- 著者: Jean-Marie Michot, Emeline Mossé, Valérie Quérini, Clément Carteron, Cristina Castilla-Llorente, Ségolène Houzé, Hélène Chanal, Jean-Charles Soria, Fabrice Barlesi, Florence Lapostolle, Romain-David Kerbaul, Luc Royer, Sylvain Corbin, Rémy Brilland, Gwenaelle Sauthier, Aurélie Caignec, Antoine Dussiot, Nicolas Chaigneau, Aurore Moreira, Catherine Masson, Vincent Leblond, Xavier Mariette, Aurélien Marabelle
- Corresponding author: Jean-Marie Michot (Gustave Roussy, Universite Paris-Saclay, Villejuif, France)
- 雑誌: European Journal of Cancer
- 発行年: 2020
- Epub日: 2019-08-07
- Article種別: Review
- PMID: 32172197
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI; immune checkpoint inhibitor) は悪性黒色腫、肺がん、腎細胞がん、膀胱がん、ホジキンリンパ腫、原発性B細胞性縦隔リンパ腫、メルケル細胞がん、高マイクロサテライト不安定性腫瘍など広範な悪性腫瘍において臨床的に有意な有効性を示し、外科、放射線、化学療法、分子標的療法に続くがん治療の「第5の柱」として急速に普及している (Michot et al. EurJCancer 2016)。ICIはCTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)、PD-1 (programmed cell death 1)、PD-L1 (programmed cell death ligand 1) を標的とし、腫瘍微小環境においてT細胞の疲弊を促進する「免疫編集」を遮断することで細胞傷害性T細胞を再活性化し抗腫瘍免疫を回復させる。一方、免疫系を恒常的に刺激するこれらの薬剤は自己免疫疾患に類似した免疫関連有害事象 (irAE; immune-related adverse event) を誘発するが、その毒性プロファイルは従来の化学療法と根本的に異なる (Michot et al. EurJCancer 2016)。
これまでの報告で最も頻度の高いirAEは皮膚 (白斑、皮疹)、消化管 (クローン病様・顕微鏡的大腸炎)、内分泌系 (甲状腺炎、下垂体炎、膵炎)、肝臓 (肝炎)、関節 (腱鞘炎、多関節炎)、筋肉 (筋炎、心筋炎)、肺 (間質性肺炎)、神経系・眼 (多発性神経障害、ぶどう膜炎) に集中し、欧州臨床腫瘍学会 (ESMO) や米国臨床腫瘍学会 (ASCO) のガイドラインもこれらを主な焦点としてきた。その一方で、造血系に対するirAEは長らく「稀な副作用」として一括りにされ、体系的な評価が不足していた。免疫性血小板減少症 (ITP; immune thrombocytopenia)、自己免疫性溶血性貧血 (AIHA; autoimmune haemolytic anaemia)、好中球減少症、再生不良性貧血、血球貪食症候群 (HS; haemophagocytic syndrome) など多様な病態が個別の症例報告として散発的に記載されるにとどまり、各病型の発症頻度・発症時期・重症度・転帰を横断的に比較した大規模解析は存在しなかった。
Gustave Roussy (フランス) のグループはこれに先立ち抗PD-1/PD-L1療法後の血液学的irAE 35例を記述し、その77%がグレードIV以上であったことを報告している (Delanoy et al. LancetHaematol 2019)。同研究では慢性リンパ性白血病 (CLL; chronic lymphocytic leukaemia) の既往が患者の9%に見られ、基礎リンパ増殖性疾患が血液毒性リスクを高める可能性が示唆されたが、各ICI薬剤クラス間での頻度比較や管理アルゴリズムの確立には至っていなかった。さらに、PD-1/PD-L1軸が造血ニッチの免疫媒介性損傷を防ぐために重要であること、自己抗体 (抗血小板・抗好中球・赤血球自己抗体) が一部のHaem-irAEに関与することは示唆されていたが、その詳細なメカニズムは未解明であった。したがって、Haem-irAEの包括的な頻度推定、病型別臨床プロファイル、および根拠に基づく管理ガイドラインの構築には明らかなgap in knowledgeが存在した。
目的
本レビューの目的は2つである。第1に、ICIの主要な大規模臨床試験の安全性データを系統的に収集し、ICIクラス (抗CTLA-4、抗PD-1、抗PD-L1) 別の血液学的irAE (Haem-irAE) の全体的発生頻度を推定すること。第2に、2018年7月までに文献報告されたHaem-irAEの症例を詳細に分析し、免疫性血小板減少症 (ITP)、汎血球減少症または再生不良性貧血、好中球減少症、AIHA、血球貪食症候群 (HS)、純粋赤芽球癆 (PRCA; pure red cell aplasia) および二系統血球減少症など各病型ごとの臨床的特徴・発症時期・転帰・病態生理を統合し、臨床実践のための病型別管理ガイドラインを提案すること。最終的に、ICI治療患者の血液学的合併症に対する早期認識と適切な治療介入を実現する実践的アルゴリズムの提供を目指す。
結果
ICIクラス別血液学的irAE発生頻度—抗PD-1/PD-L1で有意に高い: 選択された19件の大規模ICI臨床試験データ (Table 1) に基づくと、ICIが誘発するHaem-irAEの全体的発生頻度は全グレードで3.6%、グレードIII-IVで0.7%であった (Fig. 2)。ICIクラス別に見ると、全グレードのHaem-irAE頻度は抗CTLA-4抗体 (イピリムマブ) の0.5% (n=5/982例) に対し、抗PD-1抗体 (ニボルマブ・ペムブロリズマブ) で4.1% (n=179/4,364例)、抗PD-L1抗体 (アテゾリズマブ) で4.7% (n=27/577例) と有意に高く (p<0.0001)、抗PD-1と抗PD-L1を合算した群では4.1% (n=206/4,941例) であった。グレードIII-IVの頻度はいずれのクラスでも0.7%と類似しており、軽度〜中等度のHaem-irAEが抗PD-1/PD-L1で特異的に多く発生することが示された。細胞傷害性化学療法による血液学的有害事象と比較した場合、ICIによるHaem-irAEの頻度は明らかに低いが、以下に示す通りその重症度と死亡率は高い。なお、抗CTLA-4によるHaem-irAEが低頻度なのは、抗CTLA-4の毒性が制御性T細胞 (Treg) 枯渇に依存するのに対し、抗PD-1/PD-L1の毒性は用量非依存的な免疫活性化機構によるためと考えられる。
63例詳細解析—血液学的irAEの臨床スペクトラムと分類: 2018年7月までに文献報告された63例のグレードII以上Haem-irAEの解析では (Table 2)、患者の年齢中央値は63歳 (範囲32-85歳) であった。頻度順に、ITP n=18 (29%)、汎血球減少症または再生不良性貧血 n=12 (19%)、好中球減少症 n=11 (17%)、AIHA n=10 (16%)、サイトカイン放出症候群を伴うHS n=7 (11%)、その他 (二系統血球減少症およびPRCA) n=5 (8%) であった (Fig. 3A)。これらHaem-irAEはICIの全クラス (抗PD-1、抗PD-L1、抗CTLA-4) にわたって観察されており、特定薬剤に偏らない広範な免疫活性化の反映と考えられた (Fig. 4A)。同一患者にITP+AIHAが合併するEvans症候群様の病態や、後述のPRCAと二系統血球減少症のように発症が遅発性となる病型も含まれ、Haem-irAEが単一の免疫機序ではなく多様な免疫介在性メカニズムによる「スペクトラム疾患」であることが示唆された。
重症度と転帰—血球貪食症候群・再生不良性貧血の致死的経過: 63例全体での死亡率は14%であり (n=9/63)、ICI関連肺炎 (死亡率2-3%) やICI関連大腸炎 (1-2%) と比較してHaem-irAEは予後不良の副作用であることが明確に示された。病型別の死亡率では、HSが最も高く7例中3例 (43%) が死亡し、次いで汎血球減少症/再生不良性貧血で12例中4例 (33%) に死亡が記録された (Table 2, Fig. 3B)。対照的にITP (n=18) および好中球減少症 (n=11) では死亡例は皆無であり、AIHA (10%) およびPRCA/二系統血球減少症 (25%) の死亡率はこの2つの危険な病型と比較して低かった。解決率 (adverse event の完全消失) を見ると、ITP 80%、好中球減少症 82%、AIHA 78%、PRCA/二系統血球減少症 80%と高い一方、再生不良性貧血 25%とHS 50%は有意に低く (p=0.0459)、これら2病型の難治性・慢性化傾向が示された (Fig. 4B)。汎血球減少症例では58% (7/12例) が生命を脅かす再生不良性貧血の臨床・組織学的特徴を有し輸血依存状態となり、骨髄生検では活性化CD8陽性リンパ球が認められ免疫介在性造血障害のメカニズムを支持した。
発症時期—中央値10週・病型間で有意差・PRCA/二系統血球減少症は遅発性: Haem-irAE発症までの期間中央値は全症例を合わせると10週 (四分位範囲3.8-20.5週、全範囲1-84週) であった (Fig. 5A)。ICI治療中のHaem-irAE発症を経時的に示す曲線は規則的なパターンを示しており、治療開始後いつでも発症し得ることが示唆された。病型別の発症時期中央値は有意に異なり (Kruskal-Wallis検定、p=0.0477)、ITP群が5.5週 (四分位範囲4.2-10.8週) と最も早期に発症した一方、PRCA/二系統血球減少症群は56.6週 (95% CI 10.4-97.2週) と著しく遅発性であった (Fig. 5B)。好中球減少症群の中央値は10.0週 (4.9-22.8週)、汎血球減少症/再生不良性貧血群は10.5週 (2.6-32.0週)、AIHA群は6.0週 (1.0-19.2週)、HS群は16.0週 (1.0-43.0週) であった。この幅広い発症時期の分布は、ICI治療終了後も含めた長期モニタリングの必要性を示している。
ITP (免疫性血小板減少症) の臨床像と管理: ICI誘発性ITP n=18例では、骨髄穿刺が血小板の末梢性破壊メカニズムを示唆した。ステロイド治療を受けた14例のうち71% (10/14例) が完全奏効 (n=8) または部分奏効 (n=2) を達成し、残る4例はリツキシマブまたはロミプロスチム追加投与で良好な転帰を得た。最終フォローアップで80%が血小板減少症の完全寛解を達成し、ICI再投与が可能であった症例も1例記録された。管理においては血小板数ではなく出血症状の重症度スコア (Khellaf出血スコア) を指標とし、出血スコア>8かつ血小板数20×10^9/L未満では静注免疫グロブリン (IVIG) とステロイドの即時併用が推奨される (Table 4, Fig. 6)。ステロイド不応例では血小板産生促進薬 (thrombopoietin receptor agonist) またはリツキシマブが選択肢となる。
好中球減少症・AIHA・HSの各臨床像: 好中球減少症 (n=11) は全例で深度が高く好中球数0/mm³に近い状態となり、55% (6/11例) が重篤感染症を合併した。グレードIV好中球減少症の期間中央値は16.5日 (範囲3-57日) で、2/3例に血清抗好中球抗体が陽性であった。治療はG-CSF (granulocyte-colony stimulating factor) に加え、ステロイド (n=9)、IVIG (n=5)、シクロスポリン (n=3)、リツキシマブ (n=2) が用いられ、最終的に82% (9/11例) が完全寛解した。AIHA (n=10) はICI開始後約2ヶ月で発症し、全例Hb<8 g/dL (グレードIII以上) の重篤な貧血で、直接抗グロブリン試験 (DAT) は全例陽性であった。2例 (20%) でCLLの既往を認め、免疫増殖性疾患がAIHA易発性に関与する可能性を示した。温式AIHAへの一次治療はプレドニゾン1.5 mg/kg/日を15日以上継続し、Hb>12 g/dLが達成されるまで漸減する。15日目に不完全奏効の場合はリツキシマブを追加し、最終的に78% (7/9例) が完全寛解した。HSは最も重篤であり3例が死亡し、H-Score (Table 5) が診断確率の推定に有用で、スコア90未満ではHS確率<1%、250超では>99%となる。HSの治療は高用量ステロイド静脈内投与 (2-5 mg/kg/日) と抗IL-6療法 (トシリズマブまたはシルツキシマブ) の即時投与を要し、不応例にはエトポシド150 mg/kgを単回静脈内投与する。
ICI再投与の検討: ICI再投与後の再発リスクは約50%と報告されており、再投与の是非はirAEの重症度とICI継続の期待利益を個別に考量して判断する必要がある (Santini et al. CancerImmunolRes 2018)。汎血球減少症/再生不良性貧血やHSは永続的なICI中止を原則とする一方、ITPや好中球減少症ではステロイドで完全寛解が得られた場合に限り個別判断での再投与が議論しうる。ICI再投与後も定期的な血液検査によるモニタリングが不可欠である。
考察/結論
本レビューは、ICI療法による血液学的irAEがこれまでの研究で想定されていた以上に多様かつ深刻な臨床的意義を持つことを系統的に示した最初の包括的解析である。全体死亡率14%という数値は、他のirAEタイプと比較して際立って高く、Haem-irAEがICI関連合併症の中でも「特に注意を要する群」を形成することを明確に示した。
既報との違いおよび本研究が明確にしたこと: これまでの研究では皮膚・消化管・内分泌系のirAEが主として記述され、血液学的毒性は稀として軽視される傾向があった。既報のESMOやASCOガイドラインでもHaem-irAEへの言及は最小限であった。本研究が初めて、19件の大規模臨床試験データを統合してHaem-irAE全体の頻度を定量化し、抗PD-1/PD-L1抗体で抗CTLA-4抗体に対照的に高頻度であること (4.1-4.7% vs 0.5%、p<0.0001) を示した。抗CTLA-4でHaem-irAEが低頻度なのは、その毒性が制御性T細胞の枯渇に偏り、PD-1/PD-L1軸のような造血ニッチ保護機能への干渉が相対的に弱いためと考えられる。また、既報では個別症例報告に分散していた63例を初めて統合解析し、病型間の死亡率・解決率・発症時期に有意な差異を明示した点も本研究の新規な貢献である。特にHSと再生不良性貧血が他の血液学的irAEと異なる高い致死性・低い治療反応性を持つことを本研究で初めて定量的に示した。
新規の知見: PRCA/二系統血球減少症の発症時期中央値が56.6週と他病型 (6-16週) と比較して著しく遅発性であることは、これまで報告されていない新規の知見である。これは、ICI治療終了後数ヶ月〜1年以上経過してからも血液学的irAEの発症を念頭に置く必要があること、および従来の「治療開始後2ヶ月以内にirAEが多い」という概念がHaem-irAEには一部当てはまらないことを示している。加えて、CLLの既往がAIHAや血液毒性リスクを高める可能性、CLL患者ではICI使用前に免疫表現型検査が有用である可能性も新規に示唆された。
臨床的意義とベッドサイドへの応用: 本知見は、ICI施行患者において定期的な完全血球算定 (CBC)・網状赤血球数・LDH・直接クームス試験などのモニタリングが不可欠であることを支持する。高熱 (>39-40°C) と汎血球減少が共存する場合はHLH (hemophagocytic lymphohistiocytosis、HSと同義) を積極的に鑑別し、H-Score・血清フェリチン・トリグリセリド・sCD25を用いた迅速診断を行い、遅延なく高用量ステロイドおよび抗IL-6療法を開始することが生命予後を大きく左右する。臨床現場での判断を支援するため、本研究は各病型に対する7ステップの体系的精査法と病型別治療アルゴリズムを提案しており (Table 3)、これはエキスパートの経験に依存していた従来の管理に根拠を与えるものである。Gustave Roussy では本レビューに基づきGustave Roussy Oncology Handbookとしてモバイルアプリを無償公開し、bench-to-bedside の知識移転を実現した。
残された課題: 本研究の最大の限界は後方視的・記述的研究である点であり、症例収集の選択バイアスを否定できない。特に軽症例や無症状の血液異常は報告されにくく、真の発生頻度の過小評価が懸念される。今後の検討として、(1) Haem-irAEを予測する前向き評価可能なバイオマーカーの開発、(2) 各病型に対する最適な免疫抑制療法の前向き比較試験、(3) ステロイド不応例へのリツキシマブ・血小板産生促進薬・シクロスポリン・エトポシドの有効性エビデンスの蓄積、(4) ICI再投与の安全性確立のための前向き評価が必要である。また、ICI治療終了後の長期モニタリング期間についても将来の研究で明確化が求められる。本研究は blood cell count monitoring と irAE 管理に関する future research の出発点となる参照文献として位置づけられる。
方法
本研究はPubMedデータベースを用いた包括的な文献検索に基づくシステマティックレビューである。英語で記述された臨床試験報告、症例シリーズ、症例報告を対象とし、検索期間は2018年7月までとした。対象薬剤はICIの3クラス (抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体) とし、検索キーワードには “immune-related adverse event”、“immune thrombocytopenia”、“autoimmune hemolytic anemia”、“aplastic anemia”、“pancytopenia”、“pure-red cell aplasia”、“neutropenia”、“hemophagocytic syndrome”、“eosinophil count increase”、“immune-checkpoint inhibitor”、“anti-cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4”、“anti-programmed cell death 1”、“anti-programmed cell death ligand 1” を用いた。
頻度推定パート: Haem-irAEの発生頻度を推定するため、血液学的有害事象 (貧血、白血球減少症、好中球減少症、血小板減少症) をCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) に従ってグレード付けし報告している大規模臨床試験の安全性データを抽出した。ICI治療との因果関係が明示されていない血液学的有害事象は除外した。当初71件の試験が候補となったが、Haem-irAEに関する詳細な記述と因果関係の判定根拠が十分な19件を最終的に選定した (Table 1)。計5,923例のICI投与患者のデータを用いた。頻度の差異は抗CTLA-4、抗PD-1、抗PD-L1間で二元配置分散分析 (two-way analysis of variance) を用いて比較した。
症例解析パート: 症例シリーズおよび症例報告から抽出したHaem-irAEを、グレードII以上のもの (CTCAEによる) に限定して詳細解析した。計63例を対象とし、ICI開始からHaem-irAE発症までの期間 (time to onset) および転帰を全症例から集約し、症例数に応じてKruskal-Wallis検定 (一元配置分散分析) またはカイ二乗検定を用いて病型間で比較した。全解析は両側有意水準5%の単変量解析として実施した。統計解析ソフトウェアはSAS 9.4およびGraphPad Prism バージョン5.03を使用した。