• 著者: Kunitoh H, Tamura T, Shibata T, Takeda K, Katakami N, Nakagawa K, Yokoyama A, Nishiwaki Y, Noda K, Watanabe K, Saijo N, JCOG Lung Cancer Study Group
  • Corresponding author: H Kunitoh (Department of Respiratory Medicine, Mitsui Memorial Hospital, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: British Journal of Cancer
  • 発行年: 2010
  • Epub日: 2010-06-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 20551960

背景

胸腺腫 (thymoma) は前縦隔に発生する腫瘍の中で最も頻度の高い上皮性腫瘍の一つであり、比較的緩徐な臨床経過をたどるものの、局所浸潤や胸膜播種、さらには遠隔転移を来す悪性腫瘍である。Masaoka stage I または II の限局期病変に対しては外科的完全切除が標準治療として確立されている。また、隣接臓器に浸潤を認める Masaoka stage III 症例であっても、完全切除が可能と判断される場合には、術後放射線治療を併用した外科的切除が推奨されてきた。しかしながら、診断時に切除不能と判断された Masaoka stage III 症例における最適な集学的治療アプローチについては、依然として議論があり未確立 (controversial) のままであった。これが本疾患における重大な臨床的知識ギャップ (knowledge gap) となっていた。

先行研究において、Loehrer らの ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) による PAC 療法 (CDDP + ADM + CPM) と胸部放射線治療の併用療法や、Kim らの PAC 療法に手術、放射線治療、および地固め化学療法を組み合わせた多施設共同試験などが報告されてきたが、これらの前向き試験は症例数が極めて限定的であり、かつ Masaoka stage IV 症例や胸腺癌 (thymic carcinoma) などの予後が異なる組織型を混在させて解析していた。そのため、切除不能な Masaoka stage III 胸腺腫単独に焦点を絞った前向き臨床試験のエビデンスは決定的に不足していた。

胸腺腫は化学療法感受性が高い腫瘍として知られており、CDDP (cisplatin)、VCR (vincristine)、ADM (doxorubicin)、ETP (etoposide) などの薬剤が活性を示す。Goldie-Coldman 仮説に基づき、腫瘍細胞の早期耐性化を防ぐ目的で、G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) 支援下で週1回投与を行う dose-dense 化学療法である CODE 療法 (CDDP + VCR + ADM + ETP) が開発され、小細胞肺癌において良好な忍容性と治療強度の維持が示されていた。この dose-dense 導入化学療法を局所進行胸腺腫に適用することで、高い腫瘍縮小効果による後続の完全切除率向上および局所制御の改善が期待された。しかし、播種を伴う stage IV 胸腺腫を対象とした JCOG 9605 試験 Kunitoh et al. BrJCancer 2009 では、dose-dense CODE 療法は従来型化学療法と比較して生存ベネフィットの明らかな優位性を示せなかった。このため、腫瘍量が比較的限定されている局所進行 stage III 胸腺腫における本戦略の臨床的意義を検証することが強く求められていた。

目的

本研究の目的は、当初切除不能と判定された Masaoka stage III 胸腺腫患者を対象に、用量強度を高めた週1回投与の dose-dense 導入化学療法 (CODE 療法) を実施し、その後に外科的切除および/または胸部放射線治療を組み合わせる集学的治療戦略の安全性と有効性を評価することである。本試験は、JCOG (Japan Clinical Oncology Group) 肺がん治療研究グループが実施した多施設共同前向き第 II 相臨床試験 (JCOG 9606) として実施された。主要評価項目 (primary endpoint) は無増悪生存期間 (progression-free survival, PFS) と設定された。副次評価項目は、安全性 (有害事象プロファイル)、客観的奏効率 (overall response rate, ORR)、全生存期間 (overall survival, OS)、および外科的完全切除 (R0 切除) 率とされた。

結果

患者背景と治療完遂状況: 1997年7月から2005年4月までに日本国内の 8 施設から計 23 例の患者が登録されたが、集積速度が極めて緩慢であったため、2005年に登録が打ち切られた。登録された 23 例のうち、2 例は中央レビューにより組織型不適格 (胸腺癌 1 例、悪性リンパ腫 1 例) と判定された。このため、毒性解析は全登録症例 23 例を対象とし、有効性、手術成績、および生存解析は適格症例 21 例を対象として実施された。適格 21 例の背景は、男性 17 例、女性 6 例、年齢中央値 56 歳 (範囲 28-70 歳)、ECOG PS 0/1/2 = 9/14/0 例であった。MG 合併例は 2 例であった。組織型分類は、リンパ球優位型 (lymphocyte predominance) 10 例、混合細胞型 (mixed cell) 4 例、上皮細胞優位型 (epithelioid cell) 6 例、紡錘形細胞型 (spindle cell) 1 例であった (Table 1)。当初の切除不能理由 (重複あり) は、肺動脈幹浸潤 10 例、上大静脈浸潤 8 例、大動脈浸潤 6 例、広範な心膜・心筋浸潤 4 例、胸骨浸潤 1 例であった。計画された 9 週間の CODE 療法を完遂できたのは 23 例中 13 例 (57%) にとどまり、残る 10 例は途中で治療を中止した。中止理由は、患者の拒否が 6 例、主治医の判断による早期局所治療への移行が 2 例、病勢進行 (PD) が 1 例、不適格が 1 例であった。

化学療法の毒性プロファイル: 化学療法中の主な有害事象は血液毒性であり、Grade 3 または 4 の好中球減少を 61% (n=14/23、内訳は Grade 3 が 3 例、Grade 4 が 11 例)、白血球減少を 57% (n=13/23)、貧血を 83% (n=19/23、JCOG 基準において貧血の Grade 4 は未定義)、血小板減少を 26% (n=6/23、Grade 3 が 4 例、Grade 4 が 2 例) に認めた (Table 2)。非血液毒性については、Grade 3 の感染症を 13% (n=3/23)、Grade 3 の嘔吐を 13% (n=3/23)、Grade 3 の下痢を 4% (n=1/23)、Grade 3 の ALT 上昇を 4% (n=1/23) に認めた。腎毒性 (クレアチニン上昇)、肺毒性 (PaO2 低下)、末梢神経障害、および口内炎において Grade 3 以上の重篤な毒性は観察されなかった。治療関連死亡 (TRD) は 0 例であり、毒性プロファイルは十分に管理可能であった。

客観的奏効率と手術成績: 適格 21 例における導入化学療法の治療効果は、完全奏効 (CR) 0 例、部分奏効 (PR) 13 例、安定 (NC) 7 例、病勢進行 (PD) 1 例であり、客観的奏効率 (ORR) は 62% (95% CI: 38-82%) であった (Table 3)。病勢コントロール率 (DCR) は 95% (n=20/21, 95% CI: 76-100%) と極めて高値であった。適格 21 例のうち、13 例 (62%) に対し化学療法終了後 26-73 日 (中央値 47 日) の時点で開胸術が施行された (Figure 1)。手術施行例 13 例の切除成績は、完全切除 (R0) が 9 例 (適格 21 例中 43%)、顕微鏡的残存 (R1) が 1 例、肉眼的残存 (R2) が 1 例、試験開胸 (probe thoracotomy) が 2 例であった。合併切除された臓器は、心膜 8 例、肺実質 8 例、胸膜 7 例、上大静脈 2 例、腕頭静脈 2 例などであった。術後病理学的評価において、切除標本中に生存腫瘍細胞を認めない病理学的完全奏効 (pathological CR, pCR) が 3 例 (適格 21 例中 14%) で達成された。

放射線治療の実施状況と生存期間分析: 開胸術を施行された 13 例のうち、7 例に胸部放射線治療が追加された。R0 切除例 9 例のうち 4 例に術後照射 (48 Gy が 3 例、8 Gy で中断が 1 例) が行われ、R1 切除例 1 例に 50 Gy、試験開胸にとどまった 2 例に 60 Gy が照射された。非手術例 8 例のうち 5 例には 60 Gy の放射線治療が実施された。1 例において術後放射線治療中に新規の PRCA (pure red cell aplasia) 発症を認めたが、照射中止と免疫抑制療法により回復した。追跡期間中央値 4 年の時点において、適格 21 例全体の PFS 中央値は 4.5 年 (95% CI: 2.3-未達) であった。2 年 PFS 割合は 80%、5 年 PFS 割合は 43% (95% CI: 21-63%)、8 年 PFS 割合は 32% であった (Figure 2)。OS 中央値は未達であり、5 年 OS 割合は 85% (95% CI: 61-95%)、8 年 OS 割合は 69% であった。手術の有無による予後解析では、切除群 (R0/R1/R2 切除施行、n=11) と非切除群 (試験開胸および非手術、n=10) の間で生存割合に有意差を認めなかった。5 年 PFS 割合は切除群 46% vs 非切除群 39% (log-rank p=0.75) であり (Figure 3)、5 年 OS 割合は切除群 91% vs 非切除群 79% (log-rank p=0.59) であった (Figure 4)。R0 切除を達成した 9 例における 5 年 PFS 割合は 56% (95% CI: 20-83%)、5 年 OS 割合は 89% (95% CI: 43-98%) であった。

考察/結論

先行研究との比較: 本研究における導入 CODE 療法の客観的奏効率 (ORR) 62% (95% CI: 38-82%) は、先行研究である Loehrer らの ECOG 試験における PAC (cisplatin + adriamycin + cyclophosphamide) 療法 + 放射線治療の ORR 70% (95% CI: 47-87%) や、Kim らの PAC 療法 + 手術 + 放射線治療試験における ORR 77% (95% CI: 55-92%) と比較して同等の治療開発レンジに留まった。したがって、dose-dense 戦略が従来型の多剤併用化学療法に対して明確な優位性を示すことはできなかった。しかしながら、先行する前向き試験の多くが予後の異なる胸腺癌や stage IV 症例を混在させていたのに対し、本試験は組織型を胸腺腫に限定し、かつ Masaoka stage III 症例のみを対象とした前向きコホートとして極めて純度の高いデータを提示した点で、これまでの報告と異なり、一線を画している。また、stage IV 症例を対象とした JCOG 9605 試験 Kunitoh et al. BrJCancer 2009 では化学療法の完遂率が 87% と高値であったのに対し、本 JCOG 9606 試験では 57% に低下した。

新規性: 本研究は、切除不能な局所進行 Masaoka stage III 胸腺腫単独を対象として、dose-dense 導入化学療法に手術および放射線治療を組み合わせた集学的治療の長期予後を前向きに検証した世界初の臨床試験である。特に、化学療法後に外科的完全切除 (R0) を達成した症例と、切除不能であった症例との間で、PFS および OS に統計学的な有意差が認められなかったという事実は極めて新規性が高い。この結果は、不完全切除であっても腫瘍量を減らす debulking 手術の有用性を支持する一部の報告に対し、局所進行胸腺腫における外科的切除の追加効果が限定的である可能性を示唆する、これまで報告されていない新たな知見である。

臨床応用: 本試験の結果から、切除不能 stage III 胸腺腫に対する dose-dense CODE 療法は、従来の PAC 療法などの標準治療を置き換えるべきレジメンとはみなされない。また、導入療法後に完全切除が困難と予想される症例に対する外科治療の臨床応用は確立されておらず、無理な拡大手術を避けて高用量 (60 Gy) の根治的胸部放射線治療を単独で施行する集学的アプローチでも、同等の長期生存割合が得られる可能性が示唆された。今後の臨床現場における bench-to-bedside の展開として、導入化学療法により pCR を得られる可能性の高い症例を予測するバイオマーカーの同定や、真に外科的切除の恩恵を受ける症例の選択基準の確立が求められる。

残された課題と limitation: 本研究における最大の limitation は、疾患の希少性に起因する集積不振により、予定登録数 30 例を満たせず 23 例 (適格 21 例) で試験が早期終了したことによる統計学的検出力の不足である。第 2 に、中央病理レビューが実施されておらず、WHO 組織分類 Okumura et al. Cancer 2002 との相関や予後解析が行えなかった点である。第 3 に、旧 JCOG 毒性基準の制限により、治療完遂を阻害した要因である倦怠感などの詳細な評価が困難であった点、第 4 に、切除群と非切除群の比較において、切除可能と判断された症例自体の予後が良いという選択バイアス (selection bias) が排除しきれない点である。今後の方向性として、アムルビシンやイリノテカンなどの新規細胞傷害性抗がん薬や分子標的薬を用いた次世代の JCOG 臨床試験の立案、および国際共同研究によるトランスレーショナルリサーチの推進が必要である。

方法

本試験 (JCOG 9606) は、未治療の組織学的に確認された切除不能 Masaoka stage III 胸腺腫患者を対象とした多施設共同前向き第 II 相試験 (phase II trial) である。Masaoka 分類 Masaoka et al. Cancer 1981 に基づき、各施設の外科医、放射線腫瘍医、および腫瘍内科医の3者による合意のもとで「切除不能」と判定された症例を登録した。胸腺癌、カルチノイド、リンパ腫などの非胸腺腫組織型は除外された。主な適格基準は、年齢 15-70 歳、ECOG performance status (PS) 0-2、十分な臓器機能 (白血球数 4,000/microL 以上、血小板数 100,000/microL 以上、ヘモグロビン 10.0 g/dL 以上、血清クレアチニン 1.5 mg/dL 未満、クレアチニンクリアランス 60 mL/min 以上、PaO2 70 mmHg 以上、術後予測 1 秒量 50% 以上) である。重症筋無力症 (myasthenia gravis, MG) の合併は許容されたが、赤芽球癆 (pure red cell aplasia, PRCA) や低ガンマグロブリン血症などの重篤な合併症を有する症例は除外された。

治療プロトコルは以下の通りである。 (1) 導入化学療法 (CODE 療法): 9 週間のスケジュールで、CDDP 25 mg/m2 (1-9 週の毎週 day 1)、VCR 1 mg/m2 (1, 2, 4, 6, 8 週の day 1)、ADM 40 mg/m2 (1, 3, 5, 7, 9 週の day 1)、ETP 80 mg/m2 (1, 3, 5, 7, 9 週の day 1-3) を静脈内投与した。好中球減少対策として、G-CSF (filgrastim 50 microg/m2/day または lenograstim 2 microg/kg/day) を毎週皮下投与した。 (2) 外科的切除: 化学療法終了後 6 ヶ月以内 (推奨は 3 ヶ月以内) に切除可能と再判定された症例に対し、腫瘍切除および胸腺全摘術を施行した。 (3) 放射線治療: 完全切除 (R0) 例には術後 48 Gy/24 分割の胸部放射線治療を外科マージンおよび縦隔に照射した。不完全切除 (R1/R2) 例または非切除例には、縦隔および残存腫瘍に対して 60 Gy/30 分割の照射をリニアック (4 MeV 以上) を用いて実施した。

腫瘍縮小効果は WHO 基準 (2次元計測) に従い、中央画像レビューにより判定された。有害事象は JCOG 毒性基準 (NCI-CTC version 1 をベースに改訂されたもの) を用いて評価した。統計解析では、Kaplan-Meier 法を用いて PFS および OS を推定した。群間比較には log-rank test を用いた。当初の目標集積数は、疾患の希少性を考慮して 4 年間で 30 例 (期待 5 年 PFS 割合 60%、95% 信頼区間 40-77%) と設定された。解析には SAS ソフトウェア (version 8.2/9.1) が使用された。