• 著者: Kunitoh H, Tamura T, Shibata T, Nakagawa K, Takeda K, Nishiwaki Y, Osaki Y, Noda K, Yokoyama A, Saijo N, JCOG Lung Cancer Study Group
  • Corresponding author: H Kunitoh (Department of Respiratory Medicine, Mitsui Memorial Hospital, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: British Journal of Cancer
  • 発行年: 2009
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19809436

背景

胸腺腫 (thymoma) は前縦隔腫瘍の中で最も頻度が高い希少な胸部上皮性腫瘍である。臨床的には比較的緩徐な経過をたどるものの、胸膜腔や心膜腔への播種、あるいは遠隔転移をきたすことがあり、重症筋無力症 (myasthenia gravis, MG) や赤芽球癆 (pure red cell aplasia, PRCA) などの傍腫瘍症候群を高頻度に合併することが知られている。臨床病期分類には Masaoka et al. Cancer 1981 のMasaoka分類が広く用いられており、胸膜・心膜播種を伴うIVa期や、リンパ行性・血行性転移を伴うIVb期の播種性進行期胸腺腫に対しては全身化学療法が治療の基本となる。胸腺腫は化学療法感受性が比較的高く、従来の多剤併用化学療法において50-70%の奏効率が報告されてきた。しかし、これまでの臨床試験は胸腺腫と胸腺癌 (thymic carcinoma) を混在させた不均一な集団を対象としたものが多く、純粋な胸腺腫のみを対象とした前向き多施設共同試験は極めて少なかった。さらに、進行期胸腺腫に対する最適な化学療法レジメンや治療戦略は未解明 (controversial) であり、これが本領域における重要な gap in knowledge であった。Dose-dense化学療法であるCODE療法 (シスプラチン+ビンクリスチン+アドリアマイシン+エトポシド) は、G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) の支援下で投与間隔を短縮し、用量強度 (dose intensity) を高めることで治療効果を最大化する治療法である。小細胞肺癌などの化学療法感受性腫瘍においてその有効性が示されており、Goldie-Coldman仮説に基づけば胸腺腫に対しても理論的優位性が期待されたが、これまで前向きに評価したエビデンスは不足していた。このように、播種を伴う進行期胸腺腫に対するdose-dense戦略の治療開発は手薄であり、検証的アプローチが強く求められていた。

目的

Masaoka分類IVa期またはIVb期の未治療播種性胸腺腫患者を対象に、G-CSF支援下における週1回投与のdose-dense CODE化学療法 (シスプラチン+ビンクリスチン+アドリアマイシン+エトポシド) の有効性と安全性を評価することを目的とした。主要評価項目は無増悪生存期間 (progression-free survival, PFS) とし、副次評価項目は毒性・安全性、客観的奏効率 (overall response rate, ORR)、再発パターン、および全生存期間 (overall survival, OS) と設定した。本研究は、日本臨床腫瘍研究グループ (Japan Clinical Oncology Group, JCOG) の肺がん活動グループが実施した多施設共同前向き第II相試験 (JCOG 9605) である。

結果

患者背景と治療完遂度: 1997年7月から2004年3月までに30例が登録された。このうち3例は中央レビュー等で組織型相違 (胸腺癌2例、カルチノイド1例) が判明し不適格となったため、有効性および生存解析は適格例27例を対象とし、安全性解析は登録全30例を対象とした。適格27例の背景は、男性16例、女性11例、年齢中央値47.5歳 (範囲29-69歳)、ECOG PS 0/1/2=11/15/1、Masaoka病期 IVa期20例、IVb期7例であった。組織型は Okumura et al. Cancer 2002 でも言及されるWHO分類に準じ、リンパ球優位型12例、混合型9例、上皮細胞優位型4例、明細胞型1例、分類不能1例であった。計画された9週間の化学療法は30例中26例 (87%) が完遂し、投与期間中央値は10週間 (範囲9-12週間) であった (Table 1)。

安全性と毒性プロファイル: 主な毒性は血液毒性であり、G-CSF支援下において忍容性は良好であった。Grade 3/4の有害事象として、好中球減少が87% (n=26/30、うちGrade 4が21例)、白血球減少が67% (n=20/30)、貧血が83% (n=25/30)、血小板減少が27% (n=8/30) に認められた。発熱性好中球減少症を含む感染症 (Grade 3) は10% (n=3/30) と限定的であった。非血液毒性では、Grade 3の嘔吐および便秘がそれぞれ7% (n=2/30) に認められたのみで、ALT上昇、クレアチニン上昇、PaO₂低下、末梢神経障害のGrade 3以上は認められなかった。治療関連死亡は0例であった (Table 2)。

腫瘍縮小効果と奏効率: 中央画像レビューによる適格27例の奏効判定において、完全奏効 (CR) は0例、部分奏効 (PR) は16例、安定 (NC) は10例、進行 (PD) は1例であった。客観的奏効率 (ORR) は59% (95% CI 39-78%) であった。Masaoka病期別では、IVa期のORRが65% (n=13/20) であったのに対し、IVb期では29% (n=2/7) であった。この結果は、従来の通常用量レジメンであるADOC療法やPAC療法の奏効率 (50-90%) と比較して顕著な上乗せ効果を示すものではなかった (Table 3)。

生存期間と予後解析: 追跡期間中央値において、適格27例全体のPFS中央値は0.79年 (95% CI 0.52-1.40年) であり、当初期待された2年を大きく下回った。1年PFS率は37%、2年PFS率は15%であった。一方で、OS中央値は6.1年と長期であり、2年OS率は89%、5年OS率は65%と良好な生存成績を示した (Figure 1)。Masaoka病期別の解析では、PFS中央値はIVa期で0.79年、IVb期で0.78年と両群間で同等であったが (Figure 3)、OS中央値はIVa期で6.8年、IVb期で3.5年と、IVa期において良好な生存傾向が示された (Figure 2)。なお、Masaoka病期別の生存比較において、PFS中央値は IVa vs IVb で 0.79 vs 0.78 years (HR 1.07, 95% CI 0.45-2.52, p=0.88) と同等であったのに対し、OS中央値は IVa vs IVb で 6.8 vs 3.5 years (HR 0.41, 95% CI 0.15-1.12, p=0.08) と、IVa期において良好な生存傾向が示された。

再発パターンと後続治療: 追跡期間中に適格27例中26例 (96%) が病勢進行を経験した。初回再発部位は、原発巣のみが7例 (27%)、胸膜・心膜播種のみが7例 (27%)、原発巣+播種が9例 (35%) であり、全体の88% (n=23/26) が胸腔内の局所領域再発であった。遠隔転移による初発再発は3例 (12%) のみであった。プロトコール治療終了後、18例 (67%) に対し手術 (n=8) や放射線治療 (n=13) などの局所治療が追加され、病勢進行後には16例 (59%) が二次化学療法 (プラチナ再投与、イリノテカン、タキサン系薬など) を受けた。

考察/結論

先行研究との比較: 本研究におけるdose-dense CODE療法の奏効率59%は、従来の通常用量レジメンであるADOC療法の81-91%やPAC療法の50-77%と異なり、これらを凌駕するものではなく同等の治療活性にとどまった。PFS中央値0.79年も、先行研究から期待された期間より短い結果となった。しかし、アントラサイクリン系薬を含まないPE療法やLemma et al. JClinOncol 2011 によるカルボプラチン+パクリタキセル(CP)療法の奏効率35-56%と比較すると高い活性を示しており、胸腺腫化学療法におけるアントラサイクリン系薬とプラチナ系薬の併用の重要性を再確認する結果となった。

新規性: 本研究は、予後や生物学的特性の異なる胸腺癌を厳格に除外し、純粋な播種性胸腺腫患者のみを対象としてdose-dense戦略を前向き多施設共同試験で検証した、これまで報告されていない新規の臨床試験である。JCOG 9605として、Stage IIIを対象としたJCOG 9606と並行して実施され、進行期胸腺腫における貴重な前向きエビデンスを構築した。

臨床応用: 本研究結果から、dose-dense CODE療法は従来の通常用量レジメンを置き換える標準治療にはなり得ないことが示された。臨床現場における実務的な含意として、現行のアントラサイクリン基盤レジメン (ADOCやPAC) の位置づけが支持される。また、PFSが短い一方でOSが極めて長期であること、および再発の多くが胸腔内局所にとどまることから、特にMasaoka IVa期においては、化学療法後に手術や放射線治療を組み合わせる集学的治療アプローチ (bench-to-bedside) の有用性が示唆された。

残された課題: 本研究のlimitationとして、第一に登録当時の体制構築の限界から中央病理レビューが実施できず、詳細なWHO組織分類別の治療効果判定が困難であった点が挙げられる。第二に、希少疾患ゆえにサンプルサイズが小さく、統計的な検出力が十分ではない。第三に、プロトコールで規定されたCT評価間隔 (6ヶ月) が長すぎたため、実際のPFSを過小評価した可能性が残されている。今後の検討課題として、新規分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の導入、およびIVa期における外科的切除を含めた集学的治療の至適化に向けた前向き試験の実施が求められる。

方法

対象基準: 組織学的に胸腺腫と確定診断された化学療法未治療のMasaoka分類IVa期またはIVb期の患者。Thymic carcinoma、カルチノイド、悪性リンパ腫は除外した。適格要件は、年齢15-70歳、Eastern Cooperative Oncology Group performance status (ECOG PS) 0-2、十分な臓器機能 (白血球数≥4,000/μL、血小板数≥100,000/μL、ヘモグロビン≥10.0 g/dL、血清クレアチニン<1.5 mg/dL、クレアチニンクリアランス (CCr) ≥60 mL/min、血清ビリルビン<1.5 mg/dL、AST/ALT<施設正常上限の2倍、PaO₂≥70 mmHg) とした。重篤な合併症 (PRCAや低ガンマグロブリン血症) を有する症例は除外したが、コントロール良好なMGの合併は許容した。

治療プロトコール: 9週間のCODE療法を投与した。

  • Week 1: シスプラチン (CDDP) 25 mg/m² (day 1) + ビンクリスチン (VCR) 1 mg/m² (day 1) + アドリアマイシン (ADM) 40 mg/m² (day 1) + エトポシド (ETP) 80 mg/m² (days 1-3)。
  • Weeks 3, 5, 7, 9: CDDP 25 mg/m² (day 1) + ADM 40 mg/m² (day 1) + ETP 80 mg/m² (days 1-3)。
  • Weeks 2, 4, 6, 8: CDDP 25 mg/m² (day 1) + VCR 1 mg/m² (day 1)。 G-CSF (filgrastim 50 μg/m²/day または lenograstim 2 μg/kg/day) を、化学療法投与日および白血球数が10,000/μL以上の時期を除き、毎週皮下投与した。白血球数<2,000/μLまたは血小板数<50,000/μLの場合は治療を1週間延期し、減量は行わなかった。プロトコール治療完遂後の手術や放射線治療などの局所治療は主治医判断で許容した。

評価と統計解析: 腫瘍縮小効果はWHO基準 (Miller 1981) に基づき2次元計測で評価し、中央画像レビューにより判定した。毒性はJCOG毒性基準 (NCI-CTC v1ベース) を用いて評価した。生存期間の推定には Kaplan-Meier 法を用い、PFSおよびOSを算出した。希少疾患であるため統計学的なサンプルサイズ設計は行わず、集積可能性を考慮して目標症例数を30例に設定した。本研究は、JCOG 9605として登録された前向き多施設共同第II相試験 (phase II trial) であり、主要評価項目 (primary endpoint) であるPFSの解析には Kaplan-Meier 法および log-rank test を用いて評価した。