- 著者: Napieralska A, Majewski W, Osewski W, Miszczyk L
- Corresponding author: Aleksandra Napieralska (Radiotherapy Department, Maria Skłodowska-Curie Memorial Cancer Center and Institute of Oncology, Gliwice Branch, Gliwice, Poland)
- 雑誌: Journal of Thoracic Disease
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-07-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 30174881
背景
縦隔原発セミノーマ (primary mediastinal seminoma) は、胚細胞腫瘍の中でも極めて稀な疾患であり、1955年にWoolnerらによって初めて報告された。胚細胞腫瘍は縦隔腫瘍全体の1-4%を占めるに過ぎず、その中でもセミノーマは非セミノーマ性腫瘍よりも頻度が低いことが知られている。縦隔と後腹膜は性腺外原発部位として最も一般的であるが、セミノーマは比較的緩徐に進行するため、診断時にはしばしば巨大な縦隔腫瘍として発見される。臨床症状は非特異的であり、胸痛 (44%)、呼吸困難 (38%)、咳嗽 (38%) などが主であるが、無症状で偶発的に発見される症例も存在する。
縦隔原発セミノーマの治療戦略は、シスプラチンを中心とした CTH (chemotherapy) の導入以降、これが主要な初回治療モダリティとして確立されてきた。しかし、化学療法後の RTH (radiotherapy) や外科的切除の追加といった集学的治療における各モダリティの長期的位置づけや最適な組み合わせについては、依然として議論があり未確立である。先行研究である Bokemeyer et al. JClinOncol 2002 では、性腺外胚細胞腫瘍の国際解析から長期予後が報告されているが、単一施設における一貫した治療プロトコルに基づく長期成績の報告は不足している。また、Takeda et al. Cancer 2003 などの報告においても、手術主体の治療成績は示されているものの、化学放射線療法を中心としたアプローチの超長期的な局所制御率や生存率、ならびに晩期毒性に関する詳細なデータは手薄であり、知識ギャップが存在する。本研究は、単一施設における30年以上の長期追跡データに基づき、化学放射線療法を基本とした集学的治療の有効性と安全性を後方視的に評価し、この稀な疾患における最適な治療指針を提示することを目的とする。
目的
本研究の目的は、単一施設において化学放射線療法を中心とした集学的治療を施行された縦隔原発セミノーマ患者の長期治療成績を後方視的に評価することである。具体的には、全生存率 (OS: overall survival) および無再発生存率 (relapse-free survival) を算出し、治療に対する奏効率、再発時の救済治療の有効性、治療に伴う急性・晩期毒性 (特に心肺毒性) を明らかにすることを目指す。さらに、患者背景や治療因子が長期予後に与える影響を単変量解析により同定し、精巣原発セミノーマの治療成績との比較を通じて、本疾患における最適な治療戦略の確立に寄与する知見を提供することである。
結果
初期治療に対する高い奏効率と腫瘍縮小効果: 対象となった縦隔原発セミノーマ患者16例 (n=16) は全例が男性で、腫瘍の平均面積は65 cm² (最大径4.5-17.7 cm) であった。6例に所属リンパ節転移を認めたが、遠隔転移例はなく、全例がIGCCCG良好予後グループに分類された。初期治療後の評価において、全例が完全奏効 (CR: complete regression) または部分奏効 (PR: partial regression) の良好な初期奏効を達成した。化学療法を施行された14例のうち評価可能な症例において1例がCR、多数がPRを達成し、1例のみに病勢進行 (PD) が認められた。放射線療法を施行された14例においては、8例がCR、4例がPRを達成した (Table 1)。化学放射線療法後に残存腫瘤の外科的切除を施行された1例においては、病理組織学的検査の結果、生存腫瘍細胞は検出されず壊死組織のみであった。また、治療後にFDG-PET-CTが施行されたn=9例においては、化学放射線療法後に全例でFDG集積陰性 (完全代謝的奏効) が確認された。
局所制御率と再発後の救済治療成績: 追跡期間中央値11年 (5-378ヶ月) において、3例 (19%) に再発が認められた (Figure 1)。再発までの期間は初回治療終了から13-49ヶ月であった。再発例に対する救済治療の成績は極めて良好であった。不完全切除後にRTHのみを施行され再発した患者 (患者8) は、救済化学療法 (BEP療法5サイクル) によりCRを達成した。不完全切除後にCTHのみを施行され再発した患者 (患者12) は、救済放射線療法 (縦隔+鎖骨上窩、34 Gy) によりCRを達成した。初回治療としてCTHとRTH (50 Gy) の併用療法後に鎖骨上窩に再発した患者 (患者13) は、同部位への救済放射線療法 (23 Gy) によりCRを達成した。これら再発3例はすべて救済治療により無病生存を維持しており、5年、10年、15年無再発生存率は一貫して75%であった (Figure 1)。遠隔転移を来した症例はなく、追跡期間中に精巣腫瘍を新規発症した症例も認められなかった。なお、患者13において初回治療から30年後に後腹膜に新たなセミノーマが発症した。
全生存率と予後因子の解析: 追跡期間中に3例 (19%) の死亡が確認されたが、残る13例は無病生存中である。全患者における5年、10年、15年全生存率 (OS) はそれぞれ100%、91% (95% CI 71-100%)、91%と極めて良好な長期成績を示した (Figure 2)。予後因子の単変量解析 (log-rank test) において、診断時年齢40歳以上のみがOSの有意な予後不良因子として同定された。具体的には、年齢40歳以上 (n=4) の10年OS 66% vs. 40歳未満 (n=12) の100% と有意差を認め (P=0.013)、高年齢での長期生存率低下が統計学的に確認された (Figure 3)。年齢以外の因子として、ECOG パフォーマンスステータス、β-HCG 濃度、リンパ節転移の有無、隣接臓器浸潤の有無に加え、手術の有無 (P=0.083)、化学療法の有無 (P=0.229)、放射線療法の有無 (P=0.229)、再発の有無 (P=0.904) はいずれもOSに対して統計学的に有意な影響を及ぼさなかった (Table 2)。
治療に伴う晩期毒性と安全性の評価: 放射線療法後の晩期毒性として、照射野内の肺線維化が8例 (50%) に画像上認められたが、全例が無症状であった。心血管系合併症は5例 (31%) に認められ、その内訳は高血圧3例、心筋炎1例、および虚血性心疾患・不整脈・心原性ショックを合併した重篤な1例であった。放射線治療計画の遡及的解析が実施された症例において、心臓への平均照射線量は0-21 Gy (中央値12 Gy)、心臓のV20 (20 Gy以上照射された体積割合) は0-43% (中央値23%) であった。また、肺への平均照射線量は0-16 Gy (平均9 Gy)、肺のV20は0-30% (平均17%) であった。二次発癌や精巣腫瘍の新規発症は追跡期間中に認められなかった。
考察/結論
先行研究との違いと本研究の位置づけ: 縦隔原発セミノーマに対するこれまでの研究では、治療アプローチや症例数・追跡期間が研究ごとに大きく異なり、一貫した長期成績の評価は困難であった。Bokemeyer et al. JClinOncol 2002 が報告した性腺外セミノーマ全体の5年OS率は88%であり、Takeda et al. Cancer 2003 による手術主体のアプローチでは5年OS率が75%にとどまっていた。これらの既報と異なり、本研究では化学放射線療法 (CTH/RTH) を中心とした集学的治療により5年・10年・15年全生存率がそれぞれ100%・91%・91%と極めて良好な長期成績が得られた。さらに、本施設における精巣原発セミノーマの治療成績 (5年OS 92%、10年OS 86%) と比較しても遜色がなく、縦隔原発であっても適切な集学的治療により精巣原発例と同等の治癒率が得られることが示された。
新規性: 本研究は、縦隔原発セミノーマにおいて「年齢40歳以上」が長期生存における有意な予後不良因子であることを単変量解析にて新規に明らかにした (P=0.013)。これは、Moranら (1997) が報告した37歳超で予後不良という傾向と整合するものであり、本疾患の治療強度やフォローアップ計画を策定する上で年齢が重要な指標となることを本研究で初めて単施設長期追跡データにより定量的に示した。また、化学放射線療法後の全症例でFDG-PET-CT集積陰性を確認した知見は、残存腫瘤に対する侵襲的な外科的切除を回避する方針を支持する。
臨床応用: 本知見は、縦隔原発セミノーマに対する標準治療としての化学放射線療法の有効性を強く裏付けるものである。特に、化学療法単独または放射線療法単独で再発した症例に対しても適切な救済治療により全例で長期生存が得られたという結果は、臨床現場における再発管理の指針として臨床的有用性を持つ。FDG-PET-CT を用いた非侵襲的な残存腫瘤評価の臨床応用は、不必要な手術合併症を低減し患者の生活の質向上に寄与する。Sakaguchi et al. AnnThoracCardiovascSurg 2012 でも、FDG-PET-CT を用いた化学療法後の評価により残存腫瘤の切除適応を絞り込む戦略が提唱されており、本研究の知見と一致している。
残された課題: 本研究の主な limitation は、単一施設における後方視的検討であり症例数が16例と限定されている点である。また、1983年から2014年という長期にわたるため診断技術や放射線治療技術の変遷に伴う治療の異質性が存在する。心血管系合併症が31%に認められたことは、縦隔照射に伴う晩期心毒性の問題として今後の検討が必要な課題である。多施設共同の前向き登録研究による検証、および年齢40歳以上のハイリスク患者に対する治療強化プロトコルの確立が今後の研究課題として挙げられる。
方法
本研究は、1983年から2014年までの31年間に、ポーランドのMaria Skłodowska-Curie記念がんセンター (Gliwice支部) において治療された縦隔原発セミノーマ患者16例を対象とした単一施設後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) である。本研究はヘルシンキ宣言に準拠し、機関の倫理委員会 (Institutional Review Board Committee) の承認を得て実施された。対象患者は全例が男性で、診断時年齢は21-46歳 (平均33歳、中央値34歳) であった。全例において、精巣原発腫瘍の縦隔転移を除外するために精巣の触診および超音波検査が施行され、さらに腹部CTまたは超音波検査により後腹膜病変がないことが確認された。IGCCCG (International Germ Cell Cancer Collaborative Group; 国際胚細胞腫瘍コンセンサス分類) に基づき、全例が良好予後 (good prognosis) グループに分類された。
初回治療として、8例 (50%) が手術を施行されたが、完全切除 (R0: radical resection) に至ったのは1例のみで、残り7例は不完全切除であった。化学療法 (CTH) は14例 (88%) に施行され、うち8例では初回治療として実施された。化学療法のレジメンは全例で BEP 療法 (bleomycin, etoposide, cisplatin: ブレオマイシン・エトポシド・シスプラチン) が採用され、2-6サイクル (中央値5サイクル) が投与された。放射線療法 (RTH) は14例 (88%) に施行され、11例は化学療法後に、1例は化学療法および手術後に、2例は手術単独の後に実施された。照射線量は36.0-50.4 Gy (中央値42.5 Gy) で、1回分割線量は1.8-2.0 Gyであった。照射野は腫瘍または腫瘍床と縦隔を含み、3例では鎖骨上窩も照射野に含まれた。3例で強度変調放射線療法 (IMRT: intensity modulated radiation therapy) が用いられ、3例で FDG-PET-CT (fluorodeoxyglucose-positron emission tomography/CT) を用いた治療計画が実施された。照射野の臨床標的体積 (CTV: clinical target volume) の平均体積は405±268.3 cm³、計画標的体積 (PTV: planning target volume) の平均体積は480±451.8 cm³であった。
主要評価項目 (primary endpoint) は全生存率 (OS) とし、副次評価項目は無再発生存率および局所制御率とした。統計解析には Kaplan-Meier 法を用いて生存曲線を描出し、ログランク検定 (log-rank test) を用いた単変量解析により、年齢、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) パフォーマンスステータス、症状の有無、β-HCG (beta-human chorionic gonadotropin) 濃度、隣接臓器浸潤、リンパ節転移の有無、治療開始年、治療モダリティなどの予後因子がOSに与える影響を評価した。P値が0.05以下を統計学的有意と判断した。