• 著者: Fujimoto D, Miura S, Yoshimura K, Wakuda K, Oya Y, Yokoyama T, Sakamori Y, Morita S, Fukuda Y, Nakagawa H, Ibe T, Nakashima K, Yamamoto N, Atagi S, Inoue T, Okamoto I, Satouchi M, Katakami N, Morise M, Kenmotsu H
  • Corresponding author: Satoru Miura (Niigata Cancer Center Hospital)
  • 雑誌: European Journal of Cancer
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-04-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33892408

背景

進行非扁平上皮非小細胞肺がん (NSCLC) の一次治療において、ペムブロリズマブとプラチナ製剤およびペメトレキセドの併用療法 (PPP) は、Gandhi et al. NEnglJMed 2018によるKEYNOTE-189試験の結果に基づき、標準治療として確立された。同試験では、全グレードの肺臓炎発生率は4.4%、グレード3以上の肺臓炎は2.7%と報告された。しかし、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 関連肺臓炎の発生率は、日本人を含むアジア人集団で西洋人集団よりも高いことがSuh et al. LungCanc 2018やKato et al. LungCanc 2017などの複数の先行研究で示されており、実臨床環境におけるPPP療法による肺臓炎の発生率がKEYNOTE-189試験の報告値を上回る可能性が指摘されていた。また、ICI関連肺臓炎は重篤な有害事象であり、治療の中断や死亡に至る可能性もあるが、その発生が治療アウトカムに与える影響については、PPP療法の実臨床データを用いた詳細な検討が未解明であった。特に、実臨床では臨床試験よりも多様な患者背景(高齢者や合併症を有する患者など)が含まれるため、安全性プロファイルが異なる可能性があり、このギャップを埋める情報が不足していた。

目的

化学療法未治療の進行非扁平上皮NSCLC日本人患者を対象に、ペムブロリズマブ、プラチナ製剤、ペメトレキセドの併用療法 (PPP: pembrolizumab, platinum, pemetrexed) における実臨床での肺臓炎発生率を評価すること。さらに、肺臓炎の発生が患者の無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) に与える影響を、不死時間バイアスを調整した統計解析を用いて明らかにすることを目的とした。

結果

患者背景と治療アウトカム: 対象患者は299例で、平均年齢は65.7歳 (SD 9.5) であった。男性が222例 (74%)、喫煙歴ありが250例 (84%)、ECOG PS 0-1が285例 (95%) を占めた (Table 1)。組織型は腺癌が278例 (93%) であった。PD-L1 TPSは、<1%が112例 (37%)、1-49%が104例 (35%)、≥50%が65例 (21%) であった。既存の間質性肺疾患合併例は13例 (4%)、肺気腫合併例は114例 (38%) であった。客観的奏効率 (ORR) は50% (完全奏効 2%、部分奏効 48%) であった。中央値追跡期間5.5ヶ月 (IQR 3.8-7.1) において、TTF中央値は5.9ヶ月 (95% CI 5.0-6.8)、PFS中央値は7.5ヶ月 (95% CI 6.5-8.7) であった (Fig. 1)。

肺臓炎発生率: 全追跡期間中の全グレード肺臓炎の発生率は12.4% (37/299例、95% CI 8.9-16.7) であり、グレード3以上の肺臓炎は3.3% (10/299例、95% CI 1.6-6.1) であった (Table 2)。PPP療法開始後90日以内の全グレード肺臓炎発生率は7.0% (21/299例、95% CI 4.4-10.5)、グレード3以上の肺臓炎発生率は3.0% (9/299例、95% CI 1.4-5.6) であった。肺臓炎発症までの期間中央値は2.6ヶ月 (IQR 1.3-5.0) であり、早期に発症する傾向が認められた (Fig. 2)。肺臓炎発症例の73% (27/37例) で治療中止に至った。

肺臓炎の生存アウトカムへの影響: 不死時間バイアスを調整した生存解析の結果、肺臓炎の発生はPFSの有意な短縮と独立して関連していた (HR 1.99, 95% CI 1.07-3.69, P=0.03) (Fig. 3A)。同様に、肺臓炎の発生はOSの有意な短縮とも独立して関連することが示された (HR 3.03, 95% CI 1.12-8.20, P=0.03) (Fig. 3B)。肺臓炎発症の有無と患者背景因子との間に有意な関連は認められなかった (Table 1)。この解析では、PFS解析のために5176クローン、OS解析のために5263クローンが作成され、統計的信頼性が高められた。

その他の安全性所見: 治療関連の重篤な有害事象 (グレード3以上の非血液毒性またはグレード4以上の血液毒性) は、非血液毒性で49例 (16%)、血液毒性で19例 (6%) に認められた (Table 2)。治療関連死は8例 (2.7%) であり、そのうち3例が肺臓炎に起因していた。治療中止の主要な原因は毒性であり、毒性による治療中止例55例のうち、27例 (49%) が肺臓炎によるものであった。ネフロトキシンは全グレードで51例 (17.1%)、グレード3以上で2例 (0.7%) に認められた。

考察/結論

本多施設共同後ろ向きコホート研究は、化学療法未治療の非扁平上皮NSCLC日本人患者におけるペムブロリズマブ+プラチナ+ペメトレキセド (PPP) 併用療法による肺臓炎の発生率が、KEYNOTE-189試験で報告された4.4%と比較して約3倍の12.4%と高頻度であることを実証した。この結果は、臨床試験の厳格な選択基準と実臨床の多様な患者背景(高齢者、間質性肺疾患合併例など)との間の安全性プロファイルの乖離を明確に示している。特に、日本人集団におけるICI関連肺臓炎の高い感受性(遺伝的素因やHLAアレルなど)が、この差異の一因である可能性が考えられる。

新規性: 本研究で初めて、不死時間バイアスを調整したクローニング法を用いることで、肺臓炎の発生がPFS (HR 1.99, 95% CI 1.07-3.69, P=0.03) およびOS (HR 3.03, 95% CI 1.12-8.20, P=0.03) の独立した悪化因子であることを実証した。これは、従来のナイーブな解析やランドマーク解析では見過ごされがちであった、肺臓炎の負の予後影響を統計学的に信頼性の高い方法で明らかにした点で新規性が高い。

先行研究との違い: 多くの先行研究では、免疫関連有害事象 (irAEs) の発生がICI治療の有効性と関連する可能性が示唆されてきたが、本研究の結果は、肺臓炎に関してはその報告とは対照的に、生存アウトカムを悪化させることを示した。この違いは、irAEsの種類や重症度、および併用療法の有無によって、その予後への影響が異なる可能性を示唆している。例えば、Haratani et al. JAMAOncol 2018ではirAEsとニボルマブの有効性の関連が報告されているが、本研究の肺臓炎に関する知見とは異なる方向性を示す。

臨床応用: 本知見は、PPP療法を受ける日本人患者において、肺臓炎の早期発見と迅速な介入が極めて重要であることを示唆する。特に、治療開始後90日間の厳重なモニタリングと、肺臓炎発症時のステロイド治療などの適切な管理が、治療成績の最大化に直結すると考えられる。臨床現場では、治療開始前のベースライン肺機能評価やCT評価の徹底、および治療中の定期的な肺臓炎スクリーニングの強化が推奨される。

残された課題: 本研究は後ろ向き研究であるため、診断の均一性や未測定の交絡因子の影響というlimitationが残されている。また、対象が日本人集団に限定されているため、他の民族集団への外挿性については今後の検討課題である。肺臓炎発症のリスク因子をより詳細に特定し、個別化された予防戦略や治療アルゴリズムを確立するための前向き研究や大規模なリアルワールドデータ解析が今後の方向性として必要である。

方法

本研究は、UMIN000038084として登録された多施設共同後ろ向きコホート研究 (retrospective cohort study) である。2018年12月から2019年6月の期間に、日本の36施設でPPP療法を一次治療として受けた化学療法未治療の進行非扁平上皮NSCLC患者299例を対象とした。主要評価項目 (primary endpoint) は、PPP療法開始後90日以内の全グレード肺臓炎発生率とした。この90日という期間は、日本の市販後調査においてPD-1阻害剤治療開始後3ヶ月以内に治療関連肺臓炎の60%以上が発生したという報告に基づき設定された。副次評価項目として、追跡期間中の肺臓炎発生率、全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、治療中止までの期間 (TTF)、および肺臓炎発生に関連する臨床因子を評価した。有害事象の評価はCTCAE v5.0に基づき、各医師が実施した。肺臓炎の診断とグレード判定は、臨床症状、画像所見、および他の原因(感染症、心不全、腫瘍増悪など)の除外に基づいて、担当の呼吸器専門医または腫瘍医が行った。生存解析においては、肺臓炎が時間依存性のイベントであるため、不死時間バイアスを補正するためにクローニング法(時間窓7日間)を用いた。この方法により、各時間窓において肺臓炎発症の有無に基づき患者のクローンを作成し、バイアスを最小化した。共変量として、ECOG PS (0-1 vs ≥2)、性別、年齢 (<74 vs ≥75歳)、喫煙歴、PD-L1 TPS (0-49% vs ≥50%) を調整した。統計的有意水準は両側P値 < 0.05とした。Kaplan-Meier解析を用いて生存曲線が推定され、Cox proportional hazardsモデルが肺臓炎の生存アウトカムへの影響を評価するために用いられた。