- 著者: Lattuca-Truc M, Timsit JF, Levra MG, Ruckly S, Villa J, Dumas I, Pinsolle J, Ferrer L, Toffart AC, Moro-Sibilot D
- Corresponding author: Denis Moro-Sibilot (Grenoble-Alpes University Hospital, Grenoble, France)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2019
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 31027688
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約13%から20%を占める悪性度の高い疾患であり、喫煙が主要なリスク因子である。欧州ではSCLCの診断割合が約20%から13%に減少している一方で、米国では安定していると報告されている Meza et al. PLoS One 2015。SCLCはしばしば治癒困難な疾患と見なされ、病期を問わず全生存期間中央値 (mOS) が12ヶ月未満と予後不良である。過去20年間、SCLCの臨床治療において劇的な進歩はなく、生存率は依然として低いままであった。非小細胞肺癌 (NSCLC) では分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬の導入により治療成績が大きく改善しているのに対し、SCLCの標準治療は1990年代以降、プラチナ製剤 (シスプラチンまたはカルボプラチン) とエトポシドを組み合わせた化学療法 (PE/CE療法) が中心であり、大きな変化はなかった。
先行研究では、SCLC患者のmOSが11.3ヶ月から15.2ヶ月に増加したことが示唆されたが Schabath et al. Lung Cancer 2014、これらの研究は2010年までの患者を対象としており、それ以降のSCLC患者に関するデータは不足していた。近年、PET-CTなどの画像診断技術の進歩により、腫瘍部位のより正確な評価が可能となり Fischer et al. Respiration 2006、これにより限局型SCLCの割合が減少した可能性も指摘されている。治療法は限局型と進展型で異なり、限局型ではプラチナ製剤ベースの化学療法に胸部放射線療法を併用し Früh et al. AnnOncol 2013、初期治療に奏効した場合には予防的全脳照射 (PCI) が推奨される Slotman et al. NEnglJMed 2007。進展型SCLCでも、治療終了時に病勢安定または奏効が得られた場合にはPCIが脳転移予防と生存期間改善のために検討される。
多くの患者は再発し、2次治療は1次化学療法への感受性によって決定される。感受性再発の患者は1次治療レジメンの再開から利益を得る可能性があり、トポテカンが2次治療として推奨される唯一の薬剤である vonPawel et al. JClinOncol 1999。しかし、新たなレジメンの登場や支持療法の進歩がSCLC患者の予後をわずかに改善させた可能性も未解明であった。実臨床における大規模かつ長期的なSCLCコホート研究は限定的であり、診療技術や支持療法の進歩がSCLCの生存率に与える影響は不明確なままであった。本研究は、フランスの単一施設における20年間のSCLCコホートを解析し、治療成績、予後因子、および診療トレンドの経年的変化を系統的に検証することで、この知識のギャップを埋めることを目指した。
目的
本研究の主要目的は、フランスGrenoble大学病院で1997年から2017年までの20年間に診療されたSCLC連続症例529例を対象に、1次治療および2次治療に対する客観的奏効率 (ORR) に関連する因子を特定することであった。副次目的として、以下の点を明らかにすることを目指した。(1) 1次治療開始からの全生存期間 (OS) の経年的変化を、前期 (1997-2009) と後期 (2010-2017) の2期間で比較すること。(2) 1次治療および2次治療開始時におけるOSに影響を与える独立予後因子を特定すること。これらの解析を通じて、SCLCの治療成績と予後の長期的なトレンドを評価し、治療戦略の改善に資する知見を得ることを目的とした。
結果
患者背景と治療の経年変化: 本研究では合計529例のSCLC患者が特定され、そのうち498例が1次治療を受け、279例が2次治療を受けた (Figure 1)。患者の年齢中央値は64歳 (IQR: 56-71) であり、女性は116例 (23%) であった。限局型病期 (LS-SCLC) の患者は208例 (42%)、進展型病期 (ED-SCLC) の患者は290例 (58%) であった。前期 (1997-2009) と後期 (2010-2017) の比較では、後期において診断時の体重減少 ≥ 10%の患者割合が高く (前期 18% vs 後期 28%, p<0.01)、また後期では限局型病期の患者割合が減少していた (前期 53% vs 後期 67%, p<0.01)。これは画像診断の進歩による病期診断の精度向上を反映している可能性がある。1次治療では、96%の患者がエトポシドとプラチナ製剤の化学療法を受けていた。前期ではシスプラチンが主に用いられたが、後期ではカルボプラチンの使用が増加した。限局型SCLC患者における縦隔放射線療法は、前期で65% (96/148例)、後期で68% (41/60例) に実施された。予防的全脳照射 (PCI) は前期で26% (81例)、後期で33% (59例) の患者に実施された。
1次治療奏効率 (ORR) の経年変化: 転移性SCLC患者における1次化学療法に対する客観的奏効率 (ORR) は、前期で63%、後期で62%であり、統計的に有意な差は認められなかった (p=0.87)。全体として、患者の45% (n=226) が1次治療に感受性であり、24% (n=121) が耐性、22% (n=109) が難治性であった。この奏効パターンは2つの期間で類似していた。
2次・3次治療奏効率: 2次治療に対するORRは、前期で39%、後期で29%であったが、統計的な有意差は認められなかった (p=0.09)。3次治療に対するORRは、前期で19%、後期で20%であった (p=0.85)。1次治療に感受性であった患者のうち、64% (n=144) が2次治療を受け、そのORRは52% (n=75) であった。1次治療に耐性であった患者のうち、67% (n=81) が2次治療を受け、そのORRは20% (n=16) であった。難治性患者のうち、49% (n=53) が2次治療を受け、そのORRは13% (n=37) であった。
全生存期間 (OS) の経年変化: 治療開始からの全生存期間中央値 (mOS) は全体で12.2ヶ月 (IQR: 7.2-22.5) であった。前期では13.2ヶ月 (IQR: 7.4-24.4)、後期では11.2ヶ月 (IQR: 7.1-21.2) であった (Supplemental Table 1)。単変量解析では、後期の方がOSがわずかに短かったが、多変量解析で予後因子を調整した後も、2つの期間における死亡率は有意な差を示さなかった (ハザード比 [HR] = 0.82, 95%信頼区間 [CI] 0.66-1.00, p=0.050) (Table 2)。これは、20年間の期間においてSCLC患者の生存率に明確な改善が見られなかったことを示唆している。
1次治療からの独立予後因子: 1次化学療法開始からの死亡率と独立して関連する因子は、多変量Coxモデルにより以下の通り特定された (Table 2, Figure 2)。心血管系併存疾患 (HR 1.28, 95% CI 1.05-1.55, p=0.02)、肝転移 (HR 1.31, 95% CI 1.03-1.65, p=0.03)、ECOG PS 3-4 (PS 0-1と比較) (HR 2.45, 95% CI 1.83-3.30, p<0.001)、進展型病期 (限局型と比較) (HR 2.69, 95% CI 2.18-3.33, p<0.001)、年齢 (10歳ごと) (HR 1.15, 95% CI 1.04-1.27, p=0.006) が独立した予後因子であった。性別、呼吸器系併存疾患、腎臓系併存疾患、喫煙状況は独立した予後因子とはならなかった。
2次治療からの独立予後因子: 2次化学療法開始からの死亡率と独立して関連する因子は以下の通りであった (Table 3, Figure 3)。診断時の進展型病期 (HR 1.53, 95% CI 1.17-2.01, p=0.002)、1次治療への感受性 (難治性 vs 感受性) (HR 1.74, 95% CI 1.17-2.61, p=0.006)、1次治療への感受性 (耐性 vs 感受性) (HR 1.67, 95% CI 1.19-2.35, p=0.003)、2次治療開始時のECOG PS ≥ 2 (HR 2.61, 95% CI 2.00-3.41, p<0.001)、2次治療で使用された化学療法剤 (タキサン系 vs エトポシド系) (HR 1.54, 95% CI 1.10-2.16, p=0.01) が独立した予後因子として特定された。
喫煙状況と生存: 喫煙歴のない患者は、元喫煙者 (mOS 12.3ヶ月) や現喫煙者 (mOS 12.2ヶ月) と比較して、明らかに短い生存期間 (mOS 8.3ヶ月, IQR: 3.0-12.2) を示した。
考察/結論
本研究は、フランスの単一施設におけるSCLC患者529例を対象とした20年間の大規模な後方視的解析であり、1997年から2017年の期間において、SCLCの化学療法に対する奏効率および全生存期間に顕著な改善が見られなかったという重要な知見を提示した。この結果は、分子標的治療や免疫療法が目覚ましい進歩を遂げ、mOSが同期間で9ヶ月から20ヶ月以上に倍増した非小細胞肺癌 (NSCLC) とは対照的であり、SCLCが「治療停滞 (therapeutic stagnation)」の状態にあることを定量的に実証した点で新規性がある。
先行研究との違い: 過去の報告では、SCLC患者の生存期間がわずかに改善した可能性が示唆されていたが Schabath et al. Lung Cancer 2014、本研究はより長期間のデータを用いて、調整後ハザード比が境界域であったものの、統計的に明確な改善は認められないことを示した点で、これまでの知見と異なっている。また、Rossi et al. JClinOncol 2012 のメタアナリシスではシスプラチンとカルボプラチンの奏効率に大きな差がないことが示されたが、本研究では実臨床におけるプラチナ製剤の使用傾向の変化も捉えている。
新規性: 本研究で初めて、心血管系併存疾患がSCLC患者の独立した予後不良因子として同定された。肝転移が予後因子であることは報告されているが、心血管系併存疾患が独立した予後因子として示されたことは、SCLC患者の併存疾患管理の重要性を強調する新規の知見である。また、喫煙歴のないSCLC患者の生存期間が短いことも、本研究で明確に示された。
臨床応用: 本研究で同定された独立予後因子 (進展型病期、ECOG PS 3-4、肝転移、心血管系併存疾患、年齢) は、SCLC患者の予後予測モデル構築の基礎データとなり、個別化された治療戦略の策定に貢献する臨床的意義を持つ。特に、心血管系併存疾患が予後不良因子であるという結果は、化学療法開始前に心血管リスクの評価と管理を徹底することの重要性を示唆する。これにより、治療関連毒性を軽減し、治療完遂率を向上させる可能性が考えられる。SCLC治療体系の抜本的刷新が不可欠であることを再認識させる結果であり、2018-2019年以降に承認されたアテゾリズマブ (IMpower133試験) やデュルバルマブ (CASPIAN試験) といった免疫チェックポイント阻害薬の導入が、本研究が示した「停滞期」を終わらせる転換点となる可能性を秘めている。
残された課題: 本研究は後方視的単施設研究であるため、選択バイアスやデータ収集の限界が存在する。例えば、PET-CTによる病期診断の実施状況を特定できなかった点や、無増悪生存期間 (PFS) のデータを提供できなかった点がlimitationとして挙げられる。また、本研究のデータは2017年までのものであり、その後の免疫チェックポイント阻害薬が標準治療として導入された時代におけるSCLCの治療成績は含まれていない。今後の検討課題として、免疫化学療法導入後のリアルワールドデータによる効果の追跡解析、SCLCの分子サブタイプ (例: ASCL1、NEUROD1、POU2F3、YAP1/inflamed) 別の治療応答の検証、および高齢者やPS不良患者に対する最適化された治療戦略の構築が必要である。
方法
研究デザインと患者選択: 本研究は、フランスGrenoble Alpes大学病院の胸部腫瘍学多職種チーム会議で議論された全てのSCLC患者を対象とした単施設後方視的観察研究 (retrospective cohort study) である。1997年1月1日から2017年12月31日までにSCLCと診断され、少なくとも1ラインの化学療法を受けた連続成人症例529例が抽出された。支持療法のみを受けた患者は解析から除外された。本研究は2018年9月12日に倫理承認 (CECIC Rhône-Alpes-Auvergne, Clermont-Ferrand, IRB 5891) を取得した。生存患者には情報提供書が送付され、死亡患者についてはフランスデータ保護機関 (CNIL) から情報提供義務の免除を得た。
データ収集: 診断時に以下の臨床データが収集された。性別、年齢、体重減少、ECOGパフォーマンスステータス (PS) Oken et al. AmJClinOncol 1982、喫煙歴、癌の特性 (組織型、病期、関連する傍腫瘍症候群)。各抗腫瘍治療 (化学療法、放射線療法、手術) および各治療ラインに対する奏効が記録された。追跡調査は2017年12月まで病院の医療記録または出生地への連絡を通じて行われた。
治療反応の評価: 1次化学療法終了後3ヶ月時点での治療反応はRECIST基準 (version 1.1) Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づいて評価され、患者は以下の3つのカテゴリーに分類された。「感受性 (sensitive)」は3ヶ月時点で客観的奏効 (部分奏効または完全奏効) が観察された場合、「耐性 (resistant)」は初期に客観的奏効が観察されたものの3ヶ月以内に再発した場合、「難治性 (refractory)」は奏効が観察されなかった場合、または治療中に進行が認められた場合と定義された。
解析期間の分割: 患者コホートは、診断時期に基づいて前期 (1997-2009年、n=317) と後期 (2010-2017年、n=181) の2つの期間に分割された。
統計解析: 定性変数は数値 (パーセンテージ) で、定量変数は中央値 (四分位範囲 [IQR]) で表され、カイ二乗検定またはMann-Whitney U検定を用いて2期間間で比較された。1次治療および2次治療開始からの生存に関連する潜在的なリスク因子は、単変量Cox比例ハザードモデルを用いて推定された。多変量Coxモデルは、有意な変数に対してステップワイズ選択法を用いて調整された。患者数が限られるため、2次治療以降の解析は行われなかった。多変量モデルでは、欠損データはモデルに補完された。全ての検定は両側検定であり、p値 < 0.05が統計的に有意であると見なされた。全ての統計解析はSAS 9.4 (SAS Institute, Cary, NC, USA) を用いて実施された。