headline: メラノーマ脳転移における抗PD-1/抗CTLA-4療法の頭蓋内有効性が体外病変の存在とCD8+ T細胞の脳への輸送増強に依存することを同系モデルで示した前臨床研究。

  • 著者: Debbie Taggart, Theodore Andreou, Karen J. Scott, Jenny Williams, Natacha Rippaus, Robert J. Brownlie, Egon J. Ilett, Robert J. Salmond, Alan Melcher, Mihaela Lorger
  • Corresponding author: Mihaela Lorger (M.Lorger@leeds.ac.uk) (University of Leeds, Leeds, UK)
  • 雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-01-31
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29386395

背景

メラノーマは脳転移 (BrM) を高頻度に発症する悪性腫瘍であり、診断時に約25%の患者がBrMを有し、剖検では最大約75%に認められることが報告されている (Davies et al. 2011)。近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) である抗PD-1抗体および抗CTLA-4抗体は体外メラノーマに対して顕著な有効性を示し、第一選択療法として確立されている。しかし、脳は中枢神経系 (CNS) 免疫特権という観点から末梢リンパ器官とは異なる適応免疫応答を示すことが知られており (Carson et al. 2006, Ransohoff et al. 2012)、BrMにおけるICIの頭蓋内有効性のメカニズムは未解明な点が多い。

2017年時点でのABC試験 (Long et al. 2017) およびCheckMate 204試験 (Tawbi et al. 2017) の中間解析では、未治療メラノーマBrM患者において、抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体の併用療法で約50-55%の頭蓋内奏効率が報告された。一方、抗PD-1単剤療法では約21%の奏効率であったことが、Goldberg et al. LancetOncol 2016 や他の研究で示されている。しかし、約半数の患者が無効であり、その有効性を決定する因子は依然として不明であった。従来の多くの前臨床モデルでは頭蓋内腫瘍のみを移植するため、臨床でほぼ常に観察される体外病変との共存を再現できず、ICIの有効性を過小評価している可能性が指摘されていた。また、脳内の抗原は末梢リンパ器官へのアクセスが制限されるため、T細胞のプライミングや活性化の様式が末梢とは異なることが知られており、この差異がICIの有効性に影響する可能性が示唆されていた。これらの知識のギャップを埋めることが喫緊の課題であった。

目的

本研究は、同系B16メラノーマモデルを用いて、以下の3点を明らかにすることを目的とした。(1) 体外病変の存在が抗PD-1/抗CTLA-4併用療法の頭蓋内効果に与える影響を解明すること。(2) 免疫チェックポイント阻害 (ICB) のBrMに対する有効性に必要な免疫細胞サブセットを同定すること。(3) ICBによる血液脳関門 (BBB) を介したT細胞輸送機序を解析すること。

結果

体外腫瘍の存在が頭蓋内免疫チェックポイント阻害 (ICB) 効果に必須であること: 頭蓋内腫瘍のみを有するモデルでは、抗PD-1または抗CTLA-4単剤、およびその組み合わせ投与のいずれも脳転移の増殖を有意に抑制せず、生存期間の延長も認められなかった。具体的には、頭蓋内腫瘍のみのマウスの平均生存期間は10.8 ± 1.5日であった (Fig 1F-H)。一方、皮下体外腫瘍を同時に有するモデルにおいてのみ、ICB組み合わせ投与が頭蓋内腫瘍増殖を有意に抑制し、生存期間を延長した (Fig 1C-E)。この結果は、免疫原性を高めたB16/OVAモデル (Fig 1I) およびRetメラノーマモデル (Fig 1J) でも再現され、体外腫瘍の存在が頭蓋内ICB効果に不可欠であることが示された。組み合わせICB療法は、体外腫瘍存在モデルにおいて各単剤療法よりも頭蓋内での抗腫瘍効果が有意に強く、臨床的観察 (組み合わせICBの奏効率50-55%に対し、単剤は21-25%) と一致した。このことから、体外腫瘍の存在が、脳内の免疫応答を効果的に誘導するための全身性免疫プライミングに不可欠であることが強く示唆された。

組み合わせICBによる免疫細胞浸潤と必須免疫細胞サブセットの同定: フローサイトメトリー解析では、体外腫瘍ありかつICB投与群でのみ、頭蓋内腫瘍におけるCD45+細胞、CD3+ T細胞、CD8+ T細胞、骨髄由来マクロファージ、ミクログリアが有意に増加した (Fig 2A-D, G, H)。特にCD8+ T細胞は、体外腫瘍が存在しICB併用療法を受けた群で顕著な増加を示した (Fig 2D)。単剤療法はいずれも頭蓋内腫瘍への免疫細胞浸潤増加を誘導しなかった (Fig S3B)。細胞除去実験により、NK細胞またはCD8+ T細胞を抗体で除去すると、ICBの脳転移抑制効果が完全に消失した。NK細胞除去群ではp<0.01、CD8+ T細胞除去群ではp<0.0001で生存期間延長効果が失われた (Fig 4C, D)。CD4+ T細胞の除去は頭蓋内ICB有効性に影響を与えなかった (Fig 4B)。これらの結果は、NK細胞とCD8+ T細胞の両方がBrMにおけるICBの抗腫瘍効果に必須であることを明確に示した。

トランスクリプトーム解析 (mRNAseq) では、ICB+体外腫瘍群の脳腫瘍では、他の3群と比較して4,154遺伝子が差次的に発現し (adjusted P<0.05)、NK細胞活性化・走化性、T細胞活性化、ミクログリア/マクロファージ活性化・遊走に関わるGene Ontology (GO) termが有意に上方調節されていた (Fig 3C-E)。T細胞活性化マーカーの全体的な発現レベルの増加は、主にCD8+ T細胞数の増加によるものであり、個々の細胞の活性化レベルの増加によるものではないことが示唆された。このことから、頭蓋内ICB効果は複数の免疫細胞集団に依存し、その活性化や頭蓋内での増加は体外腫瘍の存在に依存することが示唆された。

CD8+ T細胞の脳転移への輸送増強とその機序: 頭蓋内B16腫瘍内のCD8+ T細胞のKi67+増殖割合は約75%と高く、ICBや体外腫瘍の有無で変化しなかった (Fig 5A)。このことから、ICBは脳腫瘍内でのCD8+ T細胞増殖を促進するのではなく、末梢からのホーミングを増加させることが主要機序であることが示唆された。CellTrace Violet (CTV) 標識CD8+ T細胞の養子移入実験では、体外腫瘍存在下のICB投与群で18時間後の脳腫瘍へのホーミングが対照群と比較して約14倍増加した (Fig 5C, D)。末梢血中のCD44+CD62L-エフェクターメモリーCD8+ T細胞の拡大は、体外腫瘍存在下のICB群でのみ有意に増強され (p<0.01)、これが脳腫瘍へのホーミングの主要な供給源であった (Fig 5E, H)。

Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (KEGG) パスウェイ解析では、「Leukocyte transendothelial migration」が最も有意に上方調節されたパスウェイの一つであり、血管内皮細胞におけるT細胞輸送決定因子であるVCAM-1 (6.4倍) およびICAM-1 (3.8倍) の上昇を含んでいた (Fig 6A)。フローサイトメトリー解析により、体外腫瘍ありかつICB投与群では、脳腫瘍の血管内皮細胞においてICAM-1発現が約75%から約90%へ、VCAM-1発現が約5%から約45%へ有意に上昇し、平均蛍光強度 (MFI) も約3倍増加したことが確認された (Fig 6C, D)。この変化は腫瘍隣接正常脳実質の血管では認められず、腫瘍微小環境に限局していた。インターフェロンγ (IFNγ) はNK細胞およびマクロファージで有意に上昇し (Fig 6E)、VCAM-1/ICAM-1上昇の誘導因子として同定された。また、マクロファージの動員を介したICB効果増強の機序を示唆するコロニー刺激因子1 (CSF-1) も2.8倍上昇していた (Fig 6A)。

考察/結論

① 先行研究との違い: 本研究は、従来の頭蓋内腫瘍のみを移植するモデルでは再現できなかった抗PD-1/抗CTLA-4併用療法の頭蓋内有効性が、体外腫瘍を伴うモデルにおいてのみ再現されることを実証した点で、これまでの前臨床研究とは対照的である。この結果は、Larkin et al. NEnglJMed 2015 などが報告した臨床的有効性 (併用療法で50-55%の奏効率) との整合性を示す。頭蓋内腫瘍のみのモデルでは、抗PD-1単剤療法で21-25%の奏効率が報告されているが、本研究のモデルは併用療法の優位性をより正確に反映していると言える。体外腫瘍の存在を模倣することで、ヒトのBrMにおけるPD-1およびCTLA-4阻害に対する臨床反応をシミュレートする上で重要な改善を達成した。

② 新規性: 本研究は、体外腫瘍の存在がICBの頭蓋内有効性の必要条件であるという新規な知見を提示した。さらに、NK細胞とCD8+ T細胞の両者がこの効果に必須であること、そしてIFNγを介したICAM-1/VCAM-1軸によるBBBでの免疫細胞輸送増加 (約14倍) という詳細な機序を本研究で初めて同定した。これは、BrMにおけるICBの作用機序に関する理解を深める上で極めて重要な発見であり、末梢で活性化されたCD8+ T細胞が脳転移巣へ効率的にホーミングするメカニズムを分子レベルで解明した点で新規性が高い。特に、脳腫瘍内でのCD8+ T細胞の増殖促進ではなく、末梢からの動員が主要なメカニズムであることを示した点は、これまでの知見と異なる。

③ 臨床応用: 本研究の知見は、臨床的妥当性が高い。ABC試験などの詳細な解析では、体外病変を有さない、または制御済みの患者でICB効果が低い傾向が示されており、本研究の前臨床知見はこれらの臨床観察と整合的である。したがって、体外腫瘍抗原を利用したT細胞プライミングを増強する戦略 (例えば、癌ワクチンや放射線療法との組み合わせ) や、T細胞のトラフィッキングを増強する戦略 (VCAM-1/ICAM-1誘導) は、ICBの頭蓋内有効性を改善するための有望な臨床応用戦略となる可能性がある。特に、膠芽腫のような非転移性脳腫瘍に対するICIの効果が限定的である現状 (ニボルマブの第III相試験CheckMate 143は陰性であった) を踏まえると、末梢でのT細胞活性化を促進する戦略は、これらの疾患においても治療効果を高める可能性を秘めている。

④ 残された課題: 脳は免疫特権領域であり、血液脳関門 (BBB) が抗PD-1抗体の脳腫瘍内到達を制限する可能性がある。本研究では、脳腫瘍内でのT細胞の増殖・活性化ブロック解除よりも、体外で活性化されたCD8+ T細胞の脳への動員が頭蓋内ICB活性の主要な決定因子であることが示唆された。このBBBによる抗体到達制限を克服し、脳内でのT細胞活性化を直接促進するための今後の研究が残された課題である。また、本研究は同系マウスモデルを用いたものであり、ヒトのメラノーマBrMにおける体外病変の役割やT細胞輸送機序をさらに詳細に検証する必要がある。

方法

本研究では、C57BL/6JマウスまたはB6N-Tyrc-Brd/BrdCrCrl (B6 Albino) マウスにB16/BL6、B16/OVA、またはRetメラノーマ同系モデルを確立した。頭蓋内腫瘍は、B16/Fluc細胞 (1×10⁵細胞) またはB16/OVA/Fluc細胞 (1×10⁵細胞)、Ret/Fluc細胞 (1×10³細胞) を線条体へ定位固定注射により移植した。体外腫瘍は、B16細胞 (2×10⁵細胞) またはB16/OVA細胞 (2×10⁵細胞)、Ret細胞 (1×10⁵細胞) を皮下脇腹に、頭蓋内移植の3日前に移植した。これにより、頭蓋内腫瘍依存的な生存評価が可能な実験系を設計した。

治療には、抗PD-1抗体 (RMP1-14) および抗CTLA-4抗体 (9D9) を単剤または組み合わせで、各200 μg/マウスを腹腔内投与により計4回投与した。対照群にはIgGアイソタイプ抗体 (MPC11) を投与した。免疫細胞サブセットの同定のため、NK細胞、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞をそれぞれ抗asialo-GM1抗体、抗CD4抗体 (GK1.5)、抗CD8α抗体 (YTS.4) を用いて100 μg/マウスで4日ごとに腹腔内投与により除去する実験を行った。

CD8+ T細胞の脳腫瘍へのホーミングを定量化するため、CellTrace Violet (CTV) 標識CD8+ T細胞 (4×10⁶細胞) の養子移入を18時間後に評価した。この際、CD44+CD62L-エフェクターCD8+ T細胞およびCD44-CD62L+ナイーブCD8+ T細胞を脾臓およびリンパ節からソーティングし、それぞれ1×10⁵細胞および2.4×10⁶細胞を移入した。脳腫瘍の血管内皮におけるICAM-1およびVCAM-1の発現は、免疫組織化学 (IHC) およびフローサイトメトリーにより定量した。フローサイトメトリーでは、CD45、CD3、CD8、CD11b、F4/80、CD4、FoxP3、Ki67、CD44、CD62L、ICAM-1、VCAM-1、インターフェロンγ (IFNγ)、腫瘍壊死因子α (TNFα) などのマーカーを用いた。頭蓋内腫瘍のトランスクリプトーム解析にはmRNAシーケンシング (mRNAseq) を用い、Gene Ontology (GO) およびKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (KEGG) パスウェイ解析を実施した。主要な所見はRetメラノーマモデルでも再現性を確認した。本研究のデータはGene Expression Omnibus (GEO) データベースにGSE109485として公開されている。統計解析にはANOVA、Mann-Whitney検定、log-rank検定を用いた。