• 著者: Rebekah Rittberg, Bonnie Leung, Zamzam Al-Hashami, Cheryl Ho
  • Corresponding author: Cheryl Ho (BC Cancer)
  • 雑誌: Frontiers in Oncology
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-09-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36185266

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は、肺癌全体の約13%を占める悪性度の高い神経内分泌腫瘍であり、急速な進行と不良な予後が特徴であるRudin et al. NatRevDisPrimers 2021。診断時には約3分の2の患者が進展型 (ES) SCLCと診断され、全身療法が必要となるRudin et al. NatRevDisPrimers 2021。長らく、初回治療はプラチナベースのエトポシド併用化学療法が標準であり、過去20年以上にわたり治療法の大きな進展は見られなかった。しかし、近年、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) の併用がES SCLCの治療成績を改善する可能性が示され、注目を集めている。

特に、CASPIAN試験およびIMpower133試験といった大規模な第III相臨床試験では、プラチナベース化学療法に抗PD-L1抗体であるデュルバルマブ (Durvalumab) またはアテゾリズマブ (Atezolizumab) を併用することで、プラチナ化学療法単独と比較して全生存期間 (OS) が有意に改善することが示されたHorn et al. NEnglJMed 2018。これらの結果はES SCLCの初回治療における標準治療を大きく変えるものであり、ICI併用療法は新たな標準治療として確立されつつある。

しかし、これらの臨床試験は厳格な患者選択基準を設けており、特にECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) パフォーマンスステータス (PS) が0-1の患者に限定されていた。実臨床においては、SCLC患者の多くが診断時にPS不良であるため、これらの臨床試験結果が実際の患者集団にどの程度適用可能であるかについては未解明な点が残されている。PS不良の患者は、治療の安全性や忍容性の懸念から臨床試験から除外されることが多く、この患者群に対するICI併用療法の有効性と安全性に関するエビデンスは不足しているのが現状である。

先行研究では、非小細胞肺癌 (NSCLC) においてPS 2の患者に対するICI併用療法の安全性と忍容性に関する懸念が示されておりGridelli et al. ESMOOpen 2022、SCLCにおいても同様の課題が存在すると考えられる。また、SCLC患者は脳転移の頻度が高いが、臨床試験では脳転移患者の組み入れ基準も限定的であった。例えば、CASPIAN試験では無症候性または治療済みの脳転移患者は組み入れ可能であったが、IMpower133試験では登録前に治療済みの無症候性脳転移が必須であった。これらの厳格な基準は、実臨床の患者集団との乖離を生み出し、エビデンスのギャップを残している。

本研究は、カナダのリアルワールドES SCLC患者集団において、プラチナ併用ICIの初回治療に対する適格性を評価し、臨床試験の適格基準が実臨床に与える影響を明らかにすることを目的とする。これにより、ICI併用療法の実際の適用可能性と、PS不良患者に対する治療戦略の必要性に関する新たな知見を提供することが期待される。

目的

本研究の目的は、カナダのブリティッシュコロンビア州におけるリアルワールドの進展型小細胞肺癌 (ES SCLC) 患者集団において、プラチナダブル化学療法に免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) を併用する初回治療の適格性を評価することである。具体的には、CASPIANおよびIMpower133試験の厳格な適格基準(特にECOGパフォーマンスステータス (PS) 0-1および自己免疫疾患の有無)を満たす患者の割合を明らかにし、実臨床におけるICI併用療法の適用可能性を定量的に評価する。

さらに、初回化学療法後に患者のPSが改善する割合を検討し、PS改善がICI適格性に与える影響を評価することも目的とする。これにより、診断時にPS不良であるためにICI併用療法から除外される患者が、化学療法後にICIの恩恵を受けられる可能性を探る。最終的に、本研究の結果を通じて、ES SCLC患者に対する今後の治療戦略の策定、特にPS不良患者を対象とした臨床試験の必要性に関するエビデンスを提供することを目指す。本研究は、プラチナ併用ICIがES SCLCの新たな標準治療となる中で、実臨床における治療戦略の策定に重要な臨床的意義を持つ知見を提供することを意図する。

結果

患者のベースライン特性: 2015年から2017年の間に、合計519人のSCLC患者が診断され、そのうち349人 (67%) が進展型SCLC (ES SCLC) であった。ES SCLC患者のベースライン特性をTable 1に示す。患者の年齢中央値は68歳であり、男性が49%、女性が51%であった。喫煙状況では、生涯非喫煙者は2%に過ぎず、診断時に活動的喫煙者であった患者が62%を占めた。ECOG PSの分布は、PS 0-1が114人 (33%)、PS 2が90人 (26%)、PS ≥ 3が139人 (40%) であり、PS不良の患者が多数を占めることが示された。中枢神経系 (CNS) 転移は118人 (34%) の患者に認められた。

初回治療とICI適格性: ES SCLC患者349人のうち、253人 (72%) が全身療法を受け、そのうち227人 (90%) が初回プラチナダブル化学療法を受けた (Table 1, Figure 1)。プラチナダブル化学療法を受けた患者のうち、15人 (7%) がICIに対する医学的禁忌を有していた。これには、炎症性腸疾患 (n=4)、関節リウマチ (n=4)、特発性肺線維症 (n=3)、ループス (n=1)、シェーグレン症候群 (n=1)、高安動脈炎 (n=1)、活動性結核 (n=1) が含まれた。軽度の乾癬 (n=3) や安定した甲状腺機能亢進症 (n=2) の患者はICI適格と判断された。プラチナダブル化学療法を受けた患者における初回サイクル前のPS分布は、PS 0-1が96人 (45%)、PS 2が61人 (29%)、PS ≥ 3が51人 (10%) であった (Figure 2)。

ICI適格患者の割合: プラチナダブル化学療法を受けた患者227人のうち、ICI禁忌のない212人の患者を対象にICI適格性を評価した。初回サイクル前にECOG PS 0-1であった患者は96人 (45%) であり、これはプラチナダブル化学療法を受けた患者の36%に相当し、ES SCLC患者全体の23%であった。もし適格基準をECOG PS 2まで拡大した場合、さらに61人 (29%) の患者が適格となる可能性があった。ICI適格患者と非適格患者の間で、年齢、性別、喫煙状況、喫煙年数、CNS転移の有無に有意な差は認められなかった (Table 2)。

化学療法後のPS改善: 初回化学療法後にPSが改善する患者も認められた。初回サイクル後に、ECOG PS ≥ 2であった患者のうち15人 (7%) がPS 0-1に改善した。さらに、2サイクル後に、初回サイクル前またはサイクル1後にPS ≥ 2であった患者のうち8人 (4%) がPS 0-1に改善した。これらのPS改善を考慮すると、プラチナダブル化学療法後にICI適格となる患者は追加で11%増加する可能性が示唆された。これは、初回治療の段階的なアプローチが、より多くの患者にICIの恩恵をもたらす可能性を示唆する重要な所見である。

全生存期間の解析: ES SCLC患者の全生存期間 (OS) 中央値は、初回プラチナダブル化学療法を受けた患者で8.4ヶ月 (95% CI 7.6-9.3)、非プラチナ化学療法を受けた患者で1.9ヶ月 (95% CI 0.9-2.9)、最良支持療法を受けた患者で1.5ヶ月 (95% CI 1.2-1.9) であり、治療群間で有意な差が認められた (p<0.001)。プラチナダブル化学療法を受けた患者におけるPS別のOS中央値は、PS 0-1の患者で10.6ヶ月 (95% CI 8.5-12.8)、PS 2の患者で6.0ヶ月 (95% CI 4.3-7.6)、PS ≥ 3の患者で7.0ヶ月 (95% CI 4.4-9.5) であり、PSが良好な患者ほどOSが有意に長かった (p<0.001) (Figure 3)。この結果は、PSがES SCLC患者の予後を予測する上で重要な因子であることを裏付けている。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、カナダのリアルワールドES SCLC患者集団において、CASPIANおよびIMpower133試験の適格基準に基づくと、プラチナ併用免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) の初回治療に適格な患者が少数派であることを示した。プラチナダブル化学療法を受けた患者のわずか36%(ES SCLC患者全体の23%)のみがICI適格であった。これは、これらの大規模臨床試験の結果が実臨床の患者集団にそのまま適用されるわけではないという点で、これまでの報告と対照的である。特に、診断時にECOG PSが2以上の患者が半数以上を占めることが、臨床試験の厳格な適格基準との大きな乖離を生み出している。

新規性: 本研究で初めて、実際のES SCLC患者集団におけるプラチナダブル化学療法後のICI適格性を詳細に評価した。さらに、初回化学療法後のパフォーマンスステータス (PS) の改善が、その後のICI適格性に与える影響を定量的に示した点も新規性がある。具体的には、1〜2サイクルの化学療法後にPSが改善し、追加で11%の患者がICI適格となる可能性を示唆した。これにより、臨床試験の厳格な基準が実臨床での治療選択にどのように影響するかに関する新たな知見が得られた。

臨床応用: 本知見は、プラチナ併用ICIがES SCLCの新たな標準治療となる中で、実臨床における治療戦略の策定に重要な臨床的意義を持つ。特に、診断時にPSが不良な患者(PS ≥ 2)が多数を占めることを考慮すると、これらの患者に対する治療選択肢を拡大するためには、PS改善を促すアプローチや、PS不良患者を対象とした臨床試験の必要性が示唆される。段階的な治療アプローチ、例えば初回サイクルはプラチナ化学療法単独とし、その後のPS改善に応じてICIを追加する戦略も検討されるべきである。これにより、毒性リスクを軽減しつつ、適切な患者がICIの恩恵を受けられる可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、PSが2以上のES SCLC患者を対象とした、より包括的な臨床試験の実施が挙げられる。これらの患者におけるICI併用療法の安全性と有効性を評価し、エビデンスのギャップを埋める必要がある。また、SCLCは不均一な悪性腫瘍であり、転写因子発現に基づく4つのサブタイプが報告されているGay et al. CancerCell 2021。どの患者がICIから最も利益を得られるかを予測する生物学的・分子学的マーカーの特定も今後の方向性として残されている。本研究は後ろ向き研究であり、医師の記録の正確性や、体重減少などの他の予後因子がルーチンで収集されていない点がlimitationである。

方法

本研究は、カナダのブリティッシュコロンビア州において、2015年1月1日から2017年12月31日までの期間にBC Cancerに紹介された小細胞肺癌 (SCLC) 患者を対象とした後ろ向きコホート研究である。BC Cancerは、ブリティッシュコロンビア州の510万人の住民に対して集中型のがん治療を提供しており、6つのがんセンターと40以上のサテライト地域腫瘍ネットワークサイトを通じてサービスを展開している。

患者集団とデータ収集: 患者の人口統計学的データ、ECOGパフォーマンスステータス (PS)、がんの病期、治療内容(化学療法および放射線療法)、および生存データは、Outcomes and Surveillance Integration System、電子カルテ、および化学療法請求管理データベースを通じて収集された。過去の病歴や欠損変数は、手動によるチャートレビューを通じて抽出された。本研究は、ブリティッシュコロンビア大学/BC Cancer研究倫理委員会 (H19-02381) の承認を得て実施され、後ろ向きレビューのため同意取得免除が認められた。

適格基準の評価: 免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 併用療法の適格性は、CASPIANおよびIMpower133試験の主要な除外基準に基づいて評価された。これらの基準には、自己免疫疾患の既往、活動性感染症、およびECOG PSが2以上が含まれる。本研究では、プラチナダブル化学療法を受けた患者を対象に、初回サイクル前のPSと、サイクル1およびサイクル2後のPS改善状況を評価した。自己免疫疾患については、炎症性腸疾患、関節リウマチ、特発性肺線維症、ループス、シェーグレン症候群、高安動脈炎、活動性結核などがICIの医学的禁忌とされた。一方で、軽度の乾癬や安定した甲状腺機能亢進症などの一部の自己免疫疾患は、ICI適格とみなされた。

統計解析: 統計解析には、Statistical Package for the Social Sciences (SPSS) ソフトウェアバージョン28が使用された。記述統計はカイ二乗検定およびMann-Whitney U検定を用いて算出された。全生存期間 (OS) は、診断日からカプラン・マイヤー曲線を用いて算出され、ログランク検定を用いて比較された。患者は最終追跡可能日までで打ち切られた。統計的有意水準はp値が0.05未満と設定された。本研究は、リアルワールドの患者集団におけるICI適格性を評価する後ろ向きコホート研究として設計された。