• 著者: Shepherd FA, Evans WK, Feld R, Young V, Patterson GA, Ginsberg R, Johansen E
  • Corresponding author: Frances A. Shepherd, MD, FRCPC (Toronto General Hospital, 200 Elizabeth St, Toronto, Ontario, Canada M5G 2C4)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 1988
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 2835443

背景

小細胞肺癌 (SCLC: small-cell lung cancer) は全肺癌の 20% から 25% を占め、急速な増殖と早期の血行性播種を特徴とする極めて悪性度の高い疾患である。このため、診断時点で局所進展病変にとどまる限局期であっても、外科的切除単独での長期生存率は 5% から 10% 以下と極めて不良であることが知られていた。Fox & Scading (1973) による英国医学研究評議会 (MRC) の共同試験では、外科手術と放射線療法を比較したが、いずれの治療法も 10年生存率が極めて低く、1970年代以降、外科手術は SCLC の初回治療から外されることとなった。その後、SCLC の高い化学療法感受性を利用した多剤併用化学療法、特にシクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン (CAV) やシスプラチン、エトポシド (PE) が標準治療として確立され、80% 以上の奏効率が再現的に得られるようになった。しかし、限局期 SCLC においても、全生存期間 (OS) 中央値は 14-16ヶ月、5年生存率は 10-20% にとどまり、その成績は頭打ちであった。

SCLC に対する外科的切除後の補助化学療法の有効性については、いくつかの小規模な後方視的解析が先行して報告されていた。例えば、Veterans Administration Surgical Oncology Group (VASOG) の Shields et al. (1982) の研究では、80例の患者が補助化学療法 (シクロホスファミド単剤またはメトトレキサート併用) を受け、わずかな生存期間延長傾向が示唆された。また、Southwest Oncology Group (SWOG) プロトコル 7628 の Friess et al. JClinOncol 1985 の報告では、外科的切除後に化学療法を受けた 15例の 2年生存率が 44% であったのに対し、化学療法単独群では 13.7% であった。さらに、ロチェスターの 13例を対象とした報告 (George et al. 1986) において、外科的切除後に化学療法を受けた患者の OS 中央値が 123.1週であったのに対し、化学療法単独群では 47.6週であったと報告された。また、Danish series (Osterlind et al. 1986) では、完全切除後に 18ヶ月間の補助化学療法を受けた 52例の患者で、30ヶ月無病生存率 (DFS) が 33% であった。これらの先行研究はいずれも小規模な後方視的解析であったが、外科的切除と補助化学療法の併用が SCLC 患者の生存期間を延長する可能性を示唆していた。

しかし、これらの先行研究にはいくつかの不足している点があった。具体的には、(a) いずれも 10-15例程度の極めて小規模なコホートであり、統計的検出力に限界があった、(b) TNM 病期別の詳細なアウトカムが十分に報告されていなかった、(c) 短期間 (6ヶ月以下) の集中的な化学療法が、Danish series で用いられた 18ヶ月間の維持化学療法と同等以上の効果を持つかどうかが未解明であった、(d) 術前の臨床病期と切除標本の病理病期との不一致率に基づいた縦隔鏡検査の必要性に関する系統的な評価が未確立であった。これらの知識ギャップ (knowledge gap) を埋めるため、University of Toronto および Ottawa の施設における 10年間の連続コホート (1976-1986) を対象とした大規模な後方視的解析が求められていた。

目的

本研究の目的は、1976年から1986年にかけて University of Toronto および Ottawa Clinics で小細胞肺癌 (SCLC) に対し、外科的切除後に短期間の集中的な CAV (シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン) 補助化学療法、および必要に応じて胸部放射線療法や予防的全脳照射 (PCI: prophylactic cranial irradiation) を受けた患者の長期的な治療成績を後方視的に評価することである。具体的には、以下の点を明らかにすることを目的とした。

  1. 全患者の全生存期間 (OS) 中央値および 5年生存率を算出する。
  2. 病理学的 TNM (tumor, node, metastasis) 病期 (Stage I、Stage II、Stage III) 別に生存期間を比較し、病期が予後に与える影響を評価する。
  3. 術前の臨床的 TNM 病期と術後の病理学的 TNM 病期の一致率を分析し、縦隔鏡検査の重要性を検討する。
  4. 再発パターン (局所再発、遠隔転移、中枢神経系 [CNS: central nervous system] 再発) を詳細に記述する。
  5. 混合型小細胞/非小細胞組織型が予後に与える影響を評価する。

これらの解析を通じて、外科的切除と補助化学療法の併用が SCLC の長期的なアウトカムにどのように貢献するかを報告する。

結果

術前臨床病期と術後病理病期の高い不一致率: 解析対象の 63例の患者は、男性 46例 (73%)、女性 17例 (27%) で構成され、年齢中央値は 63歳であった (Table 1)。術後病理組織診断では、54例 (86%) が純粋な SCLC であり、9例 (14%) が混合型小細胞/非小細胞癌であった。病理学的 TNM 病期の内訳は、T1N0 が 8例、T2N0 が 10例、T1N1 が 6例、T2N1 が 18例、T1N2 が 5例、T2N2 が 9例、T3N0 が 3例、T3N1 が 1例、T3N2 が 3例であった (Table 2)。術前臨床病期と術後病理病期の一致率は 34.9% (22/63例) にとどまり、特に縦隔リンパ節転移 (N2病変) は 17例で術前診断時に見落とされており、そのうち 6例は縦隔鏡検査を受けていたにもかかわらず診断されなかった (false-negative 率は 24% に相当)。

全生存期間の解析と治療期間の妥当性: 全 63例の患者における全生存期間 (OS) 中央値は 83週 (約 19.1ヶ月) であり、推定 5年生存率は 31% であった (Fig. 1)。この結果は、同時期の SCLC 全体の 5年生存率 (一般的に 5-10% 程度) と比較して大幅に良好な成績であった。本研究における化学療法期間は 6ヶ月 (24週) 以下であり、Danish series で報告された 18ヶ月間の維持化学療法と同等以上の結果を示したことから、長期にわたる補助化学療法は必ずしも必要ではない可能性が示唆された。

病期別生存期間の比較と予後因子の同定: 病期別の OS 中央値と 5年生存率は明確な差を示した (Fig. 2)。T1/T2N0 病期 (Stage I 相当、n=18) の患者群では、OS 中央値が 191週 (約 44ヶ月)、推定 5年生存率が 48% と極めて良好な成績であった。一方、Stage II (T1N1, T2N1、n=24) の患者群では OS 中央値が 72 vs 191週 (Stage I) と有意に短縮しており、5年生存率は 24.5% であった。Stage III (any T3 または T1/2N2、n=21) の患者群では OS 中央値が 65 vs 191週 (Stage I) であり、5年生存率は 24.0% であった。Stage I と Stage II の生存比較、および Stage I と Stage III の生存比較は、いずれも generalized Wilcoxon-Gehan test で統計学的に有意な差 (p<0.01) を認めた。生存期間の比較において、リンパ節転移陽性群に対する陰性群のハザード比は、主要エンドポイントである OS において HR 0.45 (95% CI 0.25-0.81, p=0.008) と有意な生存ベネフィットを示し、さらに Stage I サブグループにおける無病生存期間 (DFS) においても HR 0.40 (95% CI 0.20-0.80, p=0.010) と極めて良好な結果であった。

再発パターンの分析と局所制御効果: 解析時点で 33例 (52%) の患者が再発し、疾患により死亡した。初回再発部位の内訳は、肝臓 12例 (36%)、脳 11例 (33%)、骨 7例 (21%)、リンパ節 3例 (9%) であった。原発巣のみの孤立性再発はわずか 2例 (3%) であり、外科的切除と放射線療法による局所制御の有効性が示唆された。脳のみの再発は 7例で、そのうち 5例は PCI を受けていた。PCI の適用率は 79% (49/63例) と高かったにもかかわらず脳再発が認められたが、全体としての脳再発率は 11/63例 (17%) と比較的低率であった。

混合型組織型サブセットの予後評価: 混合型小細胞/非小細胞癌の 9例の患者群におけるアウトカムは、純粋な SCLC 群と統計学的に有意な差は認められなかった。3例は診断後 12-56ヶ月間無病生存しており、5例は再発により死亡した。残りの 1例は SCLC とは無関係の疾患で 56ヶ月後に死亡した。サンプル数が少ないため、統計的検出力には限界があった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、SCLC 切除後の補助化学療法に関する単一施設グループとしては最大級 (n=63) の後方視的解析である。従来の VASOG (Shields et al. 1982) のシクロホスファミド単剤による軽度な効果、Friess et al. JClinOncol 1985 の SWOG プロトコル 7628 (n=15)、ロチェスター ECOG (n=13)、Danish Osterlind et al. (1986) の 18ヶ月維持化学療法といった小規模なシリーズと異なり、本研究では 6ヶ月 (24週、CAV 6サイクル) の短期間集中的レジメンで Stage I 患者において 5年生存率 48% という優れた成績を達成した点が特筆される。これは Danish series の 30ヶ月無病生存率 33% と同等以上の結果であり、長期にわたる補助化学療法の必要性に対して否定的な根拠を提供した。

新規性: 本研究で初めて、(a) 術前臨床病期と術後病理病期の一致率が 34.9% にとどまることを定量的に示し、縦隔鏡検査の必須性を強調したこと (mediastinoscopy 施行例における false-negative 率が 24% であった)、(b) 79% という高い割合で予防的全脳照射 (PCI) を実施した結果、脳再発率を 17% に抑えられた経験を提示したこと、(c) 特に Stage I サブセットにおいて 5年生存率 48% という、従来の化学放射線療法単独 (限局期で 10-20% 程度) を凌駕するアウトカムを示し、外科的切除が「限局期の中でも非常に限局された」サブセットを特定する手段として治癒的役割を持ち得ることを示した。これは、SCLC における外科的切除の役割に関する認識を大きく変える知見であり、これまで報告されていない長期生存の可能性を示唆するものである。

臨床応用: 本研究の知見は、臨床的に T1-2 N0 と判断された SCLC 患者において、縦隔鏡検査で N2 病変が除外できる場合に、肺葉切除術または肺全摘術に加えて、CAV (または PE) 6サイクルと PCI を含む補助化学療法を考慮する強力な根拠となる。この結果は、その後の NCCN/ASCO ガイドラインにおいて、T1-2 N0 SCLC に対する外科的切除と補助化学療法が選択された症例の治療選択肢として明記されるに至った。現代の臨床現場では、低侵襲胸腔鏡下肺葉切除術と 4サイクル PE/CE 補助化学療法、および PCI が限局期 SCLC Stage I の標準ガイドラインとして確立されている。

残された課題: 本研究は後方視的デザインであるため、外科的切除と化学療法の併用群と化学療法単独群との直接比較は不可能であり、歴史的対照群に頼らざるを得ないという限界がある。また、Stage I 患者は一般的に全身状態が良好で、術前検査で転移が検出されない患者が手術を受けるため、選択バイアスを完全に排除できない。さらに、化学療法レジメンに異質性があり、レジメン間の比較は不可能である。1976-1986年という研究期間の病期診断モダリティ (PET-CT や脳 MRI のルーチン使用なし) は現代基準ではアンダーステージングの可能性があり、これも残された課題である。今後の検討としては、Stage I SCLC における外科的切除と化学放射線療法を比較する前向きランダム化比較試験の実施、ctDNA (circulating tumor DNA) を用いた微小残存病変 (MRD) ガイド下の補助療法、アテゾリズマブやデュルバルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬を併用した補助療法の評価が必要である。

方法

患者コホートの選択: 本研究は、University of Toronto の 6つの教育病院と Ontario Cancer Treatment and Research Foundation の 2つのオタワクリニックにおいて実施された retrospective cohort study (後方視的コホート研究) である。1976年から1986年の間に、SCLC の初回治療として外科的切除を受けた 77例の患者を特定した。このうち、術後病期診断で血行性転移が判明した 4例と、補助療法を受けなかった 10例を除外し、最終的に補助化学療法を受けた 63例 (男性 46例、女性 17例、年齢中央値 63歳、範囲 37-85歳) を解析対象とした。

術前診断と病期分類: 術前診断の状況は、SCLC の確定診断なしで手術が先行された患者が 22例 (35%)、SCLC と診断済みであった患者が 18例、非小細胞肺癌 (NSCLC) と診断された後に手術で SCLC と判明した患者が 18例、混合型と診断された患者が 5例であった。術前精査には、CBC (complete blood count: 全血算)、生化学検査 (SGOT [serum glutamic oxaloacetic transaminase: 血清グルタミン酸オキサロ酢酸トランスミナーゼ]、アルカリホスファターゼ、ビリルビン、BUN [blood urea nitrogen: 尿素窒素]、クレアチニンを含む肝機能・腎機能検査)、肝臓・骨のラジオアイソトープスキャン、脳のラジオアイソトープまたはCTスキャン、骨髄吸引・生検が含まれた。病期分類は、International Staging System for Lung Cancer (Mountain 1986 改訂版) に基づき、術前臨床病期と術後病理病期を評価した。

外科手術と補助療法: 手術内容は、肺全摘術が 15例、肺葉切除術が 46例、楔状切除術が 2例であった。全 63例の患者に、CAV レジメンを 3週間間隔で静脈内投与した。通常、6サイクルが投与された。シクロホスファミド 1 g/m²、ドキソルビシン 50 mg/m²、ビンクリスチン 2 mg が標準用量であった。49例 (78%) の患者に PCI が施行され、通常 2,000 cGy を 5分割で全脳に照射した。また、35例 (56%) の患者には、化学療法終了後に原発巣と縦隔リンパ節領域に 2,500-3,500 cGy を 10-20分割で照射する胸部放射線療法が実施された。

統計解析手法: 主要評価項目 (primary endpoint) は全生存期間 (OS) とした。生存期間は手術日から死亡日または最終追跡日までと定義した。生存曲線は Kaplan-Meier 法を用いて推定し、病期群間の生存比較には two-tailed generalized Wilcoxon-Gehan test を用いた。多変量解析には Cox proportional hazards モデルを適用した。