- 著者: Goldberg SB, Gettinger SN, Mahajan A, Chiang AC, Herbst RS, Sznol M, Tsiouris AJ, Cohen J, Vortmeyer A, Jilaveanu L, Yu J, Hegde U, Speaker S, Madura M, Ralabate A, Rivera A, Rowen E, Gerrish H, Yao X, Chiang V, Kluger HM
- Corresponding author: Sarah B Goldberg (Yale University School of Medicine and Yale Cancer Center, New Haven, CT 06520, USA)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-06-03
- Article種別: Original Article
- PMID: 27267608
背景
脳転移はメラノーマおよび非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者にとって主要な臨床課題であり、米国では年間約50,000人がこれらの疾患で脳転移を発症すると推定されている Davis et al。解剖学的知見によれば、メラノーマでは剖検時に70%で脳転移が確認され、NSCLCでは診断時10%・経過中30%が脳転移を来たすことが報告されている Sorensen et al。多発病変は両疾患で一般的であり、脳病変を有する患者の約半数が2個以上の病変を持つとされる Gavrilovic et al。これらの脳転移は患者のQOLを著しく低下させ、予後不良因子となることが知られている。
脳転移の標準的管理は局所療法(定位放射線治療 (SRS)、全脳照射 (WBRT)、手術)であるが、各手法には制限がある。SRSは治療可能病変数や最大サイズに制限があり、長期的に放射線壊死や認知機能障害のリスクを伴う。WBRTは広範な照射による認知機能低下が問題であり、手術は出血、大型、単発病変に限定される。また、局所CNS治療を優先することで全身治療の開始が遅れ、長期予後を損なう可能性がある。これらの局所治療の限界から、全身治療が脳転移と体外病変を同時に治療する可能性が注目されている Yushak et al。
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) はメラノーマおよびNSCLCにおいて著明な有効性を示し、ペムブロリズマブ (pembrolizumab) やニボルマブ (nivolumab) が第III相試験で全生存期間 (OS) の改善を実証し承認されていた Robert et al. NEnglJMed 2015、Garon et al. NEnglJMed 2015、Brahmer et al. NEnglJMed 2015、Borghaei et al. NEnglJMed 2015。しかし、これらの試験はほぼ例外なく未治療または進行性脳転移を有する患者を除外しており、PD-1阻害薬のCNS内活性は未解明であった。血液脳関門 (BBB) がT細胞の脳内浸潤を制限し、脳組織が相対的に免疫抑制的な環境を持つことから、CNS内でのPD-1阻害薬の有効性は不確かと考えられていた。CTLA-4阻害薬イピリムマブ (ipilimumab) については、未治療メラノーマ脳転移に一定の活性が示されていたものの Margolin et al、PD-1/PD-L1阻害薬でのデータは全く不足していた。
本試験の実施時点(2014年〜2015年)において、PD-1阻害薬の脳転移への有効性を前向きに評価した研究は存在せず、多くの医師が脳転移患者を「免疫療法非適格」として扱い、放射線療法や化学療法に限定する傾向があった。このため、脳転移患者におけるPD-1阻害薬の安全性と有効性に関する知識ギャップが残されており、本試験はこのアンメットニーズに正面から答えることを目的として設計された。
目的
未治療または進行性脳転移を有するメラノーマまたはNSCLC患者を対象として、ペムブロリズマブのCNS内活性(脳転移奏効率:主要エンドポイント)と安全性を前向きに評価すること。具体的には、メラノーマコホートとNSCLCコホートそれぞれにおいて、ペムブロリズマブ投与後の脳転移に対する客観的奏効割合を評価し、その奏効の持続性を確認する。
副次目的として、ペムブロリズマブの全身奏効(RECIST v1.1に基づく)と脳転移奏効との一致性を探索し、CNSと全身病変における免疫療法の同時治療の可能性を評価する。さらに、治療に関連する有害事象の発生頻度と重症度を評価し、特に神経学的有害事象のプロファイルを詳細に検討する。また、全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) を評価し、PD-L1発現などのバイオマーカーとの関連性を探索することも目的とした。本研究は、脳転移を有する患者に対するPD-1阻害薬の臨床的有用性に関するエビデンスを確立し、今後の治療戦略の発展に貢献することを目指した。
結果
スクリーニングと登録患者の特性: 2014年3月31日から2015年5月31日の期間に、未治療または進行性脳転移を有する患者52例がスクリーニングされ、そのうち36例(メラノーマ18例、NSCLC 18例)がペムブロリズマブの投与を受けた。NSCLCコホートにおける16例のスクリーニング失敗の内訳は、PD-L1陰性8例、患者の意思による辞退5例、小細胞肺癌1例、髄膜播種1例、パフォーマンスステータス (PS) 低下1例であった。患者背景はTable 1に示されており、メラノーマコホートの年齢中央値は65歳(範囲41〜85歳)、男性67%であった。NSCLCコホートの年齢中央値は59歳(範囲33〜82歳)、女性67%であった。NSCLCコホートの全18例(100%)はPD-L1陽性であった。標的脳転移の数と大きさはTable 2に示され、メラノーマ患者1人あたりの標的病変中央値は2個(IQR 1〜4)、NSCLC患者では2個(IQR 1〜5)であった。全標的病変136個のうち75個が未治療であった。
NSCLCコホートにおける脳転移奏効: NSCLCコホート18例中6例(33%; 95% CI 14-59)で脳転移奏効が達成された (Figure A)。内訳はCR(完全奏効)4例、PR(部分奏効)2例(うち1例は未確定)であった。確定奏効5例の持続期間は、それぞれ3.2ヵ月、6.0ヵ月、6.1ヵ月、6.6ヵ月、7.0ヵ月であり、データカットオフ時点で4例が奏効を継続していた。4例は全身病変の急速な進行のため早期にプロトコルを離脱し、脳転移評価が不能であった。SD(安定)2例(いずれも未確定)、PD(進行)6例であった。1例は標的病変が30%以上縮小したが、非標的病変の明確な進行のため「混合奏効」と分類された。全身奏効(最良)はPR 6例(33%; 95% CI 14-59、1例未確定)、SD 1例、PD 10例、評価不能1例であった。
メラノーマコホートにおける脳転移奏効: メラノーマコホート18例中4例(22%; 95% CI 7-48)で脳転移確定PRが認められた (Figure A)。奏効持続期間は4.0ヵ月(2例)、7.0ヵ月(1例)、10.0ヵ月(1例)であり、全例がデータカットオフ時点で奏効を継続していた。4例は評価不能であった(前治療BRAF阻害薬中止後の急速な全身進行3例、病巣内出血のためSRS適応となった1例)。全身奏効はCR 2例、PR 2例、SD 4例、PD 8例、評価不能2例であった。
CNS-全身奏効の一致性: 両コホート合計で確定全身奏効が得られた9例のうち8例(89%)で脳転移奏効も確認された。唯一の不一致例はNSCLC患者で、脳転移は一過性奏効後に複数の脳病変が無症候性進行を示したが、全身奏効は持続したため、進行脳病変に放射線治療が追加され、ペムブロリズマブは継続された。この高いCNS-全身一致率は、脳転移においても全身と同様のPD-1阻害薬への感受性が存在することを強く示唆する。なお、放射線治療後進行例(SRS後7例、WBRT後6例)ではいずれも脳転移奏効は認められなかった(7/36)。
全生存期間 (OS) と無増悪生存期間 (PFS): NSCLCコホートのOS中央値は7.7ヵ月(95% CI 3.5-未到達)であり、追跡期間中央値は6.8ヵ月(IQR 3.1-7.8)であった。18例中9例が死亡し、全員が病勢進行によるものであった。メラノーマコホートのOS中央値は未到達であり、追跡期間中央値は11.6ヵ月(IQR 8.5-13.9)であった。18例中6例が死亡し、1例は原因不明であった。PFSおよびOSのより詳細なデータは、データが成熟した時点で報告される予定である。
安全性プロファイル: 治療関連死亡は認められなかった (Table 3)。治療関連の非神経学的重篤有害事象 (irAE) として、NSCLCコホートでGrade 3大腸炎(1例、治療中断)、Grade 3肺炎(1例)、Grade 3倦怠感(1例)、Grade 4高カリウム血症(1例)、Grade 2急性腎障害(間質性腎炎、1例)が報告された。メラノーマコホートではGrade 3アミノトランスフェラーゼ上昇(1例、治療中断)が認められた。神経学的有害事象(治療または疾患に起因)として、メラノーマコホートでGrade 1-2痙攣3例(17%)、Grade 3認知機能障害1例(6%)、Grade 2痙攣1例が報告された。NSCLCコホートの神経学的有害事象は全てGrade 1-2であり、治療中断には至らなかった。Grade 1-2頭痛(NSCLCで22%、メラノーマで17%)、Grade 1-2めまい(NSCLCで11%)が最も多く認められた。1例(メラノーマ)では1回投与後にMRIで全病変増大を認めたが、生検では炎症像であり「偽増悪 (pseudoprogression)」と判断された Cohen et al。試験初期に痙攣が出現した後、全患者に予防的抗てんかん薬を投与する方針に変更された。
考察/結論
新規性: 本試験は、PD-1軸阻害薬のCNS内活性を前向き試験として初めて示した画期的な報告である。これまで、脳は免疫特権部位であり免疫療法が効きにくいという固定観念があったが、本研究で初めて、ペムブロリズマブが未治療または進行性脳転移を有するNSCLCおよびメラノーマ患者において、全身と同等のCNS活性を示す可能性が示された。特に、NSCLCコホートで33% (95% CI 14-59)、メラノーマコホートで22% (95% CI 7-48) の脳転移奏効率を達成し、奏効が持続的であったことは、PD-1阻害薬のCNSにおける治療可能性を強く示唆する。
先行研究との違い: 先行するイピリムマブ脳転移試験 Margolin et al ではメラノーマ未治療脳転移で客観的奏効率 (ORR) 16%(非ステロイド群)が示されていたが、本試験はPD-1阻害薬で同等以上の奏効率(メラノーマ22%、NSCLC 33%)を示し、奏効の持続性(データカットオフ時点でほぼ全例が奏効継続)も際立つ。ペムブロリズマブおよびニボルマブの全身試験でのORR(メラノーマ33〜38%、NSCLC 19〜28%)と比較しても本試験のCNS奏効率は遜色なく、脳転移に特有の応答低下は示唆されなかった点で、これまでの知見と異なり、脳転移患者に対する免疫療法の有効性を強く支持する。また、全身奏効が得られた9例中8例(89%)で脳転移奏効も同時に確認されたことは、CNSと全身病変の高い一致性を示しており、全身治療が脳転移にも有効である可能性を強調する。
臨床応用: 本試験の知見は、「脳転移を有するNSCLCおよびメラノーマ患者にペムブロリズマブが全身と同等のCNS活性を示す可能性がある」という概念を確立し、後の大規模試験(KEYNOTE-189、KEYNOTE-407の脳転移サブグループ解析や、NSCLC脳転移専用の第II/III相試験)の設計に直接影響を与えた。また、放射線治療とICIの組み合わせ研究(SRS + ペムブロリズマブ等)の理論的根拠も本試験が部分的に提供した。CNS内での「偽増悪 (pseudoprogression)」の組織学的確認例は、脳病変の評価にiRECIST/応答パターンの柔軟な解釈が必要であることを示し、臨床現場での画像診断の解釈に重要な含意を持つ。
残された課題: 本研究の限界として、単施設・非無作為化設計による選択バイアス、小規模なサンプルサイズ(NSCLCは目標の44例に対し18例)、生存期間データ未成熟(追跡期間中央値6.8ヵ月)、患者集団の異質性(前治療数、前CNS療法の有無、遺伝的亜型)が挙げられる。NSCLCコホートはPD-L1陽性必須であり、PD-L1陰性患者への適用は本試験から結論できない。放射線照射後進行例での奏効ゼロは症例数が少なく(7例)、放射線-免疫療法相互作用の結論を下せない。また、5〜20 mmの小型無症候性脳転移に限定されており、より大型・有症候性・多発脳転移例での安全性・有効性は未評価である。今後の検討課題として、これらの患者集団におけるペムブロリズマブの有効性と安全性を評価する大規模な前向き試験が必要である。また、PD-L1発現以外の予測バイオマーカーの同定も重要な研究方向性である。これらの制約にもかかわらず、本試験は免疫療法が「脳」という最後のフロンティアにも到達し得ることを示した先駆的データとして、現代の脳転移治療戦略の根本的転換を促した。
方法
試験デザインと参加者: 本試験は、Yale Cancer Centerで実施された非無作為化・オープンラベル・2コホート(メラノーマ・NSCLC独立評価)の第II相試験である。試験はClinicalTrials.govにNCT02085070として登録された。データカットオフは2015年6月30日であった。
適格基準: 主要な適格基準は、Stage IVのメラノーマまたはNSCLC患者で、年齢18歳以上、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) 0-1、生存期間予測3ヵ月超、および臓器機能基準の充足であった。患者は脳MRIで確認された直径5〜20 mmの未治療または放射線後進行性の脳転移を1個以上有することが求められた(最大個数制限なし)。神経症状を伴わず、症状または浮腫管理のためのコルチコステロイドを必要としない患者が対象とされた。髄膜播種、活動性自己免疫疾患、既往の抗PD-1/PD-L1治療歴は除外された。NSCLCコホートはPD-L1陽性(1%カットオフ)が必須であったが、メラノーマコホートではPD-L1発現は必須ではなかった。以前の全身治療は任意ライン数まで許容され、局所CNS治療(手術、放射線)後も適格とされたが、照射野内病変は進行が確認された場合のみ評価可能とされた。全身治療および放射線治療の開始前には2週間のウォッシュアウト期間が設けられた。
治療: 患者にはペムブロリズマブ10 mg/kgが2週ごとに静脈内投与された。治療は疾患進行、許容できない毒性、患者の希望、または死亡まで継続された。疾患進行が認められても、臨床的ベネフィットが認められる場合や、進行病変に局所療法が実施された場合は治療継続が許容された。用量減量は不可であり、毒性による投与保留は最大12週までとされた。試験初期に痙攣が認められた患者がいたため、その後は全患者に予防的抗てんかん薬を投与する方針に変更された。
有効性評価: 主要エンドポイントは脳転移奏効であり、脳MRIを神経放射線医 (AM) が評価した。Modified RECIST(最大5個の脳転移を標的として評価可能、病変サイズ5 mm以上)に基づき、CR(完全奏効)またはPR(部分奏効)を奏効と定義した。確定奏効には4週後の確認画像が必要とされた。副次エンドポイントとして、全身奏効は標準RECIST v1.1を用いて評価された Eisenhauer et al。安全性評価のため、全患者に治療開始後4週で脳MRI(脳安全確認スキャン)を実施し、その後8週ごとに脳MRIと体幹CT(胸部、腹部、骨盤)を実施した。PD-L1評価はNSCLC患者のみで実施され、最新治療後の組織を使用し、Qualtek社によって1%カットオフで陽性が定義された。分子変異(BRAF、NRAS、KRAS、EGFR、ALK)は臨床病理検査またはサンガーシーケンシングで評価された。
統計的解析: 全ての解析は、ペムブロリズマブを少なくとも1回投与された全患者を対象とし、メラノーマおよびNSCLCコホートは独立して解析された。目標症例数はメラノーマ20例、NSCLC 44例と設定され、これはペムブロリズマブが脳転移において全身疾患と同様の奏効を示すという仮説に基づいていた。このサンプルサイズで、片側α 10%、検出力80%で「最低限の活性(10%奏効率)を超える」ことを検証するのに十分な検出力があるとされた。奏効率は正確二項法で95%信頼区間 (CI) を計算した。OSおよびPFSはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いて推定され、95% CIはlog-log変換に基づいて計算された。患者はデータカットオフ日(2015年6月30日)で打ち切りとされた。解析はR (version 3.1.3) およびMatlab (version R2015b) を用いて実施された。