• 著者: Samantha M. Morrissey, Fan Zhang, Chuanlin Ding, Diego Elias Montoya-Durango, Xiaoling Hu, Chenghui Yang, Zhen Wang, Fang Yuan, Matthew Fox, Huang-ge Zhang, Haixun Guo, David Tieri, Maiying Kong, Corey T. Watson, Robert A. Mitchell, Xiang Zhang, Kelly M. McMasters, Jian Huang, Jun Yan
  • Corresponding author: Jun Yan (University of Louisville)
  • 雑誌: Cell Metabolism
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-09-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34559989

背景

腫瘍転移は、原発腫瘍が遠隔臓器に「転移前ニッチ (PMN)」を形成することで臓器特異的に発生する複雑なプロセスである。PMNの定義的特徴の一つは免疫抑制性マクロファージの浸潤であるが、これらのマクロファージが如何にして免疫抑制表現型を獲得するかのメカニズムは未解明であった。特に、マクロファージが免疫抑制表現型を獲得する初期段階における開始因子や細胞プロセスについては、多くの疑問が残されており、この知識ギャップが新規治療法の開発を妨げている。

腫瘍由来エクソソーム (TDE) はPMN形成に重要な役割を果たし、表面インテグリンプロファイルにより特定の臓器に向性を示すことが Hoshino et al. Nature 2015 により報告されている。TDE表面のPD-L1が全身性免疫抑制に寄与することは Chen et al. Nature 2018Poggio et al. Cell 2019 により示されていたが、TDEがマクロファージにde novo PD-L1発現を誘導する機構、特に代謝リプログラミングとの関連は不明であった。先行研究では、TDEが炎症性サイトカインの分泌、血管新生の促進、TLR3を介した好中球浸潤、骨髄由来抑制細胞 (MDSC) の動員を通じて腫瘍進行を調節する可能性が示唆されている Liu et al. CancerCell 2016。しかし、TDEがマクロファージにおけるPD-L1発現をどのように誘導し、それが転移前ニッチ形成にどのように寄与するかについては、これまで十分に検討されてこなかったため、この領域には知識の不足が残されている。

古典的マクロファージ二極化モデルでは、M1マクロファージは解糖依存型で抗腫瘍性、M2マクロファージは酸化的リン酸化依存型で免疫抑制性とされてきたが、腫瘍微小環境ではこの二分法に収まらない「非古典的表現型」の存在が示唆されていた。特に、膵臓癌の条件培地で培養されたヒト単球がWarburg効果を想起させる顕著な解糖シグネチャーを示すことが報告されており (Penny et al. OncoImmunology 2016)、マクロファージの代謝プロファイルがその機能に深く関与していることが示唆されている。しかし、TDEがマクロファージの代謝をどのように再プログラミングし、それがPD-L1発現と免疫抑制性表現型にどのように結びつくのか、その詳細な分子メカニズムは未解明であった。

目的

本研究の目的は、腫瘍由来エクソソーム (TDE) がNF-κB依存的な解糖優位代謝リプログラミングを介してマクロファージにPD-L1発現を誘導し、転移前ニッチを形成する分子機構を解明することである。具体的には、TLR2-HMGB-1-NF-κB-NOS2/HIF-1α-乳酸軸がこのプロセスにどのように関与するかを詳細に解析する。さらに、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者におけるTDE、マクロファージのPD-L1発現、および代謝リプログラミングの臨床的関連性を検証し、転移前ニッチ形成における新たな治療標的およびバイオマーカー候補を特定することを目指す。本研究は、TDEがマクロファージのPD-L1 de novo合成を誘導するメカニズム、特に代謝リプログラミングとの関連性を明らかにすることで、転移プロセスにおける重要な知識ギャップを埋めることを意図している。

結果

TDEによる肺転移前ニッチ形成とマクロファージde novo PD-L1発現誘導: LLC TDEを静脈内投与したマウス (n=5 mice/group) では、対照 (MLE-12肺上皮細胞エクソソーム) 投与マウスと比較して、肺内微小転移 (LLC-GFP%) が有意に増加した (p < 0.05)。LLC TDE処理マウスの肺では、CD11b+F4/80+間質マクロファージ (IM) のPD-L1発現が増加した (図1D)。Pan02 (肝転移指向性) エクソソームでは肺転移促進効果がなく、臓器向性が確認された (図1E)。PD-L1 mRNA発現増加はアクチノマイシンD前処理で消失し、de novo転写合成が機序と確認された (図1J)。4T-1乳癌、MC38大腸癌、B16F10黒色腫エクソソームでも同様のPD-L1誘導が認められ、癌腫横断的な現象であることが示された (図1I)。in vivoでは、LLC TDEは肺IMに選択的に取り込まれ、PD-L1発現を誘導した。

TDE刺激マクロファージの免疫抑制機能とT細胞への影響: TDE刺激マクロファージのサイトカイン解析では、TNFα、TIMP-1、MCP-1、IL-10、IL-6、IL-1ra、G-CSF、CXCL1の分泌が増加した (IFNγは陰性) (図2A)。Arg-1およびVEGFのmRNAも増加しつつ、iNOS産生増加はM1/M2混合表現型を示唆した (図2C)。TDE刺激マクロファージはOT-I CD8+ T細胞の増殖およびIFNγ産生を著明に抑制し、抗PD-1抗体添加で部分回復した (図2D)。RAB27aノックアウト (エクソソーム分泌欠損) 腫瘍では、肺内CCR2− IM集積、PD-L1発現増加、MDSC増加が消失し、CD8+ T細胞が増加した (図6F-H)。この結果は、TDEが免疫抑制性マクロファージ表現型を誘導し、T細胞機能を抑制することを示している。

TLR2/HMGB-1/NF-κB依存的なシグナル伝達経路の同定: TDE誘導性PD-L1発現はMyD88欠損マクロファージ (n=3 replicates) では認められなかった (図3A)。5種のTLR欠損マウスのうちTLR2欠損マクロファージのみでTDE刺激後のPD-L1増加が消失した (図3B)。in vivoモデルでもTLR2欠損マウスではTDE投与による肺転移促進が消失した (図3C)。LLC TDE中のHMGB-1含量はMLE-12エクソソームより多く、組換えHMGB-1刺激でもPD-L1発現が増加した (図3G)。HMGB-1ノックダウンLLC由来TDEではPD-L1誘導能が著明に低下し、HMGB-1ノックダウン4T-1細胞の皮下腫瘍では肺転移結節数が有意に減少した (p < 0.01) (図3K, L)。NF-κBp65のリン酸化がTDE刺激後に増加し、NF-κB阻害剤BAY-11-7082でPD-L1発現が抑制された (図3E, F)。これらのデータは、TDEがTLR2/HMGB-1/NF-κB経路を介してマクロファージのPD-L1発現を誘導することを示唆している。

二経路 (HIF-1α/GLUT-1 および NOS2/NO) による解糖優位代謝リプログラミング: TDE刺激マクロファージ (n=3 replicates) では2-NBDG取り込みが3-5倍増加し、Seahorse解析でECARが有意に増加しOCRが消失した (図4A, E, F)。GLUT-1、HIF-1α、LDHAのmRNAおよびタンパク発現が増加した (図4C, D)。NOS2発現増加 (TLR2/MyD88依存的・HIF-1α非依存的) が認められ、NOS2由来NOが電子伝達系複合体III・IVを阻害してミトコンドリア酸化的リン酸化を抑制しピルビン酸を乳酸へシャントした (図4H, I)。NOS2阻害剤SEITUはミトコンドリア呼吸を回復させ解糖能を低下させPD-L1発現を減少させた (図4I, J)。NOS2欠損マウス (n=5 mice/group) ではTDE投与による肺転移促進もIM PD-L1増加も起こらなかった (図4M, N)。HIF-1αコンディショナルKOマウスではGLUT-1アップレギュレーション・PD-L1発現が減弱したが完全には消失せず、NOS2とHIF-1αが独立した二経路でglycolytic dominanceを形成することが示された。αケトグルタル酸刺激はTDE誘導性PD-L1発現を阻害した。これらの結果は、TDEがマクロファージの代謝を解糖優位に再プログラミングし、PD-L1発現を促進するメカニズムにNOS2とHIF-1αが関与することを示している。

乳酸産生とNF-κBオートクリンフィードバックループによるPD-L1増幅: TDE刺激マクロファージ (n=3 replicates) では乳酸産生が有意に増加した (MyD88・NF-κB依存的) (図5A-C)。外来性L-乳酸刺激でもPD-L1発現が増加し、これはNF-κBp65の30分以内の核内移行に依存した (Phosflow + 共焦点顕微鏡で確認) (図5H, I)。MCT-1阻害剤AZD3965は乳酸誘導性PD-L1増加を阻害し、細胞内への乳酸取り込みが必須であることが示された (図5G)。in vivoでは18F-FDG取り込みがTDE処理マウスの肺マクロファージ濃縮細胞でのみ増加した (図6C)。これにより、TDE→NF-κB→解糖→乳酸→NF-κB→PD-L1というオートクリンフィードバックループが確立された (図5L)。このオートクリンループは、PD-L1発現の持続的な増幅に寄与すると考えられる。

ヒトNSCLC患者dLNでの臨床的関連とYKT6バイオマーカー候補: NSCLC患者N0期dLNでは健常対照と比較してCD68+CD206+PD-L1+マクロファージが約2倍増加し、PD-L1発現はCD8+PD-1+T細胞数と正相関した (図7C, E)。PD-L1hiマクロファージのGLUT-1発現がPD-L1loより高く、GLUT-1とCD206/PD-L1の正相関も確認された (図7G, H)。TCGAデータベースでエクソソーム分泌遺伝子YKT6が節転移陽性NSCLCで有意に高発現し (N+ではN0よりYKT6高値、p < 0.01)、YKT6高発現群は有意に不良予後を示した (図7I, J)。さらに、NSCLC患者の原発腫瘍細胞におけるYKT6 mRNAレベルは、dLNにおけるPD-L1高発現マクロファージ群で有意に増加していた (図7L)。これらの結果は、TDEを介したマクロファージの免疫抑制性表現型がヒトNSCLC患者の転移と予後に臨床的に関連していることを示唆している。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、腫瘍由来エクソソーム (TDE) が転移前ニッチにおける免疫抑制性マクロファージ表現型を誘導するメカニズムとして、TLR2/HMGB-1→NF-κB→HIF-1α/GLUT-1 (グルコース取り込み増加) とNOS2 (ミトコンドリア呼吸抑制) による二経路解糖優位代謝リプログラミングを解明し、乳酸→NF-κB→PD-L1というオートクリンフィードバックループを発見した。これは、古典的M2マクロファージが酸化的リン酸化依存型とされてきたこれまでの知見と異なり、PMNマクロファージが解糖依存的でありながら免疫抑制性という「非古典的M1」表現型を採ることを初めて示した点において新規性が高い。肺扁平上皮癌前癌病変でM1マクロファージがPD-L1高発現するという独立した報告とも一致する。

新規性: 本研究で初めて、TDEがマクロファージのPD-L1 de novo合成を誘導するメカニズムとして、TLR2/HMGB-1を介したNF-κB経路の活性化が、HIF-1α/GLUT-1によるグルコース取り込み増加とNOS2/NOによるミトコンドリア酸化的リン酸化阻害という二つの独立した経路を通じて解糖優位代謝リプログラミングを引き起こすことを明らかにした。さらに、この解糖亢進によって産生された乳酸が、NF-κBを介してPD-L1発現をさらに増幅するというオートクリンフィードバックループを新規に同定した。この非古典的M1様解糖依存性免疫抑制マクロファージ表現型の発見は、転移機序の新しいパラダイムを提示するものである。

臨床応用: 本知見は、がん転移の予防および治療における複数の臨床応用を示唆する。第一に、エクソソーム分泌遺伝子YKT6がNSCLCの転移リスクバイオマーカーとして利用できる可能性があり、高発現患者の予後不良との相関は、YKT6を標的とした治療戦略の基盤となりうる。第二に、NF-κB、HIF-1α、NOS2、解糖、乳酸経路といった本機構の複合標的阻害が、転移前ニッチ形成を阻止する新たな治療戦略となる可能性がある。第三に、N0期であってもdLNのCD206+PD-L1+マクロファージが増加しているという知見は、免疫チェックポイント治療の効果予測指標として応用できる可能性があり、より早期の介入や個別化医療への貢献が期待される。これらの臨床的意義は、将来的な個別化医療戦略の発展に貢献しうる。

残された課題: 今後の検討課題として、ヒト検体におけるサンプルサイズの小ささが挙げられる。特に、dLN内乳酸レベルとPD-L1+マクロファージの関連性については未検討であり、この相関を大規模なヒトコホートで検証する必要がある。また、TDEがマクロファージの代謝を再プログラミングする際に、HMGB-1以外のエクソソーム内因子がTLR2を介して作用する可能性も完全に排除されておらず、さらなる詳細な解析が求められる。これらのlimitationを克服することで、本研究で解明されたメカニズムの臨床的妥当性と応用可能性がさらに強化されるであろう。

方法

動物モデル: Lewis肺癌 (LLC) 皮下腫瘍モデルにTDEを静脈内投与し、肺転移促進効果を評価した。また、4T-1乳癌転移モデルも使用した。遺伝子改変マウスとして、TLR2/4/6/7/9欠損マウス、MyD88欠損マウス、NOS2欠損マウス、LysM-cre;HIF-1αコンディショナルKOマウスを用いた。エクソソーム分泌欠損腫瘍細胞を生成するため、CRISPR/Cas9技術によりRab27aノックアウト4T-1細胞も作製した。マウスはC57BL/6およびBALB/cJ系統を使用し、6-8週齢の性別一致した個体を用いた。

エクソソーム解析: LLC由来エクソソームは、Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006 の方法に準拠し、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA)、電子顕微鏡、およびタンパク質アレイを用いて特性解析した。Pan02 (膵癌、肝臓向性) エクソソームを臓器向性の対照として使用した。エクソソームの細胞取り込みはDil標識エクソソームを用いてフローサイトメトリーで評価した。

マクロファージ培養と刺激: 腹腔マクロファージは Ray et al. JVisExp 2010 の方法に従い分離・培養した。マクロファージはLLC TDEまたは対照エクソソーム (MLE-12肺上皮細胞エクソソーム) で刺激した。PD-L1発現はフローサイトメトリーおよびウェスタンブロットで評価した。RNA転写阻害剤アクチノマイシンD、NF-κB阻害剤BAY-11-7082、解糖阻害剤2-DG、NOS2阻害剤SEITU、MCT-1阻害剤AZD3965、組換えHMGB-1、およびL-乳酸を用いてシグナル伝達経路および代謝経路を解析した。

代謝解析: Seahorse XFアナライザーを用いて解糖ストレス試験およびミトコンドリアストレス試験を実施し、細胞外酸性化率 (ECAR) および酸素消費率 (OCR) を測定した。2-NBDG蛍光グルコース取り込みアッセイ、L-乳酸測定キット、およびin vivo 18F-FDG PET/CTを実施した。GLUT-1、HIF-1α、LDHA、PDK1、HK-1、IDH1、NOS2、Arg-1、VEGF、MCT-1、MCT-4のmRNA発現レベルをRT-PCRで定量した。

サイトカインおよびT細胞機能解析: サイトカインアレイおよびELISAを用いて、TDE刺激マクロファージからのサイトカイン (TNFα、TIMP-1、MCP-1、IL-10、IL-6、IL-1ra、G-CSF、CXCL1、IFNγ) 分泌を測定した。OT-I CD8+ T細胞との共培養アッセイにより、TDE刺激マクロファージのT細胞増殖およびIFNγ産生抑制能を評価した。

臨床検体解析: NSCLC患者の腫瘍陰性リンパ節 (dLN) をCyTOFで解析し、CD68+CD206+PD-L1+マクロファージの割合およびGLUT-1発現を評価した。TCGA (The Cancer Genome Atlas) データセットを用いて、エクソソーム放出関連遺伝子 (YKT6、TSG101) の発現とリンパ節転移および患者予後との相関解析を実施した。ヒトCD14+単球を用いたin vitro実験も実施し、ヒトTDEがマウスモデルと同様のメカニズムでPD-L1発現を誘導するかを検証した。

統計解析: データは平均±SEMで示され、統計解析には一元配置ANOVA、多重比較検定、対応のないStudentのt検定、Mann-Whitney U検定、Pearson相関分析、線形回帰、ログランク検定を用いた。p値が0.05未満を有意とした。