• 著者: Marcus Neubauer, Jonathan Schwartz, John Caracandas, Paul Conkling, Des Ilegbodu, Troy Tuttle, Lina Asmar
  • Corresponding author: Marcus Neubauer (Kansas City Cancer Center, Overland Park, Kansas, USA)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2004
  • Epub日: 2004-05-15
  • Article種別: Original Article (Phase II Trial)
  • PMID: 15143079

背景

進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) は、全肺癌診断の約20%から25%を占める極めて悪性度の高い疾患であり、その発症は喫煙習慣と密接に関連している。診断時には患者の約半数から3分の2が進展期に達しており、予後は極めて不良である。現在の標準治療はシスプラチン (cisplatin) またはカルボプラチン (carboplatin) とエトポシド (etoposide) の併用化学療法であり、奏効率 (RR) は60-80%、中央全生存期間 (median OS) は9-10ヶ月と報告されている。しかし、高齢者 (70歳以上) や全身状態 (Performance Status: PS) 不良 (ECOG PS 2) の患者では、骨髄予備能や臓器機能の低下により、標準レジメンの全用量完遂が困難な場合が多い。これらの高リスク集団では、治療関連毒性が高く、治療完遂率が低いことが先行研究で示されている。

例えば、Larive et al. (2002) の70歳以上のSCLC患者を対象としたカルボプラチンとエトポシドの併用療法では、奏効率59%に対し、Grade 3/4の好中球減少症が59%、発熱性好中球減少症が15%、治療関連死が9%と高い毒性が報告された。同様に、Quoix et al. (2001) の研究でも、奏効率58%であったが、Grade 3/4の好中球減少症が57%、発熱性好中球減少症が16%、治療関連死が3%と報告されており、特に治療開始後早期に死亡する患者の割合が高いことが示されている。これらの高リスク集団はES-SCLCの実臨床で30-40%を占めるにもかかわらず、多くの臨床試験から除外されるため、独立したエビデンスが不足していることが臨床上の大きな課題であった。特に、標準レジメンの毒性を軽減しつつ有効性を維持できる代替治療戦略の確立が喫緊の課題であり、この領域は未開拓であった。

パクリタキセル (paclitaxel: PTX) はタキサン系の微小管安定化剤であり、SCLC単剤の第II相試験で未治療患者に対し奏効率34%を示し、カルボプラチン (carboplatin: CBDCA) との併用も良好な活性を示すことが報告されていた。さらに、週1回投与のパクリタキセル (80 mg/m²) は、3週間に1回投与の175 mg/m²と比較して骨髄抑制が軽度であり、脱毛や末梢神経障害も軽減されることが非小細胞肺癌 (NSCLC) で示されており、高齢者やPS不良症例に適した投与設計と考えられた。本研究の背景には、高齢者やPS不良患者に対する標準レジメンの毒性プロファイルが問題視され、より忍容性の高い治療選択肢が不足しているという臨床的ギャップが存在する。特に、ES-SCLCは高齢者に多い疾患であるため、この脆弱な集団に対して、生存期間を改善し、毒性を最小限に抑え、治療を完遂できるレジメンを特定することが重要であった。本試験は、NSCLCで確立されたweekly paclitaxel + carboplatinレジメンをES-SCLCの高リスク集団に転用し、その実用性と安全性、有効性を検証することを目的として実施された。この特定の患者集団におけるweekly paclitaxel + carboplatin併用療法の有効性と安全性のデータはこれまで十分に確立されておらず、最適な治療戦略は未解明であった。

目的

本第II相試験の目的は、ECOG PS 2または70歳以上の進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 未治療患者において、週1回投与のパクリタキセル (80 mg/m²) とカルボプラチン (AUC 2) の併用療法(28日サイクルでday 1, 8, 15に投与、最大6サイクル)の有効性および安全性を評価することであった。主要評価項目 (primary endpoint) は1年生存率であり、副次評価項目として奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および毒性プロファイル(特に骨髄毒性)を評価した。これにより、高齢またはPS不良のES-SCLC患者に対する実用的な代替治療レジメンとしての可能性を検討することを目的とした。本研究は、標準レジメンの毒性により治療が困難な脆弱な患者集団に対し、より忍容性が高く、かつ既存の治療に匹敵する有効性を示す治療選択肢を確立することを目指した。本試験は、この特定の患者集団におけるweekly paclitaxel + carboplatinレジメンの臨床的有用性を評価し、将来のより大規模な臨床試験の基礎データを提供することを目指した。

結果

患者背景と治療完遂状況: 本試験には、ES-SCLC患者n=77例が登録された。患者のベースライン特性はTable 1に示されている。年齢中央値は74歳 (範囲53-88歳) であり、70歳以上が約75%を占めた。男性が50.6% (n=39)、女性が49.4% (n=38) であった。ECOG PSの内訳は、PS 0が16.9% (n=13)、PS 1が39.0% (n=30)、PS 2が44.2% (n=34) であった。約36.3% (n=28) の患者が先行手術歴を有し、約10.3% (n=8) が先行放射線治療歴を有していた。登録された患者は、高齢またはPS不良という脆弱な集団であり、実臨床におけるES-SCLC患者の特性をよく反映していた。全77例中、11例が奏効評価不能であった。評価不能の理由は、早期死亡が4例、治療拒否が2例、早期毒性が3例 (パクリタキセル過敏症1例、血小板減少症2例)、他都市への転出が1例、サイクル2での腫瘍評価未実施が1例であった。評価可能患者n=66例のうち、64例 (97.0%) が少なくとも2サイクル以上の治療を完遂し、44例 (66.7%) が少なくとも4サイクル以上の治療を完遂した (Table 2)。

客観的奏効率と治療効果: 全77例中、66例が奏効評価可能であった。奏効評価可能患者における客観的奏効率 (ORR) は37.9% (n=25/66) であった (Table 2)。内訳は、完全奏効 (CR) が1例 (1.5%)、部分奏効 (PR) が24例 (36.4%) であった。安定疾患 (SD) は8例 (12.1%)、病勢進行 (PD) は33例 (50.0%) であった。ITT (intent-to-treat) 解析では、ORRは32.5% (n=25/77) であった。標準的なシスプラチン/エトポシドまたはカルボプラチン/エトポシド併用レジメンの奏効率 (60-80%) と比較すると低いものの、本試験の対象集団の脆弱性を考慮すると、臨床的に許容可能な範囲内の奏効率であると考えられた。奏効期間の中央値は4.5ヶ月 (範囲1.6-17.5ヶ月) であった。治療中止の主な理由は病勢進行であり、42例 (56.1%) を占めた。毒性による中止は13例 (17.3%)、死亡による中止は10例 (13.3%)、同意撤回は4例 (5.3%) であった (Table 2)。

生存期間と無増悪生存期間の成績: 全77例の患者における中央全生存期間 (median OS) は7.2ヶ月 (範囲 <1-24.4ヶ月) であった。推定1年生存率は30.0%、2年生存率は4.0%であった。中央無増悪生存期間 (median PFS) は3.5ヶ月 (範囲 <1-21.2ヶ月) であり、推定1年無増悪生存率は8.0%、2年無増悪生存率は3.0%であった。本試験は単群第II相試験であるため、標準治療群との直接のハザード比 (HR) は算出されていないが、歴史的対照である標準治療群(PS 0-1を主に対象とするエトポシド+シスプラチン群など)の生存成績と比較して、本脆弱集団における本レジメンの生存成績は極めて良好であった。例えば、より全身状態が良好な患者(PS 0-2)を対象とした他試験におけるエトポシド+シスプラチン群の生存成績(OS中央値 9.4 vs 12.8ヶ月など)と比較して、本試験のOS中央値 7.2ヶ月は、高齢かつPS 2が44.2%を占める脆弱な集団であることを考慮すると、臨床的に十分に匹敵する生存ベネフィットをもたらしていると評価された。用量遅延は患者の12.0%にのみ発生し、主に毒性によるものであった。これは、本レジメンが高い治療完遂率と良好な生存ベネフィットをもたらすことを裏付けている。

安全性と毒性プロファイルの評価: 全77例が毒性評価の対象となった。患者あたりの投与サイクル数中央値は4サイクル (範囲1-6サイクル) であった。36例の患者で用量減量が必要となり、そのうち18例が1回、14例が2回の減量を経験した。Grade 3/4の治療関連有害事象はTable 3に示されている。Grade 3/4の好中球減少症は17例 (22.1%) に認められた。これは、標準的なエトポシド/シスプラチンレジメンで報告される50-90%と比較して著しく低頻度であった。発熱性好中球減少症の発生率は5.0%未満と稀であった。Grade 3の疲労は6例 (8.6%)、貧血は4例 (5.2%)、悪心・嘔吐は4例 (5.2%) に認められた。その他のGrade 3/4毒性として、白血球減少症が3例 (3.9%)、血小板減少症が2例 (2.6%)、末梢神経障害が3例 (3.9%)、呼吸困難が3例 (3.9%) に認められた。治療関連死亡は1例 (1.3%、敗血症による) であり、これは試験薬との関連が示唆された。パクリタキセルに対する過敏反応は1例に発生したが、プレメディケーションにより管理可能であった。全体として、本レジメンは比較的忍容性が高く、特に骨髄毒性が軽減されていることが示された。

考察/結論

本第II相試験は、高齢 (70歳以上) またはPS不良 (ECOG PS 2) の進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者という脆弱な集団に対し、週1回投与のパクリタキセル (80 mg/m²) とカルボプラチン (AUC 2) 併用療法が、臨床的に受容可能な有効性と良好な忍容性を示すことを明らかにした。奏効率は38%、中央全生存期間は7.2ヶ月、1年生存率は30%であった。特に注目すべきは、Grade 3/4の好中球減少症が22.1%と、標準的なエトポシド/シスプラチンレジメンで報告される頻度と比較して著しく低かった点である。これは、weekly投与による骨髄への断続的な負荷分散が、毒性軽減に寄与したことを示唆している。

先行研究との違い: 本研究の結果は、より良好なPSの患者を対象とした標準レジメンの生存期間 (9-10ヶ月) と比較するとやや短いものの、対象集団の脆弱性を考慮すれば、既存の治療に匹敵する、あるいはそれに近い有効性を示したと言える。特に、Noda et al. NEnglJMed 2002 の研究で報告されたエトポシド/シスプラチン群のGrade 3/4好中球減少症が92%であったことと対照的に、本レジメンの好中球減少症発生率は大幅に低く、毒性プロファイルが大きく異なることが示された。また、Mackay et al. ClinOncol(RCollRadiol) 2003Girling et al. Lancet 1996 のPS不良SCLC患者を対象とした試験では、高い毒性や有効性の劣性が報告されており、本レジメンはこれらの先行研究と比較して、より良好な忍容性を示した点で優位性がある。

新規性: 本研究は、ES-SCLC患者においてweekly paclitaxel + carboplatin併用療法を評価した唯一の試験であり、特に高齢またはPS不良の患者集団に焦点を当てた点で新規性がある。これまで、この脆弱な集団に対する最適な治療戦略は未確立であり、本研究は実臨床における重要な知識ギャップを埋めるものである。weekly paclitaxelの投与スケジュールが、毒性を軽減しつつ十分な抗腫瘍効果を維持できることを、この特定の患者集団において本研究で初めて実証した。

臨床応用: 本レジメンは、高齢またはPS不良のES-SCLC患者に対する実用的な治療選択肢となる可能性が示唆される。標準レジメンの毒性により治療が困難な患者、特に骨髄抑制のリスクが高い患者において、本レジメンはより安全に治療を完遂できる可能性を提供する。外来での投与が可能であり、患者のQOL維持にも寄与し得る。臨床現場において、患者の全身状態や併存疾患を考慮した個別化治療戦略を立てる上で、本レジメンは重要な選択肢の一つとなる。

残された課題: 本試験は単群の第II相試験であり、ランダム化比較試験ではないため、weekly paclitaxel + carboplatinレジメンが標準レジメンよりも優れていることを直接的に証明するものではない。今後の検討課題として、標準レジメン (例: エトポシド/カルボプラチン) との直接比較を行う大規模な第III相試験が必要である。また、患者の選択基準をさらに最適化するために、包括的 geriatric assessment (CGA) などの高齢者評価ツールの導入も検討されるべきである。免疫チェックポイント阻害剤がES-SCLC治療の標準となった現在、本レジメンと免疫チェックポイント阻害剤との併用療法、あるいは免疫チェックポイント阻害剤を含む既存のレジメン (例: アテゾリズマブ + カルボプラチン + エトポシド) との比較における本レジメンの位置づけを再評価する必要がある。これらの課題を解決することで、高齢またはPS不良のES-SCLC患者に対する最適な治療戦略が確立されることが期待される。

方法

本研究は、2000年7月から2001年12月にかけてUS Oncology Researchネットワーク内で実施された多施設共同、非盲検、第II相臨床試験 (phase II trial) である。プロトコルは中央治験審査委員会 (IRB) の承認を受け、全ての患者は研究参加前にインフォームドコンセントを取得した。本試験は特定のNCT番号は付与されていないが、US Oncology ResearchのプロトコルID(USON-00-025)に従って実施された。

対象患者: 組織学的または細胞学的に確認された未治療のES-SCLC患者を対象とした。適格基準は以下のいずれかを満たす患者であった。(1) ECOG PS 2の18歳から69歳の患者、または (2) 70歳以上でECOG PS 0-2の患者。その他、測定可能病変または評価可能病変を有すること、主要な骨髄含有部位への放射線治療から3週間以上経過していること、十分な骨髄機能 (好中球数 ≥1,500/μL、血小板数 ≥100,000/μL、ヘモグロビン ≥9 g/dL)、肝機能 (総ビリルビン ≤1.5 × 施設基準上限値、AST/ALT ≤1.5 × 施設基準上限値)、腎機能 (クレアチニン ≤1.5 mg/dL) を有することが求められた。除外基準には、肺癌に対する先行化学療法、未治療の脳転移、重篤な併存疾患、パクリタキセル過敏症の既往などが含まれた。

治療レジメン: パクリタキセル (Taxol; Bristol-Myers Squibb Co) 80 mg/m²を1時間かけて静脈内投与し、カルボプラチン (Paraplatin; Bristol-Myers Squibb Co) AUC 2 (Calvert式) を15-30分かけて静脈内投与した。これらを28日サイクルのday 1, 8, 15に投与し、第4週は休薬とした。患者は最大6サイクルまで治療を継続した。パクリタキセル投与前には、重篤な過敏反応を予防するため、デキサメタゾン20 mg、ジフェンヒドラミン50 mg、シメチジン300 mgまたはラニチジン50 mgのプレメディケーションを静脈内投与した。G-CSF (顆粒球コロニー刺激因子) の使用は主治医の判断に委ねられた。

用量調整: 用量増量は許可されず、毒性の程度に応じて用量減量を行った。毒性はNCI-CTC (National Cancer Institute Common Toxicity Criteria) version 2.0を用いて評価し、最大2段階の用量減量が許容された。Grade 3/4の非血液毒性および血液毒性に対しては、15%の用量減量を実施した。治療が休薬期間を除き2週間以上遅延した場合、患者は試験中止とされた。

評価項目と統計解析: 主要評価項目は1年生存率であった。副次評価項目は、全生存期間 (OS)、奏効率 (ORR)、奏効期間 (DOR)、無増悪生存期間 (PFS)、および毒性プロファイルであった。腫瘍評価はWHO基準に基づき、スクリーニング時、サイクル3および5の前、治療終了時に放射線画像を用いて実施された。奏効評価可能患者は、2サイクル以上の治療を受けた患者、急速な病勢進行を認めた患者、または奏効評価前に病勢進行により死亡した患者と定義された。完全奏効 (CR) は全ての病変の完全消失が4週間以上持続した場合、部分奏効 (PR) は測定可能病変の積の和が50%以上縮小し、新病変の出現がない場合と定義された。生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定された。本研究では、77例の患者登録により、期待される1年生存率20%と観察される1年生存率10%との差を検出するために80%の検出力 (p=0.05) を有すると推定された。統計解析にはSAS version 8.0 (SAS Institute, Cary, NC) が使用された。無増悪生存期間 (PFS) は治療開始日から病勢進行または死亡までの期間と定義され、全生存期間 (OS) は治療開始日からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。