• 著者: Ethel R. Pereira, Dmitriy Kedrin, Giorgio Seano, Olivia Gautier, Eelco F. J. Meijer, Dennis Jones, Shan-Min Chin, Shuji Kitahara, Echoe M. Bouta, Jonathan Chang, Elizabeth Beech, Han-Sin Jeong, Michael C. Carroll, Alphonse G. Taghian, Timothy P. Padera
  • Corresponding author: Timothy P. Padera (Massachusetts General Hospital / Harvard Medical School)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29567713

背景

リンパ節転移は多くのがんにおいて予後不良と強く相関し、全身療法の適応を決定する重要な指標である。しかし、リンパ節転移が遠隔臓器への転移の直接的な供給源となるか否かについては、長年にわたり活発な議論が繰り広げられてきた。一部の専門家は、局所リンパ節転移は臨床的に無意味であり、遠隔播種とは無関係であると主張する (Cady 2007, Fisher et al. 2002)。一方で、リンパ節転移が遠隔転移を播種する潜在能力を持つと考える研究者も多く、その治療が遠隔転移の予防に寄与しうると提言している (Halsted 1907, Cascinelli et al. 1998, Morton et al. 2014)。

この議論は、近年完了した複数の臨床試験によって新たな局面を迎えた。例えば、乳がんにおけるセンチネルリンパ節を超えたリンパ節郭清が、補助放射線療法や全身療法を受けた患者において、追加的な治療効果をもたらさない可能性が示唆された (ACOSOG Z0011試験など、Giuliano et al. 2011, Galimberti et al. 2013, Donker et al. 2014, Faries et al. 2017)。これらの結果は、リンパ節転移の臨床的意義、特に遠隔転移への寄与について再評価を迫るものであった。しかし、同時に、リンパ節への放射線療法が早期乳がん患者の予後を改善するというデータも存在し (Poortmans et al. 2015, Whelan et al. 2015)、リンパ節転移の治療が特定の患者群に利益をもたらす可能性も示唆されている (Punglia et al. 2007)。

これまでの研究では、リンパ節が血行性播種のハブとして機能する可能性が示唆されてきたものの、リンパ節内の腫瘍細胞が直接血流に侵入し、遠隔臓器へ転移する経路を直接的に証明する技術的手段は不足していた。遺伝子解析を用いた研究では、遠隔転移巣の腫瘍細胞が原発巣よりもリンパ節転移巣の細胞と遺伝的に近縁であるケースがマウスモデルや一部の患者で報告されており (McFadden et al. Cell 2014, Naxerova et al. 2017)。これはリンパ節が遠隔転移の供給源となりうるという仮説を支持する間接的な証拠は存在したが、リンパ節内の腫瘍細胞の動態をリアルタイムで追跡し、その運命を直接的に観察する技術が未確立であったため、この重要な経路の存在は未解明のままであった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、光変換タンパク質Dendra2 (Dendra2) を発現する腫瘍細胞をマウスモデルに移植し、リンパ節内の転移細胞を選択的に光変換してその運命を追跡することで、リンパ節転移が遠隔臓器播種の直接的な供給源となりうることを実験的に証明することである。具体的には、リンパ節由来の循環腫瘍細胞 (CTCs) の血中への出現と、リンパ節由来の腫瘍細胞が肺に転移巣を形成する過程を直接的に可視化し、定量的に評価することを目指した。また、リンパ節内での腫瘍細胞の血管浸潤メカニズム、特に高内皮細静脈 (HEV) との関連性を詳細に解析し、リンパ節からの播種経路ががん種によって異なる可能性についても検討する。最終的に、これらの知見がリンパ節転移の臨床的意義の再評価にどのように貢献しうるかを考察する。

結果

リンパ節由来CTCの血中への出現:光変換による直接証明: Dendra2H2Bを発現する4T1およびB16F10細胞を移植したマウスにおいて、リンパ節内の腫瘍細胞を光変換した後、赤色蛍光 (リンパ節由来) CTCがAmnis ImageStreamフローサイトメトリーにより血中に検出された (Fig. 1B, C)。4T1モデルではp<0.005、B16F10モデルではp<0.0005という統計的に有意な差が認められた。これは、リンパ節転移細胞が血流に侵入し、循環腫瘍細胞として存在することを直接的に証明するものである。光変換されたCTCをin vitroで培養すると、1日後には赤色蛍光コロニーが形成され、これらの細胞が生存能力を有することが確認された (fig. S4C)。しかし、SCCVII (扁平上皮がん) モデルでは、リンパ節を光変換しても赤色蛍光CTCは検出されなかった (Fig. 1B, fig. S4D)。この結果は、がん種によってリンパ節からの血行性播種経路の利用頻度が異なる可能性を示唆している。

リンパ節由来腫瘍細胞の肺コロニー形成:量的解析: リンパ節を光変換したマウスの肺転移巣を解析した結果、4T1腫瘍モデルでは孤立した肺転移がん細胞の70%が、B16F10モデルでは68%がリンパ節由来 (赤色蛍光陽性) であることがスペクトル共焦点顕微鏡により確認された (Fig. 2B, D)。これは、リンパ節転移が遠隔臓器転移の主要な供給源となりうることを定量的に示したものである。全ての動物において、リンパ節と原発腫瘍の双方を起源とする肺転移が混在して存在した。さらに、Dendra2発現 (緑色蛍光) 4T1細胞をリンパ節に直接注入し、mCherry発現 (赤色蛍光) 4T1細胞を乳腺脂肪体 (MFP) に注入した実験では、全ての動物で両経路由来の肺転移が形成され、平均して緑色:赤色の比率が8:5であった (one-sample t検定 p<0.001) (Fig. 2F, G)。この結果は、原発腫瘍からの直接播種とリンパ節経由の播種という二つの経路が並存し、遠隔転移に寄与することを示している。

リンパ節経路が全身播種を増幅する: センチネルリンパ節予防的切除実験では、リンパ節を切除したマウス (n=8 mice) でもCTCと肺転移は形成されたが、リンパ節が温存されたマウス (n=8 mice) の方がCTC数および肺転移数が有意に多かった (fig. S8)。具体的には、リンパ節切除群と比較して、リンパ節温存群ではCTC数が約2倍、肺転移数が約1.5倍に増加した。これは、原発腫瘍からの直接血行性転移経路が存在する一方で、リンパ節を経由する播種経路が全身転移負荷を追加的に増幅させることを示唆しており、二経路の並存モデルをさらに支持する。また、原発腫瘍のみを光変換した対照実験でも血中に光変換CTCが検出され (fig. S7C)、原発腫瘍からの直接血行性播種も独立して存在することが確認された。

リンパ節内でのHEV浸潤メカニズムと血管選択性: 4T1リンパ節の免疫組織化学解析では、孤立がん細胞の23±2%がHEVを含むCD31陽性血管の5μm以内に存在し、ランダム分布シミュレーションの11±1%と比較して有意な集積が認められた (p<0.05) (Fig. 3B, C)。さらに、6±2%の腫瘍細胞が実際に血管内腔に存在することが確認された (Fig. 3D)。興味深いことに、大型転移巣 (>200μm径) では血管周囲への集積は観察されず、孤立がん細胞が主にHEVを標的とすることが示された (Fig. 3D, fig. S11B)。また、リンパ管との関連性は認められなかった (fig. S12)。ヒト頭頸部がん患者19例のリンパ節転移病変の解析でも、転移巣辺縁に血管関連がん細胞が観察され、19例中6例で血管内がん細胞が検出された (fig. S13)。これは、マウスモデルで得られた前臨床データがヒトにおいても対応する可能性を示唆している。

タイムラプス多光子顕微鏡によるリアルタイム動態観察: 光学リンパ節ウィンドウを用いたin vivo多光子顕微鏡タイムラプスイメージングにより、リンパ節内のがん細胞 (4T1およびSCCVII) がHEVに向かって方向性をもった遊走と血管への接触・血管内侵入を示すことがリアルタイムで観察された (Fig. 4A-E, movies S1-S3)。4T1細胞とSCCVII細胞の平均遊走速度はともに約7μm/時間であった (Fig. 4F)。しかし、運動性細胞の割合はSCCVII細胞と比較して4T1細胞の方が有意に多かった (p<0.05) (Fig. 4G)。がん細胞は、線維芽細胞性網状細胞 (FRC) が形成するコラーゲンIVを核心とするコンジットシステムに沿って移動することが示唆された (Fig. 4D)。このコンジットシステムは、樹状細胞がHEVに向かって移動するための免疫細胞専用経路と同一であることが知られている。さらに、リンパ節から肺へ播種した腫瘍細胞では、ケモカイン (CXCL12、CCL5など) の発現プロファイルに変化が認められ (fig. S15)、腫瘍細胞が環境に応じて遊走・定着能を変化させながら転移ニッチを探索するダイナミックな過程が示唆された。SCCVII細胞で光変換CTCが検出されなかった点は、がん種による侵襲性やHEV親和性の差を反映しており、播種能のがん種特異性を示す重要な知見である。

考察/結論

本研究は、Dendra2 (Dendra2) 光変換追跡という革新的な手法を用いることにより、マウスモデルにおいてリンパ節転移細胞がリンパ節内の局所血管、特に高内皮細静脈 (HEV) に侵入し、血流に乗って遠隔臓器である肺へ播種するという新たな経路を初めて直接的に証明した。この発見は、Brown et al. Science 2018の同号掲載論文と独立して同じ結論に達しており、「リンパ節経由血行性播種」経路の存在が強固に支持された。

先行研究との違い: これまでのリンパ節転移に関する議論は、リンパ節が遠隔転移の供給源となりうるか否かについて、間接的な証拠や疫学的データに基づいて行われてきた。本研究は、光変換技術を用いてリンパ節内の腫瘍細胞の運命を直接追跡することで、この長年の議論に決定的な実験的証拠をもたらした点で、これまでの研究とは一線を画す。特に、リンパ節からの播種がリンパ管ではなく血行性経路を介して起こることを明確に示した点は、従来のリンパ系を介した転移の概念に新たな視点を提供する。

新規性: 本研究で初めて、リンパ節転移細胞がHEVを標的とし、線維芽細胞性網状細胞 (FRC) が形成するコンジットシステムを利用して血管に浸潤するという新規のメカニズムをリアルタイムで可視化した。このメカニズムは、免疫細胞がHEVに向かって移動する経路と共通しており、がん細胞が免疫細胞のナビゲーションシステムを模倣して転移を促進している可能性を示唆する。また、リンパ節由来のCTCが生存能力を有し、肺転移の主要な供給源となりうることを定量的に示した点も新規性が高い。

臨床応用: 本知見は、リンパ節転移の臨床的意義に重要な含意を持つ。第一に、リンパ節転移が遠隔転移の直接的な供給源であることが示されたため、リンパ節の治療的管理 (外科的切除や放射線療法) が遠隔転移の抑制に効果をもたらしうる機序的根拠が提供された。これは、乳がんにおけるリンパ節照射による予後改善効果 (EBCTCG解析) の分子的根拠として参照しうる。第二に、がん細胞がHEVやFRCコンジットを利用して血管に浸潤するというメカニズムは、新規の転移抑制標的を同定する可能性を示唆する。これらの経路を阻害することで、リンパ節からの全身播種を抑制できる可能性がある。第三に、SCCVII細胞ではリンパ節経由播種が検出されなかった点は、がん種によって播種経路の利用頻度が異なることを示しており、臨床現場での個別化医療の重要性を強調する。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で示されたリンパ節経由血行性播種経路がヒトのがん患者においても普遍的に存在するかどうかを検証する必要がある。また、リンパ節内の腫瘍細胞がHEVに侵入する分子メカニズムをさらに詳細に解明し、具体的な治療標的を特定することが重要である。Dendra2システムのlimitationとして、光変換された赤色蛍光が細胞分裂により5〜6日で消失するため、長期的な細胞の運命追跡には課題が残る。また、光変換効率が100%ではないため、リンパ節由来の遠隔転移の正確な割合を評価することは困難である。これらのlimitationを克服するための新たな技術開発も今後の研究方向性となる。

方法

Dendra2光変換系統追跡:核局在型Dendra2H2B (Dendra2H2B) または細胞質局在型Dendra2を発現する4T1 (乳がん) 、B16F10 (メラノーマ) 、SCCVII (扁平上皮がん) 細胞株を樹立した。これらの細胞は、親株と比較して細胞遊走、増殖速度、in vivo腫瘍増殖に影響を与えないことを確認した (fig. S1)。これらの細胞をsyngeneicマウス (4T1はBALB/c、B16F10はC57BL/6、SCCVIIはC3H) に同所移植した。原発腫瘍が約250〜500 mm³に達した後、外科的に切除した。その後、腫瘍ドレナージリンパ節内の腫瘍細胞のみを標的とし、405 nmレーザーダイオードを用いて5日間連続で光変換処理を行った (緑色蛍光から赤色蛍光へ)。光変換効率は、4T1細胞で70%、B16F10細胞で62%、SCCVII細胞で56%であった (fig. S3)。原発腫瘍部位の組織透明化により、原発部位の腫瘍細胞が自発的に光変換されていないことを確認した (fig. S2)。

循環腫瘍細胞 (CTC) の検出:リンパ節を光変換した動物の血液を採取し、Amnis ImageStreamフローサイトメトリーを用いて、赤色蛍光 (リンパ節由来) CTCの有無を検出した。光変換されたCTCが生存能力を有するかを確認するため、in vitroで培養し、赤色蛍光コロニーの形成を観察した。

肺転移の解析:リンパ節光変換後のマウスの肺を採取し、新鮮凍結肺切片を作成した。スペクトル共焦点顕微鏡を用いて、DAPI (4′,6-diamidino-2-phenylindole) (450 nm)、未変換Dendra2H2B (507 nm)、光変換Dendra2H2B (572 nm) の明確な分光学的区別に基づき、光変換された赤色蛍光細胞 (リンパ節由来) の肺コロニー形成を同定し、定量的に評価した (fig. S6)。コントロールとして、一次腫瘍のみを光変換した実験も実施し、原発腫瘍からの直接血行性播種の有無を確認した (fig. S7)。

センチネルリンパ節切除実験:4T1-DendraH2B細胞を乳腺脂肪体 (MFP) に注射する前に、BALB/cマウスのセンチネルリンパ節を予防的に切除した。その後、原発腫瘍切除後にCTC数と肺転移数への影響を評価し、リンパ節が存在する場合としない場合での全身転移負荷を比較した (fig. S8)。

二経路併存モデルの評価:Dendra2発現 (緑色蛍光) 4T1細胞を腋窩リンパ節に直接注入し、対側にはmCherry発現 (赤色蛍光) 4T1細胞をMFPに注入した。両腫瘍切除後、肺転移における赤色と緑色蛍光のコロニーの比率を解析し、両経路からの播種が同時に起こりうるかを評価した (Fig. 2E-G)。

免疫組織化学およびタイムラプスin vivo多光子顕微鏡:4T1腫瘍ドレナージリンパ節の組織切片を免疫組織化学染色し、サイトケラチン陽性腫瘍細胞とCD31陽性血管、コラーゲンIV陽性基底膜との空間的関係を解析した。特に、孤立がん細胞と大型転移巣における血管周囲集積の有無を比較した。光学リンパ節ウィンドウモデルを用いたin vivo多光子顕微鏡によるタイムラプスイメージングを実施し、リンパ節内での腫瘍細胞の遊走、血管への接触、および血管内侵入をリアルタイムで観察した (movies S1-S3)。この際、ロダミンデキストランで血管を標識し、第二高調波発生 (SHG) でコラーゲン線維を可視化した。

ヒトリンパ節サンプル解析:頭頸部がん患者19例のリンパ節転移病変を免疫組織化学的に解析し、血管関連がん細胞の存在を確認した。

統計解析:データは平均値±標準誤差 (SEM) で示され、群間の比較にはStudentのt検定、one-sample t検定、またはFisherの正確検定が用いられた。p値が0.05未満を有意とした。