• 著者: Karimi E, Yu MW, Maritan SM, Perus LJM, Rezanejad M, Sorin M, Dankner M, Fallah P, Doré S, Zuo D, Fiset B, Kloosterman DJ, Ramsay L, Wei Y, Lam S, Alsajjan R, Watson IR, Roldan Urgoiti G, Park M, Brandsma D, Senger DL, Chan JA, Akkari L, Petrecca K, Guiot MC, Siegel PM, Quail DF, Walsh LA
  • Corresponding author: Peter M. Siegel (peter.siegel@mcgill.ca); Daniela F. Quail (daniela.quail@mcgill.ca); Logan A. Walsh (logan.walsh@mcgill.ca) (McGill University, Montreal, Canada)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-02-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36725935

背景

脳腫瘍、特に膠芽腫 (GBM) と脳転移 (BrM) は、その悪性度と治療抵抗性から予後が極めて不良である。標準治療である手術、テモゾロミド、放射線療法を組み合わせても、2年生存率は依然として低い水準にとどまっている (Stupp et al. 2005)。腫瘍微小環境 (TME) は、多くのがんにおいて免疫療法の重要な標的として認識されているが、脳のTMEは他の臓器のTMEとは根本的に異なる特性を持つ。具体的には、血液脳関門 (BBB) の存在、アストロサイトの優位性、そして浸潤性リンパ球の欠乏が挙げられる (Quail et al. CancerCell 2017)。これらの特性が、GBMにおける免疫チェックポイント阻害薬(例えば、CheckMate 143試験)の臨床的失敗の一因であると考えられている。

これまでの単一細胞解析技術、例えば単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) は、腫瘍細胞とそのニッチにおける細胞多様性を前例のない深さで明らかにしてきた。しかし、これらの研究の多くは組織を解離して解析するため、個々の細胞がin situで占める位置や、隣接する細胞との関係性といった空間的文脈が不足していた。抗腫瘍免疫はTME内の細胞間関係に大きく依存するため、この空間情報の欠如はTMEの全体像を理解する上で大きなギャップを残していた (Quail et al. NatMed 2013, Binnewies et al. NatMed 2018)。高多重化組織顕微鏡技術であるイメージング質量サイトメトリー (IMC) は、この空間的ギャップを埋める強力な手法として期待されていた。IMCは、最大50種類以上のマーカーを同時に解析し、単一細胞レベルでの空間的解像度を提供する。しかし、脳腫瘍のTMEを大規模かつ高次元で空間的に解析した研究はこれまで報告されておらず、特にGBMやBrMにおける免疫細胞の空間的配置が臨床転帰にどのように影響するかは未解明であった。本研究は、この知識の不足を解消し、脳腫瘍のTMEにおける空間的免疫ランドスケープを包括的にマッピングすることを目的とした。

目的

本研究の目的は、イメージング質量サイトメトリー (IMC) を用いて、膠芽腫 (GBM) および脳転移 (BrM) の腫瘍微小環境 (TME) を高次元かつ空間的に詳細に解析することである。具体的には、免疫細胞種、それらの活性化状態、細胞間相互作用、および多細胞ニッチ (cellular neighbourhood, CN) を単一細胞レベルで定量化し、これらの空間的特徴が患者の臨床転帰(全生存期間や局所再発)とどのように関連するかを明らかにすることを目指した。特に、GBM患者における長期生存 (LTS) と関連する新規の免疫細胞集団および空間的ニッチを同定することを主要な目的とした。さらに、原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍のTMEにおける免疫ランドスケープの違いを比較し、空間的解像度が腫瘍生物学の理解に不可欠であることを示すことも目的とした。

結果

脳腫瘍TMEの高次元単一細胞空間地図化と細胞組成の差異: 本研究では、389枚の組織像から1,163,362個の細胞をセグメント化し、16種類以上の免疫細胞集団を定量的に解析した (Fig 1)。GBMのTMEでは、単球由来マクロファージ (MDM) が約30.5%、ミクログリアが約9.2%を占める主要な免疫細胞集団であった。一方、T細胞はほとんどの症例で5%未満と非常に稀であり、GBMが「T細胞砂漠」であるという既報の知見を空間的に裏付ける結果であった。しかし、T細胞頻度が5%を超える稀なGBMサブセット (n=13画像) では、T細胞が少ない症例と比較して平均生存期間が62%延長することが示された (Extended Data Fig 4c)。IDH野生型GBMとIDH変異型腫瘍を比較すると、IDH野生型GBMでNK細胞の減少とリクルートされたMDMの増加が認められた (Fig 2a)。BrMとGBMの比較では、BrMにおいてNK細胞、好中球、マクロファージ、古典的単球、T細胞の頻度が増加しており、BrMのTMEがGBMよりも免疫細胞が豊富であることが示された。また、BrM-marginはBrM-coreよりもGBMのTMEパターンに類似していた。

空間的細胞間相互作用ネットワークの解析: Permutation testを用いた細胞対間相互作用スコアの解析により、GBMに比べてBrMのがん細胞は周囲の免疫細胞集団を回避する傾向が強く、より密な腫瘍内配置を示すことが明らかになった (Fig 2c)。これは、GBMの浸潤性とは対照的に、BrMのがん細胞がよりコンパクトな構造を形成していることを示唆する。血管ニッチの解析では、内皮細胞に接触するがん細胞はKi67:CC3比(増殖/アポトーシス比)が低く (n=107細胞 vs. n=11,163細胞)、血管ニッチが腫瘍細胞の増殖を抑制する可能性が示唆された (Fig 2d)。BrM-coreでは、CD8+ T細胞に接触する内皮細胞でKi67発現が抑制されており (p<0.05)、T細胞が血管増殖を制御する機序が示唆された (Fig 2h)。さらに、血液脳関門 (BBB) のタイトジャンクションタンパク質であるclaudin-5の発現は、BrM-coreのがん細胞隣接内皮細胞で低下しており、特に腫瘍周囲浮腫スコア2-3の症例で顕著であった (Extended Data Fig 6g,h)。これは、BBBの完全性がBrMの進展と関連していることを空間的に示したものである。

空間的多細胞ニッチ (CN) とGBM予後の関連: N=10最近傍細胞を考慮したcellular neighbourhood (CN) 解析により、9つのCNが同定された (Fig 3b)。これらのCNは、腫瘍境界 (CN1)、汎免疫ホットスポット (CN2)、アストロサイト高/低 (CN3/4)、血管ニッチ (CN6)、マクロファージ濃縮 (CN7)、腫瘍区画 (CN8)、T細胞関連 (CN9) など、既知の組織特徴を反映していた。長期生存者 (LTS, n=16) と短期生存者 (STS, n=16) のGBM制御コホートの比較において、LTS腫瘍はCN7 (マクロファージ濃縮ニッチ) の頻度が有意に高かった (Mann-Whitney P有意) (Fig 3d)。Kaplan-Meier解析では、CN7高頻度群(中央値以上)は有意な生存延長を示した (log-rank P有意) (Fig 3e)。CN2 (汎免疫ホットスポット) とCN9 (T細胞関連) も生存延長と関連することが示された。重要なことに、M1様MDMの頻度単独では生存との関連が認められず (Supplementary Fig 7a)、空間的文脈の重要性が強調された。

MPO+マクロファージ:長期生存と関連する新規免疫細胞サブセットの同定: GBMサンプルから抽出した93,513個のマクロファージおよび単球をtSNEクラスタリングにより15のクラスターに分類した (Fig 3f)。LTS腫瘍に有意に濃縮される3つのクラスター (CL1-3) は、ミエロペルオキシダーゼ (MPO) 高発現、CD163-P2Y12-のMDM表現型を示した (Fig 3g,h)。MPO+マクロファージの83.96%はCD163-P2Y12-であり、M1/M2二分法に単純には分類できない複合表現型であることが示唆された (Extended Data Fig 10a)。CL1-3はCN7に特異的に濃縮されており (Fig 3i)、MPO+マクロファージが豊富な空間的ニッチがLTSと関連することが示された。Ingenuity Pathway Analysisを用いたMPO+ vs. MPO-マクロファージの遺伝子発現解析では、MPO+マクロファージで活性酸素種 (ROS) 生合成、ファゴソーム形成(細胞毒性)、HIF1αシグナルが濃縮され、LXR-RXRシグナル(脂肪酸代謝)が低下していた (Fig 4c)。MPO+マクロファージはMPO-マクロファージに比べて内皮細胞との相互作用が少なく、HIF1α発現が高いことから、血管から遠位の低酸素ニッチに局在することが示唆された (Extended Data Fig 10f)。MPO+MDM密度が高い群 (6 cells/mm2以上) では、好中球、M1様MDM、古典的単球が増加していた (Fig 4e)。独立した135例のGBMコホートを用いた免疫蛍光染色 (IHF) バリデーションでは、MPO+IBA1+マクロファージの頻度が高い群で有意な生存延長が確認され (log-rank P有意)、IMCの知見が低多重技術でも再現可能であることが示された (Fig 4h)。

考察/結論

本研究は、イメージング質量サイトメトリー (IMC) を用いて脳腫瘍の腫瘍微小環境 (TME) を高次元かつ空間的に解析した最大規模の研究であり、膠芽腫 (GBM) における長期生存 (LTS) と関連する新規のMPO+マクロファージサブセットを同定した点で新規性がある。これまでの研究では、CSF-1R阻害剤がGBMの臨床試験 (PLX3397) で有効性を示せなかったことが報告されているが、本研究で同定されたMPO+マクロファージが保護的な役割を果たす可能性があり、広範なマクロファージ除去がこの有益なサブセットまで除去してしまうことが臨床的失敗の一因である可能性が示唆された点は重要な臨床的含意を持つ。

本研究の独自性は、単一細胞の頻度だけではなく、細胞が形成する空間的ニッチ構造が患者の生存を予測するという空間情報の重要性を実証した点にある。M1様MDMの頻度単独では生存との関連が認められなかったが、M1様MDMが豊富な特定の多細胞ニッチ (CN7) が長期生存と強く関連していたことは、空間的文脈が腫瘍生物学の理解に不可欠であることを明確に示している。また、GBMと脳転移 (BrM) の空間的免疫構造を系統的に比較し、BrMの組織内ニッチが原発腫瘍種よりも解剖学的位置によって規定されることを明らかにした。さらに、GBMが「T細胞砂漠」であるにもかかわらず、T細胞が5%を超える稀な症例では平均生存期間が62%延長するという定量的な知見も得られた。

臨床応用可能性として、MPO+IBA1+マクロファージの免疫蛍光染色 (IHF) スコアは、GBMの予後バイオマーカーとして有望である。将来的には、MPO+マクロファージを誘導する治療戦略(例えば、GM-CSFによる顆粒球・単球前駆細胞 (GMP) 由来系統の促進)や、CSF-1R阻害剤をMPO+サブセットを温存する方向に改良するアプローチが考えられる。

残された課題として、本研究はパラフィン包埋組織マイクロアレイ (TMA) を用いた後ろ向き横断解析であるため、因果関係を実証するには前向き試験や機能的実験が必要である。また、MPO+マクロファージの起源(骨髄前駆細胞由来の顆粒球・単球前駆細胞 (GMP) 系統か、組織内でのMPO誘導か)の解明が今後の検討課題である。S100A8/S100A9の高発現はGMP由来説を支持するが、確証には至っていない。GBM以外の脳腫瘍におけるMPO+MDMの意義、CN7ニッチの形成・維持に関わる細胞間シグナルの同定、BrMにおける局所再発と免疫ニッチの関係(CN5: 未定義細胞濃縮ニッチが局所再発と相関する知見の解釈)も今後の研究で明らかにすべき点である。方法論的には、より高多重化されたIMCパネルや空間転写解析 (Visiumなど) との統合により、さらに詳細な情報が得られる可能性がある。また、本コホートは診断時切除組織が主であるため、治療後の再発例や縦断的なサンプルを用いた検証も今後の課題である。

方法

本研究では、139例の膠芽腫 (GBM) 患者および46例の脳転移 (BrM) 患者から得られた組織マイクロアレイ (TMA) にイメージング質量サイトメトリー (IMC) を適用した。GBMコホートには、IDH野生型192画像、IDH変異型19画像、再発22画像、隣接正常組織18画像が含まれた。BrMコホートは、肺癌由来51画像、乳癌由来29画像、メラノーマ由来19画像、その他20画像から構成された。合計389枚の高次元組織病理画像をHyperion Imaging Systemを用いて取得した。GBM用にはSOX2、SOX9、OLIG2、CD40、CD206などを含む高多重抗体パネルを、BrM用にはpan-cytokeratin、PMEL、MelanAなどを含むパネルを使用した。

画像データは、MaskRCNNベースの機械学習アルゴリズムを用いて1,163,362個の細胞を単一細胞レベルでセグメント化し、16種類以上の免疫細胞集団(単球由来マクロファージ (MDM)、ミクログリア、NK細胞、好中球、各種T細胞サブセット、単球、樹状細胞、内皮細胞、アストロサイトなど)に系列割り当てを行った。細胞間の空間的相互作用は、Permutation testを用いて細胞対間の相互作用スコアおよび回避スコアを算出した。多細胞ニッチ (cellular neighbourhood, CN) の解析では、各細胞のN=10最近傍細胞を考慮し、MiniBatchKMeansクラスタリングアルゴリズムを用いて9つのCNを同定した。

GBMにおける生存関連免疫細胞集団を特定するため、全切除かつ標準治療 (SOC) を受けた患者からなる制御コホートを構築した。このコホートは、長期生存者 (LTS: 全生存期間 (OS) >3年, n=16) と短期生存者 (STS: OS <1年, n=16) で構成された。マクロファージサブセットの解析には、93,513個のマクロファージ・単球を対象にtSNE次元削減とスペクトラルクラスタリングを適用し、15のクラスターを同定した。特定のクラスターについては、Ingenuity Pathway Analysisを用いて遺伝子発現プロファイルを解析した。

最後に、ミエロペルオキシダーゼ (MPO) 陽性マクロファージの臨床的意義を検証するため、独立した135例のGBM患者コホートにおいて、MPOとIBA1の免疫蛍光染色 (IHF) を用いたバリデーションを行った。これにより、IMCで得られた空間的知見が、より低多重の技術でも再現可能であるかを確認した。統計解析にはGraphPad Prism 9を使用し、Student’s t-test、Mann-Whitney test、one-way ANOVA、log-rank (Mantel-Cox) testなどを適用し、P値<0.05を有意とした。生存解析にはKaplan-Meier曲線とログランク検定を用いた。