• 著者: Ben Slotman, Corinne Faivre-Finn, Gerda Kramer, Elisabeth Rankin, Michael Snee, Matthew Hatton, Pieter Postmus, Laurence Collette, Elena Musat, Suresh Senan
  • Corresponding author: Ben Slotman (Department of Radiation Oncology, VU University Medical Center, Amsterdam, Netherlands)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2007
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 17699816

背景

小細胞肺癌 (SCLC; small-cell lung cancer) は全肺癌の約13%を占め、その多くが進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC; extensive-stage small-cell lung cancer) として診断される。ED-SCLCは極めて予後不良な疾患であり、未治療の場合の生存期間中央値はわずか2〜4ヶ月にすぎない。化学療法の導入により短期的予後は改善したものの、長期生存率は依然として低く、1973年から2000年にかけての2年生存率は1.5%から4.6%への微増にとどまっていることが報告されている (Govindan et al. JClinOncol 2006)。また、胸部放射線療法の併用による生存ベネフィットも限局型では確立されているが (Pignon et al. NEnglJMed 1992)、進展型における治療開発は遅れている。さらに、化学療法後の維持療法としてトポテカンなどの薬剤を投与しても生存期間の有意な延長は得られていない (Schiller et al. JClinOncol 2001)。このような状況下で、脳転移はSCLC患者において極めて頻度の高い合併症であり、診断時に約18%に認められ、経過中には最大80%に達する。脳転移の発生は患者のQOL (Quality of Life) および身体機能を著しく低下させ、予後不良の直接的な要因となる。限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC; limited-stage small-cell lung cancer) においては、化学療法により完全奏効が得られた患者に対する予防的全脳照射 (PCI; prophylactic cranial irradiation) の有用性がメタアナリシス等で示され、標準治療として確立されていた。しかし、ED-SCLC患者においては、化学療法後に完全奏効に至る割合が低く、また生存期間自体が短いため、PCIが症候性脳転移を抑制し生存期間を延長するかどうかは長らく「未確立」であり、臨床的な「課題」として残されていた。特に、PCIに伴う神経認知機能低下や疲労感といった有害事象リスクと、予後不良なED-SCLC患者における生存ベネフィットとのバランスを評価するための臨床データが圧倒的に「不足」していた。脳転移に対する化学療法の効果は限定的であり、脳が「sanctuary site」として機能することから、全身化学療法後に奏効したED-SCLCに対するPCIの役割を検証することは、胸部腫瘍学における極めて重要な課題であった。

目的

初期化学療法(4〜6サイクル)によって奏効(完全奏効または部分奏効)が得られた進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者を対象として、予防的全脳照射 (PCI) を実施することにより、症候性脳転移の発生リスクを抑制できるかを検証することである。また、副次的な目的として、PCIの実施が患者の無増悪生存期間 (PFS; progression-free survival) および全生存期間 (OS; overall survival) に与える影響を明らかにするとともに、治療に伴う急性・晩期有害事象、および患者の全般的健康状態を含むQOLへの影響を多角的に評価することである。これにより、これまでエビデンスが不十分であったED-SCLCにおけるPCIの臨床的有用性と安全性を確立し、標準治療としての妥当性を検証することを目指した。

結果

患者背景と治療コンプライアンス: 本試験には合計286例の患者が登録され、PCI群に n=143、観察群に n=143 がそれぞれランダムに割り付けられた。両群の患者背景は極めて良好にバランスが取れていた。年齢中央値はPCI群で 62歳 (範囲 37-75)、観察群で 63歳 (範囲 39-75) であった。性別は男性がPCI群で 97例 (67.8%)、観察群で 82例 (57.3%) であった。WHOパフォーマンスステータスは、スコア0が両群ともに 52例 (36.4%)、スコア1がPCI群で 80例 (55.9%) vs 観察群で 76例 (53.1%) であった。持続性病変の存在割合についても、原発巣がPCI群 108例 (75.5%) vs 観察群 110例 (76.9%)、遠隔転移巣がPCI群 99例 (69.2%) vs 観察群 104例 (72.7%) と同様であった (Table 1)。PCI群に割り付けられた患者のうち10例は実際の治療を受けず、その内訳は治療開始前の死亡が6例、病勢進行が1例、治療拒否が3例であった。また、観察群のうち1例が患者の強い希望によりPCIを受けた。PCI群で実際に照射を受けた患者において、最も頻繁に用いられた線量分割スケジュールは 20 Gy/5回(89例)であり、次いで 30 Gy/10回(23例)、30 Gy/12回(9例)、25 Gy/10回(7例)の順であった。治療コンプライアンスは良好であり、治療中断は極めて稀であった。ランダム化から治療開始までの期間も適切に管理されていた。

症候性脳転移発生リスクの大幅な抑制: 主要エンドポイントである症候性脳転移の発生は、追跡期間中にPCI群で 24例 (16.8%)、観察群で 59例 (41.3%) に認められた。累積罹患率の解析において、PCI群は観察群と比較して、症候性脳転移の発生リスクを 73% 有意に低下させることが示された。ハザード比は HR 0.27 (95% CI 0.16-0.44, p<0.001) であり、極めて高い統計学的有意差をもってPCIの有効性が証明された (Figure 1)。1年時点における累積脳転移発生率は、PCI群で 14.6% (95% CI 8.3-20.9) であったのに対し、観察群では 40.4% (95% CI 32.1-48.6) に達しており、両群の乖離は顕著であった。なお、その後の経過において症候性脳転移が発生した際、救済治療としての全脳照射などの放射線治療が実施された割合は、PCI群で 2/24例 (8.3%) であったのに対し、観察群では 35/59例 (59.3%) と高率であった。この結果は、PCIが将来的な症候性脳転移の発生を未然に防ぎ、頭蓋内病変に対する追加治療の必要性を大幅に減少させることを示している。

無増悪生存期間の有意な延長: 副次エンドポイントである無増悪生存期間 (PFS) について、PCI群で有意な改善が確認された。PFS中央値は、PCI群で 14.7 weeks vs 観察群で 12.0 weeks であり、ハザード比は HR 0.76 (95% CI 0.59-0.96, p=0.02) であった (Figure 2)。6ヶ月時点における無増悪生存率は、PCI群で 23.4% (95% CI 16.6-30.9) vs 観察群で 15.5% (95% CI 10.1-22.0) であった。1年時点での頭蓋外病変の進行リスク自体には両群間で有意な差は認められなかったが (PCI群 88.8% vs 観察群 92.8%)、頭蓋内転移の制御が全体のPFSの向上に直接寄与したと考えられる。

全生存期間の有意な延長: もう一つの重要な副次エンドポイントである全生存期間 (OS) において、PCI群は観察群に対して有意な生存ベネフィットを示した。OS中央値は、PCI群で 6.7 months vs 観察群で 5.4 months であり、PCI群で生存期間が有意に延長した。死亡に関するハザード比は HR 0.68 (95% CI 0.52-0.88, p=0.003) であった (Figure 3)。1年生存率を比較すると、PCI群で 27.1% (95% CI 19.4-35.5) vs 観察群で 13.3% (95% CI 8.1-19.9) と、PCI群で約2倍の生存率改善が認められた。さらに、生存期間の延長効果は、初期化学療法の効果や患者のパフォーマンスステータスに関わらず、一貫して認められた。

有害事象およびQOLへの影響: PCIに伴う急性有害事象として、照射を受けた134例において頭痛(グレード1が41例、グレード2が12例、グレード3が5例)、悪心・嘔吐(グレード1が33例、グレード2が15例)、疲労・嗜眠(グレード1が6例、グレード2が7例)、皮膚反応(グレード1が3例、グレード2が2例)が観察された。照射開始3ヶ月以降の晩期有害事象としては、軽度の頭痛や軽度の嗜眠が 29例 (21.6%)、中等度の頭痛や重度の嗜眠が 15例 (11.2%)、重度の頭痛や中枢神経機能障害が 3例 (2.2%) に認められた。QOL評価においては、ベースラインから9ヶ月時点までの全般的健康状態 (global health status) のスコア変化において、両群間に臨床的および統計学的に有意な差は認められなかった (p=0.10) (Table 2)。しかし、PCI群では治療に関連する特定の副作用として、脱毛 (p<0.001) および疲労 (p<0.001) が観察群と比較して有意に悪化していた。また、探索的解析において、食欲不振 (p<0.001)、悪心・嘔吐 (p<0.001)、および下肢筋力低下 (6週時点で p<0.001, 3ヶ月時点で p=0.003) についても、PCI群で一時的な悪化が認められた。これらの有害事象の多くは一過性であり、適切な支持療法により管理可能であった。

考察/結論

本研究は、化学療法に奏効した進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者に対する予防的全脳照射 (PCI) の有用性を検証した歴史的な第III相ランダム化比較試験である。

先行研究との違い: 従来の臨床試験やメタアナリシスは、主に完全奏効が得られた限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC) 患者を対象としてPCIの有用性を証明してきた。これに対し、本試験は予後不良で完全奏効に至ることが稀なED-SCLC患者を対象とした点で、これまでの研究「と異なり」、部分奏効を含む化学療法奏効例全体におけるPCIの意義を検証した。

新規性: 本研究は、ED-SCLC患者においてPCIが症候性脳転移の発生リスクを大幅に低下させるだけでなく、無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) をも有意に延長することを「本研究で初めて」実証した。これは、これまで報告されていない極めて画期的な知見であり、ED-SCLCにおけるPCIの有用性を「新規に」確立するものである。特に、1年生存率を 13.3% から 27.1% へと約2倍に改善したことは、脳が「sanctuary site」として機能する本疾患において極めて重要な発見である。

臨床応用: 本試験の結果は、ED-SCLCの治療アルゴリズムにおける「臨床的意義」が極めて大きい。化学療法後に奏効が得られたED-SCLC患者に対して、PCIを標準治療として推奨する強力な根拠となり、世界各国のガイドライン(NCCNやESMOなど)が本結果に基づいて改訂された。脳転移による神経症状の出現を未然に防ぐことで、患者のQOLを維持しつつ生存期間を延長できるというアプローチは、実際の「臨床現場」における意思決定に決定的な影響を与え、実臨床への「臨床応用」を急速に推し進める結果となった。

残された課題: 一方で、本試験にはいくつかの「残された課題」や限界(limitation)が残されている。第一に、登録時に脳画像検査(MRI等)によるスクリーニングが必須とされておらず、潜在的な無症候性脳転移を有する症例が混入していた可能性が否定できない。第二に、詳細な神経認知機能評価が系統的に行われておらず、PCIに伴う長期的な高次脳機能への影響が十分に評価されていない。「今後の検討」課題として、適切な画像診断を用いた脳転移の定期的監視と、PCIの適応判断をどのように個別化するかが重要である。例えば、日本で実施された第III相試験(JCOG0901)では、治療前にMRIで脳転移がないことを確認し、経過観察中も定期的にMRIで監視する設定においては、PCIによるOSの改善効果は認められず、むしろ生存期間を短縮する傾向すら示された。このため、現代の臨床においては、高精度なMRIによる定期的監視が可能な環境下であれば、必ずしも全例にPCIを行う必要はないとする見解が主流となりつつある。したがって、どのような患者背景を持つ症例が真にPCIからベネフィットを得られるのか、バイオマーカーや画像診断を用いた個別化医療の確立が「今後の研究」の重要な方向性である。

方法

本試験は、欧州がん研究・治療機構 (EORTC; European Organisation for Research and Treatment of Cancer) の放射線腫瘍学グループおよび肺がんグループが主導した多施設共同ランダム化非盲検第III相臨床試験である (試験登録番号: NCT00016211)。 対象基準は、組織学的または細胞学的に確認された18〜75歳のED-SCLC患者であり、WHO (World Health Organization) パフォーマンスステータス (PS; performance status) が0〜2、かつ4〜6サイクルの初期化学療法後に奏効(完全奏効または部分奏効)が得られた症例とした。化学療法の最終サイクルから5週間以内にランダム化を行うこと、ベースラインで脳転移または髄膜播種の臨床的証拠がないこと、頭頸部への放射線治療歴がないこと、副腎皮質ステロイドの使用歴がないことなどを条件とした。 適格患者は、EORTCデータセンターにおいて、施設およびPSを層別因子とした最小化法を用いて、PCI群(照射群)または観察群(コントロール群)に1:1の割合でランダムに割り付けられた。 PCI群では、化学療法終了後4〜6週間以内に全脳照射を開始した。照射は対向2門で行われ、線量分割スケジュールは各参加施設が事前に選択した以下のいずれかとした:20 Gy/5回、20 Gy/8回、24 Gy/12回、25 Gy/10回、30 Gy/10回、または30 Gy/12回。 脳画像検査 (CTまたはMRI) は、スクリーニング時および経過観察においてルーチンには行わず、脳転移を疑う特定のキー症状(頭痛、悪心・嘔吐、認知・感情障害、痙攣、局所神経症状、頭蓋内圧亢進症状)が出現した場合にのみ実施する方針とした。 主要エンドポイントは、症候性脳転移発生までの時間とした。副次エンドポイントは、全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、QOL(EORTC QLQ-C30 [Quality of Life Questionnaire-Core 30] および脳腫瘍特異的モジュール QLQ-BN20 [Quality of Life Questionnaire-Brain Cancer Module 20] を使用)、有害事象、および治療コストとした。 統計解析においては、症候性脳転移の累積発生率の推定に累積生存率曲線を用い、群間比較にはGray’sテストを適用した。脳転移発生前の死亡は競合リスクとして扱った。OSおよびPFSの推定には Kaplan-Meier 法を用い、群間比較には log-rank テストを使用した。すべての解析は意図した治療群に従う ITT (intention-to-treat) 原則に基づいて実施された。