- 著者: Rekhtman N, Pietanza MC, Hellmann MD, Naidoo J, Arora A, Won H, Halpenny DF, Wang H, Tian SK, Litvak AM, Paik PK, Drilon AE, Socci N, Poirier JT, Shen R, Berger MF, Moreira AL, Travis WD, Rudin CM, Ladanyi M
- Corresponding author: Natasha Rekhtman (Department of Pathology, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-03-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 26960398
背景
肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) は、高度に悪性な稀少腫瘍であり、その生物学的特性は未だ十分に理解されていない。特に、小細胞肺癌 (SCLC) と非小細胞肺癌 (NSCLC) のどちらに生物学的に近いのかという点が未解明であり、最適な治療戦略の確立を困難にしていた。LCNECは、SCLCと同様に高い増殖能と神経内分泌形質を示す一方で、一部のLCNECでは肺腺癌に特徴的なEGFR変異、ALK再構成、KRAS変異などが報告されており、その生物学的多様性が示唆されていた。このような状況下で、LCNECの包括的なゲノム解析は、その分子的特性を明らかにし、治療最適化のための重要な情報を提供すると期待されていた。
過去の研究では、LCNECとSCLCの遺伝子発現プロファイルが完全に重複するという報告と、異なるという報告の両方が存在し、一貫した見解は得られていなかった。ゲノムレベルでは、LCNECはSCLCと同様にRB1およびTP53の頻繁な変異を共有することが知られていたが、その頻度は研究によって異なっていた。例えば、Cancer et al. Nature 2014では、LCNECの包括的なゲノムプロファイルに関するデータは限られており、15例のLCNECを対象とした全エクソームシーケンシング研究では、LCNECは全体としてSCLCに類似しているものの、他の腫瘍タイプに特徴的な変異も散見されると結論付けられていた。しかし、組織学的に純粋なLCNECにおいて、EGFR変異、ALK再構成、KRAS変異といった腺癌に典型的な分子異常が報告されており、これは純粋なSCLCではこれらのドライバー変異がほとんど見られないことと対照的であった。また、Jones et al. Lancet 2004はLCNECの遺伝子発現プロファイルがSCLCと異なるサブタイプを同定している。
このような背景から、LCNECの生物学的関係性をSCLCおよび他の主要な肺癌タイプと比較し、潜在的な治療標的となる分子異常を特定するための詳細なゲノム解析が強く求められていた。特に、LCNECの臨床的挙動は多様であり、SCLCに用いられるプラチナ/エトポシドベースの化学療法に対する感受性も報告によって大きく異なっていたため、分子レベルでの層別化が治療選択の指針となる可能性があった。これまでの研究では、LCNECの分子プロファイリングが不足しており、その多様性を体系的に分類する試みは手薄であった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目指し、LCNECの分子プロファイルを詳細に解析することで、その生物学的多様性を解明し、より個別化された治療戦略の開発に貢献することを目的とした。
目的
本研究の目的は、MSK-IMPACT (Memorial Sloan Kettering-Integrated Mutation Profiling of Actionable Cancer Targets) プラットフォームを用いた肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) の標的次世代シーケンシング (NGS) 解析により、そのゲノム特性を詳細に解明することである。具体的には、LCNECの分子プロファイルを小細胞肺癌 (SCLC) および他の主要な肺癌組織型と比較し、LCNECの生物学的関係性を明らかにすることを目指した。さらに、LCNEC内に存在する分子サブタイプを同定し、それぞれのサブタイプにおける潜在的な治療標的となるゲノム変異を記述することも目的とした。これにより、LCNECの診断、予後予測、および個別化された治療戦略の開発に資する新たな知見を提供することを目指す。
結果
LCNEC 45例のMSK-IMPACT解析により、合計535の非同義体細胞変異(392ミスセンス、66ナンセンス、37スプライス部位、34フレームシフト、4欠失、2挿入)が同定された。加えて、61のゲインと15のロスが検出された。MSK-IMPACTのタンパク質コード領域の総面積が1.2 Mbであることから、LCNECにおける非同義変異の平均発生率は10.5/Mbと推定され、高い変異負荷が確認された。単塩基変異のうち47.5%はG>T (C>A) トランスバージョンであり、タバコ誘発性発癌に典型的なパターンを示した。1症例あたりの非同義変異、ゲイン、ロスの平均数はそれぞれ11.8 (範囲1-30)、1.3 (範囲0-7)、0.3 (範囲0-2) であった。平均腫瘍カバレッジ深度は486倍 (範囲60-1,086倍) であった。
頻度の高い変異遺伝子プロファイル: LCNECで高頻度に認められた変異遺伝子には、TP53 (n=35, 78%)、RB1 (n=17, 38%)、STK11 (n=15, 33%)、KEAP1 (n=14, 31%)、およびKRAS (n=10, 22%) が含まれた (Figure 1A)。肺腺癌と同様に、KRAS、STK11、KEAP1変異は相互排他的ではなかった。TP53変異の95%は機能的に重要なDNA結合ドメインに影響を及ぼし、RB1変異の81%および多くのSTK11とKEAP1変異はタンパク質切断型(フレームシフトおよびナンセンス)であり、これらが腫瘍抑制遺伝子として機能していることを示唆した。KRAS変異はG12C (n=6)、G12D (n=1)、G13D (n=2)、Q61L (n=1) といった典型的なミスセンス変異であった。IHC解析では、RB1およびSTK11遺伝子変異を持つLCNECの全例でそれぞれのタンパク質発現の完全な消失が確認された (Figure 1B, C)。さらに、RB1遺伝子変異を持たない26例中2例、STK11遺伝子変異を持たない25例中3例でもタンパク質発現の完全な消失が認められた。
分子サブタイプの同定: RB1とTP53の同時不活性化がSCLCの普遍的な特徴であるという最近のNGS研究に基づき、LCNECは3つの分子サブタイプに分類された (Figure 2A)。
- SCLC-like (n=18, 40%): RB1とTP53の共変異/欠失を特徴とし、SCLCに特異的なMYCL増幅 (17%)、Rudin et al. NatGenet 2012で報告されたSOX2増幅 (22%)、PTEN変異/欠失 (17%)、FGFR1増幅 (5%) が共存した。このサブタイプではSTK11およびKRAS変異は全く認められなかった。KEAP1-NFE2L2 (NF-E2関連因子2) 変異は39%の症例で発生した。
- NSCLC-like (n=25, 56%): RB1とTP53の共変異/欠失を欠き、NSCLC型変異がほぼ普遍的に存在した。STK11変異 (60%) およびKRAS変異 (40%) が認められ、これらは相互排他的ではなかった。STK11変異/タンパク質欠失またはKRAS変異のいずれかが84%の症例で存在した。KEAP1-NFE2L2変異は36%の症例で認められた。STK11およびKRAS変異はSCLC-likeサブタイプでは全く認められず、NSCLC-likeサブタイプに完全に限定されていた (p<0.0001およびp=0.0024)。
- カルチノイド様 (n=2, 4%): MEN1変異および低い変異負荷を特徴とした。これらの症例では、他のLCNECの平均13個 (範囲4-32) のゲノム変異と比較して、検出された変異の総数が2個および1個と非常に少なかった (p=0.007)。
サブタイプ間の臨床病理学的差異: SCLC-likeサブタイプはNSCLC-likeサブタイプと比較して、有意に高い増殖活性を示した (Ki67中央値88% vs. 68%、p<0.0001;核分裂像数83/10HPF vs. 60/10HPF、p=0.017) (Figure 5)。また、NSCLC-like腫瘍の37%がNapsin-Aを発現した一方、SCLC-likeではNapsin-Aの発現は認められなかった (p=0.005)。逆に、SCLC-like腫瘍の5例 (31%) でp40の焦点的発現が認められた (p=0.006)。形態学的には、SCLC-likeサブタイプでSCLC様形態が優位 (72%) であったのに対し、NSCLC-likeサブタイプではNSCLC様形態が優位 (76%) であったが、35%の症例で形態と分子プロファイルが不一致であった (p=0.006) (Table 1, Figure 4A, B)。
生存解析: 外科切除されたLCNEC症例において、SCLC-likeとNSCLC-likeの全生存期間 (5年生存率59.5% vs. 53.8%) および無再発生存期間 (5年生存率27.5% vs. 51.4%) に統計的に有意な差は認められなかったが、SCLC-likeサブタイプはより短い無再発生存期間の傾向を示した (p=0.475)。
化学療法感受性: IV期LCNEC患者11例(大半がプラチナベース化学療法)のサブセット解析では、化学療法に奏効した3例はすべてSCLC-likeサブセットに属しており (4例中3例が部分奏効)、NSCLC-likeサブセットでは奏効例は認められなかった (6例中0例)。ただし、NSCLC-likeの6例中4例は病勢安定 (SD) を示した。この結果は、SCLC-like LCNECがプラチナベース化学療法に対してより良好な奏効を示す可能性を示唆する。
NSCLC-like LCNECと他の肺癌の比較: 通常の肺腺癌と比較して、NSCLC-like LCNECではSTK11変異 (60% vs. 16%、p=0.0001)、NOTCH1-4 (NOTCH受容体1-4) 変異 (28% vs. 7%、p=0.005)、クロマチン修飾遺伝子変異 (80% vs. 49%、p=0.005) がより高頻度であった。一方、EGFR変異 (0% vs. 25%、p=0.003) は認められなかった。両サブタイプともに、通常のNSCLCやSCLCを上回る高い変異負荷を示し (p<0.0001)、免疫チェックポイント阻害薬への感受性が示唆された (Figure 3B)。
潜在的治療標的: 少なくとも1つの潜在的治療標的が45例中30例 (67%) に同定され、NSCLC-likeサブセット (84%) でSCLC-likeサブセット (50%) よりも高率であった (p=0.02)。EGFR変異やALK再構成は本研究では認められなかった。
考察/結論
本研究は、MSK-IMPACTを用いた包括的な次世代シーケンシング解析により、肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) が生物学的に均一な疾患ではなく、SCLC様、NSCLC様、および稀にカルチノイド様という3つの明確な分子サブタイプから構成されることを初めて体系的に示した点で新規性が高い。この知見は、LCNECの分類と治療戦略に重要な臨床的含意を持つ。
先行研究との違い: NSCLC様サブタイプ (56%) は、STK11およびKRAS変異を主体とするゲノムプロファイルを示し、Cancer et al. Nature 2014で報告された肺腺癌の「proximal-proliferative」転写サブグループとの類似性を示唆した。これは、腺癌からの神経内分泌分化獲得の可能性を示唆する。一方、SCLC様サブタイプ (40%) は、RB1とTP53の共変異およびSCLC特異的増幅を特徴とし、SCLCとの分子生物学的な近縁性が確認された。George et al. Nature 2015によるSCLCの全ゲノム解析では、RB1とTP53の共変異がSCLCの普遍的特徴として報告されており、本研究ではLCNECの40%がこの特徴を共有することを示した。しかし、SCLC様サブタイプにおけるKEAP1-NFE2L2変異の高頻度 (39% vs. 通常SCLC 5%、p=0.008) は、このサブタイプが通常のSCLCとも異なる独自の生物学的特性を持つことを示唆しており、これまでの報告とは異なる点である。また、NSCLC様LCNECでは、通常の肺腺癌と比較してSTK11変異 (60% vs. 16%, p=0.0001) やNOTCHファミリー遺伝子変異 (28% vs. 7%, p=0.005) が高頻度であり、これらの遺伝子がLCNECの神経内分泌形質の発現に寄与している可能性が示唆された。
新規性: 本研究で初めて、LCNECの分子サブタイプをRB1とTP53の共変異の有無に基づいて明確に定義し、それぞれのサブタイプが異なるゲノムプロファイル、臨床病理学的特徴、および治療反応性の傾向を持つことを示した。特に、NSCLC様LCNECにおけるSTK11変異の高頻度とNOTCHファミリー遺伝子の変異は、LCNECの神経内分泌分化のメカニズムに関する新規の洞察を提供する。また、両サブタイプともに高い変異負荷を持つことも新規の発見であり、免疫チェックポイント阻害薬の潜在的な有効性を示唆する。
臨床応用: 本研究の知見は、LCNECの臨床管理に複数の臨床的含意を持つ。第一に、pRbの免疫組織化学染色により、大部分の症例でNSCLC様 (pRb保持) とSCLC様 (pRb欠失) のLCNECを区別できる可能性がある。これは、分子解析が利用できない臨床現場において、LCNECのサブタイプを予測する簡便な方法となる。第二に、SCLC様LCNECはプラチナ系化学療法への感受性が高い傾向を示した一方、NSCLC様LCNECでは異なる治療アプローチが必要であると考えられる。これは、LCNEC患者に対する個別化された化学療法選択の根拠となる。第三に、両サブタイプともに高い変異負荷を持つことから、Rizvi et al. Science 2015で報告されているように、免疫チェックポイント阻害薬の有効性が期待される。これは、LCNECの新たな治療選択肢として免疫療法の開発を促進する可能性がある。
残された課題: 本研究の限界として、外科切除されたLCNEC(主に早期ステージ)を対象としているため、進行LCNECにおける知見との外挿には注意が必要である。また、化学療法感受性に関する解析は11例のサブセット解析に留まり、統計的検出力が低い。今後の検討課題として、進行LCNEC患者を対象とした前向き分子プロファイリング研究が必要である。さらに、本研究で使用した標的NGSプラットフォームは241のがん関連遺伝子をカバーしているが、全ゲノム/エクソームシーケンシングのようなより包括的な解析により、未検出の関連変異や非エクソン領域の異常がLCNECの生物学に影響を与えている可能性も残されている。より大規模なコホートでの解析も、LCNECのゲノムプロファイルの全スペクトルを捉えるために必要である。
方法
本研究では、Memorial Sloan Kettering Cancer Centerにおいて外科切除された肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) 45例を対象としたレトロスペクティブコホート研究を実施した。まず、3名の胸部病理専門家 (N. Rekhtman, A.L. Moreira, W.D. Travis) による中央病理診断を実施し、形態学的に純粋なLCNEC(腺癌、扁平上皮癌、SCLC成分を含まない)のみを研究対象として厳選した。全ての症例は、WHO基準(神経内分泌形態、10HPF当たり10個超の分裂像および壊死、神経内分泌マーカー1種以上陽性)を満たすことを確認した。LCNECとSCLCの鑑別は、核小体の有無や細胞質の量など、細胞形態学的特徴の組み合わせに基づいて行った。
分子解析には、腫瘍組織と対応する正常組織のペアを用いて、MSK-IMPACTプラットフォームによる標的NGSを施行した。MSK-IMPACTは、241のがん関連遺伝子の全エクソンおよび選択されたイントロンを対象とするカスタムハイブリッドキャプチャーベースのアッセイである。このプラットフォームを用いて、単塩基変異、小挿入欠失(30 bp未満)、コピー数変化(CNA)、および選択された構造異常(ALK融合を含む)を検出した。検出された全ての候補変異および挿入欠失は、Integrative Genomics Viewerを用いて手動で確認した。機能的に有害と予測される変異は、Catalogue of Somatic Mutation in Cancerに報告されているか、Mutation Assessorにより中程度/高程度の機能的影響スコアを持つものとして定義し、Gao et al. SciSignal 2013で報告されたcBioPortal for Cancer Genomicsを通じてアクセスし、潜在的な治療標的としての可能性を手動でキュレーションした。MSK-IMPACTアッセイの詳細はCheng et al. JMolDiagn 2015に記載されている。
比較対象として、同プラットフォームで解析された他の肺癌組織型(合計n=242)のゲノムデータを使用した。これには、肺腺癌 (n=151)、扁平上皮癌 (n=36)、SCLC (n=42)、カルチノイド (n=13) が含まれる。これらのデータは、ルーチンの臨床ケアの一環として、または臨床プロトコルや遡及的研究の一部として連続的にシーケンスされたものである。
組織学的および免疫組織化学的解析も詳細に実施した。ヘマトキシリン・エオシン染色標本をレビューし、10HPF当たりの分裂像数を手動でカウントして分裂率を定量化した。核小体の突出度と細胞質の豊富さも記録し、SCLC様形態、NSCLC様形態、混合形態に分類した。免疫組織化学 (IHC) では、synaptophysin、chromogranin-A、CD56、Ki67、ASCL1、pRb、STK11、Napsin-A、p40の各抗体を用いて評価した。Napsin-Aは肺腺癌に特異的なマーカーであり、p40は扁平上皮癌に特異的なマーカーである。ASCL1は神経内分泌腫瘍で発現が認められる転写因子である。
臨床情報は電子カルテから収集し、病期分類は米国癌合同委員会 (AJCC) 第7版に従った。全生存期間 (OS) および無再発生存期間 (RFS) は、カプラン・マイヤー法を用いて推定した。初回化学療法に対する治療反応性は、RECISTガイドライン (バージョン1.1) に基づいてCTスキャンをレビューし評価した。
統計解析はRソフトウェア (R version 3.2.2) を用いて実施した。カテゴリカル変数にはFisherの正確検定を、連続変数にはノンパラメトリックなMann-Whitney U検定を適用した。生存解析にはCRAN (Comprehensive R Archive Network) のsurvivalパッケージ (バージョン2.38) を使用した。