- 著者: Santini FC, Rizvi H, Plodkowski AJ, Ni A, Lacouture ME, Gambarin-Gelwan M, Wilkins O, Panora E, Halpenny DF, Long NM, Kris MG, Rudin CM, Chaft JE, Hellmann MD
- Corresponding author: Hellmann MD (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
- 雑誌: Cancer Immunology Research
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-07-10
- Article種別: Original Article
- PMID: 29991499
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI)、特に抗PD-1/抗PD-L1抗体は、進行非小細胞肺がん (NSCLC) 治療において画期的な生存利益をもたらす一方で、免疫関連有害事象 (irAE) という固有の毒性プロファイルを有することが知られている。irAEは、免疫系が活性化されることで、肺臓炎、大腸炎、肝炎、皮膚炎、内分泌障害、腎炎、神経障害など、ほぼあらゆる臓器に免疫介在性炎症を引き起こし得る。抗PD-(L)1単剤療法では3%から12%の患者が、抗CTLA-4抗体との併用療法ではさらに高率の患者がirAEにより治療中断に至ると報告されている (Khoja et al. Ann Oncol 2017)。irAEが発生した場合の一般的な管理方針として、当時の主要ガイドライン (ESMO、ASCO、SITC) は、Grade 3〜4の重篤なirAE後の「永続的な治療中止」を原則として勧告していた (Haanen et al. Ann Oncol 2017; Brahmer et al. J Clin Oncol 2018; Puzanov et al. J Immunother Cancer 2017)。しかし、この勧告は主にエキスパートコンセンサスと限られた症例報告に基づくものであり、irAEが回復した後に同一または別のICIへの再投与を検討する臨床場面は非常に多いにもかかわらず、その安全性と有効性に関する系統的なデータは不足していた。
irAE後の再投与に関する問題点として、(1) irAEの再発や新規irAE発生のリスクとその予測因子、(2) 再投与による追加的な抗腫瘍効果の可能性、(3) 再投与を控えた場合の患者の予後への影響、の3点が未解明なまま残されていた。メラノーマを対象とした少数の先行研究では、イピリムマブによる重篤なirAE後に抗PD-1抗体で再治療した場合に34%の患者で新規irAEが発生したこと (Menzies et al. AnnOncol 2017)、また、ニボルマブとイピリムマブの併用療法で重篤なirAEを生じた患者が抗PD-1単剤に切り替えた際には18%でしかirAEが発生しなかったことが報告されていた (Pollack et al. AnnOncol 2018)。しかし、これらの報告はメラノーマ患者を対象としたものであり、NSCLCに特化した系統的なデータは存在せず、特にirAE発症前の治療奏効状況が再投与の安全性や有効性に与える影響については、ほとんど情報がなかった。本研究は、この重要な知識ギャップを埋めるために、NSCLC患者約500例を対象とした後ろ向きコホート研究として実施された。本研究は、irAE後のICI再投与の安全性と有効性に関する実世界のエビデンスを提供し、臨床現場における意思決定を支援することを目的としている。
目的
本研究の目的は、免疫関連有害事象 (irAE) により抗PD-(L)1療法を一時中断した進行NSCLC患者において、治療再開の安全性と有効性を評価することである。具体的には、irAE後の抗PD-(L)1再投与が、irAEの再発率、新規irAEの頻度、重篤度、および致死的事象に与える影響を明らかにすることを目的とした。さらに、再投与が患者の無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) に与える影響を、irAE後に永続的に治療を中止したコホートと比較して評価した。また、irAE再発リスクの予測因子を同定し、特にirAE発症前の治療奏効状況が再投与の安全性と有効性に与える影響を詳細に解析することも目的とした。これにより、irAE後の治療継続に関する臨床的判断を支援するエビデンスを確立することを目指した。
結果
患者背景とirAE発生状況: 482例のNSCLC患者のうち、68例 (14%) がirAEにより治療中断を経験した。このうち38例 (56%) が再投与コホート、30例 (44%) が中止コホートに分類された。両コホート間で年齢 (中央値64歳 vs. 66歳)、性別、喫煙歴、組織型に有意差は認められなかった (Table 1)。しかし、再投与コホートでは1次治療として免疫療法を受けた患者の割合が有意に高く (66% vs. 30%、p=0.007)、初期irAEのGrade 3〜4の割合が有意に低かった (34% vs. 67%、p=0.01)。治療は抗PD-1または抗PD-L1単剤療法が90%、抗CTLA-4との併用療法が10%であった。
初期irAEの種類、重篤度、および管理: 初期irAEの内訳は、肺臓炎 (19%)、大腸炎 (17%)、皮疹/掻痒症 (16%)、ALT/AST上昇 (10%)、関節痛/筋痛 (13%)、膵酵素上昇 (11%) などであった (Table 2)。irAE発症までの中央値期間は、再投与コホートで69日、中止コホートで73日であり、有意差はなかった (p=0.77)。コルチコステロイドは、再投与コホートの76%に対し、中止コホートの97%で使用された (p=0.03)。4週間を超えるステロイド継続期間は、再投与コホートで34%、中止コホートで65%であった (p=0.04)。irAEの回復率 (Grade 0〜1への改善) は、再投与コホートで97%、中止コホートで76%と有意差が認められた (p=0.01)。
再投与の安全性:irAE再発および新規irAEの頻度と特性: 再投与コホート38例のうち、18例 (48%) ではirAE再発または新規irAEは認められなかった (Figure 1A)。10例 (26%) に初期irAEの再発が、10例 (26%) に初期irAEとは異なる新規irAEが発生した。合計で52%の患者にirAEが再発または新規発生した。再投与から再発/新規irAE発現までの中央値期間は24日 (範囲: 23日〜34ヶ月) であり、65%が90日以内に発現した。再発/新規irAEの大多数はGrade 1〜2の軽度 (60%) であり、85%で消失またはGrade 1への改善が得られた。しかし、2例 (5%) に治療関連死が発生した。1例は抗CTLA-4と抗PD-1併用療法後の再投与後に大腸炎と肝不全が生じて死亡し、もう1例は抗PD-1単剤再投与6ヶ月後に肺臓炎で死亡した。
irAE再発予測因子の同定: irAE再発/新規irAEリスクに影響を与えなかった因子として、再投与までの間隔 (<32日 vs. ≥32日; 55% vs. 50%、p=0.5) および初期irAEのGrade (Grade 1-2: 48% vs. Grade 3-4: 61%、p=0.5) が挙げられる (Figure 1B, C)。一方、初期irAEで入院を要した患者は再発リスクが有意に高く (87% vs. 43%、p=0.04)、irAE発症前に客観的奏効 (CR/PR) を達成していた患者も再発リスクが高かった (72% vs. 35%、p=0.02)。初期irAEが関節痛/筋痛であった場合、再発/新規irAEが4/6例 (67%) と高頻度で認められた。
抗CTLA-4との併用療法後再投与の安全性: 再投与コホート38例中14例 (37%) が初期治療で抗PD-(L)1+抗CTLA-4併用療法を受けていた。このうち8例 (57%) は再投与時も併用を継続し、6例 (43%) は抗PD-(L)1単剤へ切り替えた。再発/新規irAEの発生率は両群間に有意差はなかった (併用再投与50% vs. 単剤切替54%、p=1.0)。再投与された患者のうち7例に再発/新規irAEが認められ、1例が死亡した。
再投与の有効性:「奏効適格患者」での解析: irAE発症前に客観的奏効 (PR/CR) を認めていなかった「奏効適格患者」48例の解析において、再投与コホートは中止コホートと比較してPFS延長の傾向があり (ハザード比 [HR] 0.56、95%信頼区間 [CI] 0.3-1.03、p=0.064)、有意なOS改善を認めた (HR 0.45、95% CI 0.21-1.0、p=0.049) (Figure 3A, B)。治療ライン数を共変量とした多変量解析では、PFS (HR 0.46、95% CI 0.21-1.0、p=0.049) およびOS (HR 0.24、95% CI 0.093-0.61、p=0.0026) と、再投与によるさらに顕著な利益が示された。
再投与の有効性:「既奏効患者」での解析: irAE発症前にPRを既に達成していた患者20例では、PFS (HR 0.68、95% CI 0.19-2.44、p=0.56) およびOS (HR 0.37、95% CI 0.06-2.21、p=0.28) ともに、再投与コホートと中止コホートで有意差は認められなかった (Figure 3C, D)。多変量解析でも同様に差を認めなかった (PFS HR 0.61、95% CI 0.14-2.79、p=0.53; OS HR 0.14、95% CI 0.015-1.29、p=0.083)。
再投与後の新規奏効: 全再投与コホート38例中5例 (13%) で、irAE後の再投与により新規客観的奏効が得られた (Figure 2)。irAE発症前に奏効未達であった患者26例に限ると、19% (5/26) が再投与後に初回奏効を達成した。一方、中止コホートの奏効未達22例でも2例 (10%) がICI中止後に奏効を示しており、この差の解釈は今後の課題である。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、進行NSCLC患者においてirAEから回復後にICIを再投与した際の安全性と有効性を初めて系統的に検証した重要なエビデンスである。メラノーマにおけるイピリムマブによる重篤irAE後の抗PD-1再投与では34%で新規irAEが報告されており (Menzies et al. AnnOncol 2017)、本研究の52%よりも低率であった。これは、本研究の対象がNSCLCであり、初期治療に抗CTLA-4との併用を含む点が異なるためと考えられる。また、ニボルマブとイピリムマブの併用でirAEを生じた後に抗PD-1単剤に切り替えた場合は18%のみにirAEが発生したという報告 (Pollack et al. AnnOncol 2018) と比べると、本研究のirAE率は高いが、これはNSCLCでの再投与が同一または同類薬剤の継続使用であったことに起因すると考えられる。一方、ニボルマブとイピリムマブを有害事象で中止したメラノーマ患者のpooled解析 (Schadendorf et al. JClinOncol 2017) では生存が維持されており、既奏効患者での再投与不要という本研究の結論と整合する。
新規性: 本研究で初めて、NSCLC患者におけるirAE後のICI再投与の安全性と有効性を大規模な後ろ向きコホートで詳細に解析し、特にirAE発症前の治療奏効状況が再投与の予後に与える影響を新規に同定した。これまで、irAE後の再投与に関するデータは限られた症例報告やメラノーマ患者のデータが中心であり、NSCLCに特化した包括的なエビデンスは不足していた。本研究は、irAEの重症度だけでなく、治療反応性という新たな観点から再投与の適否を検討する基盤を提供した点で新規性がある。
臨床応用と意義: 本研究の結果は、「Grade 3〜4 irAE後は一律に永続中止」という旧来のガイドライン勧告に対する実証的根拠に基づいた再考を促す重要なエビデンスである。臨床的意義として、(1) irAE発症前に奏効未達であった患者は再投与の恩恵を受けやすく、積極的な再投与を検討すべきであること、(2) 既奏効患者では再投与による追加的な利益が期待できず、irAE回避のために中止を選択することが合理的であること、(3) 入院を要した重篤irAEや既奏効患者ではirAE再発リスクが高く、再投与は慎重に判断すべきであること、の3点が実践的な示唆として得られる。再投与間隔や初期irAEのGradeは再発リスクに影響しなかったという知見も、臨床現場での意思決定において有用なエビデンスを提供する。
残された課題: 本研究の主な限界として、(1) 後ろ向き研究であるため、再投与判断に臨床医の主観的判断が混入しており、重篤irAEは系統的に永続中止となりやすいバイアスがあること、(2) 対象患者数が比較的少なく (再投与コホート38例)、サブグループ解析の統計的パワーが不十分であること、(3) 再投与対象が現在の実臨床よりも選択的である可能性があること、(4) 前向き試験での検証が実施されていないことが挙げられる。今後の課題として、irAE再発に関わる免疫学的メカニズムやバイオマーカーの探索、および特定の臓器irAEごとの再投与安全性データのさらなる蓄積が求められる。また、より大規模な前向き研究により、本研究の知見を検証する必要がある。
方法
研究デザイン・対象患者:本研究は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) において2011年4月から2016年5月の期間に抗PD-1/PD-L1療法(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ)を単剤または抗CTLA-4抗体(イピリムマブ、トレメリムマブ)との併用で受けた進行NSCLC患者482例を対象とした後ろ向きコホート研究 (retrospective cohort study) である。MSKCCのInstitutional Review Board (IRB) の承認のもと、診療録を系統的に後ろ向きにレビューした。
患者選択とコホート分類:薬局記録を用いて、計画投与間隔より1週間以上の予期せぬ治療中断を全例で同定し、その中断がirAEによるものであることを確認した。irAEにより治療中断後、抗PD-(L)1療法が再投与された患者を「再投与コホート」(n=38、全体の56%) とし、irAE後に永続的に治療を中止した患者を「中止コホート」(n=30、全体の44%) に分類した。なお、疾患進行を理由に治療中止した患者は、有効性解析における交絡を避けるため、「再投与適格ではない」として除外した。再投与までの期間は、irAE検出日から再投与開始日までの期間と定義した。irAEと再投与の間に他の全身性抗がん治療を受けた患者は除外された。
評価項目:安全性評価項目として、irAE再発および新規irAEの頻度、重篤度 (CTCAE v4.0で評価)、および致死的事象を評価した。有効性評価項目として、無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) を評価した。PFSは初回免疫療法投与日からRECIST v1.1による病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義した。OSは初回免疫療法投与日からあらゆる原因による死亡までの期間と定義した。奏効評価はRECIST v1.1に基づき、臨床試験外で治療された患者については、CT画像を放射線科医が盲検下で遡及的に評価した。
統計解析:定性変数は頻度とパーセンテージで、定量変数は中央値と範囲で要約した。群間比較には、定性変数に対してカイ二乗検定またはFisherの正確確率検定を、定量変数に対してMann-Whitney U検定を用いた。生存率およびPFS率はKaplan-Meier法を用いて推定した。再投与の有効性を評価するため、単変量および多変量Cox比例ハザード回帰分析を実施し、多変量解析では治療ライン数を共変量として調整した。統計的有意水準はp値 < 0.05とした。統計解析にはSTATA version 14.2およびR version 3.3.2を使用した。