• 著者: Ming Wang, Zhongyu Qin (以上共同第一著者), Jiajia Wan, Yan Yan, Xixi Duan, Xiaohan Yao, Ziming Jiang, Wenqing Li, Zhihai Qin
  • Corresponding author: Ming Wang (wangmingheda@163.com); Zhihai Qin (zhihai@ibp.ac.cn), Zhengzhou University / Chinese Academy of Sciences
  • 雑誌: Cancer Immunology, Immunotherapy
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-04-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35428909

背景

肺は癌転移の最も一般的な標的臓器の一つであり、転移細胞が定着するためには転移前ニッチ (pre-metastatic niche; PMN) の形成が必要条件となる。PMN は、血管透過性の亢進、細胞外マトリックス (ECM) のリモデリング、免疫抑制環境の構築といった多段階のプロセスを経て形成されることが知られている Peinado et al. NatRevCancer 2017。この免疫抑制環境は、転移部位における宿主免疫からの腫瘍細胞の攻撃を防ぐ上で重要な役割を果たす。制御性 T 細胞 (Treg) は腫瘍内に高密度に浸潤する免疫抑制細胞であり、PMN 内での蓄積が腫瘍転移を促進することが知られている。Treg は免疫恒常性および自己寛容の制御において重要な役割を果たす一方で、抗腫瘍免疫を減弱させ、腫瘍転移を促進する。例えば、乳癌の肺転移においては、Treg が β-ガラクトシダーゼ結合タンパク質の発現を介してナチュラルキラー細胞を殺傷することで、腫瘍細胞排除能力を中和し、転移を促進することが報告されている。しかし、Treg が PMN においてどのように分化・蓄積するかのメカニズムは未解明な点が多かった。

腫瘍由来エクソソーム (tumor-derived exosomes; TDE) は、腫瘍細胞から分泌される細胞外小胞の一種であり、臓器特異的にホーミングして転移先の微小環境を再構成することが示されている Hoshino et al. Nature 2015。TDE は、侵襲促進因子を転移部位に輸送し、PMN の確立に寄与する。例えば、膵臓腫瘍細胞由来エクソソームは、間質線維芽細胞を活性化し、転移前腫瘍微小環境を確立することで腫瘍細胞の転移を助ける。また、肺 TDE はマクロファージの PD-L1 発現を上方制御し、肺 PMN 形成を促進して腫瘍細胞の肺への転移性定着を助けることが報告されている Morrissey et al. CellMetab 2021。TDE を介した腫瘍間質における Treg 蓄積は、肺癌や乳癌を含む様々な癌で報告されているが、TDE が肺線維芽細胞との相互作用を通じて Treg 分化を誘導し、免疫寛容性 PMN を形成するかどうかは不明であった。

CCL1-CCR8 軸は Treg の分化・動員に関与するケモカイン経路として知られていたが、PMN 形成における役割は未検討であった。著者らは先行研究で Lewis 肺癌細胞由来エクソソーム (LLC-exo) が肺線維芽細胞の炎症性サイトカイン遺伝子発現を誘導することを報告しており、それらサイトカインが Treg 動員に寄与する可能性を本研究で探索した。特に、TDE が肺線維芽細胞を介して Treg の分化を誘導し、免疫寛容性の PMN を形成する詳細な分子メカニズムについては、依然として知識のギャップが残されている。

目的

本研究の目的は、腫瘍由来エクソソーム (TDE) が肺転移前ニッチ (PMN) における制御性 T 細胞 (Treg) の分化誘導に果たす役割と、肺線維芽細胞-CCL1-CCR8-Treg 軸が PMN 形成に与える機序を解明することである。さらに、この経路を標的とした治療的介入の有効性を検証し、肺転移抑制のための新たな治療標的を特定することを目指した。具体的には、Lewis 肺癌細胞由来エクソソーム (LLC-exo) が肺線維芽細胞の CCL1 産生を促進し、その結果として T 細胞上の CCR8 を介した Treg 分化を誘導するメカニズムを in vitro および in vivo で詳細に解析した。また、エクソソーム分泌阻害剤 GW4869 および CCL1-CCR8 軸阻害剤 AZ084 を用いて、この経路が肺転移に与える影響を評価した。

結果

LLC-exo による Treg 選択的増加と PMN 形成: Lewis 肺癌細胞由来エクソソーム (LLC-exo) は、透過型電子顕微鏡により典型的なカップ状形態を示し (Fig 1A)、表面マーカー CD63 の発現が確認され (Fig 1B)、粒子径は 30〜100 nm であった (Fig 1C)。Cy5.5 標識 LLC-exo の in vivo 追跡実験では、静脈内投与後 12 時間で肺および肝臓に最も多く集積し、特に肺の α-SMA+ 線維芽細胞が主要な取り込み細胞であることがフローサイトメトリーにより示された (Fig 1D, E)。LLC-exo を 3 回静脈内投与した n=5 mice の肺では、CD4+FoxP3+ Treg 数が対照群の約 2.1±0.3 倍に有意に増加した (p<0.01)。一方、MDSCs (CD11b+ly6G/C+)、B 細胞 (B220+)、CD4+ および CD8+ T 細胞の数には有意な変化は認められなかった (Fig 1G-J)。これらの結果は、LLC-exo が Treg を選択的に増加させ、肺転移前ニッチ (PMN) を形成することを示唆している。免疫蛍光染色による Ly6G、CD19、CD4、FoxP3 の評価でも、Treg の増加が独立して確認された (Fig 1K-N)。

LLC-exo による線維芽細胞 CCL1 産生の増強: LLC-exo 処理した肺線維芽細胞の上清をマウスサイトカインアレイで解析したところ、CXCL1、CCL5、CCL1 などのケモカインが上昇し、特に CCL1 が最も有意に増加した (p<0.01、n=5 replicates) (Fig 2A)。ELISA による CCL1 タンパク質レベルは対照群と比較して 4.2±0.8 倍に有意に増加し、qRT-PCR による Ccl1 mRNA レベルも対照群の約 3〜5 倍に有意に上昇した (Fig 2B, C)。in vivo でも、LLC-exo 前注入 n=5 mice の肺において、α-SMA+ 線維芽細胞と CCL1 の共局在が増加していることが免疫蛍光染色で確認された (Fig 2D)。さらに、LLC-exo 処理後の線維芽細胞では NF-κB 経路 (p65 核移行) の有意な活性化 (p<0.05) が確認され、CCL1 転写誘導における NF-κB 経路の関与が示唆された。他の間質細胞 (CD31+ 内皮細胞、CD45+ 免疫細胞) では CCL1 産生が低く、線維芽細胞が PMN における CCL1 の主要産生源であることが示された。

CCL1-CCR8 軸阻害による Treg 分化誘導の選択的抑制: 脾臓 T 細胞を LLC-exo 処理肺線維芽細胞の条件培地 (LLC-exo MPF CM) で 4 日間培養すると、CD4+FoxP3+ Treg の割合が対照群の約 2.3 倍に増加した (Fig 3B, C)。この際、T 細胞における CCR8 発現も LLC-exo MPF CM 処理後に有意に上昇した (p<0.01) (Fig 4A)。CCL1-CCR8 ブロッカー ZK756326 (5 μg/ml) の添加により、Treg 分化誘導は対照レベルまで有意に抑制された (p<0.05) (Fig 3B, C)。in vivo でも、CCR8 拮抗薬 AZ084 (5 mg/kg、腹腔内) の投与により、LLC-exo 前注入 n=5 mice の肺における CCR8+ Treg 細胞蓄積が有意に減少した (p<0.05) (Fig 4G, H)。これらの結果は、CCL1-CCR8 軸が Treg 分化誘導に重要な役割を果たすことを示している。

GW4869 および AZ084 併用による相乗的転移抑制: LLC-exo 前注入後に LLC 細胞を静脈内投与した転移モデル (5×10^5 個) を用いた治療実験では、AZ084 投与群において、LLC-exo 単独群と比較して肺転移結節数および転移面積が有意に減少した (p<0.01、n=5 mice) (Fig 5E, F)。エクソソーム分泌阻害剤 GW4869 (10 mg/kg) 単独投与でも転移結節数が有意に減少した (p<0.01)。GW4869 と AZ084 の併用群は、各単剤群よりも有意に強い転移抑制効果を示した (p<0.01) (Fig 6D-F)。いずれの治療群も皮下原発腫瘍の増殖速度や体積に有意差は認められず (Fig 6B, C)、転移前ニッチ形成の選択的抑制であることが確認された。AZ084 治療群では B 細胞、MDSC、CD4+/CD8+ T 細胞数に変化はなく、CCR8 阻害が Treg 選択的作用であることが改めて確認された (Fig 5G, H)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、exosomal PD-L1 を介した免疫抑制機序 (Chen et al. Nature 2018) や exosomal S100A9 を介した免疫抑制機序が報告されていたこれまでの知見と異なり、exosome-fibroblast-CCL1-CCR8-Treg という多細胞連鎖機序を前転移ニッチ形成の文脈で初めて確立した点が独自の貢献である。特に、CCL1 が肺線維芽細胞から産生され、Treg の CCR8 を介して分化を誘導するという具体的な分子経路を同定した点は新規性が高い。

新規性: 本研究で初めて、腫瘍由来エクソソーム (TDE) が肺線維芽細胞の CCL1 産生を促進し、CCL1-CCR8 軸を介した制御性 T 細胞 (Treg) 分化誘導により免疫寛容性の肺転移前ニッチ (PMN) を形成するという新規 4 段階機序 (exosome → fibroblast → CCL1 → CCR8+ Treg) を解明した。Lewis 肺癌細胞由来エクソソーム (LLC-exo) は、MDSCs、B 細胞、CD4+/CD8+ T 細胞への影響なく Treg 特異的な蓄積を誘導し、これは TDE が免疫抑制的 PMN を選択的かつ効率的に形成するメカニズムの精巧さを示す。肺線維芽細胞が受動的な ECM リモデリング細胞でなく、TDE シグナルを受けて Treg を積極的に動員する能動的な PMN 形成細胞として機能することも本研究の重要な発見であり、線維芽細胞の免疫調節機能に新たな側面を加える。

臨床応用: 本研究の知見は、肺転移抑制のための新たな治療戦略の臨床応用を示唆する。CCR8 は Treg に選択的発現が多く報告されており、CCR8 標的化抗体 (FPA157/BMS-986340 等が複数社で臨床開発中) に対する前転移ニッチ制御という新規理論的根拠を PMN 文脈で提供する点でも臨床的意義が高い。エクソソーム分泌阻害剤 GW4869 と CCR8 拮抗薬 AZ084 の組み合わせが相乗的な転移抑制効果 (各単剤より有意に強い p<0.01) を示したことは、エクソソーム産生阻害と CCR8 阻害の二重標的アプローチの有望性を示す初の前臨床エビデンスである。これは、転移予防を目的とした免疫療法の新たなアプローチとして注目に値する。

残された課題: 残された課題として、(1) 他の肺転移型癌 (乳癌、大腸癌、膵癌など) における LLC-exo 類似の TDE-CCL1-Treg 軸の一般性検証、(2) LLC-exo 内の CCL1 産生誘導シグナル分子の同定 (特に miRNA cargo 解析、例えば miR-3473b など)、(3) GW4869 の全身投与による正常細胞への副作用プロファイル評価、(4) より特異的なエクソソーム産生阻害標的 (Rab27a/b、nSMase2) の探索が今後の検討課題である。また、長期的な転帰の評価や、他の肺内細胞が Treg 分化や PMN 形成に与える影響についてもさらなる研究が必要である。

方法

Lewis 肺癌細胞株 (LLC) から超遠心法 (200×g 10 min → 20,000×g 20 min → 100,000×g 70 min × 2 回) でエクソソーム (LLC-exo) を分離した。分離した LLC-exo は、透過型電子顕微鏡による形態観察、表面マーカー CD63 のウェスタンブロット解析、および Malvern Zetasizer を用いた粒子径分析 (30〜100 nm) により性状評価を行った。Cy5.5 標識 LLC-exo の in vivo 臓器分布は、静脈内投与後 12 時間の肺、肝臓、脾臓、脳の細胞懸濁液をフローサイトメトリーで解析することで追跡した。特に、α-SMA+ 線維芽細胞および CD11b+ マクロファージへの取り込みを評価した。

マウスに LLC-exo を静脈内投与 (10 μg in 100 μl PBS、3 日おき、計 3 回) することで転移前ニッチモデルを構築し、肺内免疫細胞組成をフローサイトメトリーで解析した。解析対象の免疫細胞は、CD45+CD11b+Ly6G/C+ 骨髄由来抑制細胞 (MDSCs)、CD45+B220+ B 細胞、CD4+ および CD8+ T 細胞、ならびに CD4+FoxP3+ 制御性 T 細胞 (Tregs) であった。免疫蛍光染色により、Ly6G、CD19、CD4、FoxP3 などの特異的マーカーの発現を評価し、フローサイトメトリーの結果を裏付けた。

CCL1 産生は、LLC-exo 処理した肺線維芽細胞の上清を用いてマウスサイトカインアレイ (32 種サイトカイン同時検出) および ELISA で評価した。また、Ccl1 mRNA レベルは qRT-PCR で測定した。in vivo では、LLC-exo 前注入マウスの肺における α-SMA+ 線維芽細胞と CCL1 の共局在を免疫蛍光染色で確認した。NF-κB 経路の活性化は、p65 の核移行をウェスタンブロットで解析することで評価した。

CCL1-CCR8 軸の役割を検証するため、脾臓 T 細胞を LLC-exo 処理肺線維芽細胞の条件培地 (LLC-exo MPF CM) で 4 日間培養し、CD4+FoxP3+ Treg の割合をフローサイトメトリーで測定した。この際、CCL1-CCR8 ブロッカー ZK756326 (5 μg/ml) または CCR8 拮抗薬 AZ084 (5 μg/ml) を添加して効果を評価した。in vivo では、CCR8 拮抗薬 AZ084 (5 mg/kg、腹腔内) および CCL1-CCR8 ブロッカー ZK756326 (10 mg/kg、静脈内) を LLC-exo 前注入マウスに投与し、肺内の CCR8+ Treg 細胞蓄積をフローサイトメトリーで解析した。

治療効果の評価は、皮下 LLC 腫瘍モデルに LLC 細胞を静脈内投与 (5×10^5 個) する転移モデルを用いて行った。エクソソーム分泌阻害剤 GW4869 (10 mg/kg、腹腔内) と AZ084 の単独または併用投与を行い、肺転移結節数および転移面積をヘマトキシリン・エオシン (HE) 染色で評価した。原発腫瘍の増殖速度および体積も測定した。統計解析は GraphPad Prism 8 を用い、Student t-test または one-way ANOVA で p<0.05 を有意差ありと判断した。