• 著者: Thomas Lad, Steven Piantadosi, Paul Thomas, David Payne, John Ruckdeschel, Giuseppe Giaccone
  • Corresponding author: Thomas Lad (Lung Cancer Study Group)
  • 雑誌: Chest
  • 発行年: 1994
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Randomized controlled trial)
  • PMID: 7988254

背景

小細胞肺がん (SCLC) は診断時点でほぼ全例が全身性疾患として扱われ、外科治療の役割は長らく否定的に評価されてきた。1969年に Medical Research Council (MRC) が実施したランダム化比較試験では、外科切除単独が放射線療法単独と比べ生存を改善しないことが示され、SCLCを内科的疾患として管理する方針が確立した。これ以降、外科切除はSCLCの標準治療から除外され、化学療法と放射線療法の組み合わせによる集学的治療が主軸となった。

1970〜80年代にかけてシクロホスファミド・ドキソルビシン・ビンクリスチン (CAV) を基本とする多剤併用化学療法が確立されると、限局型SCLC (LD-SCLC) における奏効率は70%以上に達し、長期生存への期待が高まった。しかし化学療法・胸部放射線療法の併用後も胸部内再発は約50%の症例に認められ、5年生存率は10〜15%という低水準にとどまっていた。Warde らのメタ解析が胸部放射線療法の生存改善効果を確認したものの (Warde et al. JClinOncol 1992)、胸部内制御の不十分さは依然として重要な臨床的課題であった。

1980年代初頭に化学療法奏効後の残存病変に対する外科切除追加という戦略が提唱された。その理論的根拠は複数存在した。第一に、部分奏効後の残存腫瘍は定義上、その化学療法に抵抗性を示す細胞集団であり、外科切除という代替制御法が論理的に有用となりうること。第二に、剖検例の15〜30%でSCLC標本に非小細胞組織成分 (large cell carcinoma、adenocarcinoma、squamous cell carcinoma) の混在が報告されており、非小細胞成分が化学療法への抵抗性に寄与している可能性が示唆されていたこと。第三に、末梢孤立結節型のT1N0M0 (T1=tumor ≤3 cm, N0=no nodal metastasis, M0=no distant metastasis) 小型SCLCでは外科切除が良好な長期生存をもたらすという歴史的経験知の存在が挙げられる。Meyer ら、Baker ら、Shepherd らによるパイロット試験では化学療法奏効後切除において2年生存率35〜70%という良好な成績が報告されたが (Shepherd et al. JClinOncol 1988)、これらはいずれも患者選択バイアスの影響が大きい観察研究であった。また Roth らが行ったCAV対EP対交替投与の比較試験では EP (etoposide + cisplatin) レジメンへの移行が進んでいたが (Roth et al. JClinOncol 1992)、化学療法奏効後の外科切除追加が生存を改善するかどうかは未解明のまま残されており、これを検証する前向きランダム化比較試験データが根本的に不足していたため、科学的根拠の確立が求められていた。このような背景から、Lung Cancer Study Group (LCSG) は前向き国際共同ランダム化比較試験 (LCSG 832) を立案した。

目的

LD-SCLCにおいて、CAV化学療法5サイクル後にCR (完全奏効) またはPR (部分奏効) を達成した症例に対し、胸部放射線療法+全脳予防照射 (PCI) 単独と比較して、肺切除の追加が全生存期間を延長するかどうかを前向きランダム化比較試験で検証すること。副次目的として、(1) 化学療法後の臨床的奏効評価の精度と病理学的奏効との対応関係の評価、(2) SCLC症例における非小細胞組織成分混在頻度の定量的把握、(3) 臨床的・外科的TNM病期分類が切除候補の選定や予後予測に有用かどうかの評価、(4) 外科切除が胸部内腫瘍制御を改善するかどうかの評価。

結果

患者登録と化学療法奏効の概要:6年間 (1983〜1989年) に328例が導入化学療法フェーズに登録された。患者特性は男性65%、白人92%、年齢中央値59歳 (範囲 35〜72歳) で、両ランダム化割付群および非ランダム化群間で均等に分布していた。CAV化学療法5サイクル後の全奏効率は66% (n=217) で、完全奏効 (CR) 90例 (27%)、部分奏効 (PR) 127例 (39%) であった (Table 1)。非奏効例は111例 (34%):導入中死亡10例、導入中進行45例、腫瘍縮小不十分56例。奏効例217例のうち146例 (67%、全登録例の44%) がランダム化の5適格基準を満たし、手術群 (n=70) と非手術群 (n=76) に割付された。ランダム化に至らなかった奏効例71例の主な理由は患者拒否32例 (最多)、医学的切除不能14例、切除不能判定12例であった (Table 2)。ランダム化146例の臨床特性:Karnofsky score 9以上が82%、体重減少10%以下が92%、臨床的CRが40%、残存腫瘍5 cm²以上はわずか5%であり、両群間でこれらの特性に差はなく、きわめて良好なパフォーマンス集団であった。

開胸術成績と術後病理所見:手術群70例のうち62例で開胸術が施行され (8例は患者拒否)、8例が study外で手術を受けた結果、合計70例が開胸試行された。切除率は83% (58例) で、術後30日死亡は2例 (3%) であり、非小細胞肺がん手術と同等の周術期死亡率であった (Table 3)。切除不能 (open-and-close) は12例 (17%):切除不能の発生率は術前臨床病期T3で40%、T2で16%、T1で6%と、術前T因子と強く関連し、切除不能12例のうち9例が術前病期T2N2 (T2=tumor >3 cm, N2=mediastinal node metastasis) またはT3であった。郭清縦隔リンパ節の平均個数はN1が3.6個、N2が6.4個であったが、N因子は切除可能性に独立した影響を与えなかった。

摘出標本の病理学的解析 (Table 4) では、残存SCLCが51例 (73%)、SCLC根絶が19例 (27%)。内訳として、病理学的完全奏効 (残存腫瘍なし: pCR) が13例 (19%)、非小細胞組織成分のみの残存が8例 (11%):腺癌2例、大細胞癌1例、非定型カルチノイド3例、小細胞+扁平上皮混合1例、小細胞+大細胞混合1例。臨床的CRを達成した24例のうちpCRが確認されたのは9例のみであり、残る15例では開胸後に残存腫瘍が確認された。逆に、13例のpCR症例のうち4例は化学療法後の臨床病期が進行期 (T1N0=T1 node-negative 2例、T1N2=T1 with mediastinal N2 nodes 1例、T2N2 1例) を示しており、臨床評価によるステージマイグレーションが双方向で観察された。術後合併症は主に呼吸器系 (無気肺、肺炎、気管支胸膜瘻) であったが許容範囲内であり、回復は概ね順調であった。

全生存期間と手術による生存改善効果の欠如:両群の Kaplan-Meier 生存曲線はほぼ完全に重複し、log-rank 検定で有意差は認められなかった (p=0.78) (Figure 2)。生存中央値は手術群15.4ヶ月 vs 18.6ヶ月 (非手術群) で (HR=1.06、95% CI: 0.73-1.55、log-rank p=0.78)、Kaplan-Meier 生存曲線は両群でほぼ完全に重複し、手術群に生存優位性は認められなかった。全登録328例の生存期間中央値は12ヶ月、ランダム化146例では16ヶ月であった。追跡末時点で40例が打ち切りとして残存し、2年生存率は約20%であった。生存曲線の末尾にプラトーの形成が示唆され、一部に長期生存者の存在が示唆されたが、両群ともに同様の傾向であった。本試験の統計的検出力はランダム化例数が限られていたため (登録328例に対してランダム化146例) 必ずしも大きくなかったが、非手術群が数値上3ヶ月の生存中央値の優位を示したことから、手術群の真の利益がマスクされている可能性は低いと解釈された。

再発パターンと局所制御への外科切除の影響:初回再発部位の分布は両群で同様であり、手術追加による再発パターンの変容効果は認められなかった。初回再発のうち胸部単独が25%、胸部+遠隔転移の複合が13%で、局所再発 (縦隔・同側肺・同側胸膜への再発) への関与は合計38%に上った。予防的全脳照射 (PCI) を施行したにもかかわらず、中枢神経系への初回再発は12%に認められた。外科切除による縦隔リンパ節郭清や原発葉の切除が局所制御を改善するという仮説は、本試験の再発パターン解析によって支持されなかった。

TNM (Tumor-Node-Metastasis) 病期別サブセット解析と臨床的含意:手術施行70例を対象に、TNM 分類 (T1=tumor ≤3 cm, T2=tumor >3 cm, T3=chest wall/mediastinum invasion; N0=no nodal metastasis, N1=ipsilateral peribronchial nodes, N2=mediastinal nodes; M0=no distant metastasis) に基づく臨床病期別および病理的病期別の median survival を解析した (Table 5)。臨床病期別の中央生存期間:T1N0M0 24.2ヶ月 (n=2)、T2N0M0 (T2=tumor >3 cm, N0=node-negative, M0=no distant metastasis) 21.4ヶ月 (n=11)、T1-2N1M0 15.2ヶ月 (n=12)、T1-2N2M0 13.1ヶ月 (n=35)、T3N0M0 17.4ヶ月 (n=2)、T3N1-2M0 25.2ヶ月 (n=8)。病理的病期別:T0N0M0 (pCR) 17.4ヶ月 (n=13)、切除不能 10.6ヶ月 (n=12)、非小細胞成分残存 14.5ヶ月 (n=8)。各サブセットの症例数が少なく統計的比較は困難であったが、pCR症例 (n=13)、非小細胞成分残存例 (n=8) を含むいずれのサブセットも顕著な生存延長を示さなかった。特に非小細胞成分のみ残存した8例は、理論的に化学療法耐性クローン除去が期待されたサルベージ手術の最も有力な適応候補であったが、median survival 14.5ヶ月という成績は全体の手術群平均と同水準にとどまった。臨床病期と病理病期の対応は乏しく (ステージマイグレーションが著明)、術前TNM病期による候補選定や予後予測の精度は限定的であることが明らかとなった。

考察/結論

本試験は限局型SCLCの化学療法奏効後における外科切除の有用性を評価した歴史的に唯一の前向きランダム化比較試験であり、肺切除追加による全生存期間の延長を証明できなかった。median survival が非手術群18.6ヶ月に対し手術群15.4ヶ月と、数値上は非手術群がわずかに優れていたことは、これまでの研究で選択バイアスのあるパイロット試験から示唆されていた「化学療法奏効後切除の有効性」が実際には確認されないことを強く示している。既報の単群観察研究で報告された2年生存率35〜70%は、外科切除候補となりうる良好な患者層の選択を反映した見かけ上の効果であり、これまでの研究との相違は選択バイアスの除去によって生じた本質的な差である。

本試験が新規に確立した重要な病理学的知見として、臨床的奏効評価と病理学的奏効の大きな乖離が挙げられる。臨床的CR 24例のうち病理学的CRが確認されたのはわずか9例であり、残存腫瘍の過小評価が常態的に生じることが novel な前向きデータとして示された。また双方向のステージマイグレーション (pCR症例の化学療法後臨床病期が進行する例の存在) は、現在の臨床評価ではSCLC残存病変を正確に同定できないことを示す新規知見であり、外科切除の候補選択においてTNM病期分類が信頼できる基準とならないことが本研究で初めてRCTデータとして確認された。さらに非小細胞組織成分混在率11%という前向きデータは、SCLCの組織学的多様性に関してこれまで報告されていない規模の系統的評価を提供するものであり、しかしそれがサルベージ外科切除の生存改善につながらないという本試験の知見は、「非小細胞残存除去」という理論的根拠の臨床的有効性を否定した。

臨床的意義として、本試験の結果はLD-SCLCの集学的治療に外科切除を組み込む臨床応用を支持しないことを明確に示した。現代の臨床現場においても本試験の否定的結論は有効であり、限局型SCLCの標準治療は化学放射線療法+PCIとして定着している。近年、ADRIATIC 試験が限局型SCLCの化学放射線療法後consolidationとして durvalumab による免疫療法を加えることで生存改善 (OS HR 0.73) を達成したことは (Cheng et al. NEnglJMed 2024)、集学的治療の最適化の方向性が外科切除ではなく免疫チェックポイント阻害薬の上乗せにあることを示しており、30年後の時点でも本試験の「外科切除否定」という結論の臨床的妥当性は維持されている。橋渡し研究の観点からも、外科切除という局所療法よりも全身的免疫調節が限局型SCLCの cure fraction 向上に寄与する可能性が支持される。

残された課題としてのlimitationとして、(1) 本試験から明確に除外された末梢孤立結節型T1N0M0 SCLCへの外科切除の位置づけは未検証であり、このサブセットでは今後の検討が求められる (カルチノイドとの鑑別困難性や末梢型SCLCの異なる生物学的挙動が考慮される)。(2) 試験設計がエトポシド導入前 (1983年) であり、CAVレジメンを使用したが、同試験期間中にEP (シスプラチン+エトポシド) レジメンへの移行が進んだため、現代のEP+放射線同時併用療法 (concurrent CRT) 環境での外科切除評価には直接的な外挿が困難である。(3) 統計的検出力の limitation も無視できず、ランダム化146例という規模はtype II error の可能性を完全には排除できないが、非手術群が数値上優位であったことから手術群の真の利益がマスクされている可能性は低い。更なる検討として、現代の分子サブタイプ (ASCL1/NEUROD1/POU2F3/YAP1) 別のSCLCにおける治療応答性の差異が免疫療法 consolidation の恩恵を修飾するかどうかは、future research として重要な課題である。

方法

Lung Cancer Study Group (LCSG 832)、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG 5585)、European Organization for Research and Treatment of Cancer (EORTC 08845) の3機関共同による国際前向きランダム化比較試験。1983年から1989年10月にかけて患者登録を完了した。

適格基準 (登録時): 気管支鏡下に病理学的に確認されたSCLC、限局期 (鎖骨上窩リンパ節転移および細胞診陽性胸水を除く片側胸郭内病変)、PS良好。末梢型結節例 (気管支鏡で原発気管支が同定不能な症例) は除外した。

導入化学療法: 全登録例にCAVレジメン (シクロホスファミド 1,000 mg/m²・ドキソルビシン 50 mg/m²・ビンクリスチン 1.4 mg/m²、3週毎) を5サイクル投与した。

ランダム化適格基準 (5条件を全て満たす必要): (1) LCSG 病理参照センターによる純粋小細胞組織型の確認 (導入前材料のレビュー)、(2) 客観的腫瘍縮小の達成 (安定病変は不適格)、(3) 同一導入治療プロトコールの完遂、(4) 化学療法後の切除可能性の確認 (上大静脈症候群・食道浸潤・心嚢水貯留は切除不能、その他は臨床判断)、(5) 化学療法後の頭部 CT が正常。化学療法終了から5週以内のランダム化を必須とした。

無作為割付: 適格例を手術群 (開胸術+肺切除+縦隔リンパ節郭清→胸部放射線療法 50 Gy/25分割+PCI 30 Gy/15分割) と非手術群 (胸部放射線療法+PCIのみ) に1:1で割付した。手術では原発葉切除 (CR例では気管支鏡による原発部位記録に基づく切除) を基本とし、中枢型原発では全肺切除を許容した。縦隔リンパ節郭清は傍気管 (ATS 2/4)、分岐部下 (ATS 7)、肺門 (ATS 10)、肺内 (ATS 11〜13) リンパ節を腫瘍浸潤の有無にかかわらず系統的に施行した。

主要評価項目・統計: 主要エンドポイントは手術群対非手術群の死亡率比較。90例の死亡観察を必要とするサンプルサイズ算出に基づき (比例ハザード仮定下での Mantel-Haenszel 検定、ハザード比2.0を両側 0.05・検出力 90% で検出)、Kaplan-Meier 法で生存曲線を推定しlog-rank 検定で群間比較を実施した。