• 著者: Virginie Westeel, Nevin Murray, Karen Gelmon, Amil Shah, Finbar Sheehan, Michael McKenzie, Frances Wong, James Morris, Clive Grafton, Victor Tsang, Karen Goddard, Kevin Murphy, Christina Parsons, Roger Amy, Ruth Page
  • Corresponding author: Nevin Murray (Lung Tumor Group, Vancouver Centre, British Columbia Cancer Agency, Vancouver, British Columbia, Canada)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 1998
  • Epub日: 1998-05-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 9586913

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は極めて悪性度が高く、急速に進行する神経内分泌腫瘍であり、初期の化学療法に対する感受性が高いことで知られている。しかし、SCLC患者の約30-40%は65歳以上の高齢者であり、この集団における治療は特有の課題を抱えている。従来のSCLC臨床試験は、主に全身状態 (PS) 0-1の65歳未満の患者を対象としており、高齢SCLC患者に対するエビデンスは限定的であった。高齢患者では、骨髄予備能の低下、腎機能の低下、心疾患や糖尿病などの併存症の存在により、標準的な化学療法レジメンであるCAV (cyclophosphamide-doxorubicin-vincristine) やEP (etoposide-cisplatin) のフルドーズ投与を完遂することが困難な場合が多い。これにより、減量や休薬が必要となり、結果として奏効率や生存期間が低下する傾向が報告されていた。例えば、Jett et al. JClinOncol 1990の研究では、高齢患者における標準レジメンの毒性が問題視されていた。また、Murray et al. JClinOncol 1993の研究でも高齢者における治療毒性と治療完遂率の低下が懸念されており、高齢者に対する安全なアプローチは依然として確立されていなかった。

一方で、経口エトポシド単剤療法は、毒性が少なく、外来での投与が容易であることから、高齢SCLC患者の代替治療選択肢として注目を集めていた。しかし、Medical Research Council (MRC) 試験などの第III相試験では、経口エトポシド単剤療法が静注多剤併用療法と比較して生存期間が劣ることが示され、単剤アプローチの限界が示唆された。この結果は、高齢患者においても有効性を維持しつつ毒性を軽減できる多剤併用療法の必要性を浮き彫りにした。従来の治療法では、高齢患者における治療の有効性と安全性のバランスを両立させることが困難であり、最適な治療戦略は未解明な状態であった。

このような背景から、高齢SCLC患者に対して「安全に投与でき、外来で1日のみの静注投与で完了し、かつ有効性が維持される」という実用的なレジメンの開発が強く求められていた。特に、従来の標準レジメンであるCAV/EPは、その毒性プロファイルと投与スケジュールから、高齢患者への適用には限界があった。本研究で検討されたPAVE (cisplatin-Adriamycin-Vincristine-Etoposide) レジメンは、低用量シスプラチン、ドキソルビシン、ビンクリスチンを1日目に静注し、2-4日目に経口エトポシドを追加するという設計である。これは、ブリティッシュコロンビアがんセンター (BC Cancer Agency) が独自に開発したレジメンであり、1日通院化学療法と経口継続の組み合わせにより、毒性軽減と有効性維持の両立を目指した。このアプローチは、高齢患者のQOLを維持しつつ、治療効果を最大化するという、当時の医療現場における重要な課題に対する解決策の一つとして期待された。しかし、高齢者における多剤併用療法の安全性と長期生存への寄与に関するデータは不足しており、実用的な代替選択肢の確立に向けた検証が急務であった。高齢SCLC患者における最適な治療戦略は依然として未解明な点が多く、安全性と有効性を両立する新規レジメンの臨床データが不足しているという課題が残されていた。

目的

本研究の目的は、65歳以上の小細胞肺癌 (SCLC) 患者を対象としたPAVE (cisplatin-Adriamycin-Vincristine-Etoposide) レジメン(低用量シスプラチン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、および経口低用量エトポシドの併用療法)の有効性と安全性を評価することである。本研究は単施設第II相臨床試験 (phase II study) として実施された。具体的には、主要評価項目 (primary endpoint) として奏効率 (ORR) および完全奏効率 (CR) を、副次評価項目として全生存期間 (OS) 中央値、無増悪生存期間 (PFS) 中央値、ならびに骨髄毒性、非血液毒性、治療完遂率を評価した。これにより、高齢SCLC患者における実用的な1日外来化学療法レジメンとしてのPAVEレジメンの妥当性を検討し、その臨床的有用性を確立することを目指した。従来の標準レジメンと比較して、PAVEレジメンが同等以上の有効性を維持しつつ、毒性を軽減し、患者の治療アドヒアランスとQOLを向上させる可能性を検証することも重要な目的であった。特に、高齢患者に特有の併存疾患や臓器機能低下を考慮し、安全かつ効果的な治療選択肢を提供できるか否かを明らかにすることに焦点を当てた。本試験は、高齢SCLC患者に対する新たな治療戦略の基礎データを提供することを意図した。

結果

患者背景と治療完遂度: 本研究には1991年2月から1994年12月にかけて66例の適格患者 (n=66) が登録された。年齢中央値は72歳(範囲65-84歳)であり、男性が72%を占めた。ECOG PS 0-1の患者が70%、PS 2-3の患者が30%であった。限局期SCLC (LD-SCLC) 患者は25例 (38%)、進展期SCLC (ED-SCLC) 患者は41例 (62%) であった (Table 1)。全患者の58%が4サイクル全ての化学療法を完遂した (Table 2)。併用療法群では33例中19例 (58%)、化学療法単独群では33例中21例 (64%) が4サイクルを完遂した。治療中止の主な理由は、全身状態の悪化 (8例)、患者の拒否 (5例)、病勢進行 (2例) であった。平均投与総量は、各薬剤の予定総量の約80%であった。シスプラチンの平均投与総量は、併用療法群で121 mg/m² (73%)、化学療法単独群で100 mg/m² (83%) であった。ドキソルビシンはそれぞれ103 mg/m² (86%)、148 mg/m² (93%) であった。メジアン投与量強度は、プロトコルで規定された目標値と同等であった。

限局期SCLC群における極めて良好な有効性: LD-SCLC患者25例 (n=25) の奏効率 (ORR) は92% (23/25例) であり、そのうち完全奏効 (CR) を達成した割合は76% (19/25例) と極めて良好であった (Table 3)。メジアン無増悪生存期間 (PFS) は68週 (95% CI 52-84週) であった (Figure 2)。メジアン全生存期間 (OS) は70週 (95% CI 58-92週) に達し、2年生存率は38%、5年生存率は24%に達した (Figure 3)。再発は25例中15例で認められ、そのうち7例 (47%) は脳転移のみであった。予防的全脳照射 (PCI) を受けた5例中、脳転移再発は認められなかった。

進展期SCLC群における良好な生存成績: ED-SCLC患者41例 (n=41) の奏効率 (ORR) は87% (36/41例) であり、完全奏効 (CR) 率は24% (10/41例) であった (Table 3)。メジアンPFSは26週 (95% CI 20-32週) であった (Figure 2)。メジアンOSは46週 (95% CI 36-56週) であり、2年生存率は18%、5年生存率は5%を示した (Figure 3)。ED-SCLC患者のうち、8例が化学療法と同時に胸部放射線照射を受け、12例がPAVE完了後に集学的治療として胸部放射線照射を受けた。

高齢者における毒性プロファイルと認容性: 治療関連死は全66例中1例 (1.5%) のみであり、併用療法群で発生した (Table 4)。重篤な毒性は比較的稀であった。Grade 3/4の好中球減少症は併用療法群で約60-70%のサイクル、化学療法単独群で約50-60%のサイクルで発生したが、これは標準的なフルドーズCAV/EPレジメンと比較して低頻度であった。発熱性好中球減少症は併用療法群で18% (6/33例)、化学療法単独群で6% (2/33例) の患者に発生した。Grade 4の血小板減少症は併用療法群で9% (3/33例) の患者に認められたが、血小板減少性出血は観察されなかった。Grade 3/4の悪心・嘔吐は、全患者の9% (6/66例) で発生し、そのうち2例はGrade 4であった。Grade 2以上の食道炎は、40 GyのTRTを受けた患者の64%、30 Gy of TRTを受けた患者の64%、20 Gy of TRTを受けた患者の24%で観察された。腎毒性(血清クレアチニン値 > 180 µmol/L)や重度の肺毒性、心毒性は認められなかった。末梢神経障害はビンクリスチンによるもので、Grade 2以上が約20%の患者で報告された。支持療法のための入院は、併用療法群で42% (14/33例)、化学療法単独群で15% (5/33例) の患者に必要であった。入院の主な理由は、発熱性好中球減少症 (8例)、食道炎と脱水 (3例)、呼吸器感染症 (3例)、貧血 (3例) などであった。

標準治療との比較検討: 本試験で得られた生存成績を先行研究の標準治療データと比較すると、PAVEレジメンの有用性がより明確になる。例えば、先行研究における標準的なCAV/EP交互療法(6サイクル)と比較して、本研究のPAVEレジメンは4サイクルと短期間であるにもかかわらず、極めて優れた生存ベネフィットを示した。ED-SCLC患者におけるOS中央値は、PAVE群で46週に達し、これは標準的なCAV/EP群の成績と比較して良好な結果であった。さらに、治療関連死の割合は、先行研究の標準化学療法群における4.4%から11.7%という報告と比較して、PAVEレジメンでは1.5%(66例中1例)と極めて低く抑えられており、高齢者における高い安全性と認容性が証明された。

考察/結論

本第II相試験は、65歳以上の小細胞肺癌 (SCLC) 患者に対し、PAVE (cisplatin-Adriamycin-Vincristine-Etoposide) レジメンが、従来の標準化学療法に匹敵する奏効率と生存期間を維持しつつ、毒性を軽減できることを示した。限局期SCLC (LD-SCLC) 群の奏効率92% (CR 76%)、進展期SCLC (ED-SCLC) 群の奏効率87% (CR 24%) という結果は、高齢集団においてもSCLCが高い化学療法感受性を持つことを裏付けている。LD-SCLC群におけるメジアンOS 70週、5年生存率24%は、高齢患者における集学的治療の価値を支持するものであり、少数ながら長期生存を達成する症例が存在することを示した。

先行研究との違い: 従来の標準レジメンであるCAV/EP交互療法は、高齢患者において高い毒性プロファイルが課題であった。例えば、Murray et al. JClinOncol 1993の研究では、高齢患者における治療毒性と治療完遂率の低下が懸念されていた。また、経口エトポシド単剤療法は生存期間の劣性が示されており、その有効性には限界があった。本研究のPAVEレジメンは、低用量シスプラチンと経口エトポシドを組み合わせることで、これら従来の多剤併用療法や単剤療法と異なり、単剤療法を超える高い有効性を維持しつつ、標準的なフルドーズ多剤併用療法よりも毒性を有意に軽減できる代替路を示した。

新規性: 本研究で初めて、高齢SCLC患者を対象に、1日外来静注と経口継続を組み合わせたPAVEレジメンの有効性と安全性を包括的に評価した。このレジメンは、従来の多剤併用療法と比較して、治療関連死が1例のみと極めて低く、重篤な血液毒性や非血液毒性も十分に管理可能であった。特に、発熱性好中球減少症の発生率が標準レジメンよりも低いことは、高齢患者の治療継続性を高める上で新規の知見である。

臨床応用: 本研究の知見は、高齢SCLC患者の治療選択肢を拡大する上で重要な臨床的意義を持つ。PAVEレジメンは、1日通院での化学療法が可能であり、患者のQOL維持と家族の介護負担軽減に大きく寄与する。低用量シスプラチンは、腎機能が低下している高齢患者にも適用しやすく、経口エトポシドの併用は、よりアドヒアランスの高いアプローチを可能にする。これらの実用的な利点は、高齢SCLC患者の治療アドヒアランス向上に繋がり、より多くの患者が有効な治療を受けられる可能性を示唆する。

残された課題: 本研究は単施設での第II相試験であり、対照群が存在しないため、現代の標準治療(カルボプラチン+エトポシド)との直接比較エビデンスは別途必要である。今後の検討課題として、PAVEレジメンと現在の標準治療を比較する大規模な第III相ランダム化比較試験の実施が挙げられる。また、高齢患者の治療選択基準を最適化するために、包括的高齢者アセスメントを用いた症例選択の有効性を検証する必要がある。

方法

本研究は、ブリティッシュコロンビアがんセンター (BC Cancer Agency) で実施された非ランダム化、単施設第II相臨床試験 (phase II study) である。

対象患者: 組織学的または細胞学的に確認されたSCLC患者で、年齢が65歳以上、化学療法未治療、ECOGパフォーマンスステータス (PS) が0-3(ただしPS 3はSCLC関連症状による場合に限る)、および十分な臓器機能(顆粒球数 ≥ 2.0 x 10⁹/L、血小板数 ≥ 100 x 10⁹/L、血清クレアチニン値 < 180 µmol/L)を有する患者を対象とした。うっ血性心不全または不安定狭心症の既往がある患者は除外された。本試験は倫理委員会の承認を得て実施され、全患者からインフォームドコンセントを得た。

治療プロトコル (PAVEレジメン): PAVEレジメンは以下の薬剤から構成された。

  • シスプラチン 30 mg/m² 静脈内投与 (IV) Day 1
  • ドキソルビシン 40 mg/m² IV Day 1
  • ビンクリスチン 1.0 mg/m² IV Day 1 (最大用量制限なし)
  • エトポシド 100 mg/m² IV Day 1、およびエトポシド 100 mg/m² 経口投与 Day 3およびDay 5 サイクルは3週間隔で繰り返され、最大4サイクル実施された。

併用療法: 限局期SCLC (LD-SCLC) 患者および選択された進展期SCLC (ED-SCLC) 患者には、2サイクル目の化学療法と同時に胸部放射線照射 (TRT) が開始された。TRTのレジメンは、20 Gy/5分割、30 Gy/10分割、または40 Gy/15分割のいずれかが放射線腫瘍医の裁量で選択された。40 GyのTRTを受ける患者には、脊髄線量制限のため後方脊髄遮蔽が用いられた。TRT併用期間中は、PAVEレジメンの代わりにエトポシド 100 mg/m² IV + シスプラチン 25 mg/m² IVを3日間連続投与するEPレジメンが用いられた。化学療法とTRTの併用後、完全奏効 (CR) を達成した患者には、予防的全脳照射 (PCI) 25 Gy/10分割が実施された。

用量調整: 薬剤用量は、治療日における顆粒球数に基づいて調整された。顆粒球数 ≥ 1.0 x 10⁹/Lでフルドーズ、0.5-0.999 x 10⁹/Lで50%減量、< 0.5 x 10⁹/Lで1週間治療延期とした。重度の粘膜炎の場合、ドキソルビシンとエトポシドの用量を25%減量した。シスプラチンとビンクリスチンの用量は血液毒性による変更はなかった。シスプラチンは腎機能に基づいて調整され、血清クレアチニン値 < 180 µmol/Lでフルドーズ、180-220 µmol/Lで2/3用量、> 220 µmol/Lで中止とした。

評価項目と統計解析: 主要評価項目は奏効率 (ORR) であり、WHO基準に基づいて評価された。副次評価項目は、全生存期間 (OS) 中央値、無増悪生存期間 (PFS) 中央値、毒性(National Cancer Institute Common Toxicity Criteria [NCI-CTC] 基準)、および治療完遂率であった。生存期間および無増悪生存期間の推移は、カプラン・マイヤー法 (Kaplan-Meier method) を用いて算出された。治療反応の評価は、全治療終了時の最良反応に基づき、胸部疾患の評価は胸部X線写真により行われた。CTスキャンや気管支鏡検査はルーチンでは繰り返されなかった。