• 著者: Mitsugu Omasa, Hiroshi Date, Takashi Sozu, Tosiya Sato, Kanji Nagai, Kohei Yokoi, Tatsuro Okamoto, Norihiko Ikeda, Fumihiro Tanaka, Yoshimasa Maniwa
  • Corresponding author: Hiroshi Date (Department of Thoracic Surgery, Graduate School of Medicine, Kyoto University, Kyoto, Japan)
  • 雑誌: Cancer
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25565590

背景

胸腺上皮腫瘍 (TET) は比較的稀な腫瘍であり、主に胸腺癌と胸腺腫に分類される。胸腺癌はTET全体の15%から20%を占め、胸腺腫と比較してより悪性度の高い挙動を示すことが知られている。TETの病期分類にはMasaoka et al. Cancer 1981によるMasaoka病期分類が広く用いられているが、統一された公式な分類システムは未だ確立されていない。TETの主要な治療法は外科的切除であるが、腫瘍の放射線感受性が高いことから、放射線療法も緩和的または術後補助療法として適用されてきた。しかし、術後放射線療法 (PORT) の有効性については長年議論が続いており、その適応基準は各施設の判断に委ねられており、統一されたガイドラインが存在しない状況であった。International Thymic Malignancy Interest Group (ITMIG) もPORTのガイドラインを設定しておらず、この領域には依然として大きな知識ギャップが存在する。

従来のPORTに関する報告は、症例数が少なく、胸腺癌と胸腺腫を区別せずに解析しているものが多かった。しかし、これら二つの組織型は生物学的挙動が大きく異なるため、それぞれに対するPORTの効果を別々に検討することが極めて重要である。例えば、胸腺癌は自己免疫疾患との関連が少なく、胸腺腫よりも予後が不良であることが報告されている。このような背景から、PORTの真の有効性を評価するためには、大規模なコホート研究に基づき、組織型および病期別に層別化した詳細な解析が不足していた。特に、Masaoka stage IIおよびIIIのTETは、局所再発のリスクが比較的高いため、PORTの潜在的な役割を評価する上で重要な対象となる。本研究は、この未解明な領域に焦点を当て、大規模なデータベースを用いてPORTの有効性を明らかにすることを目的とした。

目的

本研究の目的は、日本胸腺研究会 (JART) データベースに登録された大規模な患者データを用いて、Masaoka stage IIおよびIIIの胸腺癌および胸腺腫に対する術後放射線療法 (PORT) の有効性を、無再発生存期間 (RFS) および全生存期間 (OS) の観点から明確にすることである。特に、組織型(胸腺癌と胸腺腫)および病期(stage IIとIII)別に層別化して解析することで、PORTが最も効果を発揮する患者群を特定し、その臨床的意義を評価することを目指した。

結果

コホート全体の患者特性と概要: JARTデータベースに登録された2,835例中、適格基準を満たした1,265例が解析対象となった。患者の内訳は男性574例 (45.4%)、年齢中央値59歳 (範囲 18-86歳) であった。診断は胸腺癌155例 (12.3%)、胸腺腫1,110例 (87.7%) であり、Masaoka stage IIが895例 (70.8%)、stage IIIが370例 (29.2%) であった。PORTは403例 (31.9%) に施行された。追跡期間中央値は1,704日であった。全体での5年RFS率はPORT群で78.0%、非PORT群で83.5%であり、共変量(組織型、病期、残存腫瘍)で調整したCox回帰分析では、PORTのRFSに対する有意な効果は認められなかった (HR 0.76; 95% CI 0.58-1.01; p=0.116)。

胸腺癌に対するPORTのRFS改善効果: Masaoka stage IIの胸腺癌において、PORT群 (n=25) の5年RFS率は91.3%であったのに対し、非PORT群 (n=27) では68.1%であった (Figure 2A)。Masaoka stage IIIの胸腺癌では、PORT群 (n=51) の5年RFS率が50.5%であったのに対し、非PORT群 (n=44) では26.1%と、特に顕著な差が認められた (Figure 2B)。Masaoka病期および残存腫瘍で調整したCox回帰分析の結果、stage IIおよびIIIの胸腺癌全体におけるPORTのRFSに対するハザード比は0.48 (95% CI 0.30-0.78; p=0.003) であり、PORTがRFSを有意に改善することが示された (Table 4)。これは、PORTが胸腺癌の再発リスクを約半分に低減することを示唆する。

胸腺癌に対するPORTのOSへの影響: 胸腺癌におけるPORTのOSへの効果は統計的に有意ではなかった。Stage II胸腺癌では、PORT群 (n=25) の5年OS率が91.1%であったのに対し、非PORT群 (n=30) では86.8%であった (Figure 4A)。Stage III胸腺癌では、PORT群 (n=55) の5年OS率が65.0%であったのに対し、非PORT群 (n=44) では64.0%と、両群間で大きな差は認められなかった (Figure 4B)。Masaoka病期および残存腫瘍で調整したCox回帰分析では、stage IIおよびIIIの胸腺癌全体におけるPORTのOSに対するハザード比は0.94 (95% CI 0.51-1.75; p=0.850) であり、OSの有意な改善は確認されなかった (Table 5)。

胸腺腫に対するPORTのRFSおよびOSへの効果: Masaoka stage IIの胸腺腫において、PORT群 (n=196) の5年RFS率は93.4%であったのに対し、非PORT群 (n=615) では92.3%と、両群間でほぼ同等であった (Figure 2C)。Masaoka stage IIIの胸腺腫では、PORT群 (n=119) の5年RFS率が62.0%であったのに対し、非PORT群 (n=143) では69.3%と、PORT非施行群でむしろ数値上良好な傾向が認められた (Figure 2D)。Masaoka病期および残存腫瘍で調整したCox回帰分析では、stage IIおよびIIIの胸腺腫全体におけるPORTのRFSに対するハザード比は0.98 (95% CI 0.70-1.37; p=0.905) であり、有意な差は認められなかった (Table 4)。OSについても、stage II胸腺腫ではPORT群 (n=199) の5年OS率が96.5%に対し、非PORT群 (n=637) では96.2%であった (Figure 4C)。Stage III胸腺腫では、PORT群 (n=122) の5年OS率が92.9%に対し、非PORT群 (n=147) では89.7%であった (Figure 4D)。Masaoka病期および切除完全性で調整したCox回帰分析では、stage IIおよびIIIの胸腺腫全体におけるPORTのOSに対するハザード比は0.78 (95% CI 0.47-1.31; p=0.350) であり、有意な改善は認められなかった (Table 5)。

Stage III胸腺腫のサブグループ解析: Stage III胸腺腫におけるPORTの有効性について、WHO組織型、浸潤臓器、腫瘍径、重症筋無力症の有無、切除完全性などのサブグループ解析を実施したが、いずれの因子もPORTの有効性に関連するものは認められなかった (Figure 3)。50例未満のサブグループは解析から除外された。

考察/結論

本研究は、JARTデータベースを用いた大規模な後方視的解析であり、Masaoka stage IIおよびIIIの胸腺上皮腫瘍に対する術後放射線療法 (PORT) の有効性を、組織型別に詳細に評価した点で新規性がある。特に、胸腺癌と胸腺腫でPORTの適応が異なることを明確に示した最大規模の解析である。

先行研究との違い: 従来の多くの研究では、胸腺癌と胸腺腫を区別せずにPORTの有効性を評価しており、結果が混在していた。例えば、Kondo et al. AnnThoracSurg 2003による日本の大規模コホート研究では、共変量調整なしでPORTの有効性に疑問を呈していた。しかし、本研究は、Masaoka病期、組織型、切除完全性などの重要な共変量を調整したCox回帰分析を用いることで、より信頼性の高い結果を導き出した。また、Falkson et al. JThoracOncol 2009によるシステマティックレビューや欧州からの大規模コホート研究では補助療法の有効性が示唆されていたが、本研究は組織型別にその恩恵を受ける患者群を特定した点で、これまでの報告と異なる知見を提供している。

新規性: 本研究で初めて、Masaoka stage IIおよびIIIの胸腺癌においてPORTが無再発生存期間 (RFS) を有意に改善すること (HR 0.48; 95% CI 0.30-0.78; p=0.003) を大規模データで実証した。特にstage III胸腺癌では、PORT群の5年RFS率が50.5%であったのに対し、非PORT群では26.1%と、その効果が顕著であった。これは、胸腺癌が比較的高い局所再発率と放射線感受性を持つことに起因すると考えられる。一方、胸腺腫ではstage II/IIIともにPORTのRFSおよびOSへの有益な効果は認められず、stage III胸腺腫のどのサブグループにおいてもPORTの有効性を示す因子は同定されなかった。この結果は、胸腺腫におけるPORTの適応を再考する必要があることを示唆する。

臨床応用: 本知見は、胸腺上皮腫瘍の術後補助療法における臨床現場での意思決定に直接的な影響を与える。特に、Masaoka stage IIおよびIIIの胸腺癌患者に対しては、PORTを積極的に検討すべき強力な根拠を提供する。これにより、胸腺癌患者の再発リスクを低減し、予後改善に貢献する可能性がある。一方、胸腺腫患者に対しては、PORTのルーチンな施行を見直し、不必要な治療による副作用や医療費の負担を軽減できる可能性がある。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、後方視的データベース研究であるため、選択バイアスが完全に排除できない点である。特に、胸腺癌のPORT群には残存腫瘍症例が非PORT群よりも多く含まれていた可能性があり、これはPORTの効果を過小評価する方向に働く可能性がある。第二に、JARTデータベースには放射線治療の詳細(線量、照射野、技術など)や再発後の治療に関する情報が不足しており、これらの影響を評価できなかった。第三に、術後化学療法を受けた患者数が少なく、その影響を十分に評価できなかった。今後の検討課題として、特に胸腺癌に対するPORTの最適線量や照射範囲を確立するための前向き無作為化比較試験が必要である。また、胸腺腫においてPORTが有効でない理由として、stage II胸腺腫の5年RFSがすでに90%以上と良好であること、stage III胸腺腫でも局所制御以外の全身転移が再発の主因である可能性が挙げられるが、これをさらに検証する研究も重要である。

方法

本研究は、JARTデータベースを用いた多施設後方視的解析である。JARTは1982年に設立された非営利研究組織であり、1991年から2010年までの期間に日本の主要32施設で外科的に治療された胸腺上皮腫瘍患者2,835例の記録が登録されている。

患者選択: 適格基準は、1) 組織学的に確認された胸腺癌または胸腺腫、2) Masaoka stage IIまたはIIIであった。除外基準は、1) 胸腺神経内分泌腫瘍、2) 肉眼的残存腫瘍が腫瘍体積の20%を超える症例、3) PORT情報が欠損している症例とした。最終的に、胸腺癌155例(12.3%)と胸腺腫1,110例(87.7%)の計1,265例が解析対象となった。このうち403例(31.9%)がPORTを受けており、残りの862例がPORT非施行群であった。

データ収集: 患者の臨床的および人口統計学的情報(性別、年齢、重症筋無力症の合併、切除完全性、腫瘍径、浸潤臓器、WHO組織型分類、術後化学療法、再発、予後)がJARTデータベースから抽出された。

統計解析: 年齢および最大腫瘍径は平均値±標準偏差および中央値(範囲)で要約され、カテゴリカル変数は度数およびパーセンテージで要約された。連続変数についてはWilcoxon順位和検定、カテゴリカル変数についてはカイ二乗検定またはFisherの正確検定が適切に用いられ、PORT群と非PORT群の患者背景が比較された。無再発生存期間 (RFS) および全生存期間 (OS) は手術日から算出された。RFSおよびOSのイベント発生までの期間曲線はKaplan-Meier法を用いて推定され、PORT群と非PORT群の曲線間の差はログランク検定で評価された。ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) は、Masaoka病期、組織型、および切除完全性を調整したCox比例ハザードモデルを用いて算出された。全てのP値は両側検定であり、P値が0.05未満を統計的に有意とみなした。全ての統計解析はSAS 9.3 (SAS Institute, Inc, Cary, NC) を用いて実施された。本研究は京都大学大学院医学研究科倫理委員会 (E1904) および各参加施設の倫理委員会によって承認された。