• 著者: Paul D. Brown, Vinai Gondi, Stephanie Pugh, Wolfgang A. Tome, Jeffrey S. Wefel, Terri S. Armstrong, Joseph A. Bovi, Cliff Robinson, Andre Konski, Deepak Khuntia, David Grosshans, Tammie L. S. Benzinger, Deborah Bruner, Mark R. Gilbert, David Roberge, Vijayananda Kundapur, Kiran Devisetty, Sunjay Shah, Kenneth Usuki, Bethany Marie Anderson, Baldassarre Stea, Harold Yoon, Jing Li, Nadia N. Laack, Tim J. Kruser, Steven J. Chmura, Wenyin Shi, Snehal Deshmukh, Minesh P. Mehta, Lisa A. Kachnic for NRG Oncology
  • Corresponding author: Paul D. Brown, MD, Department of Radiation Oncology, Mayo Clinic, Rochester, MN
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-02-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32058845

背景

脳転移は、がん患者の最大30%に発生し、患者および医療システムに大きな影響を与える疾患である (Brown et al. 2018)。全脳照射 (WBRT) は脳転移に対する重要な治療法であり、症状緩和、頭蓋内制御の改善、神経学的死亡リスクの低減に寄与する (Khuntia et al. 2006; Aoyama et al. 2015; Patchell et al. 1998)。しかし、WBRTを受けた患者の多くが認知機能の悪化を経験することが長年の課題として認識されてきた (Brown et al. 2016)。このWBRTによる認知機能毒性のメカニズムを解明し、その有害作用を予防する機会が模索されてきた。

前臨床および臨床研究により、海馬の歯状回亜顆粒層に存在する神経幹細胞(神経再生ニッチ)への放射線照射が、放射線誘発性認知障害に寄与するという仮説が提唱されている (Monje et al. 2002; Gondi et al. 2013)。この仮説に基づき、強度変調放射線治療 (IMRT) を用いて両側海馬への放射線線量を制限する海馬回避 (HA) 技術が開発された (Gondi et al. 2010; Gondi et al. 2010)。先行する多施設共同第II相試験であるRTOG 0933では、脳転移患者に対するHA-WBRTが、歴史的対照と比較して記憶機能とQOLの良好な維持と関連することが示され、その有望性が示唆された (Gondi et al. 2014)。

また、N-メチル-D-アスパラギン酸 (NMDA) 受容体拮抗薬であるメマンチンは、NMDA受容体の病理的な過剰刺激を阻害し、アルツハイマー病における有益性や、脳照射の前臨床モデルにおける神経保護効果が報告されている (Reisberg et al. 2003; Duman et al. 2018)。WBRT中の認知機能保護効果を検証したプラセボ対照第III相試験では、メマンチンが認知機能低下までの時間を延長し、忍容性も良好であることが示され、予後良好なWBRT患者の標準治療として確立された (Brown et al. al. 2013)。これらの認知機能保護戦略は、脳転移患者の治療成績向上に不可欠な要素として認識されている。

これらの背景から、HA-WBRTとメマンチンの両介入を組み合わせることで、認知機能保護効果がさらに高まる可能性が考えられた。しかし、HA-WBRTとメマンチンの併用療法が、従来のWBRTとメマンチンの併用療法と比較して、認知機能低下までの時間を延長するかどうかを検証する大規模な第III相試験は未実施であり、この点に大きな知識のギャップが残されていた。特に、両介入の相加的効果の有無や、長期的な認知機能アウトカムへの影響については、依然として未解明な点が多かった。本試験は、この未解明な点を明らかにし、脳転移患者に対するWBRTの認知機能毒性を軽減するための最適な戦略を確立することを目的として実施された。

目的

本第III相試験の主要目的は、脳転移患者において、海馬回避全脳照射 (HA-WBRT) とメマンチン併用療法が、従来の全脳照射 (WBRT) とメマンチン併用療法と比較して、認知機能低下までの時間を有意に延長するかどうかを検証することである。

副次目的としては、両治療群間における全生存期間 (OS)、頭蓋内無増悪生存期間 (PFS)、治療関連毒性、および患者報告による症状負担(症状重症度、症状干渉、神経学的因子、認知機能因子サブスケールスコア、ならびに疲労、神経学的因子項目、認知機能因子項目に焦点を当てる)の評価が含まれる。さらに、個別の認知テストおよびClinical Trial Battery (CTB) 複合スコアによって測定される認知機能、およびQOLも評価対象とした。これらの評価を通じて、HA-WBRTとメマンチンの併用療法が、脳転移患者の治療成績とQOLに与える影響を多角的に分析することを目的とした。特に、HA-WBRTが特定の認知機能ドメインに与える影響や、患者の主観的な症状認識にどのような改善をもたらすかを詳細に評価することも重要な目的であった。

結果

主要エンドポイント:認知機能低下リスクの有意な軽減: 2015年7月13日から2018年3月12日の間に、518名の患者が無作為に割り付けられた(WBRT+メマンチン群 n=257例、HA-WBRT+メマンチン群 n=261例)。生存患者の中央値追跡期間は7.9ヶ月(範囲0-15.6ヶ月)であった。ベースライン特性は両群間で良好にバランスが取れていた(Table 2)。主要エンドポイントである認知機能低下リスクは、HA-WBRT+メマンチン群でWBRT+メマンチン群と比較して有意に低かった(調整済みハザード比 [HR] 0.74; 95% CI 0.58-0.95; p=0.02)。非調整解析でも同様の有意差が確認された(HR 0.76; 95% CI 0.60-0.98; p=0.03)。この結果は、HA-WBRTが認知機能保護において優れていることを明確に示している(Figure 3)。特に、この効果は年齢と治療群の間に有意な交互作用効果がないことが示されており (Table 3)、幅広い年齢層の患者にHA-WBRTの恩恵がある可能性を示唆する。

認知機能の各ドメイン別解析: 個別の認知テストの解析では、治療群間で2ヶ月時点での認知機能悪化率に差は認められなかった。しかし、4ヶ月時点ではHA-WBRT+メマンチン群でTMT-B(実行機能)の悪化率が有意に低く(23.3% vs 40.4%; p=0.01)、6ヶ月時点ではHVLT-R total recall(学習および記憶)の悪化率が有意に低かった(11.5% vs 24.7%; p=0.049)。さらに、6ヶ月時点でのHVLT-R delayed recognition(遅延認識)の悪化率もHA-WBRT+メマンチン群で有意に低かった(16.4% vs 33.3%; p=0.02)。これらの結果は、HA-WBRTが特定の認知機能ドメイン、特に実行機能と記憶において、より長期的な保護効果を発揮することを示唆する。全認知ドメインの標準化スコアの解析でも、HA-WBRT+メマンチン群が経時的に良好な認知機能アウトカムを示す傾向が認められた。これは、HA-WBRTによる海馬の放射線量低減が、神経幹細胞の保護を通じて認知機能の維持に寄与するという仮説を裏付けるものである。

患者報告アウトカム(PROs)の改善: 症状重症度に関する混合効果モデル解析では、治療群と時間の間に有意な交互作用効果が認められ、HA-WBRT+メマンチン群でより良好な結果が示された(推定値 -0.10; p=0.03)。多重代入法を用いた感度分析でも同様の結果が得られた(推定値 -0.11; p=0.04)。Hochbergの多重比較調整後、6ヶ月時点ではHA-WBRT+メマンチン群で症状干渉(推定値 -1.02; p=0.008)および認知症状(推定値 -0.63; p=0.01)が有意に少なかった(Table 4)。具体的には、HA-WBRT+メマンチン群の患者は、物事を覚えることの困難(平均 0.16 vs 1.29; p=0.01)、発話困難(平均 -0.20 vs 0.45; p=0.049)、および疲労(平均 0.93 vs -0.16; p=0.04)において、WBRT+メマンチン群と比較して有意な改善を報告した。これらの結果は、HA-WBRTが客観的な認知機能だけでなく、患者の主観的なQOLおよび症状負担も軽減することを示している。EQ-5D-5LによるQOL評価では、ベースライン時および経時的に両群間で有意な差は認められなかったが、MDASI-BTの個別の項目における改善は患者の日常生活に大きな影響を与えると考えられる。

生存期間、頭蓋内制御、および安全性: 全生存期間 (OS) 中央値は、HA-WBRT+メマンチン群で6.3ヶ月、WBRT+メマンチン群で7.6ヶ月であり、両群間に有意差は認められなかった(HR 1.13; 95% CI 0.90-1.41; p=0.31)。頭蓋内無増悪生存期間 (PFS) 中央値も、HA-WBRT+メマンチン群で5.0ヶ月、WBRT+メマンチン群で5.3ヶ月であり、同等であった(HR 1.14; 95% CI 0.93-1.41; p=0.21)。HA領域内の再発は、HA-WBRT+メマンチン群で11例、WBRT+メマンチン群で16例と、数値上はHA群で少なかったが、統計的に有意な差はなかった。Grade 3以上の治療関連毒性についても、両群間で有意な差は認められなかった(HA-WBRT+メマンチン群 20.3% vs WBRT+メマンチン群 19.4%; p=0.83)。これらの結果は、HA-WBRTが認知機能保護効果を発揮しつつも、治療効果や安全性プロファイルに悪影響を与えないことを示している。治療関連の有害事象の発生率も両群で同程度であり、HA-WBRTの安全性プロファイルが標準WBRTと同等であることが確認された。

考察/結論

NRG Oncology CC001試験は、脳転移患者において、海馬回避全脳照射 (HA-WBRT) とメマンチンの併用療法が、従来の全脳照射 (WBRT) とメマンチンの併用療法と比較して、頭蓋内無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および毒性に有意な差をもたらすことなく、認知機能および患者報告症状を有意に保護することを初めて第III相レベルで実証した。この知見は、WBRTを受ける脳転移患者の治療における新たな標準治療の確立に大きく貢献するものである。

新規性: 本研究は、海馬の神経再生ニッチへの放射線線量が放射線誘発性認知機能低下の病態生理に重要であるという仮説を、大規模な第III相臨床試験で初めて明確な臨床的エビデンスとして裏付けた。先行するRTOG 0933試験 (Gondi et al. 2014) やメマンチン単独の第III相試験 (Brown et al. 2013) のエビデンスを発展させ、両介入の組み合わせが相加的に認知機能を保護する効果を示した点に新規性がある。海馬が全脳実質のわずか2%にすぎないにもかかわらず、この小さな構造への線量制限が、実行機能(4ヶ月時点)や記憶(6ヶ月時点)といった複数の認知ドメインの保護をもたらした事実は、神経幹細胞ニッチへの放射線傷害の重要性を臨床的に強く示唆する。

先行研究との違い: 過去のランダム化比較試験では、1~3個の脳転移に対してWBRTの代わりに定位放射線治療 (SRS) を用いることで、より良好な認知機能アウトカムが得られることが示されていたが (Brown et al. 2016; Chang et al. 2009)、これらの試験には予防的メマンチンやHAといった現代的な認知機能保護戦略は含まれていなかった。本研究は、これらの認知機能保護戦略を統合した上でWBRTの有効性を評価した点で、これまでの研究とは異なるアプローチをとっている。これにより、HA-WBRTとメマンチンの併用が、従来のWBRT単独やSRSと比較して、認知機能保護において優位性を持つ可能性が示された。

臨床応用: 本試験の結果は、良好なKarnofsky performance score (KPS) を有し、HA領域内に転移がない脳転移患者でWBRTを予定している場合、HA-WBRTとメマンチンの併用療法が新たな標準治療として考慮されるべきであることを強く示唆する。特に、症状緩和を主な治療目標とする患者にとって、認知機能の維持はQOLに直結するため、その臨床的意義は大きい。米国だけでも年間約20万人の患者がWBRTを受けており、本知見はこれらの患者の治療方針に大きな影響を与える可能性がある。本研究の成果は、脳転移患者の治療成績を向上させるための重要なtranslationalな進歩である。

残された課題: 今後の検討課題として、HA領域外の海馬隣接構造への影響の評価、SRS後のサルベージWBRTへのHA-WBRTの適用、免疫療法や標的治療といった新しい全身療法との組み合わせにおける認知機能評価、そしてより長期(12ヶ月以降)の認知機能保護効果の持続性の検証が挙げられる。また、本試験では患者および臨床医は治療割り付けに対して盲検化されていなかったが、これはHA-WBRTと標準WBRTの照射方法が大きく異なるため、ロジスティック上困難であった。ただし、客観的な認知機能評価バッテリーの結果には影響を与えないと考えられる (Winkler and Hermann 2019)。これらの課題を解決するためのさらなる研究が今後の方向性として必要である。

方法

NRG Oncology CC001試験 (ClinicalTrials.gov identifier: NCT02360215) は、米国およびカナダの112施設が参加した多施設共同無作為化第III相試験である。対象患者は、18歳以上の成人で、Karnofsky performance score (KPS) が70以上、かつ両側海馬の5mmマージン外に脳転移を有する患者であった。脳転移の外科的切除または定位放射線治療 (SRS) の既往は許容された。除外基準には、水頭症または脳室系の構造的歪みの画像所見、軟髄膜転移、WBRT中の細胞傷害性化学療法の予定、WBRTの既往、メマンチンアレルギー、または他のN-メチル-D-アスパラギン酸 (NMDA) 拮抗薬の現在使用が含まれた。

患者は、recursive partitioning analysis (RPA) クラス (1 vs 2) および先行治療 (なし vs SRSまたは外科的切除) に基づいて層別化され、WBRT+メマンチン群またはHA-WBRT+メマンチン群に1:1で無作為に割り付けられた。両群とも、メマンチンは漸増投与され、最終的に1日2回10mg(合計24週間)または徐放性製剤の1日28mgが投与された。WBRTの処方線量は、両群ともに30 Gyを10分割で照射された。HA-WBRT群では、強度変調放射線治療 (IMRT) を用いて両側海馬およびその周囲5mmのHA領域(D100 ≤9 Gy、Dmax ≤16 Gy)への線量制限が厳格に適用された。HA領域は、融合された薄層MRI-CT画像セット上で手動で輪郭が描かれ、5mm拡張されてHA領域が生成された。計画標的体積 (PTV) は、HA領域を除いた全脳実質として定義された。

主要エンドポイントは、少なくとも1つの認知テストにおいて信頼できる変化指数 (reliable change index) に基づく認知機能低下と定義された認知機能不全までの時間であった。認知テストバッテリーには、学習と記憶 (Hopkins Verbal Learning Test-Revised [HVLT-R])、言語流暢性 (Controlled Oral Word Association [COWA])、処理速度 (Trail Making Test [TMT] Part A)、および実行機能 (TMT Part B [TMT-B]) が含まれた。認知テストの採点者は治療割り付けに対して盲検化された。副次エンドポイントには、OS、頭蓋内PFS、毒性、および患者報告アウトカム(MD Anderson Symptom Inventory-Brain Tumor [MDASI-BT] モジュールおよびEQ-5D-5L)が含まれた。

統計解析では、死亡という競合リスクを考慮するため、Pintilie (2002) の方法を用いて主要エンドポイントのサンプルサイズを推定した。NRG OncologyのRTOG 0614試験のデータに基づき、メマンチン群の6ヶ月時点での認知機能不全率が53.8%(月間ハザード0.198)、死亡率が30.7%(月間ハザード0.113)と仮定した。HA-WBRT群では認知機能不全が11%絶対的に減少(月間ハザード0.129)し、死亡率は同程度と仮定し、ハザード比 (HR) 0.65を見込んだ。両側α=0.05で90%の統計的検出力を得るために、230イベントが必要とされた。最終的に、非遵守患者を考慮して25%増大させ、合計382例の患者登録を目標としたが、実際には2015年7月から2018年3月までに518例が登録された。主要エンドポイントの解析には、死亡の競合リスクを考慮した累積発生率アプローチが用いられ、Grayの検定で認知機能不全時間の分布の差を評価した (Gray 1988)。OSおよび頭蓋内PFSはKaplan-Meier法で推定され、ログランク検定で比較された (Kaplan and Meier 1958; Mantel 1966)。認知機能不全には原因特異的Coxモデルが、OSおよび頭蓋内PFSには調整済みおよび非調整のCox比例ハザードモデルが用いられた (Cox 1972)。カテゴリカル変数の比較にはχ2検定が、QOLおよび症状項目のベースラインからの変化スコアの比較にはt検定が用いられた。MDASI-BTの経時的傾向は、最大尤度推定を用いた混合効果モデルで解析された。多重比較調整にはHochbergの手順が適用された (Hochberg 1988)。