• 著者: Hodi FS, O’Day SJ, McDermott DF, Weber RW, Sosman JA, Haanen JB, Gonzalez R, Robert C, Schadendorf D, Hassel JC, Akerley W, van den Eertwegh AJM, Lutzky J, Lorigan P, Vaubel JM, Linette GP, Hogg D, Ottensmeier CH, Lebbé C, Peschel C, Quirt I, Clark JI, Wolchok JD, Weber JS, Tian J, Yellin MJ, Nichol GM, Hoos A, Urba WJ
  • Corresponding author: F. Stephen Hodi, MD (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2010
  • Epub日: 2010-06-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 20525992

背景

転移性黒色腫は、その予後不良性から長らく治療上の大きな課題であった。米国では年間約8,600人が黒色腫で死亡し、世界的に見ても皮膚癌死亡の約80%を黒色腫が占める。遠隔転移を有するStage IV患者の中央生存期間は1年未満と報告されており、既存の治療法では十分な効果が得られていなかった。当時、既治療転移性黒色腫に対して承認された二次治療薬は存在せず、臨床試験への参加が標準的な選択肢とされていた。インターロイキン-2 (IL-2) やダカルバジンなどの免疫療法や化学療法は、一部の患者で散発的な奏効を示すものの、第III相臨床試験において全生存期間 (OS) の改善を証明したものはこれまで一度も報告されておらず、新たな治療戦略の開発が喫緊の課題であった。この領域には、有効な治療選択肢が不足しており、患者の生存期間を延長する治療法の開発が未解明な課題として残されていた。

CTLA-4 (細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4) は、T細胞の活性化を負に制御する重要な免疫チェックポイント分子である。この分子はリンパ節におけるT細胞の初期活性化を抑制することで、免疫応答の過剰な活性化を防ぐ役割を担う。イピリムマブ (ipilimumab) は、完全ヒト型抗CTLA-4 IgG1モノクローナル抗体であり、CTLA-4を遮断することで抗腫瘍T細胞免疫応答を増強する作用を持つ。先行する第II相試験では、イピリムマブ 3 mg/kg単独療法により客観的奏効と病勢制御が示され、1年OS 39.3%、2年OS 24.2%という良好な生存率が報告された (Wolchok et al. Lancet Oncol 2010)。これらの第II相データが、本第III相試験の設計の根拠となった。gp100ペプチドワクチンは、HLA-A*0201拘束性のメラノソームタンパク由来ペプチド2種から構成され、免疫応答を誘導するが、単独での抗腫瘍活性は限定的であることが知られていたため (Rosenberg et al. Nat Med 2004)、本試験では能動対照群として用いられた。本試験は、CTLA-4遮断薬による固形腫瘍における初の第III相OS改善を目指した画期的な研究であり、免疫腫瘍学の新たな時代の幕開けとなることが期待された。従来の治療法では長期生存が困難であった転移性黒色腫患者において、イピリムマブが生存期間を改善できるかという重要な臨床的ギャップを埋めることを目的としていた。また、先行研究では免疫療法における奏効評価基準が確立されていなかったため、本研究では新たな評価基準の適用も検討された (Wolchok et al. ClinCancerRes 2009)。

目的

本研究の主要目的は、前治療歴のある転移性黒色腫 (Stage IIIまたはIV、HLA-A*0201陽性) 患者において、イピリムマブ (3 mg/kg) とgp100ペプチドワクチンの併用療法、またはイピリムマブ単剤療法が、gp100単独療法と比較して全生存期間 (OS) を改善するかどうかを評価することであった。本試験 (MDX010-20、ClinicalTrials.gov識別子: NCT00094653) は、当初の主要評価項目であった客観的奏効割合 (ORR) から、2009年1月にOSへと変更された。この変更は、免疫療法の遅延性効果を適切に評価するため、および同時期に進行していた他のイピリムマブ第III相試験との整合性を図るために行われた。

副次目的としては、各治療群におけるORR、奏効期間 (DOR)、無増悪生存期間 (PFS) の評価、および安全性プロファイルの比較が含まれた。また、年齢、性別、ベースラインの血清乳酸脱水素酵素 (LDH) 値、転移病期、前治療としてのIL-2療法歴などのサブグループにおけるOSの比較も事前に規定された。本研究は、CTLA-4阻害による抗腫瘍免疫の増強が、転移性黒色腫患者の生存に明確な利益をもたらすかを検証することを意図しており、従来の治療法では達成困難であった長期生存の可能性を探るものであった。

結果

全生存期間 (OS) の改善: 主要評価項目であるOSにおいて、イピリムマブ+gp100併用群のOS中央値は10.0ヶ月 (95% CI 8.5-11.5) であったのに対し、gp100単独群では6.4ヶ月 (95% CI 5.5-8.7) であった。ハザード比 (HR) は0.68 (95% CI 0.55-0.85, P<0.001) であり、イピリムマブ+gp100併用群がgp100単独群と比較して統計学的に有意なOSの改善を示した (Figure 1A)。イピリムマブ単剤群のOS中央値は10.1ヶ月 (95% CI 8.0-13.8) であり、gp100単独群と比較したHRは0.66 (95% CI 0.51-0.87, P=0.003) であった。この結果は、イピリムマブ単剤療法もOSを統計学的に有意に改善することを示している。イピリムマブ+gp100併用群とイピリムマブ単剤群のOSを比較すると、HRは1.04 (P=0.76) であり、gp100の追加による有意な上乗せ効果は認められなかった。OS曲線には「長期生存尾部 (long-tail)」が特徴的に観察され、1年OS率はイピリムマブ+gp100群で43.6%、イピリムマブ単剤群で45.6%、gp100単独群で25.3%であった。2年OS率はそれぞれ21.6%、23.5%、13.7%であった。イピリムマブのOS改善効果は、年齢、性別、ベースラインLDH値、転移病期、前IL-2療法歴の有無といった全ての事前規定サブグループで一貫して認められた (HRは全て1未満) (Figure 2)。

奏効割合 (ORR) と無増悪生存期間 (PFS) の特徴: 客観的奏効割合 (ORR) は、イピリムマブ+gp100併用群で5.7% (95% CI 3.7-8.4)、イピリムマブ単剤群で10.9% (95% CI 6.3-17.4)、gp100単独群で1.5% (95% CI 0.2-5.2) であった。完全奏効 (CR) は、イピリムマブ+gp100群で1例 (0.2%)、イピリムマブ単剤群で2例 (1.5%) に認められたが、gp100単独群では0例であった。病勢制御率 (CR+PR+SD) は、イピリムマブ+gp100群で20.1%、イピリムマブ単剤群で28.5%、gp100単独群で11.0%であった (Table 2)。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は、イピリムマブ+gp100群で2.76ヶ月 (95% CI 2.73-2.79)、イピリムマブ単剤群で2.86ヶ月 (95% CI 2.76-3.02)、gp100単独群で2.76ヶ月 (95% CI 2.73-2.83) と、3群間でほぼ同等であった (Figure 1B)。PFSの差は小さかったものの、OSとの間に「解離」が認められたことは、免疫療法の特徴を示唆する。イピリムマブ+gp100群と比較してイピリムマブ単剤群のPFSで36%のリスク減少が認められた (HR 0.64, P<0.001)。奏効の持続性に関して、イピリムマブ単剤群で奏効した15例のうち9例 (60.0%) が2年以上奏効を維持し (26.5〜44.2ヶ月、継続中)、イピリムマブ+gp100群では23例中4例 (17.4%) が2年以上奏効を維持した。イピリムマブによる奏効は、24週以降も改善する傾向が観察された。再誘導療法を受けた31例中、21例 (67.7%) でCR/PR/SDの病勢制御が達成された。

安全性プロファイルと免疫関連有害事象 (irAE): Grade 3または4の免疫関連有害事象 (irAE) は、イピリムマブ治療群で10〜15%に発生したのに対し、gp100単独群では3.0%であった (Table 3)。治療関連死は全体で14例 (2.1%) 報告され、そのうち7例がirAEに関連するものであった (大腸炎、肝炎、多臓器不全など)。あらゆるグレードのirAEは、イピリムマブ群で約60%、gp100単独群で32%に発生した。最も頻繁に報告されたirAEは下痢であり、イピリムマブ群の27〜31%の患者で発生したが、そのほとんどがGrade 1または2であった。重篤な大腸炎は、コルチコステロイドおよび/またはインフリキシマブ (抗TNF-α抗体) で管理された。Grade 2以上のirAEの中央値解消期間は、イピリムマブ+gp100群で6.3週 (95% CI 4.3-8.4)、イピリムマブ単剤群で4.9週 (95% CI 3.1-6.4) であった。2年以上生存した94例の患者において、残存するirAEとして、注射部位反応 (16例)、白斑 (12例)、下痢または大腸炎 (4例)、ホルモン補充療法を必要とする内分泌irAE (下垂体炎など、8例) が報告された。

考察/結論

MDX010-20試験は、イピリムマブが既治療転移性黒色腫患者において、gp100単独療法と比較して全生存期間を統計学的に有意に改善することを示した画期的な第III相臨床試験である。イピリムマブ単剤群のOS中央値は10.1ヶ月 (gp100単独群6.4ヶ月、HR 0.66, 95% CI 0.51-0.87, P=0.003) であり、これは固形腫瘍における免疫チェックポイント阻害薬として初のOS改善の報告であった。本研究の結果は、2011年3月の米国食品医薬品局 (FDA) によるイピリムマブの承認の根拠となった。

先行研究との違い: 本研究の結果は、先行するイピリムマブ単剤療法の第II相試験で示された1年OS 39.3%、2年OS 24.2%という生存率と一致しており、その有効性が大規模な第III相試験で確認された。従来の化学療法では見られなかったOS曲線の「長期生存尾部」 (2年OS 23.5% vs 13.7%) は、免疫記憶による持続的な抗腫瘍効果を示唆しており、従来の治療パラダイムとは根本的に異なる免疫療法の「durable benefit」を大規模試験で初めて証明した点で画期的である。また、本試験の対象患者は71%がM1c病変 (内臓転移) を有し、37%がLDH高値という予後不良な集団であったにもかかわらず、一貫したOS改善効果が認められたことは、その臨床的意義を大きく高める。これは、従来の治療法と比較して、イピリムマブがより広範な患者集団に利益をもたらす可能性を示唆する点で対照的である。

新規性: 本研究で初めて、免疫療法におけるPFSとOSの「解離 (discordance)」が大規模に示された。PFS中央値は3群間でほぼ同等 (2.76〜2.86ヶ月) であったにもかかわらず、OSは大きく改善した。これは、免疫細胞浸潤による見かけ上の腫瘍増大 (pseudoprogression) や、遅延性の抗腫瘍免疫応答など、免疫療法に固有の作用機序を反映するものであり、PFSをOSの代替エンドポイントとして用いる際の重要な限界を提示した点で新規性が高い。この現象は、従来の細胞障害性抗がん剤では観察されなかったものであり、免疫療法の評価方法に新たな視点を提供する。

臨床応用: 本試験の成功は、その後の抗PD-1抗体 (ニボルマブ、ペムブロリズマブ) を含む免疫チェックポイント阻害薬の開発を加速させ、非小細胞肺癌 (NSCLC) や腎細胞癌 (RCC) など、多くの固形腫瘍への免疫療法の適用拡大を促した。また、Grade 3または4のirAEが10〜15%に発生し、治療関連死が2.1% (うち7例がirAE関連) という安全性プロファイルは、その後のirAE管理ガイドラインの基盤となり、大腸炎、肝炎、下垂体炎などCTLA-4阻害薬に特有のirAEに対する適切な対処法 (コルチコステロイド、インフリキシマブ、早期の治療中断など) の確立に貢献した。これらの知見は、臨床現場におけるイピリムマブの安全な使用に不可欠な情報を提供する。

残された課題: 今後の検討課題として、gp100ワクチンの追加がイピリムマブの有効性を上乗せしなかった理由 (むしろイピリムマブ単剤群のORR 10.9%が併用群の5.7%より高かった) の解明が挙げられる。また、PD-1阻害薬との最適な併用戦略 (後のCheckMate 067試験でニボルマブとイピリムマブの併用がさらなる長期OS改善を示した) や、治療効果を予測するバイオマーカー選択戦略の未整備も今後の研究課題である。本試験ではHLA-A*0201陽性患者に限定されたが、CTLA-4遮断自体はHLA非依存的であることが後に確認されており、この組み入れ条件はgp100ワクチンの機序に起因するものであった。

方法

本研究は、前治療歴のある転移性黒色腫患者を対象とした第III相二重盲検無作為化比較試験 (MDX010-20) として、北米、南米、欧州、アフリカの13ヶ国125施設で実施された。登録期間は2004年9月から2008年8月までであった。対象患者は、切除不能なStage IIIまたはIVの黒色腫と診断され、転移性疾患に対する前治療 (ダカルバジン、テモゾロミド、フォテムスチン、カルボプラチン、またはIL-2のいずれか1つ以上) を受けて病勢進行した患者であった。その他の主要な組み入れ基準は、18歳以上、ECOGパフォーマンスステータス0〜1 (Oken et al. Am J Clin Oncol 1982)、HLA-A*0201陽性、および十分な血液学的、肝機能、腎機能であった。合計676例の患者が無作為に3群に割り付けられた。割り付け比は、イピリムマブ+gp100併用群 (403例)、イピリムマブ単剤群 (137例)、gp100単独群 (136例) で3:1:1であった。患者背景は、平均年齢56.2歳、男性59.3%、M1c病変 (内臓転移) 71.4%、LDH高値37.6%、CNS転移12.1%、前IL-2療法歴22.8%であり、予後不良な集団であった (Table 1)。

治療プロトコルでは、イピリムマブ 3 mg/kgを静脈内投与し、gp100ペプチドワクチン (HLA-A*0201拘束性ペプチド2種を不完全フロイントアジュバントとともに皮下注射) を併用または単独で、3週間ごとに計4回 (導入療法) 実施した。病勢安定 (SD) 以上の効果が得られた患者は、疾患進行時に再誘導療法を受けることが可能であり、実際に31例で実施された。無作為化は、転移病期 (M0/M1a/M1b vs M1c) および前IL-2療法歴の有無で層別化された。主要評価項目はOSであり、当初のORRから2009年1月に変更された。副次評価項目には、ORR、奏効期間、PFSが含まれた。安全性評価は、NCIのCommon Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 3.0に基づき、免疫関連有害事象 (irAE) はプロトコルガイドラインに従って管理された。irAEの管理には、コルチコステロイドの投与、投与スケジュールの遅延、または治療中止が含まれた。

統計解析では、生存期間の推定にカプラン・マイヤー法が用いられ、ハザード比 (HR) の推定と有意性の検定には、転移状態と前IL-2療法歴で層別化されたCox比例ハザードモデルが用いられた。全てのP値は両側検定であり、信頼区間は95%水準で算出された。研究の検出力は、イピリムマブ+gp100群とgp100単独群の比較で90%以上、イピリムマブ単剤群とgp100単独群の比較で80%以上と推定された。患者のフォローアップ期間は最大55ヶ月であり、イピリムマブ+gp100群の中央値は21.0ヶ月、イピリムマブ単剤群は27.8ヶ月、gp100単独群は17.2ヶ月であった。腫瘍評価は、ベースライン、および病勢進行が早期に確認されなかった患者に対しては12週目、16週目、24週目、その後3ヶ月ごとに実施され、WHO基準の修正版を用いて二次元測定可能な病変が評価された (James et al. J Natl Cancer Inst 1999)。