• 著者: I. Maestu, M. Pastor, J. Gomez-Codina, J. Aparicio, A. Oltra, C. Herranz, J. Montalar, B. Munarriz, G. Reynes
  • Corresponding author: Dr. Miguel Pastor (Medical Oncology Department, University Hospital ‘La Fe’, Valencia, Spain)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 1997
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 9261523

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は肺癌の中でも特に予後不良の組織型であり、化学療法導入後も長期生存例は限られる。1980年代以降、SCLC患者の生存を規定する予後因子 (prognostic factor, PF) の探索が進み、病期・パフォーマンスステータス (PS)・体重減少が一貫した予後因子として認識されてきた。Osterlind らは多施設データを基に病期とPS が独立した予後因子であることを示し (Cancer Treat Rep 1983)、Spiegelman らは1,521例の大規模解析で複数の予後変数を同定した (J Clin Oncol 1989)。Wolf らは766例のSCLC患者の解析で性別が独立した予後因子となることを報告し (Wolf et al. BrJCancer 1991)、Shepherd らは手術切除後補助化学療法の実施可能性を示した (Shepherd et al. JClinOncol 1988)。

これらの知見を踏まえ、Royal Marsden Model (Vincent et al. 1987)、London Group (Souhami et al. 1985/1988)、Manchester Score (Cerny et al. 1987) の3つの予後指数 (prognostic index, PI) が提唱されたが、独立コホートでの検証報告は手薄であった。また既存の指数は日常的な血液検査項目である好中球数・血糖値などの予後意義を十分に検討しておらず、これらの因子を取り込んだ包括的な多変量解析には gap in knowledge が存在した。単一施設の非選択コホートにおいて複数の既知指数を同時に検証しつつ、新規予後因子候補を探索した研究は不足していた。

目的

本研究の目的は以下の3点である: (a) SCLCの治療前臨床的・血液学的指標が生存予測に与える影響を後ろ向き解析で同定する; (b) 独立した予後因子に基づく新規予後指数を構築し、患者を異なる予後群 (prognostic group, PG) に分類する; (c) Royal Marsden Model、London Group、Manchester Score の既知3指数の有効性をスペイン単一施設コホートで再検証する。

結果

単変量解析による予後因子の網羅的特定

341例全体に対する単変量解析 (Table 3) では、24項目の臨床・検査指標を評価した。LDH (lactate dehydrogenase) >225 U/lがBreslow・Mantel-Cox両検定で最も強い予後相関を示した (いずれもp=0.0000)。CPK (creatine phosphokinase) >145 U/lも高い有意性を持ち (Breslow p=0.0004、Mantel-Cox p=0.0001)、ALT (alanine aminotransferase) >55 U/lも有意であった (両検定ともp=0.0003)。臨床指標では、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) PS (0〜2 vs 3〜4) が非常に強い予後相関を示した (Breslow p=0.0001、Mantel-Cox p=0.0000)。VALG分類による病期 (LD vs ED) も有意な予後因子であった (両検定でp=0.0000)。

アルブミン低値 (<3.4 g/dl) も有意 (Breslow p=0.0057、Mantel-Cox p=0.0143) で、好中球増多 (>7.5×10^9/l) も単変量で有意な予後不良因子であった (Breslow p=0.0038、Mantel-Cox p=0.0307)。体重減少10%超も有意 (p=0.0040/0.0030)。転移部位では肝転移 (p=0.0005)・骨転移 (p=0.0000)・脳転移 (p=0.0300) が有意な予後因子となった。これに対し年齢 (65歳超) は有意な予後因子とならなかった。なお、血糖値上昇 (>110 mg/dl) も単変量で有意であった (Breslow p=0.0038、Mantel-Cox p=0.0490)。

多変量解析と7つの独立予後因子の同定

単変量解析で有意だった変数を投入したCox比例ハザードモデル (n=220、forward stepwise) の結果、7変数が独立した予後因子として残存した (Table 4): LDH (p=0.000、係数0.0010)、病期 (p=0.000、係数0.6608、HR=1.94 [ED vs LD])、アルブミン (p=0.001、係数-0.3457、HR=0.71 per g/dl)、CPK (p=0.046、係数0.0024)、好中球数 (p=0.009、係数0.0001)、ECOG PS (p=0.027、係数0.1765、HR=1.19 per category)、血糖値 (p=0.05、係数0.0050)。アルブミンの係数が負値であることは、高値が良好予後と対応することを示す。好中球数を白血球数に置換すると有意性が消失したことから、好中球の絶対数が白血球全体ではなく独立した予後因子であることが確認された。Bicarbonate・ALT・ESR 等を順次追加投入しても、血糖値のみGGTまたはbicarbonate導入時に除外され、他の変数への影響は認めなかった。

新規予後指数の構築と3群への層別化

多変量解析で同定した7独立予後因子のうち、CPKは266例でしか測定されていないため実臨床での適用制約を考慮して予後指数から除外した。残り5変数を用いた単純スコアリングシステムを構築した: LDH >225 U/l = 1点、アルブミン ≤3.4 g/dl = 1点、好中球数 >7.5×10^9/l = 1点、拡張型病期 (ED) = 1点、ECOG PS >1 = 1点 (合計0〜5点)。5変数全てが評価された303例を以下に分類した: 良好群 (score 0〜1)、中間群 (score 2〜3)、不良群 (score 4〜5)。

Figure 1に示す生存曲線では、3群間で明確な層別化が認められた。良好群の中央生存期間は12.3ヶ月 (2年生存率16.5%)、中間群は8ヶ月 (2年生存率2.3%)、不良群は3.4ヶ月 (2年生存率0%) であり、不良群では2年以上生存した患者は認められなかった。303例が3群に均等に近い分布で分類されたことは、スコアリングの臨床的実用性を示す。

既存3指数の外部検証

Index 1 (Royal Marsden Model; Vincent et al. 1987) はKarnofsky PS・血清ナトリウム・アルブミン・アルカリフォスファターゼ (alkaline phosphatase) の4因子で定義され、本コホートで2予後群を再現した (Figure 2)。良好群の2年生存率は16.6%、不良群は0%で有意な差が確認された (p<0.001)。病期情報を含まない指数にもかかわらず有意な層別化が可能であった。

Index 2 (London Group; Souhami et al. 1985/1988) はECOG PS・アルブミン・ALT の3因子に基づく3予後群を再現した (Figure 3)。良好・中間・不良群の2年生存率はそれぞれ15.7%、5%、0%で有意差を認めた (p<0.001)。Index 3 (Manchester Score; Cerny et al. 1987) はLDH・病期・ナトリウム・Karnofsky score・アルカリフォスファターゼ・bicarbonateの6因子スコアリング (合計0〜6点) に基づく3予後群を再現した (Figure 4)。各群の2年生存率は16.2%・2.5%・0%であり有意差があった (p<0.001)。3指数全ての2年生存率は原著報告と同等であり、本コホートでの予測能力の再現性が確認された。

考察/結論

先行研究との比較と知見の相違

本研究の多変量解析結果は、いくつかの点でこれまでの研究を支持するとともに、対照的な知見も示している。LDH・病期・アルブミン・PSの独立予後因子としての意義は既報 (Osterlind 1986、Arriagada 1989、Wolf 1991) と一致する。一方、年齢が有意な予後因子とならなかった点は、Spiegelman らの1,521例解析 (J Clin Oncol 1989) で年齢の予後意義が示された報告と異なる。女性が男性より良好な予後を示した傾向は (Wolf et al. BrJCancer 1991) と一致するが、本研究では女性がわずか5例と極端に少なく解釈に限界がある。また、LDH上昇群でLD患者とED+正常LDH患者の生存に有意差が認められなかった知見は、腫瘍の拡散が初期腫瘍量と同等に重要であることを示唆し、既報の一部の報告と異なる結果であった。

新規性

本研究で初めて、好中球増多 (neutrophilia) が多変量解析においてもSCLC患者の生存を規定する独立予後因子であることを示した。好中球増多とSCLCの関連は単変量解析で示唆されていたが (Allan et al. Eur J Cancer 1990)、多変量レベルでの独立性はこれまで報告されていない新規な知見である。好中球ではなく白血球全体を投入すると有意性が消失したことから、生物学的意義は好中球特異的であり、腫瘍細胞による造血増殖因子産生が腫瘍量・病期と相関するという仮説、またはSCLCの中枢型気道閉塞に伴う感染の反映である可能性が考えられる。さらに血糖値上昇が独立予後価値を持つことも新規の知見であり、先行研究では言及されていない。腫瘍による炭水化物代謝障害 (糖不耐性・ACTHライク症候群に伴うコルチコイド過剰) との関連が示唆される。CPKの独立予後価値はCK-BB isoenzyme との関連で散見されるが、本研究で改めて多変量レベルでの意義が確認された新規の知見である。

臨床応用と意義

本研究で提唱した5変数予後指数は、いずれも化学療法開始前に日常的に測定される血液検査値から算出可能であり、臨床現場での実装が容易である。臨床的意義として、患者を3群に分類することで、臨床試験における患者選択・層別化 (stratification) に活用できる。特に病期やPS以外にアルブミンやLDHを層別化因子として組み込むことの重要性が本研究から示唆される。3つの既知指数の有効性が本コホートで確認されたことは、これらの臨床応用を支持する根拠となる。研究期間11年間の診断年別に生存差が認められなかった事実は、化学療法の変遷がこの期間に大きな生存改善をもたらさなかったことを示唆し、予後因子解析の時代的妥当性を担保している。現代的文脈では、分子生物学的手法による循環腫瘍細胞 (circulating tumor cell, CTC) の解析 (Carter et al. NatMed 2017) など新規バイオマーカーが登場しているが、本研究が示した臨床・血液因子の予後価値は基盤的な層別化ツールとして依然として参照される。

残された課題

本研究はいくつかのlimitationを有する。第一に、後ろ向き単施設研究であることから選択バイアスを排除できない。CTが1984年以降に導入されたため、特にLD/ED比率への時代的影響を完全には除外できない。第二に、化学療法レジメンが研究期間中に変遷しており、治療法別の比較解析は実施されていない。第三に、本研究で構築した新規予後指数は独立した外部コホートでの検証が今後の検討として残されており、汎用性の確認が必要である。第四に、好中球増多・血糖値の独立予後価値は先行研究での報告が少なく、再現性の確認が今後の課題である。多変量解析に使用できたのは220例 (全体の64.5%) にとどまり、解析対象の完全性についても更なる検討が求められる。

方法

1981年11月から1993年1月にかけてスペイン・バレンシアのUniversity Hospital ‘La Fe’ (単一施設) でSCLCと診断・治療された341例のデータを後ろ向きに収集した。病理診断はWHO分類 (World Health Organization 1982) およびIASLC (International Association for the Study of Lung Cancer) 基準に従い確認した。病期分類にはVALG (Veterans Administration Lung Group) 分類、TNM分類 (Mountain 1988)、AJC (American Joint Committee) 分類を使用した。VALG分類の限局型 (LD) 基準には同側鎖骨上リンパ節転移および患側胸水を含む広義の定義を採用した。

治療前評価として、理学検査・全血算・血液生化学・胸部X線・CT・気管支鏡・骨シンチ・肝スキャンまたは超音波・胸部/上腹部CTを実施し、脳CTは1984年以降に導入された。341例中211例 (61.8%) がLD、130例 (38.1%) がEDであった。26例に手術切除 (診断的・治療的) が施行された。化学療法レジメンは11年間の研究期間中に変遷し、初期はシスプラチン (cisplatin) 非含有レジメン、後期はシスプラチンベースが主体となった (Table 2; CAVベースレジメン1〜3コース: n=128、4〜6コース: n=114、7〜10コース: n=99)。LD 129例に放射線療法を実施し、完全奏効後または残存腫瘍に対して縦隔・鎖骨上領域に40〜50 Gyを照射した (完全奏効後n=43、残存後n=86)。予防的全脳照射 (prophylactic cranial irradiation, PCI) は14例に25〜30 Gyで施行した。

統計解析には、生存曲線の推定にKaplan-Meier法 (Kaplan & Meier 1958)、単変量解析にBreslow検定およびMantel-Cox検定、多変量解析にCox比例ハザードモデル (Cox proportional hazard model、forward stepwise法) を適用した。BMDPソフトウェアを使用し、p<0.05を有意とした。Cox回帰の各変数についてはハザード比 (hazard ratio, HR) と 95% CI (95% confidence interval) を算出し、独立予後因子の効果量を評価した。生存期間は診断日から死亡日または最終追跡日まで測定した (最終追跡最低1年)。多変量解析には単変量解析で有意な相関を示した変数を投入し、220例で分析した。