• 著者: Saad A. Khan, Thomas M. Braun, Renato G. Martins, David E. Gerber
  • Corresponding author: David E. Gerber (Department of Internal Medicine, Division of Hematology-Oncology, UT Southwestern Medical Center, Dallas, TX, USA)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-06-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29290269

背景

自己免疫疾患 (AID) はがん患者の相当数に合併しており、特に肺がんにおいては推定10〜25%に何らかのAIDが存在すると報告されている。免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) の普及に伴い、AID合併がん患者へのICI安全性が注目されているが、ICI登場以前の時代においても、AIDが肺がんの治療選択や予後に与える影響は不明であった。AID合併患者は主要な肺がん臨床試験から除外されることが多く (合併症・薬物相互作用・毒性懸念)、実際の治療実績データが乏しかった。例えば、Johnson et al. JAMAOncol 2016Khan et al. JAMAOncol 2016 などの先行研究では、AID合併患者におけるICIの安全性と有効性に関する小規模な報告があるものの、大規模な集団ベースのデータは不足していた。

AIDの免疫調節作用が腫瘍免疫に影響を与える可能性 (腫瘍免疫監視の増強または免疫抑制薬による腫瘍免疫の抑制) が理論的には考えられるが、これを検証した大規模疫学データは存在しなかった。例えば、Pelosof et al. MayoClinProc 2010 は傍腫瘍症候群における免疫応答と腫瘍の関連を示唆しているが、一般的なAIDとの関連は未解明な点が多かった。AIDの治療に用いられる免疫抑制薬は一方で感染リスクを高め、他方で腫瘍増殖を促進する懸念もある。これらの要因が肺がんの治療選択や予後にどのように影響するかは、大規模なリアルワールドデータを用いた検討が不足していた。

本研究の解析期間はICIが標準治療となる以前のデータであるが、AID合併患者における肺がん治療の基本的なパターンと予後を理解することは、ICI時代においても治療意思決定の基盤となる重要な情報である。特に、乳がんにおける放射線療法のように、AIDが特定の治療の禁忌となる可能性も指摘されており、肺がんにおいても同様の懸念が存在した。しかし、これらの懸念を裏付ける大規模なエビデンスは不足しており、集団レベルでのAIDと肺がん治療・予後の関係を明らかにすることが喫緊の課題であった。本研究の知見は、ICIが肺がん治療の主流となる以前の患者集団におけるAIDの影響を包括的に評価するものであり、その後の治療選択肢の進化を考慮する上での重要な基礎情報を提供する。

目的

本研究の目的は、大規模医療行政データベースであるSEER (Surveillance, Epidemiology, and End Results)-Medicareデータを用いて、以下の点を明らかにすることである。

  1. 肺がん患者における自己免疫疾患 (AID) の合併率を特定すること。特に、肺がん診断に対するAIDの診断時期(診断前または診断後)およびAIDの数(1つまたは複数)を詳細に分類し、その頻度を明らかにすること。
  2. AIDの有無が肺がんの治療パターン (手術、化学療法、放射線療法、複合治療) に与える影響を評価すること。AID合併が治療選択に影響を及ぼすという従来の懸念が、大規模データにおいてどの程度裏付けられるかを検証する。
  3. AIDの有無が肺がん患者の死亡率 (全原因死亡率および肺がん特異的死亡率) に与える独立した影響を検討すること。特に、AIDの診断時期やAIDの数が死亡率に与える影響を肺がんの病期(Stage I/II, III, IV)別に詳細に分析し、リードタイムバイアスを補正したモデルで評価すること。
  4. AIDの有無が肺がん患者の医療資源利用 (救急外来受診、入院、外来受診の回数) に与える影響を定量的に評価すること。これにより、AID合併患者がより頻繁に医療サービスを利用する傾向があるかを客観的に示す。 これらの目的を達成することで、AID合併肺がん患者の治療戦略と予後に関するエビデンスを確立し、将来的な治療ガイドラインの策定、特にICI時代の治療意思決定の基盤となる重要な情報を提供することを目指す。

結果

患者背景: 解析対象となった肺がん患者172,285例のうち、23,084例 (13.4%) が肺がん診断前または診断後に少なくとも1つの自己免疫疾患 (AID) を合併していた。具体的には、10,927例 (6.3%) が肺がん診断前に1つのAID、9,338例 (5.4%) が肺がん診断前に2つ以上のAID、2,819例 (1.6%) が肺がん診断後に1つ以上のAIDと診断されていた。AID群は非AID群と比較して、女性 (AID群の女性割合は54.9%〜61.6%に対し、非AID群は44.2%、p<0.0001) および白人 (AID群の白人割合は87.0%〜89.0%に対し、非AID群は86.0%、p<0.0001) の割合が高く、Charlson Comorbidity Index (CCI) も有意に高かった (p<0.0001)。病期分布および組織型は、AIDの有無による大きな差は認められなかったが、肺がん診断後にAIDが診断された患者ではStage Iの割合が最も高く (41.1%)、Stage IVの割合が最も低かった (26.3%)。これらの詳細はTable 1に示されている。

治療パターン: 肺がんの治療パターン (外科切除のみ、化学療法のみ、放射線療法のみ、2つ以上の治療、治療なし) において、AIDの有無による治療実施率に統計学的に有意な差は認められなかった (多変量調整後)。例えば、手術のみの治療を受けた患者の割合は、AIDなし群で13.0%、肺がん診断前に1つのAIDがある群で14.4%、肺がん診断後に1つ以上のAIDがある群で35.7%であった。放射線療法のみの割合は、AIDなし群で18.9%、肺がん診断前に1つのAIDがある群で18.8%であり、全体としてAIDを有する患者でも、がんの病期と組織型に応じた標準的な治療が同程度に実施されていたことが示唆される。この結果は、AID合併が肺がん治療の選択に大きな影響を与えないことを裏付けている。

全原因死亡率 (多変量調整後): 全体として、AIDの有無は全原因死亡率と独立した有意な関連を示さなかった (大半の解析でp>0.05)。しかし、Stage I/II患者において、肺がん診断前に1つのAIDを有する場合、全原因死亡率の有意な増加が認められた (調整オッズ比 [aOR] 1.09, 95% CI 1.01-1.19)。この関連は、他の病期やAIDの診断時期・数では観察されなかった。このわずかな増加は、治療不耐性や診断前の医療資源利用の多さに関連している可能性が考えられる (Figure 1参照)。

肺がん特異的死亡率 (多変量調整後): 肺がん特異的死亡率に関しても、全体としてはAIDの有無との独立した有意な関連は認められなかった。しかし、Stage I/II患者において、肺がん診断後に1つ以上のAIDを有する場合、肺がん特異的死亡率の有意な減少が認められた (aOR 0.80, 95% CI 0.70-0.91)。同様に、Stage III患者においても、肺がん診断後に1つ以上のAIDを有する場合、肺がん特異的死亡率の有意な減少が認められた (aOR 0.71, 95% CI 0.61-0.83)。対照的に、Stage III患者で肺がん診断前に1つのAIDを有する場合、肺がん特異的死亡率の有意な増加が認められた (aOR 1.13, 95% CI 1.04-1.22)。Stage IV患者では、AIDの有無や診断時期、数に関わらず、全原因死亡率および肺がん特異的死亡率との有意な関連は認められなかった。これらの結果は、リードタイムバイアスを補正した感度解析でもほぼ同様の傾向を示しており、AIDの診断時期が予後に異なる影響を与える可能性を示唆する (Figure 1参照)。

医療資源利用: AID群は非AID群と比較して、肺がん診断前1年間の医療資源利用が有意に高かった (Table 1参照)。具体的には、救急外来 (ER) 受診回数 (AID群の59.4%〜60.1%がER受診に対し、非AID群は47.1%、p<0.0001)、入院回数 (AID群の23.3%〜25.3%が2回以上入院に対し、非AID群は17.0%、p<0.0001)、および外来受診回数 (AIDなし群の平均30.4回に対し、AID群は平均38.4〜44.5回、p<0001) がいずれも有意に多かった。これは、AID合併患者がより頻繁に医療サービスを利用していることを示唆している。これらのデータは、AID患者が肺がん診断前からより密な医療接触を持つ傾向にあることを明確に示している。

考察/結論

本研究は、SEER-Medicareを用いた大規模疫学解析により、肺がん患者の約13.4%が自己免疫疾患 (AID) を合併していることを示すとともに、AIDは治療パターン (手術、化学療法、放射線療法) に対して独立した有意な影響を与えず、多変量調整後の死亡率との関連も全体としては有意ではないことを明らかにした。

先行研究との違い: これまでの小規模な臨床観察や専門家の意見では、AID合併が肺がん治療の選択肢を制限する可能性が示唆されてきたが、本研究の大規模なリアルワールドデータ分析は、その懸念が全体としては限定的であることを示した点で、これまでの報告と対照的である。特に、乳がんにおける放射線療法のように、AIDが特定の治療の禁忌となる可能性が指摘されてきたが、肺がんにおいてはそのような明確な影響は認められなかった。本研究は、AID合併患者が標準的な肺がん治療を同程度に受けていることを示し、従来の治療忌避が大規模データでは裏付けられないことを明らかにした点で重要な知見である。

新規性: 本研究で初めて、リードタイムバイアスを補正したCoarsened Exact Matching (CEM) という革新的な統計手法を用いることで、AIDの診断時期と数、そして肺がんの病期別に死亡率への影響を詳細に分析した。その結果、Stage I/IIおよびStage III患者において、肺がん診断前後のAIDの有無が死亡率に異なる影響を与える可能性が新規に示唆された。特に、診断後にAIDが発症した患者で肺がん特異的死亡率が減少するという所見は、免疫監視の活性化を示唆する可能性があり、これまで報告されていない知見である。これは、AIDの診断が、患者の全体的な健康状態や免疫応答の特定の側面を反映している可能性を示唆している。

臨床応用: 本知見は、AID合併が肺がんの治療適応判断において重大な障壁となっていないことをエビデンスとして示した点で、臨床的意義が大きい。AID合併肺がん患者は主要臨床試験から除外されてきたが、現実の診療においては標準的な治療が実施されており、AIDによる治療忌避は限定的であったことが示唆される。これは、ICI時代においても、AID合併患者に対する治療選択の意思決定において重要な基盤情報となる。また、AID合併患者の医療資源利用が高いことは、これらの患者の管理に追加的な医療費や医療体制が必要であることを示唆しており、臨床現場でのリソース配分を考慮する上で重要な含意を持つ。

残された課題: 本研究の限界として、(1) ICD-9 (International Classification of Diseases, Ninth Revision) コードによるAID定義は特異度・感度に限界があり、過診断・過小診断の可能性、(2) AIDの活動状態や免疫抑制薬使用状況の詳細が把握困難、(3) 解析期間が1992-2009年と古く、現代の肺がん治療 (分子標的薬、ICI) を反映していない、(4) Medicare対象の65歳以上に限定されており若年患者への一般化に限界、が挙げられる。特に、本研究のデータセットはICIが標準治療となる以前のものであるため、ICIがAID合併肺がん患者の治療選択、毒性、有効性に与える影響については評価できていない。今後の検討課題として、ICI時代のリアルワールドデータ (2015年以降) を用いた前向きレジストリによる更新が必要とされる。また、特定のAIDの種類が死亡率に与える影響や、疾患修飾性抗リウマチ薬 (DMARDs) や抗腫瘍壊死因子 (TNF) 製剤などのAID治療薬がその後の抗がん剤治療の忍容性や奏効にどのように影響するかについても、さらなる研究が残されている。

方法

本研究は、1992年から2009年までのSEER (Surveillance, Epidemiology, and End Results) プログラムデータと1991年から2011年までのMedicare請求データをリンクさせたデータベースを用いた後ろ向きコホート研究である。研究デザインは、リードタイムバイアスを考慮したマッチングケースコントロール分析を採用した。対象は、1992年から2009年の間に原発性肺がん(非小細胞肺がん (NSCLC)、小細胞肺がん (SCLC)、その他の肺腫瘍を含む)と診断された66歳以上のMedicare受給者172,285例とした。Medicare請求データは1991年から利用可能であったため、肺がん診断前1年間のAIDおよび共変量の測定を可能とするため、66歳以上の患者に限定した。対象患者は、肺がん診断前1年間および診断後1年間、Medicare Part AおよびBの完全なカバレッジを有していることを条件とした。HMO (Health Maintenance Organization) 加入者や剖検または死亡診断書のみの記録の患者は、完全な請求データが確保できないため除外した。

自己免疫疾患 (AID) の定義には、ICD-9 (International Classification of Diseases, Ninth Revision) コードを用いて7種類の全身性AIDと36種類の臓器特異的AIDを特定した。以前の研究で記述されたように、がん免疫療法から通常除外されないAID (例: 1型糖尿病) は含めなかった。AIDの存在は、1回以上の入院請求または30日以上間隔を空けた2回以上の外来請求で診断が記録されている場合にAID群と分類した。これにより、単一の外来請求のみを用いるよりも保守的な推定値を得ることを意図した。AIDの分類は、肺がん診断に対するAIDの診断時期と数に基づいて、「AIDなし」、「肺がん診断前に1つのAID」、「肺がん診断前に2つ以上のAID」、「肺がん診断後に1つ以上のAID」の4つのカテゴリーに分けた。

主要評価項目は、全原因死亡率および肺がん特異的死亡率とした。死亡原因はSEERの死亡原因コード「039」を用いて肺がん特異的死亡を定義し、SEERの死亡日を用いて全原因死亡を定義した。共変量として、診断時の年齢 (66-74歳、75-84歳、85歳以上)、性別、人種/民族、婚姻状況、組織型 (SCLC、腺がん、扁平上皮がん、その他のNSCLC)、肺がん治療 (手術のみ、化学療法のみ、放射線療法のみ、2つ以上の治療、治療なし)、Charlson Comorbidity Index (CCI) (肺がん診断前12ヶ月間の共存疾患を測定し、リウマチ性疾患はCCIスコアから除外)、Medicaid受給の有無、および医療資源利用 (肺がん診断前1年間の入院回数、外来受診回数、救急外来受診の有無) を含めた。

統計解析には、リードタイムバイアスを考慮したCoarsened Exact Matching (CEM) を用いた。CEMにより、生存時間に基づいて死亡患者 (ケース) と生存患者 (コントロール) を1ヶ月単位でマッチングさせた。マッチング後、AIDと死亡率 (あり/なし) の関連をロジスティック回帰を用いて検討した。多変量解析では、年齢、性別、人種、病期、組織型、CCI、診断年、地域、収入を調整変数として含めた。リードタイムバイアスを補正した感度解析も実施した。解析はStata 14.2を用いて実施した。この研究は後ろ向きコホート研究であり、NCT番号は付与されていない。