- 著者: Jalal SI, Lavin P, Lo G, Lebel F, Einhorn L
- Corresponding author: Jalal SI (Indiana University Melvin and Bren Simon Cancer Center, Indianapolis, IN)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-06-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 28605291
背景
進展型小細胞肺がん (ES-SCLC; extensive-stage small-cell lung cancer) は、極めて進行が早く悪性度が高い難治性腫瘍であり、診断時には約3分の2の患者がすでに進展期の状態である。過去30年以上にわたり、プラチナ製剤とエトポシドを組み合わせた2剤併用化学療法がES-SCLCの一次治療における標準治療として確立されてきた。この標準治療による客観的奏効率は67%から80%と初期治療への反応性は良好であるものの、全生存期間 (OS) の中央値は8〜13ヶ月にとどまり、根本的な予後改善には至っていない。ほぼすべての患者で早期に治療抵抗性の再発を来し、二次治療への反応も極めて短命である。このため、生存期間を延長し得る新規の一次治療戦略の確立が喫緊の課題として認識されてきた。特に、ES-SCLCの治療成績は依然として不十分であり、新たな治療選択肢の開発が強く求められている状況であった。
過去には、アルキル化剤であるイホスファミド (ifosfamide) の追加による治療強化が試みられた経緯がある。Hoosier Oncology Group (HOG) が実施した第III相試験では、シスプラチン+エトポシド (CE) 療法にイホスファミドを追加した3剤併用療法 (VIPレジメン) が、CE単独群と比較してOS中央値を9.0ヶ月 vs 7.3ヶ月に有意に改善し、2年生存率も13% vs 5%へと向上させることを示した。しかし、イホスファミドの代謝に伴い産生されるアクロレインやクロロアセトアルデヒドなどの毒性代謝物に起因する出血性膀胱炎や重篤な神経毒性、さらには投与に伴う大量輸液や入院管理の必要性といった臨床上の煩雑さが障壁となり、VIPレジメンは標準治療として広く普及するには至らなかった。この結果、ES-SCLCの治療において、毒性を軽減しつつ有効性を高める新たなアルキル化剤の導入は未解明の課題として残されていた。
このような背景から、イホスファミドの活性代謝物であるイソホスファミドマスタードのトリエタノールアンモニウム塩製剤であるパリホスファミド (palifosfamide; ZIO-201) が開発された。パリホスファミドは、イホスファミドに見られる毒性代謝物の産生を回避し、出血性膀胱炎や神経毒性を軽減しつつ、同等の抗腫瘍効果を発揮することを目的に設計された新規アルキル化剤である。前臨床試験において、肉腫や肺癌モデルに対する良好な抗腫瘍活性が確認されていた。さらに、進行固形がん患者を対象とした第I相試験において、カルボプラチン (AUC 4) + エトポシド (100 mg/m²) にパリホスファミド (130 mg/m²) を併用する療法の安全性が確認された。これらの先行研究に基づき、未治療のES-SCLC患者を対象として、標準的なカルボプラチン+エトポシド (CE) 療法へのパリホスファミド追加の有効性と安全性を検証する多施設共同無作為化適応型第III相試験 (MATISSE試験) が計画された。ES-SCLCの治療成績は依然として不足しており、新たな治療選択肢の開発が強く求められている状況であった。本研究は、化学療法単独での治療強化の可能性を探る上で重要な位置付けとなる。
目的
本 MATISSE (Multicenter Adaptive Trial Investigating Small Cell Lung Cancer Survival Endpoints) 試験の主要な目的は、未治療の進展型小細胞肺がん (ES-SCLC) 患者において、標準的なカルボプラチン+エトポシド (CE) 療法にパリホスファミド (palifosfamide) を追加する PaCE 療法が、全生存期間 (OS) を改善するかどうかを検証することであった。具体的には、PaCE 群と CE 単独群の OS を直接比較し、パリホスファミドの上乗せ効果を評価することを主要評価項目とした。
当初の試験デザインでは、対照群のカルボプラチン AUC 5 に対し、パリホスファミド追加群ではカルボプラチン AUC 4 とパリホスファミド 130 mg/m² を併用するレジメンの上乗せ効果を検証する計画であった。副次評価項目としては、当初は無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、奏効期間、およびすべての有害事象 (AE) が設定されていた。しかし、試験途中でプロトコルが修正され、主要評価項目は OS のままであったが、副次評価項目は重篤な有害事象 (SAE) のみへと変更され、PFS や奏効評価は必須ではなくなった。この修正は、パリホスファミドの軟部肉腫を対象とした PICASSO III (Doxorubicin With or Without Palifosfamide in Clinically Advanced Soft Tissue Sarcoma) 試験が陰性であったことを受けて行われたものである。本試験は、ES-SCLC の一次治療において、イホスファミドの活性代謝物であるパリホスファミドが、毒性を軽減しつつ OS を改善できるかという重要な臨床的疑問に答えることを目指した。
結果
患者背景と登録状況: 2012年6月8日から2013年4月22日の期間に、13か国70施設から合計 188 例の患者が登録され、PaCE 群に 94 例、CE 群に 94 例が割り付けられた。最終フォローアップは2014年12月2日に行われた。登録患者のうち 159 例が死亡し、29 例が解析時点で生存中であった。両群間の患者背景に大きな差は認められなかった (Table 1)。年齢中央値は両群ともに 61 歳 (PaCE 群: 42-82 歳、CE 群: 32-88 歳) であり、男性が約 70% を占めた。ECOG PS は、PS 0 が約 23%、PS 1 が 65%、PS 2 が 10% であった。肝転移は PaCE 群で 42%、CE 群で 39% に認められ、脳転移はそれぞれ 15% と 18%、骨転移はそれぞれ 15% と 17% と、転移部位の分布も均等であった。喫煙歴は、現喫煙者が約 48%、元喫煙者が約 37% であり、非喫煙者は 5-7% と少数であった。米国以外の患者が約 68% を占め、ロシア (45 例)、ウクライナ (17 例)、フランス (15 例) が主な登録国であった。両群ともに約 50% の患者が 6 サイクルを完遂した。死亡の主な原因は両群とも疾患進行であり、全体の 82% を占めた。試験プロトコル修正のため、奏効評価は両群の約 45% の患者のみで収集された。
主要評価項目における全生存期間の推移: 全生存期間の中央値は、PaCE 群で 10.03 months であったのに対し、CE 群では 10.37 months であり、両群間に統計学的な有意差は認められなかった (Fig 2)。主要評価項目である ITT 解析における全生存期間の HR 1.30 (95% CI 0.95-1.78, p=0.096) であり、パリホスファミドの追加による OS の改善は示されなかった。むしろ、HR が 1.0 を上回る傾向は、PaCE 群に不利な可能性を示唆するものであった。OS フォローアップの中央値は全体で 10.7 ヶ月であり、解析時点で生存中の 29 例では 18.2 ヶ月であった。
安全性プロファイルと重篤な有害事象の発生割合: 安全性解析対象集団は PaCE 群 92 例、CE 群 91 例であった (5 例は毒性評価不能)。少なくとも 1 件の重篤な有害事象 (SAE) を経験した患者の割合は、PaCE 群で 26 例 (28.3%)、CE 群で 25 例 (27.5%) であり、両群間に有意差はなかった (p > 0.99) (Table 2)。3 例以上に発生した主な SAE は、発熱性好中球減少 (PaCE 4 例、CE 5 例)、汎血球減少 (PaCE 4 例、CE 0 例)、好中球減少 (PaCE 1 例、CE 3 例)、感染症 (PaCE 5 例、CE 9 例)、悪心 (PaCE 3 例、CE 1 例)、脱水 (PaCE 3 例、CE 2 例)、低ナトリウム血症 (PaCE 0 例、CE 3 例)、呼吸困難 (PaCE 3 例、CE 2 例) であった。治療関連有害事象 (TEAE) は両群とも約 20% の患者に認められた。統計的に有意な群間差が唯一確認された TEAE はめまいであり、CE 群で 11%、PaCE 群で 3.3% と CE 群で多かった (p=0.048)。用量変更や治療遅延に関するデータは収集されなかったため、全体的な毒性プロファイルの詳細な比較には限界がある。PaCE 群ではカルボプラチンを AUC 5 から AUC 4 に減量して投与していたにもかかわらず、SAE 発生率が CE 群と同程度であったことは、パリホスファミドが追加的な骨髄毒性の増悪をもたらさなかったことを示唆する。
サブグループ解析における年齢別の治療効果: 年齢、性別、ECOG PS、治療地域によるサブグループ解析が実施された (Fig 3)。その結果、唯一有意なサブグループ交互作用が検出されたのは、年齢 65 歳以上のサブグループ (69 例、全体の 37.3%) であった。この 65 歳以上の高齢者サブグループにおいて、PaCE 群の OS は CE 群よりも有意に劣っており、OS 中央値は 6.8 vs 9.7 months (HR 1.913 (95% CI 1.151-3.177, p=0.044)) であった。一方、65 歳未満の患者では HR 1.135 (95% CI 0.76-1.695) であり、有意差は認められなかった。男性患者 (132 例) では HR 1.368 (95% CI 0.945-1.98)、女性患者 (56 例) では HR 1.185 (95% CI 0.664-2.114) であった。米国患者 (60 例) では HR 1.365 (95% CI 0.785-2.371)、非米国患者 (128 例) では HR 1.276 (95% CI 0.875-1.862) と、いずれのサブグループにおいてもパリホスファミドの上乗せ効果は示されなかった。
考察/結論
MATISSE 試験は、未治療の進展型小細胞肺がん (ES-SCLC) 患者において、標準的なカルボプラチン+エトポシド (CE) 療法にパリホスファミドを追加する PaCE 療法が、主要評価項目である全生存期間 (OS) の改善を達成できないことを無獲得化試験によって明確に示した。PaCE 群の OS 中央値 10.03 ヶ月は、CE 群の 10.37 ヶ月と比較して数値上も劣っており、ハザード比 (HR) 1.30 (95% CI 0.95-1.78, p=0.096) は、むしろパリホスファミドの追加が生存期間を短縮する可能性を示唆する方向にあった。特に、年齢 65 歳以上のサブグループにおいて、PaCE 群の OS が CE 群よりも有意に劣るという有害な影響 (HR 1.913 (95% CI 1.151-3.177, p=0.044)) が示されたことは注目に値する。
先行研究との違い: 本研究の結果は、かつてイホスファミドの追加が OS 改善を示した結果と対照的であった。この標準治療確立に向けた歩みは Noda et al. NEnglJMed 2002 などの先行研究でも議論されてきたが、本研究における乖離の一因として、パリホスファミド自体の抗腫瘍活性がイホスファミドよりも低い可能性が考えられる。また、PaCE 群ではカルボプラチン投与量が AUC 5 から AUC 4 に減量されており、この減量が OS 低下に寄与した可能性は低いとされているものの、純粋なパリホスファミド追加効果の評価を複雑にした側面は否定できない。軟部肉腫を対象とした PICASSO III 試験でもパリホスファミド+ドキソルビシンが陰性であったことからも、パリホスファミドの抗腫瘍活性そのものに対する疑問が生じる。
新規性: 本研究は、イホスファミドの活性代謝物であるパリホスファミドを ES-SCLC の一次治療に導入する試みとして、大規模な第III相試験でその有効性を評価した点で新規性がある。しかし、結果は期待に反し、パリホスファミドの追加が OS を改善しないことを本研究で初めて明確に示した。この知見は、化学療法単独での治療強化が ES-SCLC の予後を大きく改善する限界を示唆するものであり、その後の治療パラダイムシフトの背景を形成した。
臨床応用: 本試験の結果は、パリホスファミドを ES-SCLC の一次治療に導入する根拠がないことを示しており、臨床現場での採用は推奨されない。2019年には、免疫チェックポイント阻害剤であるアテゾリズマブを CE に上乗せした IMpower133 試験、およびデュルバルマブを PE/CE に上乗せした CASPIAN 試験が、ES-SCLC の一次治療で OS を有意に改善した。これにより、ES-SCLC の標準治療は「免疫チェックポイント阻害剤+CE」へと移行し、MATISSE 試験は化学療法単独での最適化が限界に達していることを実証した重要な負の証拠として位置づけられる。
残された課題: 本試験の主な limitation として、当初計画の 464 例に対し 188 例 (約 40%) しか登録できなかったことによる検出力の低下が挙げられる。しかし、著者らは「188 例でも十分な証拠が得られており、全例登録を達成しても陽性となる可能性は極めて低い」と述べており、futility conclusion は妥当であると結論している。また、試験修正により PFS や奏効率データが約 45% の患者のみで収集されたため、これらの副次エンドポイントの解釈には限界がある。今後の検討課題として、ES-SCLC における化学療法骨格への免疫療法上乗せの最適化、およびバイオマーカー駆動による患者サブグループ選択の確立が挙げられる。SCLC の生物学的理解は Rekhtman et al. ClinCancerRes 2016 などによりゲノムレベルで進んでいるものの、その知識を臨床的成果に結びつけることは依然として残された課題である。
方法
MATISSE 試験は、多施設共同、無作為化、非盲検、適応型第III相試験 (NCT01555710) として実施された。本試験には13か国70施設が参加した。
患者適格基準: 組織学的または細胞学的に ES-SCLC と確認された未治療患者が対象とされた。ES-SCLC の定義は、同側胸郭を超えた病変、対側縦隔リンパ節転移、鎖骨上リンパ節転移、悪性胸水または心嚢液、あるいは血行性転移を含むものとした。ECOG パフォーマンスステータス (PS) は 0〜2 であり、十分な骨髄機能 (ヘモグロビン ≥ 10.0 g/dL、好中球数 ≥ 1,500/μL、血小板数 ≥ 100,000/μL)、肝機能 (総ビリルビン ≤ 1.5 × 施設基準値上限、ALT および AST ≤ 2.5 × 施設基準値上限、肝転移がある場合は ≤ 5 × 施設基準値上限)、および腎機能 (推定糸球体濾過量 ≥ 60 mL/min/1.73 m²) が求められた。症状のない脳転移は許容されたが、治療済みの脳転移からの急性毒性が回復している必要があった。
治療レジメン: 患者は 1:1 の割合で 2 つの治療群に無作為に割り付けられた。
- CE群: カルボプラチン AUC 5 (Day 1) + エトポシド 100 mg/m² (Days 1-3)。
- PaCE群: カルボプラチン AUC 4 (Day 1) + エトポシド 100 mg/m² (Days 1-3) + パリホスファミド 130 mg/m² (Days 1-3)。 いずれのレジメンも 21 日サイクルで、最低 4 サイクルから最大 6 サイクルまで実施が許可された。G-CSF などの成長因子の使用は、担当医の裁量で許可された。
試験デザインと統計学的考慮事項: 本試験は適応型群逐次デザインを採用し、中間解析による早期有効性または futility 停止、およびサンプルサイズ再推定を可能とした。主要評価項目は OS であり、無作為化から死亡日までの期間と定義された。当初のサンプルサイズは、対照群の OS 中央値 8.4 ヶ月に対し、治療群で 11.2 ヶ月への改善を想定して推定された。片側 α エラー率 2.5%、検出力 87% のもと、最大 548 例 (各アーム 274 例) の登録が計画された。独立データモニタリング委員会 (DMC) による中間解析は、125 件の OS イベント発生後に計画された。患者は年齢、性別、ECOG PS で層別化され、1:1 で割り付けられた。ハザード比の比例ハザード仮定は Schoenfeld 残差法を用いて確認された。
しかし、軟部肉腫を対象とした PICASSO III 第III相試験 (ドキソルビシン + パリホスファミド vs ドキソルビシン) が陰性であったことが判明したため、本試験のプロトコルが修正された。この修正により、当初計画の 464 例中 188 例の登録で試験が終了された。主要評価項目は OS のままであったが、副次評価項目はすべての有害事象から重篤な有害事象 (SAE) のみに変更された。また、RECIST 1.1 に基づく奏効評価および PFS 評価は必須ではなくなった。修正後の統計学的検出力は 80%、両側 α エラー率 0.05 で、ハザード比 (HR) 0.64 の OS 改善を検出することを想定した。安全性解析は、少なくとも 1 回の治験薬投与を受けたすべての無作為化患者を対象とした。OS の解析には、intention-to-treat (ITT) 集団が用いられた。