• 著者: M. Brown, F. P. Assen, A. Leithner, J. Abe, H. Schachner, G. Asfour, Z. Bago-Horvath, J. V. Stein, P. Uhrin, M. Sixt, D. Kerjaschki
  • Corresponding author: Michael Sixt (Institute of Science and Technology Austria), Dontscho Kerjaschki (Medical University of Vienna)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29567714

背景

リンパ節 (LN; lymph node) への転移は、がんの進展において極めて重要なイベントであり、多くの固形がんにおいて遠隔転移や予後不良と強く相関する病理学的指標である。しかし、LNに到達したがん細胞が、その後どのようにして全身の血流循環に侵入し、遠隔臓器へと播種していくのか、その具体的な解剖学的経路や分子メカニズムは長年にわたり未解明であった。

従来の標準的な進展モデルでは、腫瘍細胞は輸入リンパ管を介してセンチネルLNに到達した後、輸出リンパ管、さらに高位のリンパ節を経由し、最終的に胸管から鎖骨下静脈へと流入することで全身の血液循環に達するという「リンパ行性経路」が想定されてきた。この古典的なモデルは、Hellman (1994) によるがんの段階的進展説や、Alitalo et al. (2012) などのリンパ管新生と転移に関する先駆的な研究によって支持されてきた。また、Naxerova et al. (2017) などの系統解析研究も、LN転移と遠隔転移のクローン的関連性を示唆していた。さらに、Chaffer et al. (2011) もがん細胞の転移プロセスにおける多様な経路について議論している。

しかしながら、LN自体が血行性播種の直接的なハブとして機能している可能性、すなわちLN内部の微小血管、特に免疫細胞の交通路である高内皮細静脈 (HEV; high endothelial venules) が腫瘍細胞の血中移行を直接仲介する出口として機能するかどうかを検証した直接的な実験的証拠は不足していた。この治療戦略上の重要なgapを埋めるための研究は極めて手薄であり、LN内の血管を介した直接的な血行性播種の有無を証明することが、がん転移研究における極めて重要な課題として残されていた。特に、一次腫瘍を介さない条件下でLNからの自発的な播種を動的に追跡する実験系が確立されておらず、解剖学的な経路の同定が困難であるという技術的限界が、この分野における大きな知識のgapとなっていた。

目的

本研究の目的は、マウスの実験的リンパ節転移 (ELM; experimental lymph node metastasis) モデルを用いて、LNに生じた転移腫瘍細胞が、従来のリンパ行性経路 (輸出リンパ管から胸管を経由する経路) を介さずに、LN内の血管 (特にHEV) から直接的に血液循環へと侵入し、遠隔臓器である肺へと播種し得るかを検証することである。

具体的には、微量注入技術を用いてLNの微細構造を保ったまま腫瘍細胞を導入するELMモデルを確立し、腫瘍細胞とLN内血管との空間的・時間的な相互作用を3次元的に可視化する。さらに、輸出リンパ管を外科的に結紮することでリンパ行性経路を完全に遮断した条件下において、肺転移の形成能および循環腫瘍細胞 (CTC; circulating tumor cells) の出現動態を定量的に評価し、胸管非依存的な直接的血行性播種経路の存在を実験的に証明することを目的とする。

結果

ELMモデルにおける腫瘍細胞のリンパ節実質浸潤と病理学的妥当性の検証: 4T1乳がん細胞をポップリテアルLN of 輸入リンパ管へマイクロインフュージョンした直後、腫瘍細胞はsubcapsular sinus (SCS; 辺縁洞) に局在した (Fig. 1A)。注入1日後にはSCSの底部を越えて実質内へと浸潤を開始し、3日後にはSMA陽性の線維芽細胞性網状細胞ネットワークに沿ってLNの中心部へと深く進展した (Fig. 1B)。この浸潤プロセスにおいて、腫瘍細胞の侵襲性マーカーであるCK14 (cytokeratin 14; サイトケラチン14) の発現が注入2日後に著明に増加し、培養細胞や正位移植腫瘍と比較して約3.5-foldの上昇を示した。3日後にはCK14の発現レベルは正常化し、浸潤前端部に局在が限定された。このELMモデルにおける組織学的進展パターンは、ヒト乳がん患者のセンチネルLNマイクロ転移の病理組織像と極めて高い一致を示した。また、注入したマイクロ粒子が下流のメディアルイリアックLNや肺に直接漏出しないことが確認され (n=5 mice)、本モデルがLNからの自発的な播種を評価する上で極めて妥当であることが証明された。

腫瘍細胞による高内皮細静脈 (HEV) への時間依存的な侵入プロセスの同定: LN実質に浸潤した腫瘍細胞と血管との相互作用を解析したところ、注入2日後には腫瘍細胞がCD31陽性血管に直接接触している像が多数観察された (Fig. 2A)。注入3日後には、ライトシート蛍光顕微鏡による3次元再構成画像において、腫瘍細胞がPNAd陽性のHEVに巻き付き (wrapping)、さらに血管内腔へと侵入 (intravasation) している像が明確に捉えられた (Fig. 2D)。腫瘍細胞とHEVとの空間的関連性を定量化したところ、注入0日後から3日後にかけて時間依存的に有意な増加が認められた (Kruskal-Wallis検定、p<0.001) (Fig. 2E)。この血管侵入は、局所的な新生血管形成 (angiogenesis) を伴っておらず、腫瘍浸潤領域と非浸潤領域で血管密度に有意な差は認められなかった。したがって、腫瘍細胞は既存のHEVを直接的な出口として利用していることが示された。同様の腫瘍細胞によるHEVへの侵入像は、ヒト乳がん患者のLNマイクロ転移サンプルにおいても同様に確認された。

輸出リンパ管結紮下における胸管非依存性の肺転移形成の直接証明: ELMモデルにおいて、注入35日後には肺に多巣性のマクロ転移 (macrometastasis) が形成されたが、他臓器への転移は認められなかった (Fig. 3A)。LN切除のタイミングを検証した実験では、注入2日後にLNを切除した群 (n=12 mice) では肺転移が全く形成されなかった (0%) のに対し、3日後に切除した群 (n=12 mice) では33.3%のマウスで肺転移が形成され、有意な差が認められた (chi-square検定、p<0.05) (Fig. 3D)。これは、腫瘍細胞が血管内に侵入するまでに約3日間のLN滞在が必要であるという組織学的知見と完全に一致する。さらに、注入3日後のフローサイトメトリー解析により、循環血液中からmCherry陽性の4T1細胞が検出された (n=3 pooled samples) (Fig. 3F)。この時点で下流のメディアルイリアックLNはすべて腫瘍細胞陰性であった (Fig. 3G)。最も重要な点として、輸出リンパ管を外科的に結紮して胸管への経路を遮断したマウス (n=8 mice) においても、3日以内の肺転移形成能は完全に保持されており、対照群と比較して転移頻度に有意差は認められなかった。また、CT26大腸がん細胞を用いたELMモデルでも同様の胸管非依存的な肺転移が再現され、注入12日後には83.3%のマウス (n=6 mice) で肺転移が形成された。

腫瘍プライミング環境およびLN適応細胞における転移経路の普遍性: 一次腫瘍による全身的な影響 (プレメタスタティック・ニッチの形成など) がこの経路に与える影響を検証するため、あらかじめ足関節上部に未標識 of 4T1腫瘍を移植して8日間経過させた「プライミングされた」マウスを用いてELMを誘導した (n=6 mice)。その結果、プライミングされたLNにおいても、腫瘍細胞は同様の頻度でHEVを経由して血流に侵入し、胸管非依存的に肺転移を形成した。さらに、LN転移巣から回収して再培養した「LN適応腫瘍細胞」を新たなマウスのLNに再注入した実験 (n=6 mice) では、肺転移形成率が83.3%に達し、未適応の細胞と比較して転移能が約2.5-foldに増強されていることが示された。これらの結果は、LN血管を介した直接的な血行性播種が、特定の実験条件や未適応な細胞による人工産物ではなく、生物学的に極めて再現性の高い一般的な転移経路であることを裏付けている。

考察/結論

本研究は、実験的リンパ節転移 (ELM) モデルを用いて、LNに到達した腫瘍細胞が従来のリンパ行性経路 (輸出リンパ管→胸管→鎖骨下静脈) を経由することなく、LN内の血管 (特にHEV) から直接的に血液循環へと侵入し、遠隔臓器である肺へと播種し得ることを実験的に初めて実証した。

先行研究との違い: 従来の「リンパ節転移は単なるリンパ行性進展の通過点であり、全身への播種は胸管を経由する」という一方向的なモデルと異なり、本研究はLN自体が直接的な血行性播種のハブとして機能していることを明確に示した。この結論は、同号のScience誌に掲載された Pereira et al. Science 2018 による、異なるアプローチを用いた独立した研究結果とも完全に一致しており、LN経由の血行性播種経路の存在を強力に支持している。

新規性: 本研究で初めて、LNに注入された腫瘍細胞がわずか3日以内に実質へと浸潤し、HEVに巻き付いて血管内腔へと侵入 (intravasation) するプロセスを、3次元ライトシート顕微鏡を用いて視覚的かつ定量的に実証した。また、輸出リンパ管を結紮して胸管への経路を完全に遮断した状態でも、肺転移の形成能や循環腫瘍細胞 (CTC) の出現が全く阻害されないことを実験的に直接証明した。

臨床応用: 本知見の臨床的意義として、がん患者におけるセンチネルリンパ節生検 (SLNB) や早期のリンパ節郭清が、単なる病期診断 (ステージング) の手段にとどまらず、LN内のHEVを経由した早期の血行性遠隔転移を直接的に阻止するための有効な治療介入となり得ることが挙げられる。さらに、腫瘍細胞がHEVへ接着・侵入する際に利用する分子機構 (例えば、PNAdやL-selectin、あるいは特定のケモカイン受容体など) を標的とすることで、LNからの全身播種を特異的に阻害する新たな遠隔転移抑制療法の開発という臨床応用への道が開かれた。

残された課題: しかしながら、残された課題および今後の課題として、本研究が主にマウスのELMモデル (4T1乳がんおよびCT26大腸がん) を用いた実験結果に基づいているため、ヒトのがん患者におけるこの経路の寄与度や普遍性を直接的に証明することが挙げられる。ヒトの乳がん患者のLNマイクロ転移サンプルにおいても、腫瘍細胞とHEVの密接な関連や血管内侵入像が観察されているものの、臨床現場においてLNから直接血流へと腫瘍細胞が移行する動態をリアルタイムで捉えることは技術的に極めて困難である。したがって、今後はヒト臨床データやより高度なトランスレーショナルモデルを用いた検証が必要である。

方法

本研究では、腫瘍の一次病巣が存在しない条件下でLN転移とその後の遠隔転移プロセスを精密に解析するため、実験的リンパ節転移 (ELM) モデルを構築した。

具体的には、BALB/cマウスのポップリテアル (膝窩) LNの輸入リンパ管に対し、微量注入 (マイクロインフュージョン) 技術を用いて、mCherryおよびluciferase (ルシフェラーゼ) で二重標識した4T1乳がん細胞 (4T1-mCherry-luciferase) を直接注入した。この注入プロセスは、LNの生理的なろ過機能や免疫細胞の遊走能を損なわないよう、極めて低圧かつ微量に調整された。

腫瘍細胞の体内動態および肺転移の形成は、in vivo生物発光イメージング (IVIS; in vivo imaging system) を用いて時系列で非侵襲的に追跡した。

LN内における腫瘍細胞の浸潤および血管との相互作用を解析するため、CD31 (血管内皮マーカー)、PNAd (peripheral node addressin; HEVマーカー)、SMA (smooth muscle actin; 線維芽細胞性網状細胞マーカー)、Prox1 (prospero homeobox 1; リンパ管内皮マーカー) に対する抗体を用いた免疫蛍光染色を実施した。さらに、厚さ200μm of LN切片を作製し、ライトシート蛍光顕微鏡 (LSFM; light sheet fluorescence microscopy) を用いて3次元再構成イメージングを行い、腫瘍細胞の血管内腔侵入 (intravasation) を可視化した。

リンパ行性経路を外科的に遮断するため、腫瘍細胞の注入前にポップリテアルLNの輸出リンパ管を微小外科手術により結紮した。結紮の完全性は、エバンスブルー色素の注入による下流のメディアルイリアック (内腸骨) LNへの漏出阻止、および蛍光標識T細胞の脾臓への再循環阻害実験により厳密に検証された。

循環腫瘍細胞 (CTC) の定量およびメディアルイリアックLNへの転移評価には、フローサイトメトリー (FC; flow cytometry) 解析を用い、mCherry陽性細胞の絶対数を算出した。

統計解析においては、2群間の比較に unpaired t-test、多群比較に Kruskal-Wallis 検定、転移陽性率の比較に chi-square 検定を用い、有意水準を5%未満とした。