• 著者: Tejas Patil, Derek E. Smith, Paul A. Bunn, Dara L. Aisner, Anh T. Le, Mark Hancock, William T. Purcell, Daniel W. Bowles, D. Ross Camidge, Robert C. Doebele
  • Corresponding author: Tejas Patil (Division of Medical Oncology, University of Colorado School of Medicine, Aurora, CO)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-07-05
  • Article種別: Original Article (後ろ向き単施設コホート研究)
  • PMID: 29981925

背景

NSCLC (non-small cell lung cancer) 患者の25〜40%で脳転移が病期中に発症し、CNS (central nervous system) 転移はQOL (quality of life; 生活の質) を著しく損なう重篤な罹病率・死亡率の主要原因となっている。ALK陽性NSCLCでは、治療前の脳転移率が25〜30%と複数の大規模試験で一致して報告されており (Johung et al. JCO 2016、Shaw et al. NEJM 2013、Solomon et al. NEJM 2014)、クリゾチニブ治療中のCNS進行は血液脳関門 (BBB; blood-brain barrier) 透過性が低いことに起因する主要な課題として認識されていた。

ROS1陽性NSCLCはNSCLC全体の約1〜2%に認められるドライバー変異であり、クリゾチニブへの高い奏効性が Shaw et al. NEnglJMed 2014 により示された。ROS1陽性NSCLCはALK陽性NSCLCと多くの臨床的類似点を持つが、脳転移発生率については相反するデータが複数の先行研究から報告されていた。EUROS1 (European ROS1 study cohort; Mazieres et al. JCO 2015、n=31) では脳転移率がわずか3.2% (1/31例) に過ぎなかった一方、Gainor et al. (JCO Precis Oncol 2017) の後ろ向き研究ではROS1 19.4% vs ALK 39.1%と、やはりALKより低い傾向を示した。さらに東アジア人患者対象のROS1クリゾチニブ第II相試験 (Wu et al. JCO 2018、n=127) でも18%と報告されていた。

これらの先行研究は試験デザイン・対象集団・脳転移定義が一定せず、ROS1陽性NSCLCにおける脳転移の真の発生率に関するデータが手薄であることが、臨床的に重要な gap in knowledge として残されていた。またクリゾチニブ治療中のP-CNS (CNS progression; CNS進行) に関する体系的な前向き評価も不足していた。もしROS1がALKよりCNS転移親和性が低いならば、クリゾチニブのBBB透過性の低さはROS1陽性NSCLCでは相対的に問題にならないとする仮説も存在したが、ROS1に対するクリゾチニブのIC50 (50% inhibitory concentration; 50%阻害濃度) がALKより低いこと (より強い阻害活性) も同様に議論されていた。これらの疑問を解決するために本研究が計画された。

目的

(1) ステージIV治療前ROS1陽性NSCLCの脳転移発生率を、ALK・EGFR・KRAS・BRAFを含む他のドライバー変異サブグループと比較し、ROS1特有のCNS転移傾向の有無を検証すること。(2) ROS1陽性およびALK陽性NSCLCのクリゾチニブ治療中のP-CNSおよびPFS (progression-free survival; 無増悪生存期間) を比較評価すること。

結果

治療前脳転移率のドライバー変異別比較:579例の解析対象のうちROS1陽性33例、ALK陽性115例、EGFR陽性192例、KRAS陽性102例、BRAF陽性16例、その他121例が同定された (Table 1)。ROS1陽性コホートの中央年齢は55歳 (範囲22〜76歳)、女性61% (20/33例)、喫煙歴なし73% (24/33例) であり、ALK陽性と同様に若年・女性・非喫煙者が多い集団であった。ステージIV診断時の脳転移発生率は、ROS1 36% (12/33例)・ALK 34% (39/115例)・EGFR 28% (53/192例)・KRAS 28% (29/102例)・BRAF 19% (3/16例)・その他22% (26/121例) であった (Fig. 1)。Fisher正確検定では、ROS1と他のすべてのドライバー変異コホートとの比較において統計的有意差は認められなかった (vs ALK p=0.306、vs EGFR p=0.837、vs KRAS p=0.393、vs BRAF p=0.324、vs その他 p=0.393)。ROS1融合パートナーによる層別解析では、CD74-ROS1での脳転移率42% (5/12例)、非CD74-ROS1での脳転移率60% (3/5例) であり、両者間に有意差はなかった (p=0.620)。

クリゾチニブ治療中のPFS (ROS1 vs ALK):33例のROS1陽性と115例のALK陽性がP-CNS解析候補として検討され、除外基準適用後にROS1 n=19・ALK n=83が最終解析対象となった (Fig. 2)。クリゾチニブ開始前の脳転移率はROS1 11% (2/19例)・ALK 33% (27/83例) であり、ROS1群で低かった (その理由は後述)。ROS1陽性・ALK陽性の中央観察期間はそれぞれ30ヶ月・47ヶ月であった。全ライン解析における中央PFSはROS1 11ヶ月 (95% CI 8-23) vs ALK 8ヶ月 (95% CI 7-13) であり、log-rank検定で有意差なし (p=0.304) であった (Fig. 3A)。2次治療サブセット (クリゾチニブを2次治療として使用した例) に限定した解析でも、中央PFSはROS1 15ヶ月 (95% CI 7-未到達) vs ALK 11.5ヶ月 (95% CI 8-14) で有意差なし (p=0.202) であった (Fig. 3B)。総計95例 (ROS1 16例・ALK 79例) がクリゾチニブ治療中に進行した。クリゾチニブの中央治療継続期間はROS1 11ヶ月・ALK 13ヶ月であった。

クリゾチニブ治療中のCNS進行 (P-CNS) の評価:全解析対象においてCNSが初回かつ単独の進行部位となった割合は、ROS1 47% (9/19例)・ALK 33% (28/83例) であり、両群間に有意差はなかった (p=0.610) (Fig. 4A)。クリゾチニブ開始前に脳転移を認めなかった患者に限定したP-CNSの累積発生率解析でも、ROS1・ALK間で有意差はなく (p=0.908)、24ヶ月以内 (ROS1) ・21ヶ月以内 (ALK) にそれぞれ50%がCNSを初回進行部位として経験した (Fig. 4B)。前治療化学療法の影響を排除するため、クリゾチニブを一次全身療法として使用した患者のサブセット解析 (ROS1 n=8、ALK n=27) も行った。一次クリゾチニブ群でのCNS単独初回進行率はROS1 63% (5/8例) vs ALK 22% (6/27例) で有意差はなかったが (p=0.07)、数値的にはROS1で高い傾向が示された (Fig. 5)。なおALK群の40% (8/20例) が脳放射線療法 (定位放射線手術または全脳照射) を事前に受けていた一方、ROS1群では0例であり、この差が交絡因子として結果の解釈に影響する可能性がある。

選択バイアスおよびROS1融合パートナー別解析:クリゾチニブ対象のROS1解析コホート (n=19) でクリゾチニブ開始前脳転移率がALK群より低かった (11% vs 33%) 主な理由は、脳転移を有するROS1陽性患者が多くCNS浸透性TKIを使用する臨床試験に組み込まれ本解析から除外されたためと考えられる。実際、除外されたROS1陽性患者14例中71% (10/14例) が脳転移を有しており、また臨床試験参加のROS1陽性患者 (n=7) では57% (4/7例) が脳転移を有していた。融合パートナー別のP-CNSについては、CD74-ROS1と非CD74-ROS1の間でCNS進行累積発生率に有意差は認められなかった (p=0.556、一次クリゾチニブサブセット解析)。サンプルサイズの制限から多変量解析は実施できなかったが、これまでの先行研究でもCD74-ROS1の融合パートナーがCNS進行リスクを規定するとの一貫したデータは得られていない。

考察/結論

本研究の最も重要な知見は、ステージIV治療前ROS1陽性NSCLCにおける脳転移率 (36%) がALK陽性 (34%) と統計的に同等であり、EGFR・KRAS・BRAFを含む他のすべてのドライバー変異コホートとも有意差がなかったという点である。これはROS1陽性NSCLCの脳転移率がALKより低いとした先行研究の報告 (既報のGainor et al. 19.4% vs ALK 39.1%、EUROS1コホート 3.2%) と対照的な結果であり、ROS1のCNS転移親和性がALKより低いという仮説を支持しない。コロラド大学のような三次紹介病院では、脳転移を有する重症例が多く集まる紹介バイアスが存在する可能性がある一方、ROS1陽性例数 (n=33) は同規模の多施設研究と比較しても遜色ない水準であり、これまでの研究間での数値の乖離は対象集団の選択バイアスや試験デザインの違いを反映している可能性が高い。

本研究で新規に示されたのは、ROS1陽性NSCLCにおけるクリゾチニブ治療中のCNS進行が高率に発生するという点である。クリゾチニブ開始前に脳転移を認めなかった患者においても、24ヶ月以内に50%がCNSを初回進行部位として経験したことは、クリゾチニブが全身病勢制御には有効であっても、BBB (blood-brain barrier) への薬物到達が不十分であるという現実を明確に示している。クリゾチニブのROS1に対するIC50がALKより低い (より強い阻害活性) ことがCNS保護仮説を支えていたが、本データはその仮説が臨床的に成立しないことを示唆する。また一次クリゾチニブ使用例 (ROS1 n=8) でCNS単独進行率が63%に達したことは、前治療の影響を除いてもCNS再発が主要な失敗様式であることを裏付ける。

臨床応用の観点からは、本研究の知見はROS1陽性NSCLCに対するCNS浸透性TKIの開発・優先的使用を強く支持する。ALK陽性NSCLCにおいてalectinib (ALEX試験) が一次治療でクリゾチニブより高いCNS制御効果を示したことと類似して、EGFR変異NSCLCでもosimertinib (FLAURA試験) がCNS浸透性の優位性を示した。ROS1陽性NSCLCにおいても高いBBB透過性を持つTKI — entrectinib・lorlatinib・repotrectinibなど — の一次治療への適用が進んでいる (Moro et al. AnnOncol 2019Roys et al. CancerChemotherPharmacol 2019)。ceritinibのROS1陽性患者対象第II相試験では頭蓋内奏効率25%・頭蓋内病勢制御率63%が報告されており、CNS浸透性TKIの臨床的意義は着実に実証されつつある。本研究はその根拠となるCNS進行の実態データを提供した。

残された課題としては、いくつかの重要な限界 (limitation) が存在する。第一に、ROS1陽性患者数 (P-CNS解析 n=19) が少なく多変量解析を実施できず、前治療数・治療期間・脳放射線療法の影響などの交絡因子を十分に調整できていない。第二に、後ろ向き研究設計のため経過観察中の脳MRI評価が標準化されておらず、頭蓋内奏効率・頭蓋内病勢制御率・頭蓋内増悪までの期間を正確に推定することが不可能であった。第三に、臨床試験 (CNS浸透性TKI使用試験) への参加患者の除外により、クリゾチニブ群は脳転移の少ない選択された集団となっており実臨床でのCNS進行率を低く見積もっている可能性がある。今後の検討として、多施設共同データベースを活用したより大規模な研究、新世代CNS浸透性TKI (lorlatinib・taletrectinib・repotrectinibなど) の一次治療試験におけるCNS特異的エンドポイントの詳細解析、およびROS1融合パートナーとP-CNSリスクとの関連を検証することが求められる。

方法

研究デザインと対象患者: 単施設後ろ向きコホート研究。コロラド大学において2008年6月〜2017年12月にステージIV NSCLC (第7版TNM分類) と評価された全患者を対象とした。IRB (institutional review board; 施設倫理委員会) 承認済みプロトコルに基づき、コロラド分子相関検査室での分子検査施行例または書面記録のある外部施設検査例を収集した。689例が検討対象となり、扁平上皮癌組織型・ステージIV診断時の脳MRI欠如・臨床データ不完全・ドライバー変異未検査の110例を除外し、最終的に579例を解析に含めた。各患者はROS1・ALK・EGFR・KRAS・BRAFのドライバー変異コホートに分類し、いずれにも該当しない場合は「その他 (n=121)」として区分した。

分子検査法: ROS1転座の検出には、蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH; fluorescence in situ hybridization) 法 (break-apartプローブ; 39%、13/33例)・逆転写PCR (RT-PCR; reverse-transcriptase PCR) (3%、1/33例)・NGS (next-generation sequencing) (56%、19/33例) が使用された。NGSプラットフォームはTruSight 26遺伝子パネル (Illumina) またはArcher FusionPlex Solid Tumorキットであった。FISH陽性基準は50腫瘍細胞核中15%以上が5’/3’分離シグナルを示すことと規定した。融合パートナーは17例で判明し、CD74-ROS1が12/17例、SLC34A2-ROS1が4/17例、ZCCHC8-ROS1が1/17例であった。

アウトカム定義とP-CNS解析対象: PFSはクリゾチニブ投与開始から最初の画像的進行または死亡までの期間と定義した。P-CNSはクリゾチニブ投与開始からCNS初回進行の放射線学的確認までの期間とした。P-CNS解析では、クリゾチニブ未投与例・クリゾチニブ開始後フォローアップデータなし例・次世代TKI (tyrosine kinase inhibitor) を一次治療に使用した例・CNS浸透性TKI臨床試験 (lorlatinib NCT01970865、STARTRK-1 NCT02097810 等) 参加例は除外した。

統計手法: ドライバー変異コホート間の脳転移発生率比較にはFisher正確検定を用いた。PFS・P-CNSの経時的解析にはKaplan-Meier法を用い、群間差はlog-rank検定で評価した。CD74-ROS1融合と非CD74-ROS1融合間の脳転移率比較にもFisher正確検定を適用した。統計解析はGraphPad Prism 6.00 (Windows版) とR 3.4.3 (Windows版) で実施した。