extensive-stage) として発現する。治療を行っても限局型の生存期間中央値は10-16ヶ月、広汎型では7-11ヶ月にとどまり予後不良である。エトポシド (etoposide)/シスプラチン (cisplatin) (EP)、シクロホスファミド (cyclophosphamide)/ドキソルビシン (doxorubicin)/ビンクリスチン (vincristine) (CAV)、シクロホスファミド/ドキソルビシン/エトポシドが主要レジメンとして用いられてきたが、奏効率・生存期間において顕著な差はなかった (Zochbauer-Muller et al. Ann Oncol 1999)。

予後不良患者または重大な合併症を有する患者ではcisplatinの補液レジメンへの忍容性が低く、腎毒性・消化器毒性・神経毒性を含む高い副作用発現リスクがある (Morittu et al. Br J Cancer 1989)。こうした患者群に対して経口エトポシドが広く用いられるようになったが、MRC (Medical Research Council、英国医学研究評議会) の無作為化試験 (Thatcher et al. Lancet 1996) および Souhami et al. の5日間経口エトポシド試験 (JNCI 1997) において、静脈内多剤化学療法と比較して奏効率が劣り、毒性プロファイルも改善しないことが示され、通常化学療法の代替として不十分であることが明らかになった。

カルボプラチン (carboplatin) はSCLC治療においてcisplatinと同等の活性を有しながら腎毒性・消化器毒性・神経毒性が少なく、2つの無作為化試験でcisplatinとcarboplatin含有レジメンの奏効率・生存期間に有意差がないことが確認されている (Kosmadis et al. Semin Oncol 1994; Lassen et al. Ann Oncol 1996)。ビノレルビン (vinorelbine) は微小管重合を阻害する半合成ビンカアルカロイドで、SCLC前治療例における単剤奏効率は12.5-16%と報告されていた (Jassem et al. Eur J Cancer 1993; Furuse et al. Oncology 1996)。本研究着手時、広汎型SCLCにおけるcarboplatin+vinorelbineの予備的第II相データでは奏効率74%・生存期間中央値37週 (95% CI 33-58週) と良好な成績が報告され (Gridelli et al. JClinOncol 1998)、有毒性死ゼロ・発熱性好中球減少症ゼロという低毒性プロファイルが示されていた。

しかし、SCLCの臨床試験に登録される患者は実臨床集団全体を代表しておらず予後不良群が過少代表されているという問題が指摘されており (Cottin et al. Ann Oncol 1999)、この特定の患者集団に対するデータが手薄であった。Cernyらの予後スコアリングシステム (Int J Cancer 1987) では広汎型・低ナトリウム・低重炭酸塩・LDH高値・アルカリホスファターゼ高値・年齢65歳以上の6項目各1点でスコアリングし、スコア2以上を予後不良 (1年生存率 <15%) と定義するが、このような高リスク集団において忍容可能かつ有効な化学療法レジメンは確立されておらず、gap in knowledge として残されていた。初回化学療法時の入院とPS変動が治療成績に与える影響は後年も重要課題として認識されており (Rittberg et al. ClinLungCancer 2020)、予後不良集団への最適介入を明らかにするデータが求められていた。

目的

予後不良SCLC患者 (Cernyスコア ≥2) または良好予後ながら合併症により標準化学療法が困難な患者を対象に、carboplatin (AUC5 day 1) +vinorelbine (30 mg/m² day 1・8) q28d療法の抗腫瘍活性 (主要評価項目: ITT奏効率) および毒性・無増悪期間・生存を第II相試験で評価すること。

結果

患者背景と治療実施状況:n=58例 (男性37例・女性21例) が登録された。年齢中央値65歳 (範囲46-86歳)。予後不良カテゴリー (Cernyスコア ≥2) は39例 (67%)、良好予後だが合併症のために標準化学療法が困難とされた患者は19例 (33%) であった (Table 1)。ECOG PS分布: PS 0が5例 (9%)、PS 1が33例 (57%)、PS 2が18例 (31%)、PS 3が1例 (1.5%)、不明1例 (1.5%)。病期は限局型21例 (36%)・広汎型37例 (64%)。遠隔転移部位は肝臓19例 (33%) が最多で、胸膜外リンパ節6例 (10%)、胸膜5例 (9%)、骨5例 (9%)、脳4例 (7%)、骨髄4例 (7%)、対側肺3例 (5%)、副腎2例 (3%)、腹膜2例 (3%)、腎臓1例 (2%) であった。遠隔転移部位数は0部位23例 (40%)・1部位17例 (29%)・2部位6例 (10%)・3部位以上6例 (10%) であった。合計202サイクルを施行し患者1人あたり中央値3.7サイクル (範囲1-6サイクル)、12例 (21%) が最大6サイクルを完遂した。

奏効率 (ITT解析):ITT奏効率 (CR+PR) は55% (95% CI: 42-68%) であった。内訳は完全奏効 (complete response, CR) 6例 (10.3%)、部分奏効 (partial response, PR) 26例 (44.8%)、安定 (stable disease, SD) 13例 (22.4%)、進行 (progressive disease, PD) 3例 (5.2%)、評価不能 (not evaluable, NE) 10例 (17.2%) であった (Table 2)。評価不能10例の内訳: 1サイクル後の患者意思による中止5例、治療関連死 (好中球減少性敗血症) 2例、腫瘍による肺動脈穿孔による死亡1例、虚血性心疾患による死亡1例、虚血性心疾患による中止1例。治療中に疾患進行を認めた患者は計12例 (25%) であった。

生存アウトカム:無増悪期間 (time to progression, TTP) の中央値は18週 (95% CI: 15-21週) であった (Fig. 1; 計44例が疾患進行に到達)。全生存期間 (overall survival, OS) の中央値は26週 (95% CI: 21-31週) であった (Fig. 2; 計52例が死亡)。死因内訳: 疾患進行44例・治療関連毒性 (好中球減少性敗血症) 3例・心筋梗塞1例・正常血球数での感染症2例・大動脈瘤破裂1例・腫瘍による肺動脈穿孔1例。試験終了時に生存していた6例の追跡期間中央値は49週 (範囲16-118週) であった。

骨髄毒性:主要毒性は骨髄抑制であり、全58例が毒性評価対象 (202サイクル評価) となった (Table 3)。Grade 3-4好中球減少 (neutropenia) は44例 (76%) に認められ、そのうちGrade 4好中球減少が32例 (55%) を占めた。Grade 2好中球減少は2例 (3%) であった。発熱性好中球減少症 (febrile neutropenia) による静脈内抗生物質投与を要した入院が計17例に上り、このうち3例が好中球減少性敗血症で死亡した (治療関連死亡率5.2%)。Grade 3-4血小板減少 (thrombocytopenia) は6例 (11%) [Grade 3が5例 (9%)・Grade 4が1例 (2%)]、Grade 3貧血 (anaemia) 1例 (2%)、Grade 2貧血10例 (17%) であり、輸血を要した患者は1例のみであった。Day 8 vinorelbineは骨髄抑制のために9例で計11回省略。サイクル延期は全3回 (好中球減少2回・帯状疱疹1回)。Vinorelbine 25%減量は2例に実施し、1例では最終 (第6) サイクルにvinorelbineを省略した。

非血液毒性:非血液毒性はいずれも中等度以下であった (Table 3)。Grade 3倦怠感 (lethargy) が10例 (17%)、Grade 2倦怠感が18例 (31%)。Grade 3悪心嘔吐 (nausea and vomiting) 3例 (5%)、Grade 2が6例 (10%)。Grade 3下痢 (diarrhoea) 2例 (3%)。Grade 3口内炎 (stomatitis) 1例 (2%)。脱毛 (alopecia) はGrade 1が13例 (22%)・Grade 2が2例 (3%)。神経感覚毒性 (neurosensory toxicity) Grade 2が2例 (3%)。生化学毒性は最小限であり、化学療法による肝機能検査Grade 2以上の異常は認めなかった。

考察/結論

本試験はcarboplatin+vinorelbine療法がSCLC予後不良・治療不適患者においても一定の抗腫瘍活性を持つことを確認した。一方、毒性プロファイルは許容困難と結論され、本患者集団への当該レジメンの推奨は見送られた。

先行研究との比較が本試験の知見を際立たせる。Gridelli et al. (Gridelli et al. JClinOncol 1998) は広汎型SCLC (n=68、vinorelbine 25 mg/m²、carboplatin median AUC 5.9) で奏効率74%・生存期間中央値37週・有毒性死ゼロ・発熱性好中球減少症ゼロという良好成績を報告していた。これに対し本試験では奏効率55%・生存期間中央値26週、治療関連死3例・発熱性好中球減少症入院17例と、有効性・安全性の両面で劣る結果となった。また、White et al. (Cancer 2001、CAV vs 単剤carboplatin、n=119) での Grade 3-4白血球減少44% (CAV) / 8.4% (carboplatin単剤)、febrile neutropenia入院 6例/1例と比較しても、本試験の好中球減少76%・入院17例は明らかに高い骨髄毒性を示した (CAV vs carboplatin単剤間の奏効率差は p=0.15 と非有意)。この相違はvinorelbine用量 (本試験30 mg/m² vs Gridelli 25 mg/m²) の違いに加え、予後不良・合併症による骨髄予備能低下が主要因であり、既報データを予後不良集団へ外挿することの危険性を示す重要な警告である。

本試験の新規性は、実臨床の予後不良SCLC集団 (年齢中央値65歳、PS2が31%) を対象にcarboplatin+vinorelbineの忍容性と有効性を体系的に評価した点であり、このような集団への本レジメン適用の限界を本研究で初めて明確に示した。SCLC臨床試験では予後不良群が過少代表されるという構造的問題があるなかで、実際の患者層に特化した試験を実施した点は臨床的意義を持つ。

臨床応用の観点からは、carboplatin+vinorelbine療法は予後不良または合併症を有するSCLC患者への投与に際して過大な骨髄毒性のリスクが伴うため、現状の用量・支持療法体制での広汎な臨床現場への導入は推奨されない。carboplatin+etoposideへの緩徐投与・低用量化や顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF) の予防的使用といった代替アプローチの臨床的含意を評価するデータが求められる。なお、本試験では予防的抗生物質・G-CSFはいずれも投与されておらず、支持療法の改善が転帰に与える影響は不明である。

今後の検討課題として、予後不良SCLC患者群に対する最適レジメン選択・G-CSF予防投与・用量最適化の検討が残されている。本試験のlimitationとしては、非無作為化デザイン・サンプルサイズの限界 (n=58)・評価不能例17%の存在が挙げられる。また、入院や初回化学療法時のPS変動が治療成績に与える影響については更なる検討が必要であり、この点は予後不良SCLC集団における治療戦略の課題として指摘されている (Rittberg et al. ClinLungCancer 2020)。

方法

非無作為化多施設第II相試験。参加施設はGlasgow Royal Infirmary、University College London Hospital、Christie Hospital (Manchester)、Royal Marsden Hospital (London) の4施設。各施設の地域倫理審査委員会の承認を取得し、全患者から書面同意を取得した。登録期間は1998年2月25日から1999年5月25日。

適格基準: 組織学的または細胞学的に確認されたSCLC、予後不良定義 (Cernyスコア ≥2: 転移性疾患・LDH正常上限超・アルカリホスファターゼ >1.5×正常上限・血清Na <132 mmol/L・血清重炭酸塩 <24 mmol/L・年齢65歳以上の6項目各1点)、または良好予後でも医師判断で登録可。ECOG PS (Performance Status) ≤2 (一部PS3) — ECOG分類: PS0 (fully active)、PS1 (ambulatory but restricted in physically strenuous activity)、PS2 (ambulatory and capable of all self-care)、PS3 (capable of only limited self-care)、クレアチニンクリアランス >65 ml/min (Cockcroft-Gault式)、ヘモグロビン ≥10 g/dL、好中球数 ≥1.5×10^9/L、血小板数 ≥100×10^9/L、2次元的計測可能病変を有すること、進行期の前治療なし (マーカー病変外への放射線治療歴は可)。

治療: Carboplatin AUC5をCalvert式で計算し day 1に1時間点滴静注。Vinorelbine 30 mg/m² を day 1・8 に6-10分かけて緩徐静脈内投与 (post-hydration: 生理食塩水250 mL/15分)。28日1サイクルで最大6サイクル。予防的抗生物質は投与されなかった。Day 8 vinorelbineは血小板数 <50×10^9/L または好中球数 <0.5×10^9/L の場合省略。好中球減少性敗血症発症後は次サイクルで両剤とも25%減量。各サイクル day 1の好中球数 <1.5×10^9/L または血小板数 <100×10^9/L でサイクル延期。

評価・統計: 毒性はNCIC-CTC拡張共通毒性基準に従いグレード判定。腫瘍縮小効果はWHO基準に従い2サイクルごとに評価。主要評価項目はITT奏効率 (CR+PR)、副次評価項目は毒性・無増悪期間 (TTP)・全生存期間 (OS)。生存曲線はKaplan-Meier法で推定し95%信頼区間を算出。毒性は頻度と割合で集計。全解析はintention-to-treat (ITT) ベースで実施した。