• 著者: Josefien W. Hommes, Rik J. Verheijden, Karijn P.M. Suijkerbuijk, Dörte Hamann
  • Corresponding author: Dörte Hamann (University Medical Center Utrecht)
  • 雑誌: Frontiers in Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-02-11
  • Article種別: Review
  • PMID: 33643899

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、CTLA-4 (ipilimumab) やPD-1 (nivolumab・pembrolizumab) ・PD-L1を標的とし、2011年のFDA承認以来、メラノーマ・肺癌・腎癌・リンパ腫・肝癌など広範ながん種に適応拡大されてきた。ICIはT細胞の負のフィードバック機構を遮断することで持続的な抗腫瘍応答を誘導するが、同時に免疫関連有害事象 (irAE) を引き起こす。irAEの発生頻度はいずれかのgradeで抗CTLA-4治療後60-85%・抗PD-1後57-85%・抗CTLA-4+抗PD-1併用で95%に達し、grade3以上の重篤なirAEは各10-27%・7-20%・55%に及ぶと報告されている (Haanen et al. Ann Oncol 2017)。irAEは発症時期が治療開始から18ヶ月以上後まで多様で (皮膚→消化管→肝臓→内分泌の順に遅れて発症)、特に希少なirAE (心筋炎・筋炎・脳炎) は致死率が高いことが知られている (Wang et al. JAMA Oncol 2018)。早期診断と迅速な免疫抑制療法の開始が、irAEによる罹病率と死亡率を軽減するため、irAEを事前に予測または早期検出できるバイオマーカーの同定が急務であった。しかし、これまでの研究では、irAEの予測・診断に十分な精度を持つ単独バイオマーカーは未解明であり、臨床応用には至っていないという知識ギャップが残されている。Weber et al. JClinOncol 2012Coutzac et al. JCrohnsColitis 2017などの先行研究ではirAEの管理や病態生理に焦点が当てられてきたが、予測・診断バイオマーカーの包括的な評価は不足していた。

目的

PubMedを用いた系統的文献検索 (キーワード: adverse events, immune checkpoint inhibitor, biomarker) から3580件をスクリーニングし、最終的に40件の一次論文を採択した。本レビューは、ICI治療前および治療中のirAEを予測または診断する血液系、免疫遺伝学的、腸内マイクロバイオームバイオマーカーに関する現時点の知見を包括的に整理し、その臨床的有用性と今後の研究方向性を示すことを目的とした。

結果

血液系バイオマーカー (白血球細胞分画): 好中球-リンパ球比 (NLR) は、ICI治療患者のirAEリスクと関連することが示された。391例の抗PD-1治療患者を対象とした研究では、高NLR (≥3) の患者は低NLRの患者と比較してirAE発症頻度が有意に低く、調整オッズ比 (OR adj) は0.37 (95% CI 0.17-0.81, p=0.012) であった (Eun et al. Sci Rep 2019)。また、173例の非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象とした別の研究では、血小板-リンパ球比 (PLR) が180未満の患者でirAEリスクが増加し、OR adjは2.3 (95% CI 1.1-4.8, p=0.027) であった (Pavan et al. Oncologist 2019)。好酸球数に関しては、44例の抗PD-1治療メラノーマ患者において、ベースラインの絶対好酸球数>240/μlが内分泌irAEリスク増加と関連し、ORは7.0 (95% CI 1.50-32.72, p=0.0134) で、感度88%・特異度50%を示した (Nakamura et al. Jpn J Clin Oncol 2019)。リンパ球数については、167例の固形癌患者を対象とした研究で、ベースラインおよび治療開始1ヶ月後の絶対リンパ球数>2000がgrade≥2のirAEリスク増加と関連し、OR adjは1.996 (95% CI 1.16-3.49, p=0.014) であった (Diehl et al. Oncotarget 2017)。T細胞サブセットでは、44例の抗CTLA-4治療メラノーマ患者において、grade≥3 irAEを発症した患者では、ベースラインのPD-1発現CD4+T細胞およびCD8+T細胞の割合が有意に低かった (それぞれp=0.025, p=0.022) (Damuzzo et al. Clinical Oncoimmunol 2016)。また、抗CTLA-4誘発大腸炎患者では、ベースラインの制御性T細胞 (Treg) の割合が有意に低下していた (p=0.018) (Chaput et al. Ann Oncol 2017)。T細胞レパートリー解析では、抗CTLA-4+アンドロゲン除去療法 (ADP) を受けた27例の患者において、CD8+T細胞クローンの55以上の拡大がgrade≥2 irAEと関連し、感度100%・特異度42%・AUC=0.87であった (Subudhi et al. PNAS 2016)。B細胞の変化については、抗CTLA-4+抗PD-1併用療法を受けた23例のメラノーマ患者で、B細胞数の30%以上の早期減少とCD21lo細胞またはプラズマブラストの倍増がgrade≥3 irAEに先行することが示された (p<0.001) (Das et al. J Clin Invest 2018)。これらの結果は、血液細胞分画がirAEの予測に有用である可能性を示唆する (Table 1, Table 2)。

サイトカイン・複合スコアバイオマーカー: サイトカインでは、IL-6がirAEと関連することが複数の研究で報告された。140例の抗CTLA-4治療メラノーマ患者において、ベースラインの低IL-6レベル (<2.5ng/L) がgrade≥3 irAEのリスク増加と相関し、ORは2.84 (95% CI 1.34-6.03) で、感度70%・特異度66%であった (Valpione et al. J Transl Med 2018)。また、irAE発症時のIL-6上昇とC反応性タンパク (CRP) の急上昇 (ベースライン8.4mg/LからirAE時52.7mg/Lへ、p<0.0001) が早期指標として機能することが示された (Abolhassani et al. J Cancer Res Clin Oncol 2019)。IL-17については、35例の抗CTLA-4治療患者において、ベースラインの高IL-17レベルがgrade≥3 irAEおよび大腸炎と関連した (それぞれp=0.02, p=0.03) (Tarhini et al. J Immunother Cancer 2015)。複数のサイトカインを組み合わせた複合スコアも検討された。49例のメラノーマ患者を対象とした研究では、12サイトカインからなるCYTOXスコア (IL-1β, IL-2, GM-CSF, G-CSF, fractalkine, FGF-2, IFNα2, IL-1RA, IL-12p70, IL-13など) がICI中断または免疫抑制を要するirAEと関連し、検証コホートでAUC=0.70 (p=0.0168) を示した (Lim et al. Clin Cancer Res 2019)。ケモカインでは、42例の固形癌患者を対象とした研究で、ベースラインのCXCL9, CXCL10, CXCL11, CCL19の低レベルがirAEと関連し、治療開始6週後にはirAE患者でCXCL9とCXCL10の増加がより顕著であった (p<0.05) (Khan et al. Br J Cancer 2019)。これらのサイトカインやケモカインの動態は、irAEの病態生理を反映する可能性があり、複合的なバイオマーカーパネルの一部として有用であると考えられる (Table 1, Table 2, Supplementary Table S1)。

自己抗体バイオマーカー: 自己抗体は特定のirAEの予測に有用である可能性が示された。抗甲状腺抗体 (抗Tg・抗TPO) がベースラインまたは治療中に陽性の場合、甲状腺機能障害のリスクが大幅に増加した。168例の抗PD-1治療固形癌患者を対象とした研究では、ベースラインの抗Tg抗体陽性が甲状腺機能障害と有意に相関し、OR adjは26.5 (95% CI 8.18-85.8, p<0.001) であった (Kimbara et al. Cancer Sci 2018)。皮膚irAEでは、40例の抗PD-(L)1治療NSCLC患者において、抗BP180 IgGのベースライン高値が皮膚irAEと関連した (p=0.04) (Hasan Ali et al. J Am Acad Dermatol 2019)。下垂体炎では抗GNAL抗体、肺炎では抗CD74抗体が関連し、それぞれAUC=1.0を示した (Tahir et al. PNAS 2019)。さらに、75例のメラノーマ患者を対象としたHuProtアレイによる19,000超のタンパク質に対する自己抗体プロファイリングでは、grade≥3 irAEに特異的な自己抗体パターンが検出され、支持ベクターマシン (SVM) 分類モデルは高感度 (≥0.89) および高特異度 (≥0.85) を示した (Gowen et al. J Transl Med 2018)。これらの自己抗体は、特定の臓器特異的irAEの予測に特に有望である (Table 1, Table 2)。

免疫遺伝学 (SNP・HLA) バイオマーカー: 一塩基多型 (SNP) 解析では、PDCD1 804C>T変異がirAEリスク増加と関連したが、検証コホートでの再現性に課題があった (Bins et al. Br J Cancer 2018)。miR-146a rs2910164 CCジェノタイプ (microRNA-146a発現低下) は、167例の固形癌患者においてgrade3-4 irAEリスク増加と関連し、ORは6.78 (95% CI 1.87-24.6, p=0.004) であった (Marschner et al. JCI Insight 2020)。HLA解析では、HLA-DRB111:01が掻痒症、HLA-DQB103:01が大腸炎と関連することが示された (Hasan Ali et al. Eur J Cancer 2019)。ICI誘発1型糖尿病患者23例では、HLA-DR4が76%の患者で検出され (一般集団17%と比較してp<0.0001)、HLA型が特定のirAEリスクを臓器特異的に規定する可能性が示唆された (Stamatouli et al. Diabetes 2018)。免疫遺伝学的要因は、患者のirAE感受性を評価するための重要な基盤を提供する (Table 1)。

腸内マイクロバイオームと臨床バイオマーカー: 腸内マイクロバイオーム組成もirAEと関連することが報告された。34例の抗CTLA-4治療患者を対象とした研究では、Bacteroidetes門のベースラインでの豊富化が大腸炎非発症と関連し (感度70%・特異度83%)、逆にFirmicutes門は大腸炎発症と関連した (それぞれp<0.011, p<0.009) (Dubin et al. Nat Commun 2016)。ビタミンB合成関与経路の欠如が大腸炎リスク増加と関連し、特定の腸内細菌叢組成が大腸炎の発症を規定する可能性が示唆された。臨床パラメータとして、168例の抗PD-1治療患者において、ベースラインのTSH≥5μIU/mlが甲状腺機能障害リスク増加と関連し、OR adjは7.36 (95% CI 1.66-32.7, p=0.01) であった (Kimbara et al. Cancer Sci 2018)。また、113例の抗CTLA-4治療メラノーマ患者では、可溶性CTLA-4>200pg/mlがany irAEリスクを3.63倍増加させ、OR adjは3.63 (95% CI 1.14-11.5, p=0.029) であった (Pistillo et al. Cancer Immunol Immunother 2019)。これらの非免疫学的バイオマーカーもirAE予測において補完的な情報を提供する (Table 1)。

考察/結論

本レビューは、40件の文献から多様なirAEバイオマーカー候補を体系的に整理したが、単独で臨床実用に耐えるバイオマーカーは確認されなかった。

先行研究との違い: 従来のレビューでは治療中のバイオマーカーに関する研究が不足していたのに対し、本レビューでは治療前と治療中の両方のバイオマーカーを包括的に評価した点でこれまでと異なる。また、Weber et al. JClinOncol 2012がirAEの管理と応答の動態に焦点を当てたのに対し、本研究はバイオマーカーの予測・診断精度に特化している。Blank et al. Science 2016が提唱した「がん免疫グラム」のような包括的アプローチとは対照的に、本レビューはirAEに特化したバイオマーカーに焦点を当てた。

新規性: 本研究で初めて、血液細胞分画、サイトカイン、自己抗体、免疫遺伝学、腸内マイクロバイオームといった多岐にわたるバイオマーカー候補を網羅的に比較検討し、個々のバイオマーカーの限界を明確に示した。特に、重篤irAEを予測するためには単一バイオマーカーではなく、遺伝的素因 (SNP・HLA) ・基準時免疫状態 (自己抗体・サイトカイン) ・腸内マイクロバイオーム・治療後動態 (T細胞レパートリー多様化・B細胞変化) を組み合わせた複合バイオマーカーアプローチが必要であることを強調した点は新規である。

臨床応用: 本知見は、irAEの早期予測と個別化された治療戦略の確立に向けた臨床応用の基盤を提供する。irAEリスクが高い患者がICIの恩恵を最も受ける可能性があり、積極的なirAE管理がICI効果を損なわないよう慎重なマネジメントが求められる。将来的には、遺伝的素因、基準時免疫状態、腸内マイクロバイオーム、治療後動態を組み合わせた複合バイオマーカーアプローチが、臨床現場での意思決定に有用なツールとなる可能性がある。例えば、Oyanagi et al. LungCancer 2019が示した血清タンパク質レベルの予測価値は、複合バイオマーカーパネルの一部として組み込まれることで、その臨床的有用性が高まる可能性がある。

残された課題: 残された課題として、大部分が後向き研究であり、解析症例数 (特にirAE発症数) が少なく統計的検出力が不十分であること、感度・特異度・ROC曲線などの診断精度指標が報告されていない研究が多いこと、独立した検証コホートが欠如していることが挙げられる。また、抗CTLA-4と抗PD-1では免疫調節機序が異なり、irAEの病態と予測バイオマーカーもICIの種類ごとに異なる可能性が高い。今後は、前向きデザイン、十分な検出力、標準化されたサンプリング、検証コホートを備えた多変量研究、および機械学習を用いた予測モデルの開発が求められる。

方法

本研究は、irAEバイオマーカーに関する既存の一次論文をレビューする目的で実施された。PubMedデータベースを用いて、2020年7月1日までに公開された文献を検索した。検索キーワードには、「adverse events」、「immune checkpoint inhibitor」、「biomarker」およびそれらの同義語を用いた (完全な検索式はAppendix 1に記載)。検索により得られた3580件の論文について、タイトルと抄録のスクリーニングを行い、レビューの目的に関連する論文、潜在的なバイオマーカーの統計的有意性が報告されている論文を抽出した。その後、残った論文の全文を評価し、最終的に35件の論文をレビューに含めた。さらに、引用文献やPubMedの類似記事機能を用いて5件の追加論文を特定し、合計40件の一次論文を解析対象とした。ケースレポートは除外し、統計的に裏付けられたデータを持つ論文のみを対象とした。レビューされた研究の大部分は予測バイオマーカーに焦点を当てていた。本レビューでは、血液ベースのバイオマーカー、免疫遺伝学的バイオマーカー、腸内マイクロバイオームバイオマーカーに分類して結果を整理した。統計手法の具体的な記述は各一次論文に依存するが、本レビューではそれらの結果を統合的に評価した。このレビューは、既存の文献の系統的な統合を通じて、irAEバイオマーカーの現状を評価し、今後の研究の方向性を提案することを目的とした。統計的有意性の評価には、各一次論文で報告されたp値、オッズ比 (OR)、信頼区間 (CI) が用いられた。