• 著者: Georgina V Long, Victoria Atkinson, Serigne Lo, Shahneen Sandhu, Alexander D Guminski, Michael P Brown, James S Wilmott, Jarem Edwards, Maria Gonzalez, Richard A Scolyer, Alexander M Menzies, Grant A McArthur
  • Corresponding author: Georgina V Long (Melanoma Institute Australia, University of Sydney, Sydney, NSW, Australia)
  • 雑誌: The Lancet Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-03-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29602646

背景

悪性黒色腫患者の約25%は診断時に脳転移を合併し、その予後は極めて不良であり、全生存期間 (OS) 中央値は約4ヶ月と報告されている (Davies et al. Cancer 2011, Fife et al. J Clin Oncol 2004)。近年、免疫チェックポイント阻害薬 (抗PD-1、抗CTLA-4) やBRAF/MEK阻害薬の登場により、転移性黒色腫全体のOSは大幅に改善された。しかし、活動性脳転移を有する患者は、その予後不良性からほとんどの臨床試験から除外されており、これらの新規治療薬の頭蓋内における有効性は未解明であった。BRAF阻害薬単剤では39%、BRAF+MEK阻害薬併用では58%の頭蓋内奏効率が報告されているが、その効果は短期間に留まることが示されていた (Davies et al. Lancet Oncol 2017, Long et al. Lancet Oncol 2012)。また、pembrolizumab単剤療法では小規模な18例の試験で22%の奏効率が報告されたものの ( Goldberg et al. LancetOncol 2016 )、ニボルマブとイピリムマブの併用療法に関する体系的なエビデンスは不足していた。ASCO 2017での予備報告では、併用療法で55%の頭蓋内奏効率が示唆されており、活動性黒色腫脳転移患者における併用療法の有効性と安全性を前向きに評価する決定的な第II相試験が期待されていた。

目的

活動性悪性黒色腫脳転移患者において、ニボルマブ単剤療法またはニボルマブとイピリムマブの併用療法が、頭蓋内抗腫瘍活性(主要評価項目である12週時点の頭蓋内奏効率)および安全性に与える影響を評価すること。

結果

患者背景と登録: 2014年11月4日から2017年4月21日までに合計79例の患者が登録された(コホートAに36例、コホートBに27例、コホートCに16例)。コホートAの1例とコホートBの2例は、治験薬投与前に不適格と判断され除外された。追跡期間中央値は17ヶ月 (IQR 8-25) であった。ベースライン特性はコホートAとBで類似していたが、コホートAでは4個以上の脳転移を有する患者の割合がコホートBよりも高かった (40% vs 20%) (Table 1)。

主要評価項目:12週時点の頭蓋内奏効率: コホートA(併用療法)では35例中16例 (46%、95% CI 29-63) が頭蓋内奏効を達成した。コホートB(ニボルマブ単剤・無症候性)では25例中5例 (20%、95% CI 7-41) が、コホートC(ニボルマブ単剤・症候性/局所治療失敗)では16例中1例 (6%、95% CI 0-30) が頭蓋内奏効を達成した。併用療法群は単剤療法群と比較して有意に高い奏効率を示した。頭蓋内完全奏効 (CR) は、コホートAで6例 (17%)、コホートBで3例 (12%)、コホートCで0例であった。これらの結果は、併用療法が単剤療法よりも深い奏効をもたらす可能性を示唆している (Figure 2)。

無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS): 頭蓋内PFS中央値は、コホートAでは未到達 (95% CI 2.9-NR) であったのに対し、コホートBでは2.5ヶ月 (95% CI 1.7-2.8)、コホートCでは2.3ヶ月 (95% CI 1.4-4.3) であった。6ヶ月時点の頭蓋内PFS率は、コホートAで53% (95% CI 38-73)、コホートBで20% (9-44)、コホートCで13% (3-46) であった (Table 2, Figure 3A, B)。OS中央値は、コホートAでは未到達 (95% CI 8.5-NR)、コホートBでは18.5ヶ月 (95% CI 6.9-NR)、コホートCでは5.1ヶ月 (95% CI 1.8-NR) であった (Table 2, Figure 3C, D)。コホートAの患者は、コホートBおよびCと比較して、頭蓋内PFSおよびOSにおいて良好な傾向を示した。

BRAF変異状態別の頭蓋内奏効: コホートAでは、BRAF変異陽性患者(n=19)で58% (95% CI 35-75)、BRAF変異陰性患者(n=16)で31% (95% CI 11-59) の頭蓋内奏効率が認められた。BRAF変異の有無にかかわらず、併用療法は単剤療法よりも高い奏効率を示した。特に、BRAFおよびMEK阻害薬未治療の患者では、コホートAで56% (95% CI 35-75) の頭蓋内奏効率であったのに対し、コホートBでは21% (95% CI 6-46) であり、併用療法の優位性が示された。

安全性プロファイル: 治療関連有害事象は、コホートAの35例中34例 (97%)、コホートBの25例中17例 (68%)、コホートCの16例中8例 (50%) で発生した (Table 3)。Grade 3または4の治療関連有害事象は、コホートAで19例 (54%)、コホートBで4例 (16%)、コホートCで2例 (13%) に認められた。併用療法群でGrade 3-4の有害事象が顕著に増加し、主にイピリムマブに関連する毒性(大腸炎、肝炎、内分泌障害)が主体であった。Grade 4の有害事象はコホートAで3例 (9%)(肝炎、肺水腫、下垂体機能低下症)報告されたが、コホートBおよびCでは報告されなかった。治療関連死亡は全コホートで報告されなかった。

PD-L1発現と予後: サブセット解析では、ベースラインのPD-L1発現が1%以上の患者において、コホートAの頭蓋内PFSはコホートBよりも有意に長かった。これは、体外病変のPFSやOSがPD-L1発現の有無にかかわらず併用療法で改善されるという Wolchok et al. NEnglJMed 2017 のCheckMate 067試験の知見と対照的である。

考察/結論

ABC試験は、活動性悪性黒色腫脳転移患者において、ニボルマブとイピリムマブ併用療法が46%(完全奏効17%)という高い頭蓋内奏効率を達成することを前向きに示した画期的な第II相試験である。この結果は、無症候性で未治療の悪性黒色腫脳転移患者に対する一次治療として併用療法を位置付ける決定的なエビデンスを提供する。特に、コホートAとコホートBの直接比較において、併用療法が単剤療法の2倍以上の奏効率を示したことは臨床的に極めて重要である。

先行研究との違い: 本研究の結果は、米国グループによる並行試験であるCheckMate 204(類似プロトコル、頭蓋内奏効率55%)と整合しており (Tawbi et al. ASCO 2017)、併用療法の脳転移に対する有効性を決定的に確立した。これまでの研究と異なり、本研究は症候性または局所治療失敗例(コホートC)を同時に評価し、このアンメットニーズの高い集団における単剤療法の限定的な有効性を明確に示した点で新規性がある。また、BRAF変異状態にかかわらず一貫した効果を示した点も特筆される。

新規性: 本研究で初めて、ニボルマブ単剤療法が、神経症状、局所脳治療後の進行、または軟膜播種を有する最悪の予後を示す脳転移患者(コホートC)において限定的な効果しか示さないことを明らかにした。また、PD-L1発現が1%以上の患者においても、併用療法が単剤療法よりも長い頭蓋内PFSを示すことを新規に報告した点は、 Wolchok et al. NEnglJMed 2017 のCheckMate 067試験における体外病変での知見と対照的である。

臨床応用: 本知見は、無症候性悪性黒色腫脳転移に対する一次治療として、化学療法や放射線治療ではなく免疫療法(特に併用療法)を選択する強力な根拠となる。これは、脳転移症例を含む悪性黒色腫の臨床試験デザインの変更を促し、他の固形腫瘍(非小細胞肺癌、腎細胞癌など)の脳転移治療への展開に向けた学術的基盤を提供する。また、定位放射線治療 (SRS) と免疫療法の併用戦略の設計根拠ともなり、臨床現場での治療選択に大きな影響を与える。

残された課題: 今後の検討課題として、症候性または軟膜播種を有する患者に対する新規治療戦略の開発が挙げられる。また、併用療法の最適な投与回数(2回 vs 4回)、放射線治療との併用によるアブスコパル効果の活用、BRAF変異陽性例における分子標的治療薬との比較や併用療法の評価、および長期的な頭蓋内制御と神経認知機能への影響についてもさらなる研究が必要である。本試験は、悪性黒色腫脳転移治療のパラダイムを転換した重要な第II相試験である。

方法

本研究は、オーストラリア国内の4施設で実施された多施設共同、オープンラベル、無作為化第II相試験 (ABC trial、ClinicalTrials.gov登録番号: NCT02374242) である。対象患者は、18歳以上で免疫療法未治療の悪性黒色腫脳転移患者であった。患者は以下の3つのコホートに割り付けられた。

  • コホートA (Nivolumab + Ipilimumab併用群): 無症候性で局所脳治療歴のない患者36例。ニボルマブ1 mg/kgとイピリムマブ3 mg/kgを3週間ごとに4回投与後、ニボルマブ3 mg/kgを2週間ごとに投与した。
  • コホートB (Nivolumab単剤群): 無症候性で局所脳治療歴のない患者27例。ニボルマブ3 mg/kgを2週間ごとに投与した。
  • コホートC (Nivolumab単剤群): 症候性、局所脳治療失敗歴のある患者、または軟膜播種を有する患者16例。ニボルマブ3 mg/kgを2週間ごとに投与した。

コホートAとBは、施設で層別化されたバイアスドコイン最小化法を用いて30:24の比率で無作為に割り付けられた(安全性評価のための先行6例を除く)。コホートCは非無作為化であった。主要評価項目は、12週時点での頭蓋内奏効率(RECIST 1.1改訂版に基づく、完全奏効または部分奏効の割合)であった。副次評価項目には、頭蓋外奏効、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性が含まれた。全ての解析は、少なくとも1回治験薬を投与された全患者を対象としたintention-to-treat解析で実施された。