• 著者: Haratani K, Hayashi H, Chiba Y, Kudo K, Yonesaka K, Kato R, Kaneda H, Hasegawa Y, Tanaka K, Takeda M, Nakagawa K
  • Corresponding author: Hidetoshi Hayashi, MD, PhD (Department of Medical Oncology, Kindai University Faculty of Medicine, Osaka-Sayama, Japan; hayashi_h@dotd.med.kindai.ac.jp)
  • 雑誌: JAMA Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2017-09-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28975219

背景

ニボルマブやペムブロリズマブといったPD-1 (programmed cell death protein 1) 阻害薬は、進行または再発の非小細胞肺癌 (NSCLC) における標準治療として広く確立されている。これらの免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、従来の細胞傷害性化学療法と比較して生存期間を大幅に延長することが複数の大規模臨床試験で証明されてきた Borghaei et al. NEnglJMed 2015Brahmer et al. NEnglJMed 2015Herbst et al. Lancet 2016Reck et al. NEnglJMed 2016。しかし、これらの薬剤による治療は、自己免疫反応に類似した特有の副作用である免疫関連有害事象 (irAE) を伴うことが知られている Friedman et al. JAMAOncol 2016

先行研究において、悪性黒色腫 (メラノーマ) 患者を対象とした検討では、irAE (特に皮膚関連の有害事象) の発現がPD-1阻害薬の治療効果と相関することが報告されていた。しかし、NSCLC患者におけるirAE発現とニボルマブの治療効果との関連性については、これまで系統的な検討が不足しており、十分なエビデンスが確立されていなかった。特に、生存期間が長い患者ほど有害事象を経験する機会が増えるという「リードタイムバイアス」を適切に排除した解析はこれまで行われておらず、irAEの発現がNSCLCにおけるニボルマブの有効性を予測する独立した因子であるかどうかは未解明のままであった。このように、臨床現場において治療効果を予測するための信頼できるサロゲートマーカーが不足しているという課題があり、本研究はこの知識のギャップ (knowledge gap) を埋めるために計画された。

目的

本研究の目的は、進行または再発の非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、ニボルマブ治療による免疫関連有害事象 (irAE) の発現が治療効果 (無増悪生存期間 [PFS]、全生存期間 [OS]、客観的奏効率 [ORR]) とどのように関連しているかを明らかにすることである。特に、時間依存性バイアスであるリードタイムバイアスを最小化するために、6週間ランドマーク解析を主要解析手法として採用し、irAE発現と予後との真の関連性を検証することを目的とした。さらに、多変量Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、irAEの発現が他の既知の予後因子から独立した良好な予後因子であるかを検証する。また、皮膚、内分泌、肺、消化器、肝胆道系などのirAEサブタイプ別の発現頻度、発症時期、重症度を詳細に記述し、それぞれのサブタイプが治療効果に与える影響を個別に評価することも目的としている。

結果

患者背景とirAE発現プロファイル: 対象患者134例 (年齢中央値68歳、男性90例 [67%]、女性44例 [33%]) のうち、何らかのirAEを発現した患者は69例 (51%) であった (Table 1)。重症度別では、Grade 1-2の軽度なirAEが57例 (43%)、Grade 3-4の重篤なirAEが12例 (9%) であり、治療関連死は認められなかった。全身性ステロイド治療を必要とした患者は24例 (18%) であった。irAE発現までの中央期間は4.1週間 (範囲 0.3-36.2週間) であった。

irAEカテゴリ別の詳細な頻度と特徴: 最も頻度の高かったirAEは皮膚毒性であり、43例 (32%) に認められた (Table 1)。皮膚毒性の内訳は、発疹 (rash) が33例 (25%)、掻痒症 (pruritus) が16例 (12%)、白斑 (vitiligo) が2例 (1%) であった。皮膚irAE発現までの中央期間は5.7週間であった。次いで消化器毒性が12例 (9%) に認められ、下痢/大腸炎 (diarrhea/colitis) が10例 (7%)、粘膜炎が3例 (2%) であった。内分泌障害は11例 (8%) に認められ、甲状腺炎/甲状腺機能低下症が10例 (7%)、下垂体炎が1例 (1%) であった。肝胆道系酵素上昇は7例 (5%) に認められ、肝炎 (hepatitis) が5例 (4%)、胆管炎が2例 (1%) であった。肺臓炎 (pneumonitis) は6例 (4%) に認められ、そのうち3例 (2%) がGrade 3-4の重症例であった。その他の有害事象として、倦怠感が7例 (5%)、食欲不振が4例 (3%) で観察された。

6週間ランドマーク解析における治療効果の比較: 6週間ランドマーク解析において、irAEあり群はirAEなし群と比較して、ニボルマブの治療効果が有意に良好であった (Figure)。客観的奏効率 (ORR) は、irAEあり群で52.3% (23/44例) であったのに対し、irAEなし群では27.9% (17/61例) と、irAEあり群で有意に高かった (p=0.02)。無増悪生存期間 (PFS) の中央値は、irAEあり群で9.2ヶ月 (95% CI 4.4-NR) であったのに対し、irAEなし群では4.8ヶ月 (95% CI 3.0-7.5) であり、irAEあり群で有意な延長を認めた (p=0.04) (Figure A)。全生存期間 (OS) の中央値は、irAEあり群で未到達 (95% CI 12.3-NR) であったのに対し、irAEなし群では11.1ヶ月 (95% CI 9.6-NR) であり、irAEあり群で有意に良好であった (p=0.01) (Figure B)。補完的に実施した4週間および8週間ランドマーク解析でも同様の有意差が維持されていた。

多変量解析による独立した予後因子の検証: 多変量Cox比例ハザード回帰分析の結果、何らかのirAEを発現することは、PFSおよびOSの双方において独立した良好な予後因子であることが示された (Table 2)。PFSにおける任意のirAE発現の多変量ハザード比は、HR 0.542 (95% CI 0.295-0.971, p=0.04) であった。OSにおける任意のirAE発現の多変量ハザード比は、HR 0.285 (95% CI 0.102-0.675, p=0.003) と、極めて強力な生存ベネフィットとの関連を示した。

irAEサブタイプ別の多変量解析結果: 特定のirAEサブタイプにおける解析では、皮膚irAEの発現がPFSおよびOSの双方において、最も強力な独立した予後因子であった (Table 2)。皮膚irAEあり群 vs なし群の多変量解析において、PFSのハザード比は HR 0.476 (95% CI 0.232-0.912, p=0.03) であり、OSのハザード比は HR 0.209 (95% CI 0.049-0.618, p=0.003) と、極めて高い相関を示した。また、内分泌irAEの発現もPFSの有意な延長と独立して関連していた (HR 0.237 (95% CI 0.037-0.842, p=0.02))。一方で、内分泌irAE発現とOSとの間には有意な関連は認められなかった (HR 0.504 (95% CI 0.027-2.629, p=0.47))。

考察/結論

本研究は、進行または再発NSCLC患者において、ニボルマブ治療によるirAEの発現が治療効果の向上と有意に関連していることを、リードタイムバイアスを排除したランドマーク解析および多変量解析を用いて初めて系統的に実証した。

先行研究との違い: 悪性黒色腫においてはirAEと治療効果の関連が報告されていたが、NSCLC患者を対象とし、かつ時間依存性バイアスを厳格に制御したランドマーク解析を用いてこの関連性を証明した点において、本研究はこれまでの報告と異なります。従来の多くの後ろ向き研究では、治療期間が長い患者ほど有害事象が多く記録されるというバイアスが排除されていなかったが、本研究では6週間という早期のランドマークを設定することで、より信頼性の高い因果関係を示した。

新規性: 本研究で初めて、NSCLCにおいて皮膚irAEおよび内分泌irAEがニボルマブの有効性を予測する独立した初期バイオマーカーとなり得ることが多変量解析によって示された。特に皮膚irAEは、PFSおよびOSの双方において最も強力な予後予測因子であることが新規に明らかになった。

臨床応用: 本知見の臨床的意義として、ニボルマブ治療中に軽度から中等度 (Grade 1-2) の皮膚発疹や掻痒症、あるいは適切な補充療法で管理可能な甲状腺機能低下症などのirAEが発現した際、安易に治療を中止するのではなく、適切な対症療法を行いながらニボルマブ治療を継続することが、患者の生存ベネフィットを最大化するために重要であると示唆される。臨床現場において、irAEの発現は単なる毒性ではなく、抗腫瘍免疫活性化のサロゲートマーカーとして捉えることができる。

残された課題: 本研究にはいくつかの限界 (limitation) がある。第一に、後ろ向き研究であるため情報バイアスを完全に排除できない点である。第二に、皮膚以外の特定の非皮膚irAE (肺臓炎や肝炎など) は発現頻度が低く、サブタイプごとの詳細な解析を行うには症例数が不足していた。そのため、非皮膚irAEと治療効果の関連性については未だ確定的ではなく、今後の検討課題として、より大規模な前向きコホートを用いた検証が必要である。

方法

本研究は、日本の4施設 (近畿大学医学部附属病院、国立病院機構大阪南医療センター、岸和田市民病院、和泉市立病院) において実施された多施設共同後ろ向きコホート研究である。

対象患者: 2015年12月から2016年8月までの期間に、進行または再発のNSCLCに対してニボルマブを二次治療以降で投与された連続134例を対象とした。データカットオフ日は2016年12月31日である。本研究は各施設の倫理審査委員会の承認を得て実施され、UMIN臨床試験登録システムに登録された (登録番号: UMIN000024479)。

有害事象の評価: irAEの評価は、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.0を用いて行われた。irAEは、ニボルマブ治療中または治療中止後30日以内に発現し、免疫チェックポイント阻害薬に起因すると判断された非感染性の炎症性有害事象と定義された。

ランドマーク解析: リードタイムバイアスを排除するため、主要評価項目としてニボルマブ開始後42日目 (6週間) を基準とした6週間ランドマーク解析を実施した。PFS解析では、42日目以前に疾患進行 (PD) または死亡が確認された29例を除外した105例を対象とした。OS解析では、42日目以前に死亡した4例を除外した130例を対象とした。42日目までにirAEを発現した患者を「irAEあり群」、発現しなかった患者を「irAEなし群」と定義した。補完解析として、4週間および8週間ランドマーク解析も実施した。

統計解析: PFSおよびOSの生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定し、群間比較にはログランク (log-rank) 検定を用いた。ORRの比較にはFisherの正確確率検定 (Fisher’s exact test) を用いた。単変量および多変量Cox比例ハザード回帰分析 (Cox proportional hazard regression) を行い、ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) を算出した。多変量解析の調整共変量には、年齢 (75歳以上 vs 75歳未満)、性別 (男性 vs 女性)、前治療ライン数 (2ライン以上 vs 2ライン未満)、喫煙歴 (現在/過去喫煙 vs 非喫煙)、遺伝子変異ステータス (EGFR変異またはALK融合遺伝子陽性 vs 陰性)、脳転移の有無 (あり vs なし) を含めた。統計解析にはRソフトウェア (バージョン 3.3.2) を使用した。