• 著者: Vladimir Wischnewski, Roeltje R. Maas, Paola Guerrero Aruffo, Klara Soukup, Giovanni Galletti, Mara Kornete, Sabine Galland, et al., Enrico Lugli, Johanna A. Joyce
  • Corresponding author: Johanna A. Joyce (University of Lausanne, Lausanne, Switzerland)
  • 雑誌: Nature Cancer
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-05-22
  • Article種別: Original Article (Resource)
  • PMID: 37217652
  • コホート規模: 脳腫瘍84例 (グリオーマ36例・BrM 48例) + 頭蓋外腫瘍44例 (肺がん33例・乳がん11例) ;scRNA-seq 9例 55,000 T細胞;バルクRNA-seq 54例;FCM 25例;IF 20例

背景

脳は健常時には免疫特権的組織として過剰な神経炎症を防ぐために T 細胞を脳実質から排除しているが、脳悪性腫瘍 (グリオーマ・脳転移) では血液脳関門の破綻とともに CD8+ T 細胞の浸潤が起こる。Thommen et al. (2018) は CD8+PD1hi TIL が腫瘍反応性を持ち ICB 奏効を予測することを示し、Lowery et al. (2022) と Caushi et al. (2021) は CXCL13+CD39+ の潜在的腫瘍反応性 T 細胞 (pTRT 細胞; potential tumor-reactive T cell) が頭蓋外腫瘍でのネオアンチゲン反応性と ICB 奏効に強く相関することを報告した。一方、Mariathasan et al. (2018) は TGFβ による T 細胞排除が PD-L1 阻害への抵抗性を生むことを示した。これらの先行研究にもかかわらず、高悪性度グリオーマへの ICB はほぼ失敗に終わった一方、メラノーマ・肺がんの脳転移 (BrM) では少数例に奏効が見られており、その差異の機序は依然として未解明であった。脳腫瘍での pTRT 細胞の実態は未検討であり、脳転移の起源腫瘍 (肺・メラノーマ・乳がん等) によって免疫原性が大きく異なるため ICB 感受性の予測が困難であるという臨床課題も、これまで体系的な解析が不足していた。

目的

脳腫瘍 (グリオーマ・脳転移) とその対照としての頭蓋外腫瘍 (原発肺がん・乳がん) において、T細胞の表現型多様性をscRNA-seq・バルクRNA-seq・TCRプロファイリング・高次元FCM・免疫蛍光の多角的統合解析で解析し、pTRT細胞の脳腫瘍への浸潤の程度・分布・機能的含意と、ICB治療との関連を検証すること。

結果

scRNA-seqによるpTRT細胞クラスター (C3) の同定: BrM で優勢な C3 クラスターは CXCL13・RGS1・CTLA4・GZMB・IFNG と複数阻害性受容体の高発現を示し (Figure 1)、前駆枯渇 (Tpex) または枯渇 (Tex) 表現型を主体とすることが参照アトラスへの投影で確認された。5種のネオアンチゲン反応性シグネチャーすべてでC3が最高スコアを示した。C3の42%が大型/超拡大型クローン型であったのに対しC1は11%にとどまり (高クローン性)、C3の腫瘍内拡大クローン型は血中にほぼ検出されず局所腫瘍内での選択的拡大を示した。一方、グリオーマ優勢のC1クラスターは早期活性化表現型 (FTH1・CREM・GPR183・FOS・IL7R高発現) を示し、C1の拡大クローン型は血中にも検出され (がん非特異的なウイルス抗原特異性が疑われる)、VDJdb照合でも7クローン型が公知抗ウイルスTCRと一致したのに対しC3では0件であり、C3が腫瘍特異的レパートリーであることが裏付けられた。

pTRT細胞のBrM亜群での高度集積: バルク RNA-seq コホート (n=54 症例) で C3 特異的遺伝子シグネチャーによる階層クラスタリングにより (Figure 2)、(1) 主に肺 BrM 由来で C3 遺伝子高発現群と (2) グリオーマ・その他 BrM で低発現群が明確に分離された。年齢 (P=0.51)・前治療 (P=0.75)・デキサメタゾン使用 (P>0.99) による交絡は否定された。この分類に基づきpTRT細胞高BrM対低BrM対グリオーマの3群比較では、pTRT高BrMで5種全シグネチャーが有意に高値 (Benjamini-Hochberg補正Wilcoxon検定)。FCM コホート (n=25 症例) では、CD39+CCR7lowCD8+T 細胞が BrM の腫瘍内で高い比率を示したが対照群グリオーマでは低値であった (Wilcoxon 検定、FDR 補正);この差は BrM の一亜群 (6/13 例、>30%) が牽引しており scRNA-seq の C3 高 BrM と Pearson r=0.96 (R2=0.9285、P<0.002) で強く相関した。CD39+CCR7lowTILはCD103・CXCL13・PD1・TIM3をCD39-CCR7low細胞より有意に高発現した (paired Wilcoxon)。IF解析ではpTRT高BrMでCD103+PD1+CD8+TILが有意多く、2/3がPVN外 (腫瘍内深部) に分布し非pTRT CD8+TILより血管からの距離が有意に大きかった (Wilcoxon P有意)。Neighborhood解析でpTRT細胞の大多数が非免疫細胞 (腫瘍細胞) に隣接しており、腫瘍細胞との直接接触が抗原認識・局所拡大の場であることが空間的に示された。

pTRT高BrMと原発NSCLCの比較・骨髄系細胞との連関: pan-cancer scRNA-seq アトラス (316 例 21 がん種) で C3 シグネチャーは CD8.c12.Tex.CXCL13 クラスターに最高発現を示し (Figure 3)、intracranial・extracranial pTRT細胞の類似性が示された。高次元FCMで定義したpTRT細胞クラスターCC9 (CD39+CXCL13+TIM3+PD1+CD45RO+) はNSCLC腫瘍で平均25%と高く、BrMでは低群と高群 (≥30%、6/13例) に二分された。pTRT高BrMとNSCLC (>30%) でCC9比率は同等 (Kruskal-Wallis補正)。表現型比較では原発NSCLCがICOS・TIM3・CXCL13・CD103高発現、BrMがCD38・HLA-DR・GZMB・PD1高発現という差異が認められた。pTRT高BrMのMDM・MGはIFN応答・抗原提示遺伝子セット濃縮 (GSEA) とCXCL9/10/11高発現を示し、CXCL9/10/11発現はCD8+TIL量と有意相関 (線形回帰)。IDO1はpTRT高BrMのTAMで高発現し免疫抑制性の側面も確認された。ex vivoアッセイ (17例、anti-PD1 40µg/ml・96h) では3/10 BrMサンプルでanti-PD1による増殖増加が認められ、非増殖はすべてpTRT低/グリオーマであったのに対し増殖群2/3はpTRT高BrMであった。これらの結果は、pTRT高BrMが機能的にICB応答能を保持した腫瘍反応性T細胞を含むことを多面的に裏付け、CXCL9-CXCL10-CXCL11軸を介したTAM-T細胞連関がこのサブグループのICB応答性の基盤であることを示す。

考察/結論

本研究は多角的解析アプローチにより、脳腫瘍 (特に BrM) の T 細胞免疫学に関する重要な知見を提供した。グリオーマでは一様に pTRT 細胞が低値であるのに対し、BrM の約 50% では原発 NSCLC と同等の pTRT 細胞量と腫瘍反応性を示すサブグループが存在することが本研究で初めて体系的に示された新規な知見である。頭蓋外腫瘍での pTRT 細胞のみを論じた先行研究とは異なり、また グリオーマ全体を一括して「免疫荒地」とみなしてきた既報の見方とも異なり、本研究は BrM 内に質的に異なる pTRT 高サブグループが存在することを定量的に区別した点で前進している。この pTRT 高 BrM は主に肺がん由来であり、腫瘍特異的 T 細胞とそれを支援する TAM (抗原提示・T 細胞動員能増強) とが共存する特有の TME を持つ。本知見は脳腫瘍の単一細胞空間免疫地図 (Karimi et al. Nature 2023) と相補的であり、脳転移の定着機構研究 (Rodrigues et al. NatCellBiol 2019) や脳の免疫生理 (Kovacs et al. NatRevImmunol 2025) の文脈に位置づけられる。

ICB 応答の主要バイオマーカーである CXCL13+CD39+CD8+TIL と CXCL9 発現が pTRT 高 BrM で濃縮されていることは、臨床応用の観点でこのサブグループが ICB の恩恵を受けうることを示唆し、脳転移治療における患者層別化 (bench-to-bedside) の基盤となりうる。同じ BrM でも起源腫瘍の免疫原性 (突然変異量・免疫表現型) が脳内 TIL の質を規定するという知見は、原発腫瘍のバイオマーカーによる脳転移 ICB 感受性予測の可能性を示す。残された課題として、(1) 脳腫瘍での腫瘍反応性 T 細胞の同定・定量を非侵襲的または低侵襲的に実現する方法の開発、(2) pTRT 高 BrM 患者に対する ICB の前向き臨床検証、(3) グリオーマで pTRT 細胞が欠如する分子機構の解明、が今後の重要課題として提起された。これらは脳転移免疫療法の個別化に向けた今後の検討の方向性を示す。

方法

  • 統合コホート: 脳腫瘍84例 (グリオーマ36例・BrM 48例) + 頭蓋外腫瘍44例 (NSCLC原発33例・BC原発11例) + 健常ドナー血液12例
  • scRNA-seq: BrM 6例・グリオーマ3例 計55,000 T細胞;17クラスター (CD8+7・CD4+8・double-negative 2) を同定;ネオアンチゲン反応性シグネチャー5種で各クラスター評価;VDJ TCRシーケンシングでクローン性評価
  • バルクRNA-seq: ソート済みTILと血液T細胞の集団レベル解析 (54例);C3特異的遺伝子をシグネチャーとしてpTRT細胞高/低BrMを分類
  • 高次元FCM: 追加コホート (グリオーマ12例・BrM 13例・NSCLC 33例・BC 11例);24色パネル;CD39/CCR7ゲーティング + 12クラスター教師なしクラスタリング (FlowSOM)
  • 免疫蛍光 (IF): 20例組織切片;CD103+PD1+CD8+TILをpTRT細胞サロゲートとして定量;PVN (血管周囲ニッチ;15µm半径) 内外の空間分布解析;4×106以上の細胞のneighborhood解析
  • 骨髄系細胞解析: 同一サンプルからMG (microglia; CD45+CD68+/P2RY12+CD49D-) とMDM (単球由来マクロファージ; CD45+CD68+/P2RY12+CD49D+) のバルクRNA-seq;GSEA (Hallmark/GO);CXCL9/10/11発現評価
  • ex vivoアッセイ: anti-PD1処理 (40µg/ml) + CFSE希釈によるT細胞増殖評価 (96h、17例)
  • VDJdb照合: scRNA-seq TCRクローン型を公知抗ウイルスTCRデータベース (VDJdb) と照合