• 著者: Kenneth L. Kehl, Shihao Yang, Mark M. Awad, Nathan Palmer, Isaac S. Kohane, Deborah Schrag
  • Corresponding author: Kenneth L. Kehl (Division of Population Sciences, Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Cancer Immunology, Immunotherapy
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-03-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30877325

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、転移性黒色腫に対する抗CTLA-4抗体イピリムマブの2011年の承認以来、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブやニボルマブ、抗PD-L1抗体であるアテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブなど、複数の癌種に対して承認され、癌治療の様相を急速に変化させている Hodi et al. NEnglJMed 2010。単剤のPD-1阻害薬は化学療法と比較して重篤な有害事象のリスクが低いものの、臨床試験では抗PD-1療法を受けた患者の最大29%が免疫関連有害事象 (irAE) を経験し、最大10%がグレード3以上の重篤な有害事象を呈したと報告されている Reck et al. NEnglJMed 2016。irAEには大腸炎、肝炎、下垂体炎、皮膚炎、肺炎などが含まれ、通常は速やかなコルチコステロイド治療で管理可能であるが、重篤なイベントでは追加の免疫抑制療法が必要となる場合がある。

既存の自己免疫疾患 (AID) を有する患者におけるICIの安全性に関するデータは限られている。CTLA-4およびPD-1チェックポイントの異常は自己免疫疾患と関連しており、チェックポイント阻害薬がこれらの疾患を有する患者において毒性のリスクを高める可能性が懸念されている。一部の臨床試験では、最近免疫抑制療法を受けていないAID患者が登録されたが、ほとんどの試験ではAID患者が除外されてきた。この除外は集団レベルで大きな影響を及ぼす可能性があり、Medicareのデータによると、新規に癌と診断された患者の最大25%が既存のAIDを有していると推定されている。

アカデミックセンターでの症例シリーズでは、既存AIDを有する転移性黒色腫患者において、イピリムマブ治療を受けた患者の50%で基礎疾患のフレアまたはirAEが発生し、PD-1阻害薬治療を受けた患者の38%で基礎疾患のフレア、29%で従来のirAEが発生したと報告されている (Johnson et al. JAMA Oncol 2016; Menzies et al. Ann Oncol 2017)。また、肺癌の既存AID患者56例を対象とした最近の症例シリーズでは、55%が基礎AIDのフレアまたはirAEを発症したが、ほとんどのイベントは軽度であった (Leonardi et al. J Clin Oncol 2018)。しかし、ほとんどの成人癌患者は主要なアカデミックセンター以外で治療を受けており、様々な医療施設における既存AID患者に対するICIのリスクとベネフィットについてはほとんど知られていない。この知識のギャップを埋め、既存AID患者におけるICIのベネフィットとハームのバランスに関する情報を提供するため、本研究では大規模な米国全国民間保険会社のclaimsデータを用いて、既存AIDと重篤なirAE(入院およびコルチコステロイド処方で測定)との関連を評価した。既存AIDを有する患者のICI治療における安全性プロファイルは未解明な点が多く、実臨床でのエビデンスが不足しているのが現状である。

目的

本研究の目的は、米国の大規模民間医療保険会社Aetnaのclaimsデータを用いた後ろ向きコホート研究 (retrospective cohort study) により、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療を受けたがん患者における既存の自己免疫疾患 (AID) と以下の主要評価項目との関連を評価することである。(1) 全原因による入院までの時間、(2) irAE (免疫関連有害事象) 診断を伴う入院までの時間、(3) 外来での全身性コルチコステロイド治療開始までの時間。これらの評価を通じて、既存AIDを有するがん患者に対するICI治療の安全性プロファイルを実臨床データに基づいて明らかにすることを目指した。特に、主要臨床試験から除外されてきたこの集団におけるirAEリスクの実態を把握し、臨床現場での意思決定に資するエビデンスを提供することを目的とした。本研究は、既存AID患者へのICI治療におけるリスクとベネフィットのバランスに関する、これまでの臨床試験では得られなかった実臨床エビデンスを提供することを意図している。

結果

患者背景: 本研究の対象となったICI治療患者は4,438例であった。このうち、厳格基準で既存AIDを有する患者は179例 (4%)、緩和基準のみで既存AIDを有する患者は283例 (6%) であった。最も多かった既存AIDのカテゴリーは、炎症性/関節リウマチおよび消化管/炎症性腸疾患であった。癌種の内訳は、肺癌が42%、メラノーマが34%と中心を占めた。ICIレジメンは、ニボルマブが52%、ペムブロリズマブが20%、イピリムマブが21%、イピリムマブとニボルマブの併用が5%であった。ICI治療期間の中央値は13.7週 (95% CI 13.4-14.4) であった (Supplemental Table 1)。

全原因入院リスクへの影響: ICI治療開始後3ヶ月時点での全原因入院の累積発生率は、全コホートで28.6% (95% CI 27.2-29.9%) であった。既存AIDなしの患者群では28.0% (95% CI 26.6-29.5%)、厳格基準の既存AID群では35.0% (95% CI 27.9-42.3%)、緩和基準のみの既存AID群では31.7% (95% CI 26.2-37.3%) であった。多変量解析では、厳格基準の既存AIDは全原因入院と有意な関連を示さなかった (HR 1.27, 95% CI 0.998-1.62)。緩和基準のみの既存AIDも同様に有意な関連を示さなかった (HR 1.11, 95% CI 0.91-1.34) (Table 1, Figure 2)。既存AIDを過去1年間の請求日数を示す連続変数としてコーディングした場合でも、全原因入院との有意な関連は認められなかった (HR 1.017, 95% CI 1.000-1.034 per day; p=0.053)。

irAE診断を伴う入院リスク: ICI治療開始後3ヶ月時点でのirAE診断を伴う入院の全体累積発生率は7.8% (95% CI 7.0-8.6%) であった。既存AIDなしの患者群では7.5% (95% CI 6.7-8.4%) であったのに対し、厳格基準の既存AID群では11.1% (95% CI 6.9-16.3%)、緩和基準のみの既存AID群では10.0% (95% CI 6.8-13.9%) と、既存AIDを有する群で高い傾向が認められた (Table 2, Supplemental Fig. 2)。多変量解析では、厳格基準の既存AIDはirAE診断を伴う入院と有意な関連を示し (HR 1.81, 95% CI 1.21-2.71)、緩和基準のみの既存AIDも同様に有意な関連を示した (HR 1.46, 95% CI 1.06-2.01)。既存AIDを過去1年間の請求日数を示す連続変数としてコーディングした感度分析でも、この評価項目との有意な関連が確認された (調整HR 1.05, 95% CI 1.03-1.08 per day; p<0.001)。ICIレジメン別では、イピリムマブ単剤 (HR 2.10, 95% CI 1.45-3.06) およびイピリムマブとニボルマブの併用 (HR 3.03, 95% CI 2.00-4.59) が、ニボルマブ単剤と比較してirAE入院リスクが有意に高かった。

外来ステロイド処方リスク: 処方薬保険に加入している1,909例の患者において、ICI治療開始後3ヶ月時点での外来全身性コルチコステロイド処方の累積発生率は、全体で25.1% (95% CI 23.1-27.1%) であった。既存AIDなしの患者群では24.0% (95% CI 21.9-26.1%) であったのに対し、厳格基準の既存AID群では40.5% (95% CI 29.5-51.3%)、緩和基準のみの既存AID群では30.1% (95% CI 21.9-38.6%) と、既存AIDを有する群で有意に高い発生率が認められた (Table 3, Supplemental Fig. 3)。多変量解析では、厳格基準の既存AIDはコルチコステロイド処方までの時間の短縮と有意な関連を示し (HR 1.93, 95% CI 1.35-2.76)、緩和基準のみの既存AIDも同様に有意な関連を示した (HR 1.46, 95% CI 1.13-1.88)。ICI治療開始前60日間にコルチコステロイド処方を受けていない患者1,678例に限定した感度分析でも、これらの関連は持続した (厳格基準HR 2.20, 95% CI 1.39-3.47; 緩和基準のみHR 1.50, 95% CI 1.10-2.05)。

AID重症度とirAEリスクの関連: 既存AIDを過去1年間の自己免疫疾患の請求日数 (疾患の活動性または重症度の代理指標) を示す連続変数としてコーディングした場合、irAE診断を伴う入院 (調整HR 1.05, 95% CI 1.03-1.08 per day; p<0.001) およびコルチコステロイド治療 (調整HR 1.05, 95% CI 1.03-1.08 per day; p<0.001) の両方で有意なリスク増加が認められた。これは、既存AIDの活動性が高い患者ほどICI誘発性の免疫反応を受けやすい可能性を示唆する。

考察/結論

本研究は、市販の免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療を受けたがん患者を対象とした観察研究であり、既存の自己免疫疾患 (AID) が全原因入院とは有意に関連しないものの、irAE診断を伴う入院および外来コルチコステロイド治療のわずかな増加と関連することを示した。この知見は、アカデミックセンターからの先行症例シリーズで示された、既存AID患者におけるirAEまたは自己免疫疾患フレアのリスクの同様のわずかな増加と概ね一致している。本研究は、主要な臨床試験では既存AIDのために除外された患者集団における毒性パターンを理解するための実臨床データを提供し、基礎疾患を有するがん患者に対する免疫療法のリスクとベネフィットを検討する臨床医にとって重要なエビデンスとなる。

先行研究との違い: これまでの報告は主にアカデミックセンターからの症例シリーズに限定されていたのに対し、本研究は大規模な商業保険データを用いることで、より広範な癌種および医療施設におけるICI治療の安全性プロファイルを評価した点で新規性がある。特に、既存AIDの定義に厳格基準と緩和基準の両方を採用し、その影響を比較した点は、先行研究と異なるアプローチである。

新規性: 本研究で初めて、既存AIDの活動性(請求頻度で代理)が高いほど、irAEによる入院およびコルチコステロイド治療のリスクが増加する傾向があることを大規模な実臨床データで示した。これは、既存AIDの重症度がICI治療の安全性に影響を与える可能性を示唆する新規の知見である。

臨床応用: 本知見は、有効な代替治療がない生命を脅かす悪性腫瘍に罹患した既存AID患者へのICI投与が合理的であり得ることを示唆するが、厳密なモニタリングが必要であることを強調する。特に、ICI導入前のAID管理状況の評価が重要であるという臨床的含意を持つ。AIDの活動性が高い患者では、より慎重な治療計画とモニタリングが求められる。

残された課題: 本研究にはいくつかの限界が残されている。第一に、全ての患者が民間保険に加入していたため、無保険者やメディケイド加入者への一般化には注意が必要である。第二に、claimsデータに基づくirAEの判定は、腫瘍関連症状、併存疾患、ICI毒性を明確に区別することが困難な場合がある。irAE診断コードの正確性、および真のirAEと既存AIDのフレアとの明確な区別については、さらなる検討が必要である。第三に、外来コルチコステロイド処方の全てがirAEを反映しているわけではない可能性があり、これは今後の研究課題である。最後に、既存AIDの活動性が非常に高い患者はそもそもICI治療を受けていない可能性があり、本研究のAIDコホートはAID全体を代表しない可能性がある。この選択バイアスは、既存AID患者におけるICIの安全性を解釈する上で重要な考慮事項であり、今後の研究でより詳細に検討されるべき残された課題である。

方法

本研究は、米国の大規模民間医療保険会社Aetnaの非特定化された会員claimsデータを用いた後ろ向きコホート研究 (retrospective cohort study) である。2011年1月1日から2017年6月30日までの期間に、CPT (Current Procedural Terminology) / HCPCS (Healthcare Common Procedural Coding System) コードを用いてICI (イピリムマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ) の投与を受けた患者を特定した。ICI初回投与前1年間、およびICI投与後30日以内までAetna医療保険プランに継続的に加入していることを参加条件とした。コルチコステロイド治療の評価項目については、ICI初回投与前60日間からAetna処方薬給付プランに継続的に加入していることも追加要件とした。

主要評価項目は以下の3つである。(1) ICI治療中の全原因入院までの時間。これは入院サービス場所の急性期病院請求を特定することで定義した。(2) irAE診断を伴う入院までの時間。これは入院期間中に発生した請求の診断コードを手動でレビューし、irAEと一致する可能性のあるコード (例:「中毒性胃腸炎および大腸炎」) を特定することで定義した。診断コードの分類は、個々の患者の既存AID状態に盲検で行われた。(3) ICI治療開始後の初回外来全身性コルチコステロイド (プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン) 治療までの時間。デキサメタゾンは、irAEの初期管理ガイドラインで推奨されていないこと、およびデータ探索で脳転移による脳浮腫の診断に伴うことが多いことから除外した。

主要な独立変数である既存AIDは、ICI治療開始前12ヶ月間に診断されたものとした。「厳格基準」は、自己免疫疾患の入院請求が1回、または30日以上間隔を空けた外来請求が2回以上ある場合と定義した。「緩和基準のみ」は、厳格基準を満たさないが、自己免疫疾患の診断を含む請求が1回以上ある場合と定義した。糖尿病や甲状腺機能低下症などの内分泌疾患は既存AIDに含めなかった。

共変量には、年齢、性別、癌種、ICIレジメン、ICI治療開始前1年間の細胞傷害性化学療法の有無、および非自己免疫性併存疾患スコア (National Cancer Institute comorbidity indexを修正したもの) を含めた。コルチコステロイド治療の評価項目については、ICI開始前60日間のコルチコステロイド処方の有無、およびICI開始前1年間の慢性閉塞性肺疾患 (COPD) の請求の有無も追加で調整した。

統計解析は時間-イベント解析として実施した。累積発生率曲線は、死亡またはICI治療中止 (ICI投与後30日以上の間隔と定義) を競合リスクとして考慮して作成した。既存AIDと各評価項目の原因特異的ハザードとの関連は、ユニバリアートおよび多変量Cox比例ハザードモデルを用いて検討した。多変量モデルでは、年齢、性別、癌種、ICI種類、前治療、併存症スコアなどの交絡因子を調整した。患者は死亡日、健康保険プランからの脱退日、2017年6月30日、またはICI投与後30日目のいずれか早い方で打ち切られた。

感度分析として、既存AIDを過去12ヶ月間の自己免疫疾患の請求日数を示す連続変数としてコーディングした場合の影響を検討した。また、ICI治療開始前60日間に全身性コルチコステロイド処方を受けていない患者に限定した場合の、その後の全身性コルチコステロイド処方に関する結果の頑健性も評価した。本研究は、臨床試験登録番号は持たないが、実臨床データを用いた後ろ向きコホート研究として、NCT00000000のような試験デザインに準拠している。