• 著者: Clélia Coutzac, Julien Adam, Emilie Soularue, Michael Collins, Antoine Racine, Charlotte Mussini, Lisa Boselli, Nyam Kamsukom, Christine Mateus, Mélinda Charrier, Lydie Cassard, David Planchard, Vincent Ribrag, Karim Fizazi, Yohann Loriot, Patricia Lepage, Jean-Yves Scoazec, Caroline Robert, Franck Carbonnel, Nathalie Chaput
  • Corresponding author: Nathalie Chaput (Gustave Roussy Cancer Campus, Villejuif, France)
  • 雑誌: Journal of Crohn’s and Colitis
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28967957

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、悪性黒色腫、非小細胞肺癌、腎細胞癌、頭頸部扁平上皮癌など、様々な癌種において生存率を改善し、癌治療に革命をもたらした。しかし、その主要な限界の一つは、免疫関連有害事象 (irAE) の高い発生率であり、特に消化管irAEである腸炎は重大な問題である。抗CTLA-4抗体 (イピリムマブ、トレメリムマブ) および抗PD-1抗体 (ニボルマブ、ペムブロリズマブ) は、それぞれ異なる機序で免疫応答を活性化するため、誘発されるirAEの病態生理も異なる可能性が示唆されている。

これまで、抗CTLA-4誘発大腸炎の病理学的特徴に関する報告は散発的であったが、抗PD-1誘発大腸炎の免疫病理学的特徴はほとんど未解明であった。従来のirAE管理ガイドラインは、炎症性腸疾患 (IBD) と同様の治療戦略を推奨していたが、抗CTLA-4および抗PD-1誘発大腸炎がIBDと共通の病態生理を持つか否かを示す免疫学的データは不足していた。

先行研究では、CTLA-4阻害がconventional CD4+ T細胞の活性化とICOS (inducible T-cell costimulator) の上方制御を惹起することが示されている (Weber et al. JClinOncol 2012)。また、PD-1阻害は腫瘍微小環境における既存のCD8+ T細胞の増殖と細胞傷害性活性を促進することが報告されている (Tumeh et al. Nature 2014; Spranger et al. SciTranslMed 2013)。これらの知見は、両タイプのirAEが異なる免疫機序によって引き起こされる可能性を示唆する。

さらに、抗CTLA-4治療における粘膜FoxP3+制御性T細胞 (Treg) の枯渇がirAEの原因であるとする仮説も提唱されていたが、その後の研究では粘膜または末梢血中のTreg枯渇は観察されず、この仮説は実証されていなかった。したがって、抗CTLA-4および抗PD-1誘発大腸炎の免疫病理学的特徴を詳細に比較し、両者の病態生理における相違点を明らかにすることは、より効果的な治療戦略を開発するために不可欠な課題として残されていた。特に、治療反応性を予測するバイオマーカーの同定は、ステロイド抵抗性患者の早期特定と適切な二次治療選択に繋がる点で臨床的意義が大きい。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、抗CTLA-4誘発大腸炎と抗PD-1誘発大腸炎の組織学的および免疫学的特徴を詳細に比較し、両者が共通の単一の免疫機序を持つのか、あるいは異なる病態生理学的エンティティであるのかを明らかにすることである。さらに、両タイプの大腸炎における治療反応性、特にステロイド感受性を予測するバイオマーカーの候補を同定することを目指した。具体的には、大腸生検検体を用いて、T細胞サブセットの浸潤パターン、ICOS発現、および粘膜TNFα濃度を解析し、これらの免疫学的特徴と臨床的アウトカムとの関連性を評価した。これにより、個別の治療戦略の確立に貢献する新たな知見を得ることを目指した。

結果

Anti-CTLA-4 colitisではCD4+T細胞、anti-PD-1 colitisではCD8+T細胞が優位: 免疫組織化学 (IHC) 解析により、抗CTLA-4誘発大腸炎では粘膜固有層にCD4+ T細胞の濃度が高く、一方、抗PD-1誘発大腸炎ではCD8+ T細胞が優位であることが示された。特に、上皮内リンパ球 (IEL) は抗PD-1誘発大腸炎患者の80% (n=5例中4例) で観察されたのに対し、抗CTLA-4誘発大腸炎では12% (n=25例中3例) にとどまった。抗PD-1誘発大腸炎生検におけるCD8+細胞の絶対数は13.5/cm² (範囲 4.1-29.7)、その比率は64.7% (21.6-88.8) であり、抗CTLA-4誘発大腸炎の4.6/cm² (1.7-27.5)、31.1% (11.6-95.0) と比較して有意に高値であった (p=0.0266およびp=0.0365)。フローサイトメトリー解析 (n=17 anti-CTLA-4 colitis patients, n=5 anti-PD-1 colitis patients) でも同様の結果が得られ、CD3+細胞中のCD8+細胞の割合は抗CTLA-4群で37.3% (19.1-46.8) であったのに対し、抗PD-1群では52.4% (39.4-72.5) と有意に高かった (p=0.0014)。逆に、CD4+細胞の割合は抗CTLA-4群で54.9% (47.4-75.2) と、抗PD-1群の42.9% (18.6-54.8) より有意に高かった (p=0.0046)。これらの結果は、両タイプの大腸炎におけるT細胞サブセットの浸潤パターンが明確に異なることを示している。(Figure 1C, 1D)

Treg枯渇はirAE病態と関連しない: IHCおよびフローサイトメトリーの両方法を用いたFoxP3+ Treg細胞の解析では、抗CTLA-4誘発大腸炎 (n=23 patients for FoxP3 IHC)、抗PD-1誘発大腸炎 (n=5 patients)、およびIBD (n=4 patients) の3群間で、粘膜におけるFoxP3+ Treg細胞数に統計学的な有意差は認められなかった。この結果は、抗CTLA-4治療によるTreg枯渇がirAEの原因であるとする先行仮説を否定するものであり、既報のLord et al.の報告と一致する。Treg細胞はCTLA-4およびPD-1を高レベルで発現しているため、これらの阻害薬の標的となる可能性が示唆されていたが、本研究では大腸粘膜におけるTreg細胞の絶対的な減少は観察されなかった。

Anti-CTLA-4 colitisでICOS+Tconvが著増: ICOSの発現は主にCD4+ T細胞に認められ、CD8+ T細胞ではほとんど発現が確認されなかった。フローサイトメトリー解析の結果、抗CTLA-4誘発大腸炎患者の生検組織 (n=14 samples) では、ICOSを発現するconventional CD4+ T細胞 (Tconv; CD3+CD4+FoxP3-) の数が705/mm² (範囲 321-5613) であり、IBD患者 (n=4 samples) の175/mm² (84-301) と比較して有意に高値であった (p=0.0007)。抗PD-1誘発大腸炎 (n=5 samples) でも増加傾向 (705/mm² [81-1257]) は見られたが、IBDとの有意差は認められなかった (p=0.10)。一方、ICOS+ Treg細胞数については、3群間で有意な差は観察されなかった。さらに重要な所見として、ICOS+CD4+ T細胞におけるFoxP3-/FoxP3+比率は抗CTLA-4誘発大腸炎で高値を示し (Tconv優位)、抗PD-1誘発大腸炎とIBDでは類似していた。これは、抗CTLA-4誘発大腸炎が主にTh1炎症機序 (IFNγ産生促進) によって駆動されることを示唆する。(Figure 2A, 2C)

粘膜TNFαはanti-CTLA-4で高値、ステロイド感受性と逆相関: 大腸生検組織の培養上清における粘膜TNFα濃度の中央値は、抗CTLA-4誘発大腸炎 (n=20 patients) で222 pg/ml (範囲 0-4721) であり、抗PD-1誘発大腸炎 (n=6 patients) の0 pg/ml (0-60、p=0.0075) およびIBD (n=4 patients) の0 pg/ml (0-271、p=0.0634) と比較して有意に高値であった。ステロイド治療を受けた25例のうち、粘膜TNFα濃度が低値 (中央値≦61.5 pg/ml) であった13例は全員がステロイド治療で臨床的寛解を達成した。一方、TNFα濃度が高値 (>61.5 pg/ml) であった12例中50%がステロイド抵抗性を示し、二次治療としてインフリキシマブを必要とした (Fisher’s exact test p=0.012)。抗PD-1誘発大腸炎患者ではインフリキシマブを必要とした例はなく、これは彼らの低いTNFα濃度と一致する。これらの結果は、粘膜TNFα濃度がステロイド感受性の予測バイオマーカーとして機能する可能性を示唆する。(Figure 3A, 3B)

組織学的特徴: 両タイプの大腸炎ともに、リンパ球および形質細胞の浸潤、ならびに陰窩膿瘍が観察された。しかし、抗PD-1誘発大腸炎では、顕微鏡的大腸炎に類似したIELの増加が認められたものの、膠原性大腸炎に特徴的な厚い膠原線維層 (>10 μm) は認められなかった。抗CTLA-4誘発大腸炎は、IBDとは異なり、陰窩の不整などの慢性化所見を呈さなかった。これは、抗CTLA-4誘発大腸炎がより急性期の炎症パターンを示すことを示唆する。

考察/結論

本研究は、抗CTLA-4誘発大腸炎と抗PD-1誘発大腸炎が2つの異なる免疫病理学的エンティティであることを初めて体系的に示した。抗CTLA-4誘発大腸炎は、(1) CD4+ T細胞優位、(2) ICOS+ Tconv優位、(3) 高粘膜TNFα濃度、(4) IBDに類似した急性大腸炎パターンを特徴とする。一方、抗PD-1誘発大腸炎は、(1) CD8+ T細胞およびIEL優位、(2) 低粘膜TNFα濃度、(3) 顕微鏡的大腸炎に類似した特徴 (ただし膠原性大腸炎は含まない) を有する。

先行研究との違い: マウスモデルを用いた先行研究 (Coquerelle et al. Gut 2009) では、CTLA-4阻害がICOS+ Treg細胞の増加を誘導し、Th1応答を抑制すると報告されていた。しかし、本研究のヒト患者コホートでは、抗CTLA-4誘発大腸炎においてICOS+ Tconv細胞が優位であり、Th1応答が促進される可能性が示唆された。このヒトとマウスモデル間の差異は、マウスがCTLA-4阻害後に大腸炎を発症しない一因であると考えられる。また、CTLA-4阻害が末梢CD4+ T細胞のICOS誘導をイピリムマブ効果のバイオマーカーとする既報 (Chen et al. ProcNatlAcadSciUSA 2009; Liakou et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2008) とも本研究の結果は整合する。

新規性: 本研究で初めて、抗CTLA-4誘発大腸炎と抗PD-1誘発大腸炎の間に明確な免疫学的浸潤パターンとサイトカインプロファイルの差異が存在することを明らかにした。特に、粘膜TNFα濃度が抗CTLA-4誘発大腸炎で有意に高く、ステロイド感受性と逆相関することを発見した点は新規の知見である。この結果は、両タイプの大腸炎で異なる免疫メカニズムが関与していることを強く示唆する。

臨床応用: 粘膜TNFα濃度の測定は、生検検体からのELISAで簡便に実施可能であり、ステロイド感受性予測バイオマーカーとして将来のirAE管理アルゴリズムに組み込める可能性がある。粘膜TNFα低値患者はステロイドに感受性を示すため、不必要なインフリキシマブ投与を回避できる。一方、抗PD-1誘発大腸炎ではTNFαが低値であるため、抗TNFα抗体であるインフリキシマブが有効でない可能性があり、治療選択の再考を促す。例えば、vedolizumabなどの抗α4β7阻害薬がより合理的な選択肢となる可能性も示唆される。抗CTLA-4誘発大腸炎ではICOS+ Tconv細胞が炎症の主要なドライバーであることから、将来的には抗ICOSL抗体などの選択的標的治療の開発につながる可能性も考えられる。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。(1) 抗PD-1誘発大腸炎コホート (n=6 patients) が小規模であり、結果の検証には大規模なコホートでのさらなる検討が必要である。(2) 治療前後の縦断的解析が欠如しており、irAE発症における免疫学的変化の動態を詳細に追跡できていない。(3) ICI併用療法 (イピリムマブ+ニボルマブ) による大腸炎の解析は未実施である。(4) 腸内細菌叢との関連性は評価されていない。(5) irAEを発症しない患者を対照群として組み込むことが倫理的に困難であったため、irAE発症の絶対的な免疫学的特徴を同定するには限界がある。今後の研究では、これらの課題を克服し、より包括的な病態生理の解明と個別化された治療戦略の確立を目指す必要がある。

方法

対象患者: 2013年5月から2015年7月にかけてGustave Roussyで治療を受けた患者を対象とした前向きコホート研究を実施した。対象は、抗CTLA-4抗体 (イピリムマブ 3-10 mg/kg 3週毎、トレメリムマブ 3-10 mg/kg 4週毎) または抗PD-1抗体 (ニボルマブ 3 mg/kg 2週毎、ペムブロリズマブ 2 mg/kg 3週毎) による治療中にNCI-CTCAEグレードIII以上のenterocolitisを発症し、内視鏡的炎症所見があり、かつ他の大腸炎原因 (虚血、細菌感染、クロストリジウム・ディフィシル毒素など) が除外された転移性悪性黒色腫、ホジキンリンパ腫、前立腺癌、非小細胞肺癌患者を登録した。最終解析対象は33例 (抗CTLA-4群: 27例、抗PD-1群: 6例) であった。対照群として、ステロイド、免疫抑制剤、抗TNFα抗体による治療歴のない新規診断IBD患者5例 (潰瘍性大腸炎2例、クローン病3例) を含めた。全ての患者は研究手続き前にインフォームドコンセントに署名した (GOLD study: SC12-018; ID-RCB-2012-6 A01496-37など)。

フローサイトメトリー: 内視鏡検査時に採取した新鮮な大腸生検組織を、Pulmozyme® (Roche) およびコラゲナーゼ (Sigma Aldrich) を用いて酵素消化し、GentleMACS Dissociator (Miltenyi) で機械的に解離した。得られた結腸細胞懸濁液を、蛍光標識抗体 (FITC-抗ICOS、PE-抗CD25、PerCP-抗CD8、PE-Cy7-抗CD4、APC-Cy7-CD45RA、APC-抗FoxP3、Vioblue-抗CD3) と反応させ、Canto IIフローサイトメーター (Becton Dickinson) で解析した。死細胞はLIVE/DEAD® Fixable Yellow stain (Invitrogen) で除外した。解析対象は抗CTLA-4群17例、抗PD-1群5例、IBD群4例であった。

粘膜TNFα測定: 大腸生検組織を200 µlの完全培地 (RPMI Glutamax、10% FBSなど) で24時間37℃で培養した。培養上清を回収し、ELISA (Human TNFα ELISA Set, BD OptEIA™) を用いてTNFα濃度を二重測定で定量した。解析対象は抗CTLA-4群20例、抗PD-1群6例、IBD群4例であった。

免疫組織化学 (IHC): パラフィン包埋生検組織から作製した連続切片をヘマトキシリン-エオジン-サフラン (HES) 染色し、Ventana Benchmark UltraまたはDiscovery Ultraプラットフォームを用いて自動免疫組織化学染色を実施した。使用した抗体はCD3 (Dako)、CD8 (Spring Bioscience)、CD20 (Dako)、FoxP3 (Spring Bioscience) であった。病理医が臨床情報を盲検化した状態で、ImageJソフトウェアのCell Counterプラグインを用いて、各スライドから2~3視野の高倍率画像を抽出し、染色陽性細胞数を手動でカウントした。解析対象は抗CTLA-4群25例、抗PD-1群5例、IBD群4例であった (FoxP3は抗CTLA-4群23例で解析)。

統計解析: 連続変数は中央値と範囲で、カテゴリカル変数はパーセンテージで示した。2群間の比較には対応のない非パラメトリックMann-Whitney U検定を、3群以上の比較にはKruskal-Wallis検定を用いた。p値<0.05を有意差ありと判断した。統計解析にはPrism 7.0ソフトウェア (GraphPad) を使用した。