- 著者: Jean-Marie Michot, Jacques Vargaftig, Charlotte Leduc, Gilles Quere, Barbara Burroni, Julien Lazarovici, Stéphane Champiat, Vincent Ribrag, Olivier Lambotte
- Corresponding author: Jean-Marie Michot (Gustave Roussy, Université Paris-Saclay, Département d’Hématologie, Villejuif, France)
- 雑誌: European Journal of Cancer
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-05-17
- Article種別: Case Report
- PMID: 28527392
背景
抗PD-1 (programmed cell death 1) および抗PD-L1 (programmed cell death ligand 1) 阻害薬は、悪性黒色腫、ホジキンリンパ腫、マイクロサテライト不安定性 (MSI; microsatellite instability) 陽性腫瘍に加え、非小細胞肺癌 (NSCLC; non-small cell lung cancer)、腎細胞癌、膀胱癌においても有効性が確立し、現代の免疫療法の根幹をなすようになった (Postow et al. JClinOncol 2015)。特に肺腺癌においてはニボルマブが標準二次治療として位置づけられ、プラチナ系化学療法後の患者に広く用いられるようになった (Borghaei et al. NEnglJMed 2015)。PD-1/PD-L1軸の遮断による免疫活性化は腫瘍免疫応答を増強する一方で、免疫関連有害事象 (irAE; immune-related adverse events) として甲状腺炎、間質性肺炎、大腸炎等の自己免疫様毒性を惹起し、その統合的な管理指針が整備されてきた (Champiat et al. AnnOncol 2016)。
抗PD-1/PD-L1治療に関連する血液学的irAEは全irAEの中でも比較的稀であり、これまでに個別症例として蓄積されてきた報告は末梢性の血球異常に限定されていた。自己免疫性溶血性貧血 (AIHA; autoimmune hemolytic anemia)、免疫性血小板減少症 (ITP; immune thrombocytopenia)、無顆粒球症、赤芽球癆 (PRCA; pure red cell aplasia) などが個別の症例報告として記載されており、それらはステロイドに比較的良好に反応する末梢性機序として理解されていた。一方、骨髄全体の著明な低形成を伴い造血幹細胞の枯渇を来す中枢性の重症再生不良性貧血 (SAA; severe aplastic anemia) が抗PD-1治療下で発症した症例は、本報告以前には系統的に記載されておらず、その臨床像、病態メカニズム、治療反応性に関する知識が手薄であった。高齢で多剤前治療歴を持つ肺癌患者において、こうした中枢性免疫介在性骨髄不全がいかなる転帰をたどるかは全く不明であり、この gap in knowledge は臨床上の重大な問題として残されていた。
目的
本症例シリーズの目的は、ニボルマブ治療を受けた肺腺癌患者において発症した重症再生不良性貧血を伴う骨髄不全の3例を詳細に記載し、抗PD-1抗体による血液学的irAEのスペクトラムに中枢性骨髄不全を新たに位置づけることである。具体的には、発症時期、末梢血球数動態、骨髄組織学的所見(活性化CD8陽性T細胞浸潤の有無を含む)、治療反応性および転帰を明らかにする。
結果
患者背景と発症時期: 3例すべてが70〜78歳の肺腺癌患者であり、全例が副腎・脳・骨・胸膜等への遠隔転移を有する進行例であった (Table 1)。ニボルマブ 3 mg/kg 2週間ごと投与開始から再生不良性貧血発症までの median 期間は5.4ヶ月(範囲0.5〜6.2ヶ月)であり、症例3の0.5ヶ月という早期発症から症例1の6.2ヶ月という後期発症まで多様な発症時期が認められた。前治療として全例に白金系化学療法が施行されており、うち2例に胸部放射線治療歴があった。症例2はアテゾリズマブ(別の免疫チェックポイント阻害薬)を含む複数の前治療歴を有していた。全例でベースラインCBCは正常範囲内であり、治療前に血液疾患の既往はなく、溶血所見も認められなかった。
汎血球減少症の重症度とCBC動態: Nadir CBCは全例で著明な汎血球減少を示した (Table 1)。症例1のNadir ANCは10 /μL(ベースラインANC 5,700 /μL)と全例中最重症であり、好中球減少期間は30日間 (ANC <500 /μL) であった。症例2のNadir WBCは1,150 /μL、ANC 570 /μL、血小板15×10³ /μLで、好中球減少は91日間 (ANC <1,000 /μL) と最も長期にわたった。症例3のNadir WBCは670 /μL、ANC 252 /μL、血小板5×10³ /μL、ヘモグロビン6.9 g/dLで、好中球減少は測定終了時点まで73日以上継続していた。3例のWBC Nadir値の mean ± SD は773 ± 337 /μL であり、造血低下を反映した全例での低網状赤血球(症例1: 4、症例2: 62、症例3: 9 ×10⁹/L)が確認された (Table 1)。全例で大量の輸血を必要とし、RBC輸血量は4〜20単位、血小板輸血量は3〜15単位に達した。
骨髄組織学的所見と免疫病理学的特徴: 骨髄生検では全例で著明な低形成骨髄が確認された (Fig 1)。症例1では骨髄穿刺で「砂漠骨髄 (desert BM)」と称される空虚な所見が得られ、生検では細胞密度10%未満の著明な低形成と骨髄間質空間への活性化CD8陽性T細胞浸潤が認められた (Fig 1A, HES染色 ×10)。CD8陽性T細胞が骨髄間質に優位に分布し (Fig 1C, CD8 IHC ×20)、CD4陽性T細胞の分布は疎らにとどまった (Fig 1B, CD4 IHC ×20)。症例2では骨髄生検で細胞密度10%未満の低形成骨髄が確認され、細胞遺伝学的検査では22個の中期分裂像中3個でY染色体喪失が認められた。症例3では細胞密度20%の低形成骨髄、赤芽球異形成、顆粒球異形成、活性化CD8陽性T細胞浸潤、稀な形質細胞が観察された。全例(実施例)でPNHスクリーニングは陰性であり、芽球過剰・細網線維化・異常細胞は認められなかった。免疫学的検査(抗グロブリン試験・抗核抗体)およびウイルス血清学的検査(肝炎ウイルス・パルボウイルスB19)はすべて陰性であり、他の原因による汎血球減少症は系統的に除外された。
治療反応性と転帰: 全3例でニボルマブを永久中止し再生不良性貧血に対する積極的治療を開始したが、治療反応性は全例で不良であった。症例1はIVIgおよびRBC 4単位・血小板3単位の輸血を受けたがIVIgに奏効せず、1ヶ月後に発熱性好中球減少症と腹部敗血症により死亡した。症例2はプレドニゾン 1 mg/kg、ノレタンドロロン、G-CSF、RBC 4単位・血小板9単位の輸血により一時的部分奏効を認めたが持続せず、4ヶ月後も汎血球減少が持続していた。症例3はプレドニゾロン 1 mg/kg、IVIg、G-CSF、抗生剤、RBC 20単位・血小板15単位の輸血による集学的治療にもかかわらず奏効せず、3ヶ月後に急性冠症候群により死亡した。3例中2例(67%)が死亡し、生存1例でも汎血球減少が持続しており、ステロイド・IVIg不応を特徴とする極めて不良な転帰が全例で確認された。
考察/結論
先行研究との違い: これまでの研究において、抗PD-1/PD-L1抗体による血液学的irAEは末梢性機序によるものが中心であり、自己免疫性溶血性貧血・免疫性血小板減少症・赤芽球癆・無顆粒球症などの個別症例が報告されてきた。既報のこれらの末梢性血液学的irAEは、コルチコステロイドへの反応性が比較的良好で致死的転帰は少数とされていた点で、本研究の症例群と対照的である。本研究はこれと異なり、骨髄全体の著明な低形成(細胞密度10〜20%以下)と活性化CD8陽性T細胞の骨髄間質浸潤を特徴とする中枢性の免疫介在性重症再生不良性貧血という、血液学的irAEの新たなサブタイプを提示した。こうした中枢性骨髄不全は標準的な再生不良性貧血に対する免疫抑制療法(コルチコステロイド、IVIg)に不応であり、死亡率67%という著しく悪い転帰をもたらした。
新規性: 本研究では新規の観点として、抗PD-1抗体治療により活性化されたCD8陽性T細胞が骨髄間質に直接浸潤し造血障害を引き起こす「中枢性免疫介在性骨髄不全」という病態機序を免疫組織化学的に初めて示した。これは抗PD-1によるirAEが末梢血球の破壊にとどまらず、造血幹細胞を持つ骨髄環境そのものを標的とし得ることを意味する新規の知見である。また、症例2で認められたY染色体喪失は、前治療化学療法・放射線治療によって潜在していたクローン性骨髄異形成 (MDS; myelodysplastic syndrome) が抗PD-1治療によって再生不良性貧血として顕在化した可能性を新規に提起し、抗PD-1投与前の骨髄クローン性評価の必要性という新しい臨床仮説を生成した。
臨床的意義: 本症例シリーズの臨床応用として、抗PD-1抗体投与中の患者においてグレード3以上の汎血球減少症が発症した際は、早期に骨髄生検(CD8 IHCを含む)を施行して免疫関連再生不良性貧血を鑑別することが不可欠である。また、PNH・自己免疫性・ウイルス性原因の系統的除外が診断確定に直結する。ステロイド・IVIg不応例では抗胸腺細胞グロブリン (ATG; anti-thymocyte globulin) + シクロスポリンAによる免疫抑制療法へのエスカレーション、さらに同種造血幹細胞移植の検討が早期から視野に入るべきである。本知見はirAE管理ガイドラインの血液学的毒性項目に組み込まれ、bench-to-bedsideの典型例として臨床現場での安全管理に貢献している。
残された課題: 本研究の主要な limitation は、n=3という少数後方視的症例シリーズであるため、発生頻度・リスク因子・最適治療の確定には前向き大規模コホート研究が必要な点である。今後の検討として、(1) 病態メカニズムの詳細解明(CD8陽性T細胞による直接細胞傷害性 vs サイトカイン介在性骨髄抑制、抗原特異性、HLA-DR多型との関連)、(2) 他の抗癌剤(抗CTLA-4抗体、抗PD-L1抗体、併用免疫療法)における発生リスクの比較評価、(3) 骨髄クローン性評価の前治療時スクリーニングとしての有用性の検証、(4) ATG + シクロスポリンAやエルトロンボパグなどの救済療法の有効性確認が今後の課題として残されている。更なる検討により、抗PD-1抗体による中枢性免疫関連骨髄不全の全体像がより明らかになることが期待される。
方法
研究デザインと対象: 本研究はフランス国内6施設における後方視的症例シリーズ (retrospective case series) であり、ニボルマブ治療中にCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.03でグレード3以上の重症汎血球減少症を発症した連続3症例 (n=3) を対象とした。全例が肺腺癌に対してニボルマブ 3 mg/kgを2週間ごとに静脈内投与されていた。薬物有害事象の高度薬剤調査 (advanced pharmacovigilance survey) により、再生不良性貧血を来す他の薬剤との関連を個別に否定し、ニボルマブとの因果関係は全例で「ほぼ確実 (virtually certain)」と判断された。本研究は観察研究であり、臨床試験登録番号 (NCT番号) は付与されていない。
臨床評価: 各症例において系統的な評価を実施した。(1) 完全血球数 (CBC; complete blood count) のベースライン値および最低値 (Nadir値) — 白血球数 (WBC; white blood cell count)、好中球絶対数 (ANC; absolute neutrophil count)、血小板数、ヘモグロビン値、網状赤血球数の経時的測定。(2) 骨髄穿刺および骨髄生検 — ヘマトキシリン・エオジン・サフラン (HES; hematoxylin eosin safran) 染色による形態学的評価、細胞密度判定、芽球過剰・細網線維化・異常細胞の有無。(3) 免疫組織化学 (IHC; immunohistochemistry) によるCD4およびCD8陽性T細胞の骨髄内分布評価。(4) 発作性夜間ヘモグロビン尿症 (PNH; paroxysmal nocturnal haemoglobinuria) のフローサイトメトリースクリーニング(症例1・2で実施)。(5) 細胞遺伝学的検査 (CG; cytogenetics)(症例2のみ実施、22個の中期分裂像を分析)。(6) 免疫学的検査(抗グロブリン試験、抗核抗体 (ANA; anti-nuclear antibody))。(7) ウイルス血清学的検査(B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、パルボウイルスB19の血清学的検査および血液PCR)。
治療プロトコル: 再生不良性貧血に対する管理として、(a) ニボルマブの永久中止、(b) コルチコステロイド(プレドニゾンまたはプレドニゾロン 1 mg/kg/日)、(c) 静注用免疫グロブリン (IVIg; intravenous immunoglobulin)(症例1・3)、(d) G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor; 顆粒球コロニー刺激因子)(症例2・3)、(e) 赤血球 (RBC; red blood cell) および血小板輸血を各症例に応じて施行した。本研究は症例シリーズであるため、Cox比例ハザードモデルやlog-rank検定等の仮説検定は実施せず、Nadir CBC値・発症期間・輸血量・転帰を記述統計的に評価した。