• 著者: Rebekah Rittberg, Susan Green, Trevor Aquin, Oliver Bucher, Shantanu Banerji, David E. Dawe
  • Corresponding author: David E. Dawe (Department of Hematology and Medical Oncology, CancerCare Manitoba, University of Manitoba, Winnipeg, Canada)
  • 雑誌: Clinical Lung Cancer
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-02-26
  • Article種別: Original Article (Retrospective population-based cohort study)
  • PMID: 32197856

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の10〜15%を占め、急速な腫瘍増殖・化学療法高感受性・早期転移傾向を特徴とする予後不良な悪性腫瘍である。病期はLS (limited stage; 限局型) とES (extensive stage; 進展型) に分類され、診断時に最大70%が遠隔転移を有するES-SCLCの5年生存率は2〜5%にとどまる。SCLCは化学療法に対する高い感受性から、他の固形腫瘍では考慮されないような不良 performance status (PS) 患者であっても化学療法が施行される数少ない癌腫のひとつである。実臨床では、診断時に急性症状 (上大静脈症候群・高カルシウム血症・中枢神経合併症・気道閉塞など) を呈し、入院下での初回化学療法開始を余儀なくされる例が一定割合存在する。

Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) performance status (PS) はSCLCにおける独立した生存予測因子として確立されており、PSの悪化とともに生存が段階的に短縮することは複数のコホート研究で示されてきた。しかし、入院下での化学療法開始がPSとは独立した予後規定因子かどうかを定量的に検証したデータはほとんど存在しなかった。入院開始状態はPSと相関するものの、PSには捉えられない「治療耐容性」「急性期合併症の存在」「全身状態の不安定性」を別途反映している可能性があり、両者の関係を明確にすることは臨床上重要な問いである。

先行研究はいずれも限界を有していた。Baldotto らは不良PS SCLC 患者29例を対象とした小規模後方視的研究で、入院下化学療法開始例の中央生存期間が40日と極めて短く、初回化学療法後の30%が死亡したと報告した (Baldotto et al. SupportCareCancer 2012)。ICU (集中治療室; intensive care unit) 入室SCLC患者を対象とした研究でも、CT (化学療法; chemotherapy) 施行群の中央OS (全生存期間; overall survival) は214日 (range 106-536日) との報告があるが、いずれも少数例・単施設・異質な集団を対象としており、ECOG PSを調整した多変量解析を実施できていなかった。この gap in knowledge は不良PS患者や入院患者への化学療法適応を問う際に大きな障壁となっていた (Araujo et al. JThoracOncol 2018)。さらに、行政データベースにはECOG PSが含まれないことが多く、入院状態がPSの代替指標として人口ベース研究に活用可能かという実用的問いに対しても手薄なエビデンスしか存在しなかった。

目的

カナダ・マニトバ州の人口ベースSCLCコホートを用いて、(1) 初回化学療法を入院下で開始した患者と外来で開始した患者のOSおよびPFS (無増悪生存期間; progression-free survival) を比較し、(2) ECOG PSが独立した予後因子となるか評価し、(3) 入院開始状態とECOG PSが交絡なく独立に生存に影響するかをCox多変量解析で検証すること。副次的に、入院設定が人口ベース研究においてECOG PSの代替指標として利用可能かどうかを検討する。

結果

コホート概要と患者背景: 2004〜2013年に化学療法を受けたSCLC 530例が解析対象となった (平均年齢65.1±9.4歳、女性53%)。病期は限局型 (limited stage; LS) 41%、ES 58%。ファーストラインの化学療法レジメンはEP (cisplatin+etoposide) が74%、EC (carboplatin+etoposide) が26%であり、全体の奏効率 (CR+PR) は66%であった。入院下で初回化学療法を受けたのはn=82例 (15.5%)、外来開始はn=448例 (84.5%) であった。入院群は外来群と比較してECOG PS 3-4の割合が有意に高く (45/82例=55% vs 49/448例=11%、p<0.001)、ES病期が多く (78% vs 55%、p<0.001)、診断から治療開始までの期間が短かった (平均24.7±18.4日 vs 37.5±23.7日)。年齢・性別に有意差はなかった。入院群ではECレジメン (carboplatin+etoposide) 使用率が高く (40% vs 23%、p=0.002)、PCI施行率が低かった (12% vs 23%、p=0.023) (Table 1、Table 2)。

OS・PFSアウトカム (入院 vs 外来): OS率は入院群 vs 外来群でそれぞれ12ヶ月22% vs 43%、24ヶ月9% vs 20%、60ヶ月7% vs 9%であり、入院群で有意に不良であった (いずれもp<0.001) (Table 4)。ただしLS症例では12・24・60ヶ月OSに有意差が認められず (p=0.713、0.394、0.430)、有意差はES症例に限局されていた (12ヶ月OS入院群11% vs 外来群28%、p=0.009)。中央PFSは入院群161日 vs 外来群212日 (p=0.004) と入院群で有意に短縮していた (Figure 1)。一方で入院群でも5年OS 7% (n=6例) を達成した患者が存在しており、外来群の5年OS 9%と大きく異ならなかった。この知見は、適切に選択された入院患者が臨床的に意義ある長期生存を達成しうることを示している。

ECOG PS別の生存アウトカム: ECOG PS 0は全体の16%、PS 1-2が66%、PS 3-4が18%を占めた。PS悪化に伴いOS・PFSが段階的に短縮した。中央OSはPS 0で498日 (95% CI 420-659日)、PS 1-2で303日 (95% CI 271-328日)、PS 3-4で179日であり、log-rank検定でいずれも有意差を認めた (p<0.001)。中央PFSはPS 0で316日、PS 1-2で203日、PS 3-4で147日であった (p<0.001)。OS率はPS 0: 12ヶ月70%/24ヶ月37%/60ヶ月18%、PS 1-2: 12ヶ月39%/24ヶ月17%/60ヶ月8%、PS 3-4: 12ヶ月17%/24ヶ月7%/60ヶ月5%と段階的に低下した。ES症例に限定した解析でも同様の有意な差を認めたが、LS症例では有意差がなかった (Table 4、Figure 1)。

多変量Cox解析:入院設定は独立予後因子ではなかった: 単変量解析では入院設定のハザード比 (HR; hazard ratio) は1.57 (95% CI 1.23-2.00、p<0.001) と有意な予後不良因子であった。しかし、ECOG PS・病期・LDH・PCIなどを調整した多変量Cox回帰分析において、入院設定は独立した予後因子とはならなかった (HR 1.16、95% CI 0.85-1.59、p=0.35)。対照的に、ECOG PS 3-4 (vs PS 0) は独立した強力な予後不良因子 であり (HR 2.17、95% CI 1.47-3.20、p<0.001)、PS 1-2もHR 1.33 (95% CI 1.01-1.75、p=0.04) と独立した予後因子であった。ランドマーク解析 (180日以上生存者を対象) でも同様のパターンが確認された (入院設定HR 1.16、95% CI 0.77-1.74、p=0.49; ECOG PS 3-4 HR 1.83、95% CI 1.14-2.94、p=0.01)。その他の独立予後因子として、PCI施行が予後改善と関連し (HR 0.38、95% CI 0.29-0.50、p<0.001)、ES病期が予後不良と関連した (HR 1.51、95% CI 1.20-1.90、p<0.001)。ランドマーク解析では胸部RT (放射線療法; radiotherapy) は独立予後因子ではなくなった (Table 5)。

化学療法毒性プロファイル: 逆説的に、入院群では外来群と比較して主要毒性の発生頻度が低かった。好中球減少 (neutropenia) は55% vs 74% (p<0.001)、血小板減少 (thrombocytopenia) は26% vs 30% (p<0.001)、腎毒性 (nephrotoxicity) は6% vs 12% (p<0.001)、倦怠感は23% vs 35% (p=0.007) と有意差を認めた。同様に、より高機能なPS群ほど好中球減少・腎毒性が多い傾向がみられた。この逆説的所見は、入院群・不良PS群でcarboplatin (EC) を使用する割合が高く、cisplatin (EP) ベースのレジメンに比べて血液毒性・腎毒性が軽減されたためと解釈される。発熱性好中球減少症・血栓症・神経毒性・耳毒性・悪心嘔吐の発生率に群間の有意差はなかった (Table 3)。

治療完遂率と奏効: 入院群では予定化学療法コースの完遂率が低かった (63% vs 81%、p<0.001)。一方で奏効率 (CR+PR) は入院群60% vs 外来群68% (p=0.004) であり、入院群でも約6割が奏効を達成した。ECOG PS別ではPS 0: 奏効率79%、PS 1-2: 66%、PS 3-4: 57% (p<0.001) と、PSとともに奏効率も段階的に低下した。コース遅延は入院群で少なく (57% vs 71%、p=0.012)、全体として入院群はcarboplatin使用率が高い中でも外来群に匹敵する奏効率と毒性プロファイルを示した (Table 2、Table 4)。

考察/結論

本研究の最も重要な知見は、単変量解析では入院設定がHR 1.57 (p<0.001) と有意な予後不良因子であるにもかかわらず、ECOG PSを調整した多変量解析では独立予後規定性が消失したという点である。これはこれまでの研究の示唆とは異なる重要な結果であり、入院状態はPSとは独立した固有の予後規定力を持つのではなく、主としてPS悪化によって説明される交絡変数であることを示している。すなわち入院状態は、PSを十分に調整した解析においてPS以上の独立した予後情報を提供しない。

本研究の新規の点は、530例という過去に報告された中で最大規模のSCLC入院化学療法開始コホートを人口ベースデザインで構築し、選択バイアスを最小化した上で入院設定とPSの独立性を系統的に検証した点にある。これまで報告されていなかった知見として、入院設定は多変量解析でPS・病期・LDHを調整すると有意な独立予後因子ではなくなることが大規模コホートで初めて実証された。この知見は、将来の人口ベース研究において入院設定をPS代替指標として利用することへの疑問を提起する。

臨床的含意として複数の重要な点が挙げられる。第一に、臨床現場においては入院状態のみを根拠に化学療法を差し控えるべきではない。入院群でも5年OS 7%の長期生存が達成されており、適切に選択された入院SCLC患者は臨床的に意義ある恩恵を受けられる。Baldotto らの29例中央OS 40日という既報 (Baldotto et al. SupportCareCancer 2012) とは対照的に、本コホート (n=82) の入院群中央OS 195日・奏効率60%は、より大規模・人口ベース設定でみたアウトカムとして一般化可能性が高い。第二に、化学療法毒性が入院群・不良PS群で逆説的に低かった所見は、これらの群でのcarboplatin選択が安全かつ妥当であることを支持し、臨床的有用性の観点から入院患者への化学療法継続を正当化する根拠となる (Noronha et al. ActaOncol 2020)。第三に、ECOG PSはPS 3-4でHR 2.17という強力な独立予後規定性を示した。不良PS患者への化学療法適応は個別評価が必要であり、腫瘍起因のPS低下 (急性腫瘍関連症状による一過性の機能低下) の場合には化学療法反応性が見込まれる可能性がある。

残された課題として、後方視的デザインに起因する未測定交絡因子 (栄養状態・社会経済的因子・合併症重症度・入院理由の多様性) の影響は排除できない。入院群では病院記録へのアクセス制限から情報欠損率が高く、ECOG PSスコアの一部は記録から推定されており判定者間信頼性の低下が懸念される。今後の検討として、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI; immune checkpoint inhibitor) 時代における不良PS・入院SCLC患者を対象とした前向き試験、CGA (老年総合機能評価; comprehensive geriatric assessment) に基づく治療選択基準の確立、緩和ケア早期導入モデルとの統合が重要な課題として残される (Reguart et al. LancetRespirMed 2025)。future researchとして、行政データへのPS指標組み込みの方法論的検討も求められる。本研究の limitation を踏まえても、入院SCLC患者への適切な化学療法施行は有意義な長期生存をもたらしうるとの結論は実臨床に重要な示唆を与えるものである。

方法

後方視的人口ベースコホート研究。CancerCare Manitoba Registryを用いて2004年1月1日〜2013年12月31日にマニトバ州でSCLCと診断され化学療法を受けた全患者を同定した (n=530)。人口ベースデザインにより選択バイアスを最小化し、マニトバ州全体を代表するコホートを構築した。追加データは電子医療記録の手動レビューにより収集し、ECOG PS・血液検査 (LDH [乳酸脱水素酵素; lactate dehydrogenase]・ナトリウム・ヘモグロビン)・喫煙歴・治療内容・毒性・奏効・生存を含む変数を抽出した。

入院群はSCLCに対する初回化学療法サイクルを入院中に開始した患者と定義し、外来群は入院期間外に開始した患者と定義した。ECOG PS は治療開始時の評価値を使用し、解析上PS 0、PS 1-2、PS 3-4の3群に区分した。主要評価項目はOS (初回全身療法から死亡または打ち切りまでの期間)、副次評価項目はPFS (画像的進行または死亡まで)。奏効はcomplete response (CR; 完全奏効)、partial response (PR; 部分奏効)、stable disease (安定)、progressive disease (増悪)、不明に分類した。化学療法毒性として好中球減少 (neutropenia; 絶対好中球数 <1.5×10^9/L)、発熱性好中球減少症 (febrile neutropenia)、血小板減少 (thrombocytopenia; 血小板 <100×10^9/L)、腎毒性 (nephrotoxicity; クレアチニン上昇 >49 mmol/L)、神経毒性・耳毒性・悪心嘔吐・倦怠感・血栓症を評価した。

統計解析にはKaplan-Meier法による生存曲線作成とlog-rank検定による群間比較を実施した。Cox比例ハザードモデルによる多変量解析では年齢・病期・ECOG PS・治療設定 (入院/外来)・化学療法レジメン・PCI (予防的全脳照射; prophylactic cranial irradiation)・LDHを共変量として調整し各因子の独立性を検証した。PCIの投与日時情報が不完全なことに起因する不死時間バイアス (immortality time bias) を補正するため、OSは治療開始後6ヶ月、PFSは3ヶ月でのランドマーク解析も実施した。変数選択はlog-rankと尤度比検定 (P≤0.2を基準) で行い、Spearmanの順位相関係数とクロス集計による多重共線性 (collinearity) スクリーニングを適用した。連続変数は制限付き三次スプライン (restricted cubic splines) でモデル化し、AIC (Akaike情報量規準; Akaike’s information criteria) でノット数を決定。比例ハザード仮定の確認にはscaled Schoenfeld残差プロットを使用。統計解析はSTATA version 14.2を使用した。