- 著者: James A. Bonner, Jeff A. Sloan, Thomas G. Shanahan, Bradley J. Brooks, Randolph S. Marks, James E. Krook, John B. Gerstner, Andrew Maksymiuk, Ralph Levitt, James A. Mailliard, Henry D. Tazelaar, Shauna Hillman, James R. Jett (North Central Cancer Treatment Group [NCCTG])
- Corresponding author: James A. Bonner (University of Alabama at Birmingham, Department of Radiation Oncology, Birmingham, AL, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 1999
- Epub日: 1999-09-01
- Article種別: Original Article (Phase III Randomized Trial)
- PMID: 10561342
背景
限局型小細胞肺癌 (limited-stage small-cell lung cancer: LD-SCLC) は極めて増殖能が高く、早期から微小転移を形成しやすい悪性腫瘍である。放射線治療における最適な分割スケジュールは長年にわたり議論の的であった。小細胞肺癌 (SCLC) 細胞は放射線感受性が高い一方で、治療期間中に腫瘍細胞が急速に再増殖する「加速再増殖 (accelerated repopulation)」という現象が指摘されていた。このため、総治療期間を短縮する放射線治療戦略が理論的に有利であると考えられた。この仮説に基づき、1日2回照射 (twice-daily thoracic irradiation: TDTI) は、1回線量を 1.5 Gy にわずかに減らしつつ総治療期間を短縮することで、腫瘍細胞の再増殖を抑制し、治療効果を高めるアプローチとして期待されていた。
1980年代半ばからTDTIの臨床応用が検討され始め、先行研究である Turrisi らのパイロット試験ではエトポシド/シスプラチン (EP) 化学療法との同時併用でTDTI (45 Gy/30分割/3週間) を実施し、有望な生存成績が示された。その後、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) が実施した第III相ランダム化比較試験 (Intergroup 0096試験) の最終結果において、TDTI群は標準的な1日1回照射 (once-daily thoracic irradiation: ODTI) 群と比較して有意な生存期間の改善を示し、5年生存率が 26% vs 16% であることを報告した(Turrisi et al. NEnglJMed 1999)。しかし、この連続TDTIレジメンではGrade 3以上の重症食道炎が 32% と高頻度に発生し、毒性の強さが臨床上の大きな課題として残された。
一方、Mayo Clinicの研究者らは、TDTIの生物学的利点を維持しつつ毒性を軽減するアプローチとして、治療期間中に中間休止期間を設ける「スプリットコース (split-course)」TDTIレジメンを開発した。このレジメンは、48 Gy を32分割で照射し、最初の 24 Gy 照射後に2.5週間の休止期間を挟む設計であった。先行研究である Mayo Clinic のパイロット試験では、このsplit-course TDTIレジメンにより中央生存期間26.5ヶ月、2年生存率 55% という良好な成績が得られていた。
しかし、これらの有望な単アーム試験の結果にもかかわらず、化学療法を先行させた後に遅れて開始するsplit-course TDTIが、連続照射を行う標準的なODTIと比較して本当に優れているのかは未解明であり、最適な照射スケジュールに関する臨床的エビデンスは不足していた。特に、split-courseによる2.5週間の中間休止期間が、SCLCの急速な再増殖を許容してしまい、TDTIの理論的優位性を損なうのではないかという懸念が存在し、治療開発における大きな gap となっていた。また、化学療法3サイクル後に縮小した「化学療法後腫瘍体積 (postchemotherapy tumor volume)」を標的とする照射野設定の安全性や局所制御への影響についても、十分な検証データが不足しており、議論が controversial であった。これらの課題を解決するため、North Central Cancer Treatment Group (NCCTG) は第III相ランダム化比較試験を計画した。
目的
本研究の目的は、限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC) 患者において、EP化学療法3サイクル完了後に開始する (1) 1日2回分割スプリットコース胸部照射 (TDTI; 48 Gy/32分割、中間2.5週間休止) と、(2) 標準的な1日1回連続胸部照射 (ODTI; 50.4 Gy/28分割、連続照射) の有効性と安全性を直接比較検証することである。主要評価項目 (primary endpoint) は登録からの全生存期間 (overall survival: OS) とし、副次評価項目として無増悪生存期間 (progression-free survival: PFS)、局所制御率、遠隔転移率、および治療関連毒性 (特に食道炎、肺臓炎、血液毒性) を設定した。本試験により、split-courseアプローチを導入したTDTIが、ODTIと比較して生存期間を改善し、かつ懸念される食道毒性を許容可能なレベルに軽減できるかを明らかにすることを目指した。
結果
患者背景と治療完遂度: 登録された324例のうち、適格性を満たした311例が評価対象となった。このうち262例が化学療法3サイクル後にランダム化され、TDTI群に130例、ODTI群に132例が割り付けられた。両群間で年齢中央値 (65.4歳 vs 64.7歳)、性別 (男性 56.9% vs 58.3%)、ECOG PS (0-1が約94%)、化学療法への初期反応などの背景因子に統計学的有意差はなく、均一性が保たれていた (Table 1)。化学療法6サイクルの完遂率は両群とも約70-75%で同等であり、TI完遂率もTDTI群で 85%、ODTI群で 88% と良好であった。
生存期間における有意差の欠如: 主要評価項目である全生存期間において、両群間に統計学的な有意差は認められなかった。登録からの生存期間中央値 (median OS) は、TDTI群で 23.0 months vs ODTI群で 24.6 months であり、有意差はなかった (HR 1.11, 95% CI 0.82-1.50, p=0.49) (Table 2)。ランダム化からの生存期間中央値は、TDTI群で 19.9 months vs ODTI群で 21.9 months であった (HR 1.11, 95% CI 0.82-1.50, p=0.49)。2年生存率はTDTI群で 45% (95% CI 0.37-0.55) vs ODTI群で 47% (95% CI 0.39-0.57) であり、3年生存率はそれぞれ 29% (95% CI 0.21-0.39) と 34% (95% CI 0.26-0.44) であった (Table 3, Figure 5)。また、無増悪生存期間 (PFS) 中央値も両群で完全に同等であり、登録から 18.8 months vs 19.5 months、ランダム化から 14.5 months vs 14.5 months であった (HR 1.07, 95% CI 0.81-1.42, p=0.66) (Figure 4)。
局所制御効果の同等性と照射野設定の妥当性: 局所進行のみを最初の再発イベントとして評価した場合、TDTI群とODTI群の間で統計学的有意差は認められなかった (p=0.46) (Figure 2)。3年局所進行率はTDTI群で 30% vs ODTI群で 45% であった。競合リスクを考慮した累積発生率解析でも、両群間の局所進行率に有意差はなかった (Figure 3)。全90例の局所進行イベントのうち、83例 (92%) が照射野内再発 (in-field recurrence) であり、照射野外再発 (out-of-field recurrence) は7例 (8%) のみであった (Table 2)。照射野外再発7例のうち、治療前の初期腫瘍体積をターゲットにしていればカバーできていたと判断された症例はわずか2例のみであった。この結果は、化学療法後の縮小した腫瘍体積を標的とする照射野設定が、局所制御を損なうことなく安全に実施可能であることを示している。
TDTI群における食道毒性の有意な増加: 安全性評価において、Grade 3以上の重症食道炎の発生率はTDTI群で 12.3% (16/130例) であり、ODTI群の 5.3% (7/132例) と比較して有意に高頻度であった (p=0.05) (Table 5)。これは、2.5週間の治療休止期間を設けたスプリットコース設計であっても、TDTIに伴う食道粘膜毒性を十分に回避できなかったことを示している。Grade 2以上の全毒性発生率はTDTI群で 95% vs ODTI群で 86% であり、Grade 3以上の全毒性発生率もTDTI群で 54% vs ODTI群で 39% と、TDTI群で全体的な毒性プロファイルが有意に重篤であった (p=0.02)。
血液毒性と治療関連死亡: 血液毒性に関しては、Grade 3以上の白血球減少症がTDTI群で 89.8% (114/127例) vs ODTI群で 88.3% (113/128例) と両群ともに極めて高頻度に認められた (Table 6)。一方で、Grade 3以上の血小板減少症はODTI群で 60.9% (78/128例) であり、TDTI群の 45.7% (58/127例) と比較して有意に高頻度であった (p=0.02)。治療関連死亡は計4例発生し、すべてTDTI群であった (肺臓炎3例、感染症1例) (p=0.06)。
考察/結論
本NCCTG第III相ランダム化比較試験は、限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC) 患者において、化学療法3サイクル後に開始する1日2回分割スプリットコース照射 (TDTI) が、標準的な1日1回連続照射 (ODTI) と比較して、生存期間や局所制御の改善をもたらさないことを明確に示した。さらに、TDTI群においてGrade 3以上の重症食道炎が有意に増加したこと (12.3% vs 5.3%, p=0.05) は、中間休止期間を設けることで毒性を軽減しつつ治療強度を高めるという当初の治療仮説を否定する結果となった。
先行研究との違い: 本研究の結果は、同時期に報告されたECOGのIntergroup 0096試験の結果とは対照的である。Intergroup 0096試験では、化学療法第1サイクルと同時に開始するスプリットなしの連続TDTI (45 Gy/30分割/3週間) が、ODTIと比較して有意な生存期間の改善 (5年生存率 26% vs 16%) を示した(Turrisi et al. NEnglJMed 1999)。この治療成績の乖離が生じた最大の要因は、本試験のTDTIレジメンに導入された「2.5週間の治療休止期間 (split-course)」にあると考えられる。SCLC細胞は極めて増殖速度が速いため、この休止期間中に腫瘍細胞の加速再増殖 (accelerated repopulation) が進行し、TDTIが持つはずの「総治療期間短縮による腫瘍制御効果」という生物学的利点が完全に相殺された可能性が高い。
新規性: 本研究は、LD-SCLCに対するTDTIにおいて、治療途中の休止期間 (split-course) を設けるアプローチが生存期間の改善に寄与しないばかりか、むしろ食道毒性を悪化させることを大規模第III相試験において本研究で初めて実証した。これにより、LD-SCLCの放射線治療スケジュールにおいてスプリットコースTDTIを採用すべきではないという強固な臨床的エビデンスが新規に確立された。また、化学療法後の縮小した腫瘍体積を標的とする照射野設定が、照射野外再発を増やすことなく安全に実施可能であることを大規模コホートで検証した点も重要な新規知見である。
臨床応用: 本試験の結果に基づき、LD-SCLCに対してTDTIを適用する場合には、治療休止期間を挟まない「連続照射 (continuous irradiation)」を行うべきであるという臨床的合意が形成された。また、本試験のODTI群 (50.4 Gy) が示した生存成績 (生存期間中央値 24.6ヶ月、5年生存率 26%) は、Intergroup 0096試験のTDTI群に匹敵する良好な結果であり、毒性プロファイルも軽度であった。このため、1日1回照射法も依然として標準治療の有力な選択肢として臨床現場で受容される根拠となった。この臨床的有用性は、その後の高線量ODTI (60-66 Gy) とTDTI (45 Gy) を比較する臨床試験の設計へと繋がっている。
残された課題: 今後の検討課題として、胸部放射線治療の最適な開始タイミング (早期開始 vs 晩期開始) に関する議論が残されている。Murray et al. JClinOncol 1993らのカナダ国立がん研究所 (NCIC) の試験では早期開始の優位性が示唆されているが、最適な化学療法との組み合わせや、現代の強度変調放射線治療 (IMRT) や陽子線治療を用いた食道炎・肺臓炎のさらなるリスク低減技術の確立、さらには免疫チェックポイント阻害薬との併用療法における最適な照射スケジュールの究明が必要である。また、本試験のlimitationとして、放射線治療の開始が化学療法第4サイクルまで遅れたことによる影響を完全に排除できない点が挙げられる。
方法
本研究は、North Central Cancer Treatment Group (NCCTG) および Mayo Clinic が主導した多施設共同第III相ランダム化比較試験 (phase III randomized controlled trial: RCT) である。試験IDはNCCTG-902052(NCT番号未登録、1990年開始試験)である。登録期間は1990年9月から1996年11月までであり、合計324例が登録された。
対象患者: 組織学的または細胞学的に確認されたLD-SCLC患者を対象とした。病変が片側胸郭および同側鎖骨上窩に限局し、許容可能な胸部放射線照射野内に収まることが必須条件であった。ECOG Performance Status (PS) は0-2、年齢18歳以上、十分な骨髄機能 (白血球数 ≥ 3,500/µL、血小板数 ≥ 100,000/µL、ヘモグロビン ≥ 9.5 g/dL) および肝腎機能を有することが求められた。3ヶ月以内の心筋梗塞などの活動性心疾患を持つ患者は除外された。化学療法3サイクル完了後のランダム化時には、胸部病変が奏効または安定しており、1秒量 (forced expiratory volume in 1 second: FEV1.0) が 1.0 L 以上であることが追加条件とされた。
治療プロトコル:
- 化学療法: 全患者は、ランダム化前にエトポシド (130 mg/m²、d1-3) とシスプラチン (30 mg/m²、d1-3) からなるEP療法を3サイクル受けた。ランダム化後、さらに2サイクルのEP療法 (エトポシドは100 mg/m²に減量、シスプラチンは30 mg/m²を維持) が胸部放射線治療 (thoracic irradiation: TI) と同時併用で実施された。TI終了後、さらに1サイクルのEP療法が追加され、計6サイクルの化学療法が行われた。
- 放射線治療 (TI): TIは化学療法第4サイクル目 (登録から約10週後) から開始された。
- TDTI群: 総線量 48 Gy / 32分割 (1回 1.5 Gy、1日2回、最低6時間以上の間隔) を照射した。治療はsplit-course方式であり、最初の 24 Gy (16分割) 照射後に2.5週間の休止期間を挟み、その後残りの 24 Gy (16分割) を照射した。
- ODTI群: 総線量 50.4 Gy / 28分割 (1回 1.8 Gy、1日1回) を、5.5週間にわたり連続照射した。
- 照射野: 両群とも、化学療法後の残存腫瘍体積 (postchemotherapy volume) に2cmのマージンを加えた領域を標的とした。初期の前後対向野 (AP/PA) でTDTI群は33 Gy、ODTI群は39.6 Gyまで照射し、その後は脊髄線量を45 Gy以下に抑えるために斜め対向野 (oblique fields) を用いて追加照射を行った。
- 予防的全脳照射 (prophylactic cranial irradiation: PCI): 全治療終了後に完全奏効 (complete response: CR) を達成した患者に対し、30 Gy / 15分割でのPCI実施が推奨された。
統計解析: 主要評価項目であるOSの比較には Kaplan-Meier 法を用い、群間比較には log-rank 検定 (log-rank test) を適用した。競合リスクを考慮した局所進行の累積発生率解析には Gray の方法を用いた。生存期間および進行リスクのハザード比 (hazard ratio: HR) および95%信頼区間 (confidence interval: CI) の算出には Cox 比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) を用いた。本試験は、TDTI群がODTI群と比較して生存期間中央値を15ヶ月から22.5ヶ月へ50%改善することを検出する80%の検出力を持つよう設計された (sample size calculation)。ランダム化は、PS、体重減少、年齢、性別、疾患状態、化学療法への反応を層別因子とする動的割り付け法によって行われた。