- 著者: Jun Oyanagi, Yasuhiro Koh, Koichi Sato, Keita Mori, Shunsuke Teraoka, Hiroaki Akamatsu, Kuninobu Kanai, Atsushi Hayata, Nahomi Tokudome, Keiichiro Akamatsu, Masanori Nakanishi, Hiroki Ueda, Nobuyuki Yamamoto
- Corresponding author: Yasuhiro Koh (Internal Medicine III, Wakayama Medical University, Wakayama, Japan)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2019
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 31097082
背景
ニボルマブをはじめとする抗PD-1 (programmed cell death 1) 抗体は進行NSCLCの二次治療以降で奏効率20-30%・OS延長をもたらしたが、依然として多くの患者が恩恵を受けられず、治療前に奏効可能性を予測するバイオマーカーの確立が急務であった。腫瘍組織のPD-L1発現はICIの効果予測バイオマーカーとして確立されているが、PD-L1低発現例でも奏効が得られる一方でPD-L1高発現でも無効例が存在し、単独では不十分であることが明らかになっていた。TMB (腫瘍遺伝子変異量) や腫瘍浸潤リンパ球も予測因子として報告されているが、組織生検の侵襲性・測定コスト・技術的複雑性が一般臨床への普及の障壁となっており、低侵襲で繰り返し評価可能な液性バイオマーカーへの需要が高かった。
一方、免疫関連有害事象 (immune-related adverse event; irAE) は発症すると重篤化・致死的となりうるにもかかわらず、発症を事前に予測するバイオマーカーが確立されていないという重要な gap in knowledge が存在していた。irAE発症とニボルマブ効果との相関は複数のコホートで報告されており (Sato et al. LungCancer 2018、Haratani et al. JThoracOncol 2018)、その機序解明と予測バイオマーカー同定の重要性が高まっていた。末梢血の中性球リンパ球比 (neutrophil-to-lymphocyte ratio; NLR) や絶対リンパ球数はニボルマブ治療の予後予測因子として報告されていたが (Sekine et al. LungCancer 2018)、予測精度に限界があった。血清サイトカイン・ケモカイン・成長因子を多重定量するプロテオミクスアプローチは腫瘍免疫微小環境の全身的反映として治療効果・毒性の両面を同時に探索できる可能性があったが、進行NSCLC患者を対象とした網羅的な血清プロテオーム解析は手薄であった。
目的
進行NSCLCに対するニボルマブ治療において、血清プロテオーム解析により持続的臨床ベネフィット (durable clinical benefit; DCB) およびirAE発症を予測する非侵襲的循環プロテインバイオマーカーを同定すること。
結果
患者背景と治療成績: 2016年1月から2017年3月に38例が登録された (Table 1)。年齢中央値68.5歳 (範囲49-86歳)、男性28例 (74%)、喫煙者26例 (68%)、非扁平上皮癌27例 (71%)/扁平上皮癌11例 (29%)、前治療2ライン以上20例 (53%)、ECOG PS 0-1が33例 (87%)、Stage III 11例 (29%)/Stage IV 27例 (71%)。PD-L1発現 ≥50%が8例 (21%)、1-49%が13例 (34%)、不明が17例 (45%)であった。最良奏効はPR 9例 (24%)・SD 10例 (26%)・PD 19例 (50%)、客観的奏効率 (objective response rate; ORR) 24%・疾患制御率 (disease control rate; DCR) 50%であった。
DCB (durable clinical benefit) と関連するベースライン血清タンパク質: 34種類の解析対象タンパク質のうち5種類がDCB群vs非DCB群で有意に異なった (Table 2)。BMP-9 (bone morphogenetic protein 9) はDCB群で有意に高値 (p=0.0124) であり、フォリスタチン (p=0.0299)・IL-8 (p=0.0212)・IP-10/CXCL10 (p=0.0046)・TNFα (p=0.0123) はDCB群で有意に低値であった (Supplementary Fig. 1)。これらを共変量とした多変量ロジスティック回帰分析では、フォリスタチン (OR 0.9966, 95% CI 0.9922-0.9997, p=0.0300) およびIP-10/CXCL10 (OR 0.9941, 95% CI 0.9838-0.9997, p=0.0369) が独立したDCB予測因子として同定された (Table 2, Fig. 2A-B)。オッズ比 < 1.0 はタンパク質濃度の低値がDCB達成と関連することを意味し、ベースライン低フォリスタチン・低IP-10がニボルマブ奏効の予測因子であることが示された。
フォリスタチン・IP-10によるPFS予測: ROC解析によるAUCはフォリスタチン0.74、IP-10 0.81であった。カットオフ値による層別化でPFSの有意差を認めた。低フォリスタチン群の中央PFS未到達 (95% CI 36日-未到達) vs 高フォリスタチン群59日 (95% CI 40-127日; log-rank p=0.026) (Fig. 2C)。低IP-10群の中央PFS 322日 (95% CI 48日-未到達) vs 高IP-10群49日 (95% CI 30-127日; log-rank p=0.029) と有意なPFS延長を認めた (Fig. 2D)。コホート全体でもフォリスタチン・IP-10の各濃度とPFSの相関が確認された (Fig. 2E-F)。DCB群と非DCB群間でベースラインから4週までのタンパク質変化量に有意差は認めず、PD-L1発現レベルとの有意な相関もみられなかった。
irAEと関連する治療4週後血清タンパク質: ベースラインではirAE群と非irAE群間で有意差を示すタンパク質は認めなかった。一方、治療4週後ではG-CSF (granulocyte colony-stimulating factor; p=0.0415) およびRANTES (regulated on activation, normal T cell expressed and secreted)/CCL5 (p=0.0465) がirAE群 (n=11) vs 非irAE群 (n=21) で有意に高値、レプチン (leptin; p=0.0344) が低値であった (Supplementary Fig. 3, Table 2)。多変量解析ではRANTES/CCL5のみが独立してirAE発症と有意に関連した (OR 1.000, 95% CI 1.000009-1.0001, p=0.0105)。
ステロイド投与後のRANTES変動と効果-irAE非重複: irAE発症患者11例のうち7例がステロイド投与を受け、投与前後のペアサンプルが得られた4例全例でステロイド投与後にRANTES濃度が低下した (Fig. 3C)。この結果はRANTESがニボルマブ誘発irAEの発症機序に関与していることを支持する。効果予測因子 (フォリスタチン・IP-10) とirAE予測因子 (RANTES) に重複は認められず、抗腫瘍活性とirAEが時空間的に異なる機序で制御されている可能性が示唆された。
考察/結論
本研究は進行NSCLCに対するニボルマブ治療において、ベースライン低フォリスタチン・低IP-10/CXCL10がDCBを、治療4週後高RANTES/CCL5がirAEを独立予測するという新規の血清プロテインバイオマーカーパネルを同定した探索的エビデンスである。これらはこれまで報告されていないICIバイオマーカーであり、本研究で初めて示された知見として非侵襲的循環プロテインによる治療層別化の可能性を提示した。
生物学的機序として、フォリスタチンはアクチビン/BMP (bone morphogenetic protein) 拮抗タンパク質であり、CD4+ T細胞のBMPシグナルを介した増殖を抑制することで免疫抑制環境を形成すると解釈される。IP-10/CXCL10は制御性T細胞 (regulatory T cell; Treg) を腫瘍部位へ誘引し免疫抑制的な腫瘍微小環境を形成するとされており、高IP-10はICIに抵抗性を示す「cold tumor」環境を反映すると考えられる。これらはこれまでの研究が主眼とした組織PD-L1発現や腫瘍浸潤リンパ球と異なる情報軸を提供し、血清プロテオミクスが独立した予測価値を持ちうることを示す。RANTES/CCL5は活性化T細胞や骨髄由来免疫抑制細胞 (myeloid-derived suppressor cell; MDSC) の動員に関与するケモカインであり、ニボルマブ誘発免疫活性化後の過剰なT細胞集積がirAEのメディエーターとなる機序が考えられる。ステロイド投与後のRANTES低下はこの仮説を支持する (Fig. 3C)。
臨床的意義として、血清プロテインのベースライン測定による低侵襲な治療効果予測は腫瘍生検困難例や反復評価が必要な患者への臨床応用が期待される。先行研究では末梢血リンパ球・単球比の変動が早期代替マーカーとして報告されているが (Sekine et al. LungCancer 2018)、本研究のIP-10 (AUC 0.81) はより高い予測精度を示す可能性がある。効果予測因子とirAE予測因子が重複しなかった点は (Sato et al. LungCancer 2018)、抗腫瘍活性とirAEが独立した経路で制御されていることを示唆し、ステロイドによるirAE管理が抗腫瘍効果を損なわない可能性の臨床的意義を強化する。
今後の検討として、本研究は単施設探索的試験でn=38とサンプルサイズが限定的であり、多施設大規模コホートでの独立した検証が必須の課題である。著者らはペムブロリズマブを用いたin-house検証コホートと、アテゾリズマブを用いた前向き多施設観察研究 (UMIN000033133) での検証を計画しており、これらが最重要なfuture researchの位置を占める。PD-L1発現データ不明例が多く多変量解析の共変量に組み込めなかった limitation も指摘されており、大規模コホートでPD-L1と血清バイオマーカーの統合予測モデルを構築することや、ニボルマブ以外のICI (immune checkpoint inhibitor; ICI) への一般化可能性、フォリスタチン・IP-10の産生細胞同定など機序的検証も残された課題として挙げられる。
方法
デザインと対象: 和歌山医科大学の単施設前向き探索的研究 (UMIN000024414)。前治療歴のある進行NSCLC患者38例にニボルマブ単剤療法 (3 mg/kg、Q2W) を投与し、病勢進行または忍容できない毒性まで継続した。血液サンプルはベースライン・治療4週・8週・12週・進行時に連続採取した。全身ステロイド投与患者・他院転院・死亡・病勢進行患者は以降の解析時点から除外した。有効性解析はn=38、irAE解析はベースライン・4週ペアサンプルが得られたn=32で実施した (Fig. 1)。
エンドポイント定義: 腫瘍奏効はRECIST v1.1に基づきPR (partial response)・SD (stable disease)・PD (progressive disease) に分類。DCB はPRまたはSD ≥ 6か月と定義し、非DCBは6か月未満での進行と定義した。irAE発症有無を副次的評価項目とした。
血清タンパク質定量: Milliplex MAP (multi-analyte profiling) assay (ヒトサイトカイン/ケモカインパネル1・ヒト血管新生/成長因子パネル1・多種TGFβパネル; Millipore社) を用いて57種類の血清タンパク質を重複測定で定量した。Luminex 200アナライザーで蛍光強度を計測し、許容閾値を満たさなかった23種類を除外して最終的に34種類を解析対象とした。PD-L1免疫組織化学染色は抗ヒトPD-L1ウサギモノクローナルIgG抗体 (clone 28-8, Abcam) で実施した。
統計解析: DCB群vs非DCB群・irAE群vs非irAE群の血清タンパク質濃度比較にMann-Whitney U検定を適用した。有意な変数を共変量とした多変量ロジスティック回帰分析でDCBおよびirAEと独立して関連するタンパク質を同定した。ROC (receiver operating characteristic) 曲線で最適カットオフ値とAUC (area under the curve) を算出した。PFSとのSpearman相関係数を算出し、Kaplan-Meier法とlog-rank検定でPFSを解析した。p<0.05を有意水準とした。