- 著者: Gay CM, Stewart CA, Park EM, Diao L, Groves SM, Heeke S, Nabet BY, et al.
- Corresponding author: Lauren Averett Byers (The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2021
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 33482121
背景
小細胞肺がん (SCLC) は神経内分泌腫瘍の中でも特に悪性度が高く、初期にはプラチナ系化学療法に高奏効率を示すものの、ほぼ全例が再発し、予後は極めて不良である。標準治療における全生存期間 (OS) 中央値は10〜12ヶ月と報告されている。非小細胞肺がん (NSCLC) では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) の導入により治療戦略が大きく変化し、患者の予後が劇的に改善されたのに対し、SCLCでは未だにバイオマーカーに基づく治療選択が確立されておらず、アンセレクテッドな集団に対する臨床試験では期待通りの結果が得られていない点が大きな課題として残されている。
SCLCは、TP53およびRB1遺伝子のほぼ普遍的な欠失により、分子的に均質であると長らく考えられてきた。しかし、近年、転写因子であるASCL1、NEUROD1、POU2F3の発現パターンに基づいたサブタイプ分類が提唱され、各サブタイプが異なる生物学的特性を持つことが示唆されてきた。例えば、ASCL1またはNEUROD1を駆動因子とする神経内分泌型 (NE型) と、それ以外の非神経内分泌型 (non-NE型) の区別が提案され、後者は間葉系形質や化学療法耐性を特徴とすることが示されている。また、POU2F3駆動型は、タフト細胞様の特徴を持つ新たなnon-NE型として同定された (Huang et al. GenesDev 2018)。さらに、YAP1駆動型が第4のサブタイプとして提案されたが、その後の免疫組織化学 (IHC) 解析では独立したサブタイプとしての明確な確認には至っていない (Baine et al. JThoracOncol 2020)。これらの分類が、化学療法、免疫療法、分子標的療法に対する応答をどの程度予測できるかは、これまで系統的に評価されていなかった。この点は、SCLCの精密医療を推進する上で重要な未解明なギャップである。
近年、IMpower133試験において、アテゾリズマブと化学療法の併用がSCLC患者のOSを有意に改善することが示されたものの (Horn et al. NEnglJMed 2018)、その利益は限定的であり (OS中央値 12.3 vs 10.3 months)、ICBの恩恵を最も受けるサブグループを同定するというアンメットニーズが依然として存在していた。また、SCLCの腫瘍内不均一性 (ITH) に関する報告も増えており、治療抵抗性のメカニズムとしてサブタイプ間の可塑性が関与する可能性が示唆されている。例えば、Notchシグナル経路の活性化が化学感受性のNE細胞から化学耐性のnon-NE細胞への分化転換を制御することや、MYCがASCL1陽性NE細胞の脱分化を促進し、YAP1陽性non-NE細胞への進化を導くことがマウスモデルで示されている (Ireland et al. CancerCell 2020)。先行研究でも、プラチナ製剤耐性獲得後にSCLC循環腫瘍細胞 (CTC) 由来異種移植 (CDX) モデルにおいて転写レベルのITHが増加することが示されており、サブタイプ可塑性が治療応答と抵抗性の根底にある可能性が示唆される。しかし、これらの知見は主に基礎研究レベルのものであり、臨床検体を用いた包括的なサブタイプ分類と治療脆弱性の評価、および治療によるサブタイプ転換のメカニズム解明は未解明な点が多かった。特に、各サブタイプが化学療法、免疫療法、分子標的療法に対してどのような脆弱性を持つかを系統的に評価した研究は不足しており、精密医療に基づくSCLC治療選択の基盤を確立することが喫緊の課題であった。
目的
本研究の目的は、非負値行列行列分解 (NMF) を用いた非偏向トランスクリプトーム解析によりSCLCの分子サブタイプを網羅的に同定することである。さらに、同定された各サブタイプの生物学的特性、特に神経内分泌分化、上皮間葉転換 (EMT) 、免疫微小環境の特徴を詳細に解析する。そして、SCLC細胞株を用いたin vitro薬物スクリーニング、患者由来異種移植 (PDX) モデル、およびIMpower133試験の臨床コホートデータを用いて、各サブタイプが化学療法、分子標的療法、免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) に対してどのような独自の治療脆弱性を持つかを系統的に評価する。最終的に、シスプラチン耐性獲得に伴うサブタイプ転換のメカニズムを単細胞レベルで解析し、SCLCの治療抵抗性の根底にある腫瘍内不均一性と可塑性の役割を解明することで、精密医療に基づくSCLC治療選択の基盤を確立し、患者の治療成績向上に貢献することを目指す。
結果
4サブタイプの同定と分布: 81例の外科的切除SCLC腫瘍のRNAseqデータに対するNMF解析の結果、コフェネティック相関係数は3クラスタと4クラスタでほぼ同等 (約1.0に接近) であった (Figure 1A)。しかし、4クラスタを選択することで、POU2F3駆動型 (SCLC-P) と、ASCL1、NEUROD1、POU2F3のいずれの転写因子シグネチャも低発現でありながら炎症性遺伝子シグネチャが高い第4のサブタイプが明確に分離されたため、4クラスタ分類が最適と判断された。この第4のサブタイプはSCLC-Inflamed (SCLC-I) と命名された。George et al. Nature 2015 のコホートにおけるサブタイプ分布は、SCLC-Aが36%、SCLC-Nが31%、SCLC-Iが17%、SCLC-Pが16%であった。IMpower133検証コホートでは、SCLC-Aが51%、SCLC-Nが23%、SCLC-Iが18%、SCLC-Pが7%と、やや異なる分布を示した (Figure 1F)。各サブタイプの分子特性はIHCでも確認され、ASCL1、NEUROD1、POU2F3の発現パターンが各代表腫瘍で確認された (Figure 1D, 1E)。SCLC-AとSCLC-Nは神経内分泌マーカー (CHGA、SYP) の発現が高く、上皮型に分類された。一方、SCLC-PとSCLC-Iは神経内分泌マーカーのREST (RE1 silencing transcription factor) の発現が高い非神経内分泌型に分類された。EMTスコアはSCLC-Iが最も間葉型 (高値) であり、SCLC-Aが最も上皮型であった (Figure 2E)。
SCLC-Iの免疫特性と臨床的ベネフィット: SCLC-Iサブタイプは、CD8AおよびCD8BのmRNA発現が他サブタイプと比較して有意に高く (p<0.05およびp<0.001)、細胞傷害性T細胞の浸潤が高いことが示唆された (Figure 3A, 3B)。CIBERSORTx解析では、SCLC-I腫瘍は総免疫細胞浸潤が最も高く (p<0.001)、T細胞、NK細胞、マクロファージを含む多様な免疫細胞集団の絶対数も有意に増加していた (Figure 3C, 3D)。さらに、HLAおよび抗原提示関連遺伝子の発現、ならびに18遺伝子インターフェロンγ関連T細胞GEPが一貫してSCLC-Iで最高発現を示した (Figure 3E, 3F)。PD-L1 (CD274)、PD-1 (PDCD1)、CTLA4、TIGIT、LAG3、IDO1、VISTAなど、多様な免疫チェックポイント分子もSCLC-Iで高発現していた。IMpower133試験のデータを用いたサブタイプ別OS解析では、SCLC-Iサブタイプがアテゾリズマブと化学療法の併用により最も大きなOS利益を得ることが示された (Figure 3H, 3I)。SCLC-IサブタイプにおけるEP+atezolizumab群のOS中央値は18.2 vs 10.4 monthsであり、HR 0.566 (95% CI 0.321-0.998, p=0.049) と顕著な生存期間延長を示した。また、SCLC-Iサブタイプは、EP+atezolizumab群において、他の全ての腫瘍と比較しても有意なOS利益を示した (HR 0.566, 95% CI 0.321-0.998, p=0.049) (Figure S4E)。
サブタイプ別治療脆弱性: SCLC細胞株を用いたin vitro薬物スクリーニングにより、各サブタイプに独自の治療脆弱性が明らかになった。SCLC-AはBCL2阻害薬に高感受性を示し、IHCでもBCL2タンパク質発現が最高値であった (Figure 4A, 4D)。SCLC-NはAuroraキナーゼ阻害薬に高感受性を示し、cMYC発現との相関が認められた。また、SSTR2 (somatostatin receptor 2) が高発現しており、ソマトスタチン類似体やADC (antibody-drug conjugate) の標的候補となる可能性が示唆された (Figure 4G-4J)。SCLC-PはPARP阻害薬 (5種全て) および抗代謝薬 (抗葉酸薬、ヌクレオシド類似体) に有意に高感受性を示した (p<0.001)。このPARP阻害薬感受性はSLFN11の発現とは独立した機序である可能性が示唆された。シスプラチン感受性に関しては、SCLC-Pが最も高感受性を示す傾向にあり (p=0.06)、SCLC-Iは最も耐性であった (Figure S5A)。SCLC-Iでは、免疫細胞に多く発現するBTK (Bruton’s tyrosine kinase) が高発現しており、BTK阻害薬イブルチニブに対するin vitro感受性が認められた。また、SCLC-I細胞株 (H841) において、HDAC阻害薬モセチノスタットがEMTの逆転 (Vimentin減少、E-cadherin増加) を誘導し、マウス異種移植モデルで有意な腫瘍制御効果を示した (Figure 4E, 4F)。
サブタイプ転換と獲得耐性: シスプラチン感受性SCLC-A型PDXモデル (ASCL1陽性) のscRNA-seq解析により、シスプラチン耐性獲得後にSCLC-I様 (triple-negative) クラスターが出現することが明らかになった (Figure 6A-6D)。RNA velocityおよびPAGA解析から、SCLC-I細胞は高い細胞動態ポテンシャル (可塑性) を持ち、耐性集団の前駆細胞として機能しうる可能性が示唆された (Figure 7E-7H)。複数のCDXモデルの比較でも、白金製剤耐性後に転写レベルの異質性が上昇し、ASCL1陽性細胞からNEUROD1陽性細胞やtriple-negative細胞へのシフトが確認された。さらに、DNMT1 (DNA methyltransferase 1) 阻害剤によるASCL1からNEUROD1への転換がエピゲノム制御機序として同定され、薬剤誘発性のサブタイプ転換が可塑性を介して耐性に寄与することが示された (Figure 5D, 5E)。SCLC-I細胞は、シスプラチン耐性獲得後の腫瘍において、より高いCell Transport Potential (CTrP) を示し、高い可塑性を持つことが示された (Figure 7I-7K)。
考察/結論
先行研究との違い: 先行研究である Rudin et al. NatRevCancer 2019 がASCL1、NEUROD1、POU2F3の3分類を確立したのに対し、本研究は第4のSCLC-Iを新規に同定し、それが免疫療法選択のバイオマーカーとして機能することを臨床データで示した点が対照的であり、独自の貢献である。SCLC-Iが間葉型でシスプラチン耐性という特性を持つことは逆説的であり、化学療法後の免疫療法ではなく、免疫療法先行戦略の可能性を示唆する。SCLC-Iは、その炎症性特徴の一部が腫瘍微小環境に依存しない腫瘍内在性のシグナル伝達に起因する可能性も示唆された。
新規性: 本研究で初めて、SCLC-Iというinflamed型サブタイプが免疫チェックポイント阻害薬 (アテゾリズマブ) の治療利益を最大化することを、IMpower133試験の臨床コホートデータを用いて実証した。IMpower133試験の全体OS利益が限定的であった原因の一つは、SCLC-I以外のサブタイプ (全体の約80%) にはICBが有効でないことにあると考えられる。
臨床応用: 本知見はSCLCの精密医療の実現に向けた重要な一歩であり、SCLC-I患者をICBの選択的受益者として前向きに同定するためのバイオマーカー (液性生検、IHCなど) 開発が急務である。各サブタイプ特異的治療 (SCLC-P: PARP阻害薬、SCLC-N: Auroraキナーゼ阻害薬・SSTR2 ADC、SCLC-A: BCL2阻害薬) の大規模前向き検証試験も必要である。例えば、SCLC-PにおけるPARP阻害薬感受性はSLFN11発現とは独立した機序である可能性があり、これは従来のバイオマーカーでは捉えきれない患者群への治療機会を提供する。これらの知見は、SCLCの臨床応用において、個別化医療の導入を加速させる臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、サブタイプ転換の制御機序と治療介入可能性、腫瘍内異質性 (ITH) がICB応答に与える影響、およびSCLC-I同定のための臨床的に実用可能なアッセイの開発が今後の重要課題である。本研究はLS-SCLCの手術検体と治療前ES-SCLCコホート (IMpower133) の2集団を組み合わせており、治療前後のサブタイプダイナミクスを直接評価した研究は少なく、液性生検によるリアルタイムサブタイプ追跡の開発が求められる。また、SCLC-PサブタイプはIMpower133コホートで n=7 とサンプルサイズが小さく、その治療戦略についてはさらなる検証が必要である。SCLC-I細胞の高い可塑性は、治療抵抗性における幹細胞様特性の役割を示唆しており、この治療誘発性SCLC-I細胞集団を標的とする戦略の開発がSCLC患者の予後改善への鍵を握ると考えられる。
方法
本研究では、SCLCの分子サブタイプを同定するため、まず81例の外科的切除SCLC腫瘍 (主に限局期LS-SCLC) のRNAseqデータに非負値行列因子分解 (NMF) を適用した。NMF解析では、遺伝子発現の二峰性指数が1.5以上、平均発現値が25パーセンタイル以上、標準偏差が50パーセンタイル以上という基準で遺伝子を選択し、最適なクラスタ数をコフェネティック相関値の最大化により決定した。
同定されたサブタイプは、以下の独立した3つのコホートで検証された。
- 治療前IMpower133試験コホート: 広範期SCLC (ES-SCLC) 患者276例のRNAseqデータを使用し、アテゾリズマブとカルボプラチン/エトポシド (EP) の併用群とプラセボ+EP群のOSデータをサブタイプ別に解析した。このIMpower133試験は、治療未経験のES-SCLC患者を対象とした第3相ランダム化比較試験 (phase III randomized controlled trial) であり、臨床試験登録番号はNCT02409345である。主要評価項目 (primary endpoint) はOSおよび無増悪生存期間 (PFS) であった。
- Satoら (2013) のマイクロアレイデータ: 23例のSCLC腫瘍サンプルを用いてサブタイプ分類を検証した。
- SCLC細胞株コホート: 62種のSCLC細胞株 (H446, H1048, H847, H211, H196, H526, H841, H82, DMS79 [Ductal Myasho SCLC 79], H1930, H341, H146, H250, H510A, DMS273, H69, H524, H889) のRNAseqデータを用いてサブタイプを分類し、腫瘍微小環境非依存的なサブタイプ特性を確認した。
治療脆弱性の評価のため、62種のSCLC細胞株に対して500種類以上の薬剤感受性 (IC50値) をin vitroで評価した。また、逆相タンパク質アレイ (RPPA) を用いて、200種類以上のタンパク質発現をプロテオミクスレベルで解析した。
免疫微小環境の評価には、CIBERSORTxデコンボリューション法 (Newman et al. NatMethods 2015) を絶対モードで1000回の順列で実行し、LM22 (leukocyte matrix 22, 22種類の免疫細胞サブセット) シグネチャを用いて免疫細胞浸潤を定量的に評価した。さらに、ICB応答予測マーカーとして、18遺伝子インターフェロンγ関連T細胞遺伝子発現プロファイル (GEP) (Ayers et al. JClinInvest 2017) の発現を解析した。
サブタイプ転換と獲得耐性のメカニズムを解明するため、シスプラチン感受性患者由来異種移植 (PDX) モデルのシスプラチン耐性獲得後の腫瘍組織に対し、10x Genomics単細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) を実施した。scRNA-seqデータはCell Ranger v2.0で処理後、Seuratパッケージv2.3.1 (Butler et al. NatBiotechnol 2018) を用いて正規化・ログ変換し、細胞周期効果を調整した。t-SNE (t-distributed Stochastic Neighbor Embedding) 変換とLeidenクラスタリングにより細胞集団を同定し、RNA velocity (La et al. Nature 2018) およびPAGA (Partition-Based Graphical Abstraction) 解析を用いて、単細胞レベルでの細胞動態ポテンシャルとサブタイプ転換経路を推定した。細胞の可塑性を示す指標として、Cell Transport Potential (CTrP) を算出した。
統計解析には、遺伝子およびタンパク質発現、EMTスコア、薬剤応答データについてANOVAを用いた。カテゴリカルな臨床変数と変異頻度の関連性にはFisher’s exact検定を適用した。Kaplan-Meier曲線とlog-rank testを用いて、無再発生存期間 (RFS) およびOS曲線を比較した。ハザード比 (HR) はコックス比例ハザードモデル (Cox proportional hazards regression model) により算出した。