• 著者: Di Vizio D, Kim J, Hager MH, Morello M, Yang W, Lafargue CJ, True LD, Rubin MA, Adam RM, Beroukhim R, Demichelis F, Freeman MR
  • Corresponding author: Michael R. Freeman (The Urological Diseases Research Center, Children’s Hospital Boston & Harvard Medical School, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2009
  • Epub日: 2009-06-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19549916

背景

細胞外小胞 (EV; extracellular vesicle) を介した癌細胞間の情報伝達は、腫瘍微小環境の形成・改変における新興の機序として注目されていた。Al-Nedawi et al. (2008) は悪性グリオーマ (glioblastoma; 膠芽腫) 細胞が放出する「オンコソーム」と呼ばれる膜小胞が EGFR (epidermal growth factor receptor; 上皮成長因子受容体) やビメンチンなどの癌遺伝子産物を静止期グリオーマ細胞に水平伝達し、受容細胞を悪性表現型へと変換することを初めて示した。一方、nonapoptotic membrane blebbing (非アポトーシス性膜ブレブ形成) は Fackler & Grosse (2008) によってアメーバ様細胞運動と関連する形質膜の動的変形として記述され、Gadea et al. (2007) は RhoA-ROCK シグナルを介したブレブ形成が三次元基質内の侵襲的移動を促進することを示した。しかし前立腺癌 (PCa; prostate cancer) 細胞でのオンコソーム産生は未報告であり、オンコソーム形成の分子的調節因子、癌細胞由来 EV の生物学的活性、および PCa の転移との潜在的な関連に関する知見は大きく不足していた。Tahir et al. (2001) はカベオリン-1 (caveolin-1) が転移性 PCa の血清バイオマーカーであることを示したが、癌細胞由来膜小胞との関連は未解明のままであった。さらに、膜ブレブを制御するアクチン動態関連タンパクの遺伝子異常が転移性 PCa で選択的に起こりうるかどうかという知識の空白が存在していた。

目的

DU145 および LNCaP ヒト前立腺癌細胞株においてオンコソーム形成と分泌を実証し、その誘導シグナル・形成機序・生物活性および分子カーゴを解析する。またオンコソーム形成の内在的阻害因子を同定し、当該遺伝子座の染色体異常と転移性 PCa との関連を原発癌と比較して評価することを目的とする。

結果

EGFR/Akt活性化によりDU145・LNCaP前立腺癌細胞から0.5〜5 μmの非アポトーシス性膜ブレブが誘導され培地中にオンコソームとして分泌される

n=2 種の PCa 細胞株 (DU145、LNCaP) において、EGF (50 ng/mL) 刺激後 約 5 分以内に 0.5〜5 μm 径の非アポトーシス性膜ブレブが急速に形成され (FITC-CTxB (fluorescein isothiocyanate-cholera toxin B; フルオレセイン標識コレラ毒素 B) 膜染色、pMEM-YFP リアルタイム共焦点イメージング、Fig 1A・1B)、PARP 切断の増加なく 24 時間持続した。ブレブの完全な分泌 (SV; shed vesicle としての放出) もリアルタイム映像で確認された。EGFR 阻害剤ゲフィチニブ (ZD1839; 10 μmol/L) は EGF 誘発性ブレブ形成を完全に抑制し (Fig 2Bi)、EGFR 活性化が誘導に必須であることを示した。さらに LNCaP 細胞において膜局在型 Akt1 (MyrAkt1; myristoylated Akt1) の安定発現、膜結合型 HB-EGF (proHB-EGF)、または分泌型 HB-EGF (sHB-EGF) の過剰発現によっても外因性 EGF 非存在下でブレブ形成が有意に増加し (Fig 2C)、EGFR/Akt シグナル軸がオンコソーム産生を駆動することが明らかになった。PC-3 PCa 細胞でも EGF に対し同様の急速なブレブ応答が観察され、本現象が PCa 細胞に広範に存在することが示された。

オンコソームはシグナル伝達タンパクを内包し受容細胞のAkt経路・チロシンリン酸化・増殖・遊走を活性化するとともに間質反応を誘導する

SV は膜タンパクの Cav-1 (caveolin-1; カベオリン-1; PCa 血清バイオマーカー) を含み、SDS-PAGE + タンデム質量分析 (LTQ ProteomeX; Linear Trap Quadrupole 型 LC-MS/MS 質量分析計) により 16 種以上の主要 SV カーゴタンパクが同定された (Fig 3A)。主要カーゴには PKM2 (pyruvate kinase M2; がん代謝関連イソフォーム)、PDCD6IP (programmed cell death 6-interacting protein)/Alix、PABPC1 (パキシリン結合・細胞遊走促進タンパク)、hnRNP-K (heterogeneous nuclear ribonucleoprotein K; Akt 結合タンパク) が含まれ、Akt および Src も SV 中に検出された (Fig 2D)。LNCaP/MyrAkt1 由来 SV を受容 LNCaP/LacZ 細胞に暴露すると、Akt 経路の時間依存的活性化 (p-Akt S473、p-GSK3α/β S21/9、p-FoxO1 S256)、p-Tyr および EGFR リン酸化シグナルの増強が認められ、HA タグ付き MyrAkt1 自体も受容細胞に伝達された (Fig 3B・3C)。また SV を WPMY-1 前立腺間質筋線維芽細胞株 (myofibroblast cell line) に暴露するとビメンチン (vimentin) mRNA が増加し (qRT-PCR; GAPDH 正規化、Fig 3D)、腫瘍微小環境内での間質反応誘導能が示された。MetaCore 経路解析では LNCaP/LacZ 由来 SV で mRNA 翻訳に関連する 3 種の有意な経路モデルが同定されたのに対し、LNCaP/MyrAkt1 由来 SV では細胞骨格再編成・細胞周期・炎症・DNA 損傷・細胞接着・mRNA 翻訳を含む 9 種の有意な関連が検出された。

DRF3/DIAPH3ノックダウンがオンコソーム形成を著明に増加させ受容細胞の増殖・遊走を促進する

ホルミン相同タンパク DRF3 (Diaphanous-Related Formin 3; DIAPH3 遺伝子産物) に対する siRNA プール (ONTARGETplus SMARTpool、72 h 処理) による DU145 細胞でのノックダウンは、EGF 存在下でのブレブ形成を劇的に増加させた (Western blot および RT-PCR でノックダウン確認、Fig 4A・4B・4C)。DRF3 ノックダウン細胞由来 SV を受容 DU145 細胞に暴露すると、EGF 単独での EGFR 活性化と定量的に同等のレベルで細胞増殖および遊走が有意に促進された (p < 0.05、Fig 4D)。これらの結果は DRF3 がアクチン動態を介してオンコソーム形成を内在的に抑制し、その消失が腫瘍細胞の増殖・浸潤促進的な EV 分泌亢進を引き起こすことを示す。

100K SNPアレイ解析でDIAPH3遺伝子座の欠失が転移性前立腺癌に67% vs 原発癌8.3%の高頻度で観察される (p=0.001)

n=12 例の原発 PCa・n=27 例の転移 PCa の計 n=39 例のゲノム DNA を Affymetrix 100K SNP アレイ (GeneChip Scanner 3000) で解析した結果、DIAPH3 遺伝子座 (chr13q21.2) に欠失が認められたのは計 n=19 例 (49%) であり、ゲノム全体の平均欠失率 20% と比較して高頻度であった (Fig 5A)。欠失は転移癌で n=18/27 例 (67%)、原発癌で n=1/12 例 (8.3%) に観察され、両者の差は 2-sided フィッシャーの正確検定で統計的に有意であった (p = 0.001)。欠失閾値はセグメント化対数比 < -0.1 (正常組織データの 0.5% のみが達する水準) と定義した。

独立コホートでのFISH解析がDIAPH3欠失の転移選択的高頻度を再確認する (64% vs 20%, p=0.006)

独立した患者コホートの前立腺摘除組織および PCa 進行組織マイクロアレイを用いた蛍光 in situ ハイブリダイゼーション (FISH; fluorescence in situ hybridization) 解析 (DIAPH3 特異的 BAC プローブ RP11-643G22/RP11-638B12 + chr21q22.12 参照プローブ RP11-451M12) では、転移 PCa 9/14 例 (64%) および原発 PCa 7/35 例 (20%) に DIAPH3 の染色体喪失が確認された (Fig 5B)。2-sided フィッシャーの正確検定で p = 0.006 の有意差が得られ、SNP アレイ結果を独立の手法で再現した。良性前立腺組織では DIAPH3 欠失は検出されなかった。

考察/結論

本研究は前立腺癌細胞がオンコソームを産生・分泌し腫瘍微小環境を変容させる最初の証拠を提供し、DRF3/DIAPH3 を内在的抑制因子として同定するとともに、DIAPH3 の染色体欠失が転移性 PCa で顕著に高頻度であることを 2 種の独立した手法で示した。

① 先行研究との違い: Al-Nedawi et al. (2008) が報告した膠芽腫由来オンコソームと対照的に、本研究で示した前立腺癌オンコソームは EGFR/Akt シグナルによって誘導可能であり、かつ DRF3 という内在的阻害因子が形成を制御することを新たに明らかにした。またこれまで前立腺癌細胞でのオンコソーム形成は報告されておらず、オンコソーム産生と nonapoptotic blebbing の直接的関連もこれまでにない知見である。他の研究グループが報告した < 0.1〜1 μm の小型分泌小胞 (エクソソーム相当) と相違し、本研究のオンコソームは 0.5〜5 μm という大型サイズを持ち、膜ブレブを起源とするという点で機序的に区別される (DiVizio et al. 2012、DiVizio et al. AmJPathol 2012)。

② 新規性: 本研究の新規な貢献は 3 点ある。(1) 前立腺癌細胞がオンコソームを産生することを初めて示し、EGFR および Akt 活性化がその誘導に十分であることを実証した点。(2) ホルミンタンパク DRF3/DIAPH3 を新規にオンコソーム形成の内在的阻害因子として同定した点。(3) DIAPH3 遺伝子座の染色体欠失が転移性 PCa で顕著に高頻度であり、DRF3 機能喪失が転移促進的 EV 分泌亢進に寄与しうるという最初の in vivo 証拠を提供した点である。この知見は後続の大型オンコソーム研究 (Vagner et al. JExtracellVesicles 2018) の基盤となった。

③ 臨床的意義: DIAPH3 欠失が転移性 PCa の 67% に認められ原発癌 8.3% と大きく異なることは、転移リスクの分子的マーカーとして診断的意義を持ちうる。カーゴ成分として同定された Cav-1 は転移性 PCa の血清バイオマーカーでもあり、オンコソームが液体生検の新たな標的となる可能性がある。また SV を介した水平シグナル伝達 (Akt 活性化・間質反応誘導) は腫瘍微小環境の再プログラムを担い、臨床応用として DRF3 経路の活性化やオンコソーム形成阻害が転移予防戦略となりうる。EGFR 阻害剤ゲフィチニブがオンコソーム産生を完全抑制した知見は、臨床的意義として既承認 EGFR 阻害剤による EV 産生制御の可能性を示す (Bijnsdorp et al. JExtracellVesicles 2013)。

④ 残された課題: 今後の課題として、DIAPH3 欠失の獲得が時系列的に転移前か後かという因果方向の解明、オンコソームと小型エクソソームの機能的区別の確定、および in vivo でのオンコソーム伝播経路の解析が挙げられる。また本研究のカーゴ解析は限られた細胞株・条件下での結果であり、今後の研究として原発腫瘍 vs 転移サイトから採取されたオンコソームのカーゴ比較が必要である。DIAPH3 以外の内在的調節因子の同定、ならびに Rho-GTPase/ROCK シグナルとの詳細な機序的連関の解明も残された課題である。

方法

細胞株・培養: DU145、LNCaP (前立腺癌)、PC-3 (前立腺癌)、WPMY-1 (前立腺間質)、iPrEC (hTERT 不死化正常前立腺上皮) を使用 (ATCC 由来)。安定発現細胞株: LNCaP/MyrAkt1 (膜局在型 Akt1)、LNCaP/proHB-EGF、LNCaP/sHB-EGF、LNCaP/LacZ、LNCaP/Vo (対照)。瞬間発現: Cav-1-GFP または pMEM-YFP (FuGENE6 トランスフェクション)。

オンコソーム (SV) の単離と転移アッセイ: ISEV2023 準拠の段階的超遠心法 (differential ultracentrifugation; DUC)—条件培地を 300g (細胞除去)、12,000g (debris 除去)、100,000g × 2 時間 (SV ペレット) の 3 段階遠心で単離。PBS 再懸濁後タンパク定量。受容細胞: 12 h 血清飢餓後に 20 μg/mL SV を暴露。特性評価マーカー: Cav-1 (カベオリン-1)、Akt、Src、HA-MyrAkt1 を Western blot で確認; カーゴタンパクは SDS-PAGE 後 LC-MS/MS (LTQ ProteomeX; サーモフィッシャー) で同定 (各タンパク ≥2 ユニークペプチド、イオンスコア ≥40、p < 0.01)。

DRF3 ノックダウン: DU145 細胞に ONTARGETplus SMARTpool siRNA (標的配列 NM_030932) を DharmaFECT1 で 72 h トランスフェクション; Western blot + RT-PCR でサイレンシング確認。

SNP アレイ: Affymetrix 100K SNP アレイ (n=12 原発 + n=27 転移 PCa); GeneChip Scanner 3000 + Affymetrix Genotyping Tools v2.0; 欠失閾値: セグメント化対数比 < -0.1; GLAD (Gain and Loss Analysis of DNA) セグメンテーション。

FISH: DIAPH3 標的プローブ (BAC クローン RP11-643G22/RP11-638B12、赤シグナル) + chr21q22.12 参照プローブ (BAC クローン RP11-451M12、緑シグナル); Olympus BX-511 蛍光顕微鏡 × 60 油浸対物; ≥50 核を半定量評価。

増殖・遊走: 細胞生存率アッセイ + in vitro wound healing アッセイ + Chemicon 細胞遊走チャンバー。qRT-PCR: SYBR Green; ビメンチン mRNA を GAPDH 正規化。

統計解析: 2-sided フィッシャーの正確検定 (DIAPH3 欠失率の原発癌 vs 転移癌比較; SNP アレイ p=0.001、FISH p=0.006); 細胞機能アッセイは p < 0.05 を有意とした。MetaCore (GeneGo) による経路エンリッチメント・ネットワーク解析 (直接相互作用アルゴリズム + 最短経路アルゴリズム)。