- 著者: Ian H. Guldner, Qingfei Wang, Lin Yang, Samantha M. Golomb, Zhuo Zhao, Jacqueline A. Lopez, Abigail Brunory, Erin N. Howe, Yizhe Zhang, Bhavana Palakurthi, Martin Barron, Hongyu Gao, Xiaoling Xuei, Yunlong Liu, Jun Li, Danny Z. Chen, Gary E. Landreth, Siyuan Zhang
- Corresponding author: Siyuan Zhang (University of Notre Dame, Notre Dame, IN, USA; Mike and Josie Harper Cancer Research Institute; Indiana University Melvin and Bren Simon Cancer Center)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-10-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 33113353
背景
脳転移 (brain metastasis: br-met) は最も頻繁にみられる致死性中枢神経病変であり、Paget の「seed and soil」仮説が示すとおり、播種がん細胞 (disseminated cancer cell: DCC) と臓器特異的転移ニッチとの相互作用が転移成功を規定する (Paget 1889; Peinado et al. 2017)。かつて免疫特権部位とされた脳は、現在では恒常状態・疾患状態の両方で多様な免疫細胞を擁することが判明している。CNS-native myeloid cells (central nervous system-native myeloid; CNS-myeloid。microglia と border-associated macrophage: BAM) は脳恒常状態の主要免疫集団であり、CNS 疾患では disease-resolving と disease-promoting の両機能を発揮する可塑性を示す (Butovsky and Weiner, 2018)。一方、末梢の骨髄由来 myeloid 細胞 (bone-marrow-derived myeloid cells: BMDM) は脳実質に浸潤し非冗長的に神経炎症へ寄与する (Prinz and Priller, 2014)。先行研究では glioma や脳転移随伴白血球を bulk RNA-seq でプロファイルし myeloid 多様性が記述されたが (Bowman et al. 2016; Klemm et al. 2020; Friebel et al. 2020)、CNS-myeloid と BMDM が脳転移進展で果たす役割の差異については機能的・機序的な解明が不足しており、どちらがニッチ形成の主役かは未決着 (gap in knowledge) のままであった。本研究はこの knowledge gap を埋めるべく、多モーダル単細胞解析と myeloid 標的遺伝子操作マウスを組み合わせ、不均一な myeloid サブセットの脳転移制御における役割を機能的に解剖することを目指した。
目的
脳転移ニッチに浸潤する CNS-myeloid および BMDM の転写・表現型不均一性を単細胞解像度で明らかにし、脳転移進展における各サブセットの差異的機能 (促進か抑制か) と分子機構を決定すること、さらにそれを免疫チェックポイント標的化による脳転移治療戦略へ橋渡しすることを目的とした。
結果
Myeloid 細胞の脳転移浸潤と活性化形態:ヒト脳転移 TMA (n=37 患者、14 原発起源) で Iba1+ 肥大化 myeloid 細胞が原発起源に関わらず腫瘍周囲・内部に浸潤していた (Fig 1A)。マウス E0771 脳転移でも早期から後期まで Br.MAM (br-met-associated myeloid) が naive 脳より高密度に集積した (Fig 1B-1D)。3D 形態解析 (各群 n=650 cells 以上を定量) で Br.MAM は細胞体積・突起構造などの形態スコアが naive myeloid (NMC) より有意に高く (代表的に p=2.0×10^-260)、腫瘍境界に近づくほどスコアが上昇する活性化表現型を示した (Fig 1D-1F)。
CyTOF・CITE-seq が描く免疫ランドスケープと転写不均一性:CyTOF では naive 脳がほぼ均質な CNS-myeloid で構成される一方、脳転移では全 BMDM サブセット (単球・DC・好中球) と T/B 細胞を含む多様な免疫景観へ転じた (Fig 1G-1J)。CITE-seq では CNS-myeloid が 8 転写クラスタ (n=8 clusters) に分かれ、cluster 0 は homeostatic microglia (Cx3cr1/Hexb/Jun 高発現)、cluster 3 は BAM (H2-Aa/Cd74 高発現) であった (Fig 2D)。脳転移随伴 CNS-myeloid は pro-inflammatory (S100a4/a6/a10)・migration 遺伝子を上昇させ homeostatic 遺伝子 (Cx3cr1/P2ry12/Hexb) を低下させたが、disease-associated microglia (DAM) とは異なるプロファイルを示した (Fig 2E、Table S2)。ヒト脳転移 scRNA-seq でも CX3CR1/CSF1R/TREM2 低下と VIM/LGALS3 上昇が再現された (Fig 3B-3E)。
CNS-myeloid が主要促進者、Ccr2+ BMDM は影響最小:Cx3cr1^CreER:iDTR 系で全 myeloid を約 75% 枯渇すると脳転移負荷と増殖が低下した (Fig 5A-5C)。Ccr2-RFP KO は Ly6C^Hi 単球の約 90%・Ly6C^Lo 単球の約 18%・好中球 <1% を標的とし BMDM 脳浸潤を減らしたが、脳転移負荷・増殖・生存はいずれも非改変であった (Fig 5D-5F)。対照的に TAM/DT のタイミングを変え CNS-myeloid のみを約 2/3 枯渇すると脳転移負荷が減少し、CD8+ T 細胞の疲弊割合が低下した (Fig 5G-5I)。これにより BMDM ではなく CNS-myeloid が脳転移促進の機能的中核であることが確立された。
Cx3cr1 欠失が脳転移を増悪させ IFN 応答を誘導:Cx3cr1 はタンパクレベルでも脳転移随伴 CNS-myeloid で低下していた (Fig 6A)。Cx3cr1-KO 宿主は Het に比べ脳転移数・増殖 (Ki67 H-score) が増加し生存が短縮し、B16BL6 でも再現された (Fig 6B-6D)。頭蓋遮蔽下 BMT で KO を CNS-myeloid に限局しても (移植 4 か月後に末梢免疫系が約 60% 再構築)、KO BMT は Het BMT より多数の脳転移を形成し全身 KO 表現型を phenocopy した (Fig 6E)。KO CNS-myeloid では Moserle-IFNA-Response 経路が最も濃縮し、IFN 関連遺伝子 (Cxcl10/Rsad2/Ifit1/Irf7/Isg15) が一貫して最上位の上昇遺伝子で、Cxcl10 は 2 番目に強く上昇し Cx3cr1 と逆相関した (Fig 6F-6I、Table S6)。
Cxcl10 が脳転移を駆動しヒト Br.MAM で高発現:KO 宿主への抗 Cxcl10 抗体共注入で脳転移が縮小し (loss-of-function)、リコンビナント Cxcl10 (rCxcl10) 共注入で脳転移が増大した (gain-of-function、Fig 6J-6K)。Cxcl10 は腫瘍細胞増殖を直接刺激せず E0771.Br は Cxcr3 を発現しないため、効果は腫瘍細胞非自律的であった (Fig S6I-S6J)。ヒト二重 RNA-ISH/Iba1 IF では脳転移 myeloid の Cxcl10 が naive 脳 (n=4 患者) に対し有意に上昇し (n=37 患者、p=1.95×10^-52)、独立コホート (n=5 患者) でも検証された (Fig 6L-6M、Table S1)。
Cxcl10 が VISTA^hi PD-L1+ CNS-myeloid を動員し T 細胞を抑制、併用阻害で治療効果:CD86+ CNS-myeloid は脳転移病変内に距離遠位より約 3-fold 濃縮し (Fig 7A-7B)、rCxcl10 は transwell で SIM-A9 microglia 遊走を約 50% 増強した (Fig 7C)。脳転移随伴 T 細胞の >90% が Br.MAM と接触し (Fig 7D)、CD86+ Br.MAM は PD-1/PD-L1・CTLA-4・FOXP3 標的など免疫抑制経路を濃縮した (Fig S7C)。CNS-myeloid は Vsir (VISTA) を恒常的に高発現し脳転移で VISTA+ 密度が病変内で約 2-fold 増加、PD-L1 を脳転移時に中等度上昇させた (Fig 7E-7G)。抗 VISTA + 抗 PD-L1 併用 (単剤では無効) は脳転移負荷を低下させ、CD3+ T 細胞数と T 細胞活性化遺伝子 (Stat1/Gzmk/Ifi27l2a/Txn1) を増加させ、CD8+ T 細胞の細胞傷害性割合を高めた (Fig 7H-7L)。
考察/結論
本研究は脳転移ニッチの myeloid 不均一性を本研究で初めて単細胞解像度で体系的に解剖し、「CNS-native myeloid (特に microglia) が主要な脳転移促進者であり Ccr2+ BMDM は影響最小」という、骨髄由来マクロファージ中心であったこれまでの研究の view を覆す新規なパラダイムを提示した。機序的には Cx3cr1 低下が CNS-myeloid の homeostatic 状態を解除し、IFN 応答を介した Cxcl10 上昇が VISTA^hi PD-L1+ 免疫抑制性 myeloid を局所動員する vicious cycle として脳転移 permissive ニッチを構築する。bulk RNA-seq で glioma/脳転移の myeloid 多様性を記述するに留まった既報 (Bowman et al., 2016; Klemm et al., 2020) と対照的に、本研究は系統操作で CNS-myeloid と BMDM を機能的に分離し各々の因果的寄与を示した点が独自性であり、microglia の pro-tumor 化を扱う Gan et al. FrontCellDevBiol 2020 や microglia リプログラミングで抗腫瘍免疫を高める Rodriguez-Baena et al. CancerCell 2025 の知見と整合的に、CNS-myeloid 操作が脳転移免疫治療の有望標的であることを補強する。Cxcl10 が本来は T 細胞遊走を担う点で一見逆説的だが、脳特異的な抗炎症進化適応 (高 VISTA 発現・血液脳関門) のもとでは Cxcl10 が動員する T 細胞抑制性 CNS-myeloid の蓄積が抗腫瘍効果を相殺する、という枠組みは脳腫瘍 T 細胞多様性を示す Wischnewski et al. NatCancer 2023 とも符合する。臨床応用上の意義として、VISTA と PD-L1 を併用標的とする戦略が単剤 PD-1/PD-L1 阻害に勝る脳転移治療となりうることが示され、VISTA を巡る複数の臨床試験を脳転移患者へ拡張する根拠となる (bench-to-bedside の橋渡し)。一方で残された課題として、ヒト脳転移における Cx3cr1-Cxcl10 軸の機能的検証、乳がん・メラノーマ以外の原発がん種への一般化、末梢リンパ器官での VISTA/PD-L1 寄与、そして併用免疫療法の安全性・有効性の臨床評価が挙げられ、今後の検討が必要である (future research)。
方法
腫瘍モデルと細胞株: C57BL/6J 系統の同系宿主に E0771 マウス乳がん細胞および脳向性派生株 E0771.Br を頭蓋内/動脈経路で接種して実験的脳転移を作製し、同じく C57BL/6 背景の B16BL6 メラノーマ細胞でも検証した。in vitro 遊走には SIM-A9 microglia 株を用いた。系統操作マウス: 形態観察に Cx3cr1^GFP/+、myeloid 識別・枯渇に Cx3cr1^CreER/+:ROSA26^iDTR/+ (タモキシフェン tamoxifen: TAM とジフテリア毒素 diphtheria toxin: DT の投与タイミングで全 myeloid または CNS-myeloid 選択的に枯渇)、BMDM 浸潤遮断に Ccr2-RFP ノックアウト、fractalkine 受容体機能評価に Cx3cr1 ノックアウト (KO) を使用。CNS-myeloid に KO を限局するため頭蓋遮蔽下の骨髄移植 (bone marrow transplantation: BMT) も実施した。単細胞・空間解析: ヒト脳転移組織マイクロアレイ (tissue microarray: TMA) の Iba1 免疫染色、Cx3cr1^GFP/+ 脳の 3D 形態定量、mass cytometry (CyTOF) による免疫ランドスケープ比較、cellular indexing of transcriptomes and epitopes (CITE-seq) による転写・表面マーカー同時解析、RNA velocity・Dynverse 軌跡推定・SCENIC レギュロン解析、二重 RNA in situ hybridization (RNA-ISH) と Iba1 IF の空間解析を行った。ヒト検証: 公開 scRNA-seq・CyTOF データ (Geirsdottir et al., 2019; Laughney et al., 2020; Friebel et al., 2020) で臨床翻訳性を確認。統計: 群間比較は two-tailed Student’s t test、対応のある接種比較は two-tailed paired Student’s t test、単細胞 DEG/DEGP 解析は Wilcoxon rank-sum test、単一細胞特徴量発現は bimod likelihood-ratio test を用い、誤差棒は SEM (一部 SD)、中心は mean を示した。