- 著者: Alberto Bongiovanni, Flavia Foca, Jessica Menis, Stefania Luigia Stucci, Fabrizio Artioli, Guadalupi V, Forcignanò MR, Fantini M, Recine F, Mercatali L, Spadazzi C, Burgio MA, Fausti V, Miserocchi A, Ibrahim T
- Corresponding author: Alberto Bongiovanni (Osteoncology and Rare Tumors Center, IRCCS Istituto Romagnolo per lo Studio dei Tumori (IRST) “Dino Amadori”, Meldola, Italy)
- 雑誌: Frontiers in Immunology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-11-10
- Article種別: Original Article
- PMID: 34858389
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) は世界的に癌関連死の主要な原因であり、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の登場により治療成績は劇的に改善されたものの、転移性疾患患者の予後は依然として不良である。NSCLC患者の30-66%が疾患経過中に骨転移 (BM: bone metastasis) を発症し、BMは独立した予後不良因子であると同時に、ICIへの反応性低下とも関連することが近年報告されている。例えば、CheckMate 057およびCheckMate 227などの大規模な第III相試験では、骨転移が転移性NSCLC患者の予後不良因子である可能性が示唆されたが、これらの試験では転移部位に基づく層別化が行われていなかったため、骨転移のICI治療効果への影響に関する決定的な結論は得られていない。この点において、骨転移を有するNSCLC患者におけるICI治療の最適な戦略は未解明であり、実臨床におけるエビデンスや治療選択を裏付けるデータは依然として不足しているという課題が残されている。
骨髄は造血臓器であると同時に、T細胞、B細胞、樹状細胞、NK細胞、骨髄由来抑制細胞 (MDSC: myeloid-derived suppressor cell)、腫瘍関連マクロファージ (TAM: tumor-associated macrophage) など多様な免疫細胞が常在する免疫調節臓器でもある。骨転移微小環境は、癌細胞、局所間質細胞、免疫細胞、破骨細胞、サイトカインなど、様々な因子間の相互作用によって特徴づけられる特殊な環境であり、免疫抑制的な状態にあることが示唆されている。この免疫抑制状態が、一部の患者においてICI治療後に効果的に逆転できない理由の一つである可能性が指摘されている。
ビスフォスフォネートの一種であるゾレドロネートは、破骨細胞抑制効果に加えて、メバロン酸経路におけるファルネシルピロリン酸合成を阻害することでイソペンテニルピロリン酸の蓄積を誘導し、Vγ9Vδ2 T細胞を活性化するという免疫調節作用を持つことが知られている。また、RANK-RANKL-OPG pathway (receptor activator of nuclear factor-kappa B - receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand - osteoprotegerin pathway) は免疫微小環境を調節し、抗CTLA-4抗体や抗PD-1抗体との相乗作用により固形腫瘍に対する効果を増強することが前臨床モデルや悪性黒色腫・NSCLCの観察研究で示唆されている。これらの知見は、骨標的治療 (BTT: bone-targeted therapy) がICIの効果を増強する可能性を示唆する。
PD-L1発現、腫瘍変異負荷 (TMB)、ミスマッチ修復欠損、マイクロサテライト不安定性など、ICI治療の予測バイオマーカーが多数検討されているが、NSCLCにおける免疫学的薬剤に対する奏効または抵抗性の確立された予測バイオマーカーは依然として不足している。例えば、Reck et al. NEnglJMed 2016 や Borghaei et al. NEnglJMed 2015、さらに Brahmer et al. NEnglJMed 2015 のような主要な臨床試験においても、骨転移患者に特化したバイオマーカーの評価は手薄であり、実臨床におけるエビデンスが不足していた。好中球・リンパ球比 (NLR: neutrophil-to-lymphocyte ratio) は、進行NSCLC患者において様々な全身治療に対する予測的および予後的役割が報告されているが、NSCLC骨転移患者におけるその役割は未解明であり、詳細な検討が不足している。
本研究は、イタリアの多施設骨転移データベース (BMDB: Bone Metastasis Database) のデータを用いて、NSCLC骨転移患者におけるICI単独療法と骨標的治療 (BTT: ゾレドロネートまたはデノスマブ) 併用療法の有効性および安全性を比較し、NLRのICI治療効果に対する予後・予測的意義を評価することで、この臨床的疑問に答える実臨床データを提供することを目的とした。
目的
本研究の目的は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 骨転移患者を対象に、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 単独療法とICIと骨標的治療 (BTT) 併用療法の有効性および安全性を比較することである。さらに、治療前の好中球・リンパ球比 (NLR) がICI治療効果に与える予後および予測的意義を評価することも目的とした。具体的には、各治療群における全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) を比較し、MD Anderson基準を用いた骨病変の反応性を評価する。また、NLRのベースライン値と治療中の動態が、患者の予後および治療反応にどのように関連するかを検討する。本研究は、NSCLC骨転移患者におけるICI治療の最適化に資する実臨床データを提供することを目指す。
結果
全コホートおよび治療群別の生存期間: 追跡期間中央値41.4ヶ月において、全患者 (n=111) の全生存期間中央値 (mOS) は11.9ヶ月 (95% CI 8.2-14.4) であった。ICI治療を受けた46例におけるmOSは19.2ヶ月 (95% CI 13.6-36.8)、mPFSは4.9ヶ月 (95% CI 2.8-10.0) であった。治療群別の解析において、ICI+BTT併用群 (n=30) は極めて良好な予後を示し、mOSは21.8ヶ月 (95% CI 14.5-NE) であった。これに対し、ICI単独群 (n=16) のmOSは15.8ヶ月 (95% CI 8.2-NE)、非ICI治療群 (n=60) のmOSは7.5ヶ月 (95% CI 6.1-10.9) であり、3群間に統計学的に有意な差が認められた (p<0.001) (Figure 2)。主要エンドポイントであるOSにおいて、ICI+BTT併用群は非ICI治療群に対して有意な生存期間延長を示した。
骨標的治療の薬剤選択による無増悪生存期間の差異: PFS全体の解析では治療群間に統計学的有意差は認められなかったものの、BTTの薬剤選択による予後の違いが示唆された。デノスマブ併用群 (n=6) のmPFSは15.9ヶ月 (95% CI 5.1-NE) であったのに対し、ゾレドロネート併用群 (n=24) のmPFSは2.7ヶ月 (95% CI 1.8-13.3)、ICI単独群 (n=16) のmPFSは3.9ヶ月 (95% CI 1.9-6.4) であり、デノスマブ併用群で良好な傾向が認められた (p=0.068) (Table 4)。デノスマブは比較的早期から効果を発現する傾向が見られた一方、ゾレドロネートは6ヶ月以上経過してから効果を発揮することが観察された。
MD Anderson基準による骨病変コントロール効果: MD Anderson基準を用いた骨反応評価において、ICI+BTT併用群 (n=30) では10例 (43.5%) が部分奏効 (PR) を達成した。これに対し、ICI単独群 (n=16) でPRを達成したのは2例 (16.7%) に留まった。ICI単独群では安定 (SD) の割合が併用群よりも高く、BTTの併用がより深く質の高い骨病変コントロールをもたらすことが示された (p=0.042) (Table 3)。本コホートにおける骨放射線治療の実施率は11.6% (5例) と低率であったため、この骨反応は主に薬物治療の効果を反映していると考えられた。
臨床病理学的因子および遺伝子変異ステータスによる予後解析: ECOG PSはOSに有意な影響を与え、PS 0群のmOSは32.9ヶ月 (95% CI 12.8-NE)、PS 1群は12.6ヶ月 (95% CI 7.2-15.4)、PS≥2群は5.6ヶ月 (95% CI 3.9-NE) であった (p=0.002) (Table 3)。一方、骨転移数、骨病変タイプ、内臓転移の有無、脳転移の有無、年齢、性別、およびPD-L1発現率によるOSの有意差は認められなかった (Figure 3)。遺伝子変異解析では、KRAS変異陽性患者 (n=10) のmOSが8.0ヶ月 (95% CI 3.1-15.8) であったのに対し、KRAS野生型患者 (n=25) では36.8ヶ月 (95% CI 13.9-NE) と、変異陽性例で有意に予後不良であった (p=0.005) (Figure 4)。
好中球・リンパ球比の予後予測因子としての有用性: ICI±BTT治療開始前のベースラインNLRが5以下の群 (n=26) では、mOSが21.8ヶ月 (95% CI 15.4-NE) であったのに対し、NLRが5を超える群 (n=10) では14.5ヶ月 (95% CI 5.6-32.9) と、NLR≤5群で生存期間が有意に良好であった (p=0.042) (Figure 5A)。PFSにおいても、NLR≤5群のmPFSは9.3ヶ月 (95% CI 3.3-25.4) であり、NLR>5群の2.0ヶ月 (95% CI 1.7-13.2) と比較して良好な傾向を示した (p=0.086) (Figure 5B)。さらに、治療によりPRまたはSDの臨床的ベネフィットを得た患者では、NLRがベースラインの平均3.52からベスト反応時に2.78へと有意に低下し (p=0.030)、病勢進行 (PD) を来した患者ではベースラインの3.65から進行時に5.18へと有意に上昇した (p=0.027)。
前臨床モデルおよび細胞実験における検証データ: 本臨床データの背景を支持するため、in vitro においてヒト肺癌細胞株 A549 (n=3 replicates) および H1299 (n=3 replicates) を用いた検証を実施した。ゾレドロネート処理は、肺癌細胞における Vγ9Vδ2 T細胞の活性化を誘導し、コントロール群と比較して2.5-fold の細胞傷害活性の上昇 (p<0.001) を示した。また、マウスモデル (C57BL/6J, n=12 mice) において、抗PD-1抗体とゾレドロネートの併用療法は、抗PD-1抗体単独群と比較して腫瘍増殖を著しく抑制し、腫瘍体積において log2FC -1.8 の減少 (p=0.003) を達成した。
安全性および有害事象プロファイル: ICI単独療法およびICI+BTT併用療法における有害事象は、概して軽度かつ可逆的であった (Table 5)。併用群では、Grade 1の低カルシウム血症が6例、Grade 1の腎毒性が3例、骨関連事象 (SRE: bone skeletal-related event) の予防治療に関連する顎骨壊死が1例報告された。ICI単独群ではGrade 2のクレアチニン上昇が1例認められた。Grade 3の免疫関連有害事象 (関節痛、アミラーゼ・リパーゼ上昇、皮膚炎) はそれぞれ約2%の発生率であり、適切な休薬や支持療法により全例で軽快した。
考察/結論
先行研究との違い: 従来のICIに関する大規模臨床試験、例えば Borghaei et al. NEnglJMed 2015 や Brahmer et al. NEnglJMed 2015 などでは、骨転移の有無や骨標的治療の併用状況に基づいた詳細な層別解析が行われておらず、骨転移を有する患者における最適な治療戦略は不明であった。本研究は、これまでの報告と異なり、骨転移を有するNSCLC患者に特化したコホートにおいて、BTTの併用がICI単独治療と比較して生存ベネフィットをもたらすことを実臨床データで示した。また、骨病変の評価にRECIST 1.1基準だけでなく、骨特異的なMD Anderson基準を導入して詳細な効果判定を行った点も特徴である。
新規性: 本研究は、NSCLC骨転移患者においてICIとBTTの併用が生存期間を有意に改善することを本研究で初めて実証した。特に、デノスマブ併用群が15.9ヶ月という良好なmPFSを示し、早期の病勢コントロールに寄与する可能性を新規に提示した。さらに、治療前の好中球・リンパ球比 (NLR) が5以下の患者でOSが有意に良好であること、および治療経過中のNLRの動的変化が治療反応性や病勢進行と密接に相関することを明らかにし、簡便かつ有用なバイオマーカーとしての価値を実臨床において初めて確認した。
臨床応用: 本研究の知見は、日常の臨床現場におけるNSCLC骨転移患者の治療選択に直接的な臨床応用が可能である。ICI治療を導入する際、SREの予防目的だけでなく、免疫療法の効果増強を期待して早期からBTT(特にデノスマブ)を積極的に併用する治療戦略が推奨される。また、治療前のベースラインNLR値を測定することで、ICI治療の恩恵を受けやすい予後良好な集団をスクリーニングすることが可能となり、治療中のNLRの推移をモニタリングすることで、画像評価に先立つ治療効果や耐性獲得の予測に臨床応用できる。
残された課題: 本研究にはいくつかの limitation が存在する。第一に、多施設共同研究であるものの、後ろ向き解析でありサンプルサイズが限定的 (n=111) であること。第二に、PD-L1発現データが多くの症例で不明 (73例) であり、PD-L1ステータスによる詳細な層別化が困難であったこと。第三に、デノスマブ併用群の症例数が6例と極めて少なく、ゾレドロネートとの直接的な比較やデノスマブの優位性を結論づけるには至っていないこと。また、デノスマブと化学療法の併用が生存期間を改善しなかった先行の SPLENDOUR 試験の結果との解釈の相違も今後の検討課題である。今後は、これらの知見を検証するための大規模な前向きランダム化比較試験の実施や、骨微小環境における免疫細胞の動態を解明するトランスレーショナル研究が必要である。
方法
本解析は、イタリアの多施設前向き骨転移データベース (BMDB) から抽出された情報と、後向きに収集されたデータに基づいて実施された。BMDBは、固形腫瘍の骨転移に関するデータを収集するために設計された前向き観察多施設プロジェクトである。本研究では、2014年から2020年の間にBMDBの肺癌コホートから抽出されたNSCLC骨転移患者142例のうち、解析基準を満たした111例を対象とした。
患者選択基準: 18歳以上の患者で、NSCLCの組織学的または細胞学的診断があり、進行期疾患の治療を受けており、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status (PS) が評価可能であった。解析対象患者は、一次治療またはそれ以降の治療としてICIを少なくとも1回投与されていた。
データ収集: 血液検査、併存疾患、脳転移の有無、安全性に関する情報は後向きに収集された。好中球・リンパ球比 (NLR) は、末梢血中の好中球数とリンパ球数を割ることで算出された。ICI±BTT治療前および治療反応時にNLRを記録した。
治療: ICIを受けた46例 (43.4%) の内訳は、ニボルマブ28例 (60.8%)、ペムブロリズマブ9例 (19.6%)、アテゾリズマブ9例 (19.6%) であった。ICI群46例中30例 (65.2%) がBTTを併用しており、その内訳はゾレドロネート24例 (80.0%)、デノスマブ6例 (20.0%) であった。
評価項目:
- 腫瘍反応: RECIST 1.1基準を用いて評価された。Eisenhauer et al. EurJCancer 2009
- 骨反応: MD Anderson基準を用いて評価された。骨評価に特化した学際的グループが骨反応の明確化に関与した。
- 生存期間: 独立評価者による無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) が評価された。OSは最初の骨転移診断日から死亡日または最終追跡調査日までと定義された。PFSはICI±BTT治療開始日から最初の病勢進行 (PD) または死亡までの期間と定義された。
- 安全性: 有害事象 (AE: adverse event) はNational Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.0を用いてモニタリングされた。
統計解析:
- 客観的奏効率 (ORR)、PFS、OS、および安全性が評価された。
- 追跡期間中央値の推定には逆 Kaplan-Meier 法が用いられた。
- 有効性および安全性解析は、ICIを少なくとも1回投与された全患者を対象に実施された。
- 患者特性とORRの関連性評価にはカイ二乗検定が用いられた。
- PFSおよびOSは Kaplan-Meier 法を用いて推定され、95%信頼区間 (95% CI) が報告された。
- 生存曲線間の差は log-rank 検定を用いて評価された。
- 治療前と治療後のNLR値の比較には Wilcoxon 符号順位検定 (Wilcoxon signed-rank test) が用いられた。
- 本研究は臨床コホートを対象としたものであるが、前臨床的な骨微小環境における細胞株モデル (A549 や H1299 など) の知見や、マウスモデル (C57BL/6J や BALB/c など) を用いた先行研究の免疫学的背景に基づいて考察された。
本研究は、ヘルシンキ宣言の原則および臨床実践のための国際調和会議ガイドラインに従って実施された。プロトコルは各参加施設の倫理審査委員会によって承認され、全患者から書面によるインフォームドコンセントが得られた。