• 著者: Jett JR, Everson L, Therneau TM, Krook JE, Dalton RJ, Marschke RF Jr, Veeder MH, Brunk SF, Mailliard JA, Twito DI, Earle JD, Anderson RT
  • Corresponding author: James R. Jett (Mayo Clinic, Rochester, MN)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 1990
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 2153193

背景

小細胞肺癌 (SCLC: small-cell lung cancer) は全気管支癌の20〜25%を占め、1960年代まで外科的切除が主流であったが、British Medical Research Council による放射線療法 (radiotherapy) vs 外科切除の古典的比較試験 (Fox and Scadding 1973) において放射線療法の優越性が実証され、局所療法単独では不十分であることが明確となった。その後、化学療法と放射線療法の組み合わせが放射線療法単独より優れることが示され (Bleehan et al. 1981)、1970年代中頃から両者の併用が SCLC 標準治療として定着した。

1978年、Livingston ら (1979) はシクロホスファミド (cyclophosphamide)・ドキソルビシン (doxorubicin)・ビンクリスチン (vincristine) の3剤からなる CAV 療法を限局型 SCLC (LD-SCLC: limited-stage SCLC) に適用し、CR (complete response) 率41%・全体奏効率75%・CAV + 胸部放射線療法 + 予防的頭蓋照射 (PCI: prophylactic cranial irradiation) による中央生存期間52週という成績を報告した。以後 CAV は「標準療法」として世界的に採用された。Massachusetts General Hospital の15年間の後方視的解析 (Choi et al. 1987) では、1968〜1974年治療の LD-SCLC 患者の MST が10ヶ月・2年生存率9%であったのに対し、1975〜1982年では MST 13ヶ月・2年生存率19%と改善を示したが、それ以降の進歩が手薄であった。

エトポシド (etoposide) はトポイソメラーゼII (topoisomerase II) との相互作用による DNA 損傷を機序とする半合成エピポドフィロトキシン (epipodophyllotoxin) 誘導体であり (van Maanen et al. 1988)、SCLC に対して単剤で70%超の奏効率が報告されていた (O’Dwyer et al. 1985)。エトポシドを CAV に追加した CAVE (cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, etoposide) 療法の先行無作為化試験では奏効率や生存への優位性が示唆されていたが、LD-SCLC 患者に特化したサブ解析は小規模 (Messeih et al. n=49、Piedmont Oncology Group n=84) に留まり、生存改善を証明する検出力 (power) が不足していた点が gap in knowledge であった。十分な統計的検出力を備えた LD-SCLC 専用の比較試験が求められていた。

目的

North Central Cancer Treatment Group (NCCTG) が実施した本試験の目的は、LD-SCLC 患者において CAV と CAVE の治療効果 (奏効率・無増悪期間・全生存期間) および毒性を前向き無作為化比較することである。主要評価項目は全生存期間 (OS: overall survival) とし、エトポシド追加による臨床的有益性の有無を検証した。

結果

患者特性と群間バランス: 243例中12例 (5%) が不適格 (病理評価不能5例、非SCLC組織3例、広汎型疾患3例、標的病変切除済み1例) であり、231例が最終解析対象となった (CAVE群 n=118、CAV群 n=113)。両群は性別 (男性 CAVE群68名・CAV群70名)、年齢中央値 (CAVE群63歳 [範囲37-77]、CAV群62歳 [範囲40-79])、良好 ECOG PS 0,1の割合 (CAVE群87%・CAV群88%)、心疾患合併例 (CAVE群12名・CAV群14名) において良好にマッチしていた (Table 1)。全体として男性が60%を占め、70歳超は全体の15%のみであり、良好 PS の比較的若年患者が主要集団を構成した。44%が60歳以下であった。

奏効率とCR達成状況: 231例全体の最良奏効は CR 60% (139名)、PR (partial response) 7% (16名)、退縮 (regression) 16% (36名) であり、主要奏効率 (CR+PR+REGR [regression]) は83%と高水準であった (Table 2)。安定 (stable disease) が14% (33名)、病勢進行が3% (7名) であった。CAVE群のCR率は64% (75/118名)、CAV群では57% (64/113名) であり、両群間の各奏効カテゴリの比率に統計的有意差は認められなかった。CR達成患者においてもCR後1年・2年の生存率はそれぞれ54%・27%に留まり、高い初期奏効率にもかかわらず長期生存につながらない高率な再発が明らかとなった。エトポシド追加による奏効率の有意な向上は確認されなかった。

無増悪期間 (TTP) の比較: CAVE群 vs CAV群のTTP中央値はそれぞれ10.4ヶ月 (95% CI: 8.9-12.0) vs 8.9ヶ月 (95% CI: 7.9-10.4) であり、Cox比例ハザードモデルでのハザード比 (HR: hazard ratio) 0.77 (95% CI: 0.60-0.99) を示し、統計的に有意な延長を認めた (p=0.04) (Fig 1)。ただし年齢・性別・ECOG PS による多変量調整後は borderline の有意性 (p=0.07) となり、交絡因子の影響が示唆された。TTP の改善は OS 改善の代理指標として機能しない事例として本試験は重要な位置づけを持つ。2年時点での TTP の95% CI バーが大きく重複しており、長期での差の持続は不確実である。絶対差1.5ヶ月のTTP延長が毒性増加を上回る臨床的便益をもたらすかは、患者QOLの観点から慎重に評価する必要がある。

全生存期間 (OS) と長期成績: 試験終了時点で全患者の89%が死亡しており (生存例: CAVE群17名・CAV群11名)、データは成熟していた。OS 中央値はCAVE群15.1ヶ月 (95% CI: 11.7-17.8) vs CAV群12.4ヶ月 (95% CI: 11.0-14.4) であり、HR 0.87 (95% CI: 0.72-1.05) と両群間に統計的有意差は認められなかった (p=0.13) (Fig 2)。2年生存率はCAVE群28% (95% CI: 19-36%) vs CAV群19% (95% CI: 12-27%)、5年生存率はCAVE群13% vs CAV群10%であった。2年時点の生存曲線は視覚的にわずかに乖離しているが、95% CI が大きく重複しており統計的意義はない。本試験の検出力は生存差50%を排除するに足る0.87であり、臨床的に大きな生存改善効果の存在は合理的に否定された。Cox 比例ハザードモデルによる多変量調整後も群間の生存差は有意でなく、ベースライン因子による交絡の可能性は除外された。

毒性と安全性: 骨髄抑制 (myelosuppression) が両レジメンの主要毒性であった (Table 3)。Grade 3以上の非血液毒性として悪心・嘔吐 (CAVE群16名・CAV群23名)、食道炎 (各6名・5名)、下痢 (各3名・4名)、放射線肺炎/肺毒性 (各2名・1名)、末梢神経障害 (各3名・4名)、感染/敗血症 (各1名・3名) が報告されたが、いずれも両群間に統計的有意差はなかった。Grade 4以上の非血液毒性は放射線肺炎Grade 5・感染Grade 5各1例 (いずれも CAVE群) のみに限られた。血液毒性として白血球数 <1,000/μL の重度白血球減少がCAVE群37% vs CAV群17%であり、有意差を認めた (p=0.03)。血小板数 <50,000/μL の重度血小板減少はCAVE群6%・CAV群4%と両群で低頻度であった。治療関連死亡はCAVE群2例 (白血球減少・敗血症1例、放射線肺炎による呼吸不全1例) に認め、CAV群の治療関連死亡は0例であった。

考察/結論

本試験は LD-SCLC 患者231例を対象とした当時最大規模の CAV vs CAVE 比較試験として、CAVEが TTP を有意に延長する (p=0.04) 一方で OS には有意な改善をもたらさない (p=0.13) という重要な知見を提供した。先行の小規模試験と異なり、本試験は十分な検出力 (0.87) を有する LD-SCLC 専用の無作為化試験として実施されており、Messeih ら (n=49) や Piedmont Oncology Group (n=84) といった先行試験の統計的限界を克服した。先行研究では CAVE が CAV に比べて奏効率改善傾向を示すと報告されていたが、本試験の OS 中央値はCAVE群15.1ヶ月 vs CAV群12.4ヶ月 (p=0.13) と有意差を認めず、先行研究の示唆とは一致しない結果が得られた。Southeastern Cooperative Group の広汎型 SCLC 295例の比較試験でも CAV vs CAVE に奏効率・生存差がなかったことと本試験の結果は整合的であり、エトポシド追加の OS 改善効果がないことは異なる試験デザイン・患者集団においても確認された。

新規性として、本研究で初めて十分な統計的検出力を備えた大規模無作為化試験 (n=231、検出力0.87) により、エトポシドの CAV への追加が LD-SCLC 患者の生存期間を有意に改善しないことを確立した。TTP と OS の解離——TTP は統計的に有意に改善 (p=0.04) するが OS は改善しない (p=0.13)——は、無増悪生存期間が OS の代理指標として機能しない可能性を示す novel な観察であり、その後の臨床試験デザインにおける主要評価項目選択の議論に貢献した。CR率60%・全体奏効率83%という高い初期奏効率が長期生存に結びつかないという知見も、SCLC 治療の本質的な困難さを示す重要な observation である。

臨床的意義として、本知見は LD-SCLC の臨床現場においてCAV療法からCAVE療法への移行を正当化しないことを示し、bench-to-bedside の観点から「奏効率改善が生存改善を意味しない」という教訓を提供した。エトポシド追加により重度白血球減少リスクが倍増し (37% vs 17%)、治療関連死亡が生じる毒性増大を生存改善なしに受容する臨床的根拠はないとする結論は、臨床的意義として治療選択の標準化に寄与した。なお本試験以降、EP (etoposide + cisplatin/carboplatin) レジメンが CAV に対する優越性を示し LD-SCLC 標準治療の転換が生じ、さらに近年では免疫チェックポイント阻害薬 (atezolizumab) との併用が広汎型 SCLC の標準治療として確立されている (Horn et al. NEnglJMed 2018)。限局型 SCLC においても化学放射線療法後の durvalumab 維持療法による生存改善が報告され (Cheng et al. NEnglJMed 2024)、本試験が示した「残された課題」は数十年をかけて部分的に解決されつつある。

残された課題として、本試験の著者らは今後の検討として CR 達成後に再発する患者への免疫調節因子 (interferon、TNF、interleukin) による維持療法、新規薬剤開発のための phase II 試験デザインの標準化、EP の投与方法・順序・シークエンス最適化を挙げた。CR達成患者でも2年生存率27%という高再発率は limitation として重要であり、微小残存病変に対する新戦略の必要性が示されていた。現代的な視点では PCI 省略の妥当性、脳転移予防の最適化、免疫療法 (Paz-Ares et al. Lancet 2019) の LD-SCLC における役割など、1990年に提起された問いの多くが現在も継続して research agenda に残されている。また本試験は1979〜1986年の試験であり、現代の画像診断精度・病期分類精度・支持療法水準との差異が結果の解釈における limitation として存在する。

方法

本試験は NCCTG が1979年9月から1986年3月にかけて実施した前向き無作為化第III相試験である。適格基準は組織学的に確認された LD-SCLC (一側胸郭・縦隔・同側鎖骨上窩に限局、化学療法・放射線療法・外科的切除の既往なし) であり、ECOG パフォーマンスステータス (PS: performance status) 0〜3、白血球数 ≥4,000/μL・血小板数 ≥130,000/μL・クレアチニン正常上限の150%以内を要した。急性心筋梗塞 (3ヶ月以内) またはうっ血性心不全のある患者は除外した。全患者が文書によるインフォームドコンセントに署名した。

患者は ECOG PS (0,1 vs 2,3)、年齢 (≤60 vs >60)、性別、心疾患の有無、NCCTG 施設の5因子で層別化後に CAVE群またはCAV群へ無作為割り付けした。CAVE (cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, etoposide) レジメンはシクロホスファミド500 mg/m² (day 1)、ドキソルビシン40 mg/m² (day 1)、ビンクリスチン1.2 mg/m² (day 1、最大2.0 mg)、エトポシド60 mg/m² (day 1-3) を28日毎に繰り返す4剤構成であった。CAV レジメンはシクロホスファミド750 mg/m² (day 1)、ドキソルビシン40 mg/m² (day 1)、ビンクリスチン1.2 mg/m² (day 1、最大2.0 mg) の3剤構成であり、ドキソルビシン累積上限は450 mg/m² とした。全患者に対して化学療法第4サイクルと同時に胸部放射線療法 (3,750 cGy/15分割、19〜21日間) と PCI (3,000 cGy/10分割、12〜14日間) を実施した。放射線は Co-60 (cobalt-60) 以上のメガボルタージュ機器を使用し、脊髄への最大線量は後方脊髄ブロックで4,000 cGy/15分割以下に制限した。6サイクルの化学放射線療法終了後に再病期分類を行い、CR 達成患者は経過観察、PR または退縮の患者は増悪まで同一レジメン継続とした。

統計解析は Kaplan-Meier 法で生存曲線および無増悪期間 (TTP: time to progression) 曲線を作成し、群間差を log-rank 検定で評価した。性別・年齢・ECOG PS による治療効果の調整には Cox 比例ハザードモデルを使用した。奏効率の比較にはχ² 検定を用いた。本試験は1979〜1986年実施であり NCT 番号制度成立前のため登録番号は存在しない。