• 著者: Gonçalo Rodrigues, Ayuko Hoshino, Candia M. Kenific, Irina R. Matei, Loïc Steiner, Daniela Freitas, Han Sang Kim, et al., Maria de Sousa, David Pisapia, David Lyden
  • Corresponding author: Maria de Sousa (mdesousa@ibmc.up.pt, University of Porto); David Pisapia (djp2002@med.cornell.edu, Weill Cornell Medicine); David Lyden (dcl2001@med.cornell.edu, Children’s Cancer and Blood Foundation Laboratories, Weill Cornell Medicine)
  • 雑誌: Nature Cell Biology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31685984

背景

脳転移は原発性脳腫瘍全体の 10 倍の頻度で発生し、乳癌・肺癌に多く、予後不良で有効な治療法が乏しい。脳微小環境は転移細胞にとって「敵対的な土壌」であり、転移効率は低いが、いったん定着した腫瘍細胞が生存・増殖するためには脳ニッチを能動的に改変する必要がある。Hoshino et al. (2015) は腫瘍由来エクソソームのインテグリンが臓器向性を決定することを示し、Peinado et al. (2012) はエクソソームが骨髄前駆細胞を再教育して転移前ニッチを形成することを、Costa-Silva et al. (2015) は膵癌エクソソームが肝臓に転移前ニッチを誘導することを報告した。これらの先行研究にもかかわらず、脳転移を特異的に促進するエクソソーム積荷タンパク質と作用機序は依然として未解明であった。特に脳転移性エクソソームはインテグリンをほとんど含まないことが知られており、脳転移促進の主要エクソソーム分子の同定が手薄なまま残された課題であった。

目的

脳転移性腫瘍細胞由来エクソソームが脳微小環境を事前条件付けして転移コロニー形成を支援する機序を解明し、脳転移特異的エクソソームタンパク質を同定すること。特定された分子 (CEMIP) の脳転移促進機能・分子経路・臨床意義を明らかにすること。

結果

脳転移性エクソソームによる脳ニッチの前条件付け:ex vivo 脳スライスを 231 BrT1 由来エクソソームで 2 日間前処理後に 231 BrT1 GFP+ 細胞を添加すると、PBS 比 4-fold・非脳向性エクソソーム比 2-fold 以上の腫瘍細胞コロニー形成が確認された (Figure 1、n=3 実験)。非脳向性エクソソーム (肺・骨向性・parental) では PBS 比有意な増加なし。浸潤深度は脳転移性エクソソーム前処理で 3-fold 増加 (PBS 比)、増殖 (Ki-67) も 4-fold 増加した。脳転移能を本来持たない 231 parental 細胞でも脳転移性エクソソーム前処理により 5-fold のコロニー増加が確認され、エクソソームが脳ニッチを非細胞内在性に改変することが示された。

プロテオミクス解析によるCEMIPの同定:脳転移性エクソソームと parental・肺/骨向性エクソソームの定量マススペク比較で有意に差のある 20 タンパク質を同定した (Figure 2)。そのうち CEMIP (cell migration-inducing and hyaluronan-binding protein; KIAA1199) が最も顕著に脳転移性エクソソームで上昇し、肺・骨転移性エクソソームでは低値または検出限界以下であった。CEMIP は 231 BrT1 細胞本体より 10-fold 以上 exosome に濃縮されていた (選択的パッケージング)。密度勾配解析でCEMIPはexosome分画 (fraction 5-9、density 1.10 g/ml) に特異的に存在し、マイクロベシクル・タンパク質凝集体ではなかった。追加の脳転移モデル (MDA-MB-231-HM・N2LA-BR) でも CEMIP+ exosome が確認され、CEMIP の脳転移性エクソソームへの選択的搭載が複数の細胞株系統にわたって保存されていることが示された。これは CEMIP が単一細胞株の特異現象ではなく、脳転移性表現型に共通するエクソソーム積荷であることを支持する。

CEMIP KOによる脳転移の抑制と救済実験:CEMIP KO 細胞は 231 BrT1 WT 比で脳スライス上での血管共採用が 50% 減少し、紡錘形形態を喪失 (球形化)、浸潤も 50% 低下した (Figure 3、いずれも n=3 実験で再現)。CEMIP KO は in vitro 増殖・浸潤には影響なし (脳微小環境特異的効果)。心臓内注射モデルで 4 週後の脳転移巣数が 70% 減少 (KO vs WT)、転移負荷も減少した。231 BrT1 CEMIP WT由来エクソソームでの脳スライス前処理によりCEMIP KO細胞の血管共採用・紡錘形形態・浸潤が完全に救済 (KO exosome前処理では効果なし)。in vivoでも、CEMIP WT exosome前処理群では注射後1-2週で脳転移増加 (p<0.05、KO exosome前処理比)。

脳内皮細胞・ミクログリアへの取り込みと炎症性血管ニッチ形成:蛍光標識エクソソームは脳スライス内で CD31+・Glut1+ 脳内皮細胞 (BrEC) と血管周囲ミクログリア (Iba1+) に主に取り込まれ (Figure 4、24 時間後)、GFAPアストロサイト・NeuNニューロンへの取り込みは低い。1回の心臓内注射でBBB透過性が増加 (高分子デキストランの漏出)。エクソソームCEMIP前処理BrECで血管網形成実験 (3D ETF assay) では分岐数・長さが増加 (KO exosome比)。RNAseqでBrECに286遺伝子・ミクログリアに193遺伝子の発現変化が検出。CEMIP依存的BrEC遺伝子変化 (119遺伝子) :血管形態形成・イノシトール経路・ギャップ結合・接着分子 (Efnb2・Itgb3)。CEMIP依存的ミクログリア遺伝子変化 (25遺伝子) :炎症性経路 (Ptgs2・Tnf・Ccl5・Cxcl10) が上昇 → 脳転移・BBB機能不全を促進することが知られる炎症性シグナル。

臨床的意義:患者組織・エクソソームでのCEMIP発現と予後:317例の組織マイクロアレイ解析で、脳転移組織のCEMIP high症例は非脳転移・非転移症例より有意に多かった (脳MT: 40%超がCEMIP high vs 非脳MT: 7%のみ)。脳転移患者の原発巣CEMIP発現が高いほど脳転移潜伏期が短縮 (log-rank test有意)。CEMIP high脳MT症例はCEMIP low脳MTより生存不良。早期NSCLCの原発組織エクソソームでもCEMIPが検出可能 (バリアブル発現)。

考察/結論

本研究はエクソソーム CEMIP が脳転移の Pre-metastatic niche に特異的に作用する新規なシグナル分子であることを本研究で初めて示した。CEMIP は細胞内での脳転移促進とは別に、エクソソームとして血流を通じて脳に事前に到達し、BrEC とミクログリアに対してそれぞれ血管リモデリング (intussusceptive angiogenesis 支持) と神経炎症 (Ptgs2・Tnf・Ccl5・Cxcl10) を誘導することでコロニー形成に適した炎症性血管ニッチを形成する。

エクソソームインテグリンが臓器向性を決定するとした先行研究 (Hoshino et al. Nature 2015) とは異なり、本研究は脳転移性エクソソームがインテグリン乏少である点を出発点に、「脳向性はインテグリンではなく CEMIP 等の特異積荷による」という重要な補完的かつ新規な知見を提供した。エクソソームによる転移前ニッチ形成 (Peinado et al. NatMed 2012Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015) の概念を脳という特異な臓器に拡張し、グリオーマ由来 EV がミクログリアに RNA を転移する知見 (vanderVos et al. NeuroOncol 2016) とも整合する。

臨床応用の観点では、317 例の患者組織解析で脳転移組織・原発巣の高 CEMIP 発現が脳転移潜伏期短縮・生存不良と相関し、exosomal CEMIP が脳転移の液体生検バイオマーカー (原発巣検体の exosome、bench-to-bedside) となりうる可能性を示した。脳転移研究における先制的治療介入 (転移前ニッチ阻害) というコンセプトを実証した点でも意義が大きい。残された課題として、CEMIP が誘導する下流の Wnt シグナル・細胞内カルシウム放出経路の詳細解析、ヒト前向きコホートでの exosomal CEMIP 予後価値の検証、CEMIP 阻害薬の前臨床評価が今後の検討課題として必要とされる。

方法

ex vivo脳スライス培養系 (マウス前頭葉) を確立し、エクソソーム前処理後に蛍光標識乳癌細胞 (231-BrT1 GFP+) を添加してコロニー数・浸潤深度を定量。乳癌MDA-MB-231の亜株 (BrT1・BrT2=脳向性、LuT1/4175・LuT2/4173=肺向性、BoT1/1833=骨向性、231 parental) を使用。エクソソームはイオジキサノール密度勾配 (fraction 5-9: syntenin-1・CD81・HSP70陽性) で確認。CEMIP KO:231 BrT1にCRISPR-Cas9 (KO1・KO2)。CEMIP OE:231 parentalにCEMIP過発現。in vivo脳転移:心臓内注射 (231 BrT1 GFP-Luc+) →IVIS生物発光。エクソソーム前教育:注射前3週間に10 µgのエクソソームを隔日投与。組織学:抗GFP IHC、脳病変数・面積定量。RNAseq:蛍光標識エクソソームを取り込んだ脳内皮細胞 (CD45⁻CD31⁺) とミクログリア (CD45⁺CD11b^low CD49d^low) をFACSで単離。IPA (Ingenuity Pathway Analysis) によるパスウェイ解析。患者:乳癌・肺癌患者317例の組織マイクロアレイ (213原発・104転移) のCEMIP IHC評価 (0-4スコア)、Kaplan-Meier生存解析。