• 著者: Dolores Di Vizio, Matteo Morello, Andrew C. Dudley, Peter W. Schow, Rosalyn M. Adam, Samantha Morley, David Mulholland, Mirja Rotinen, Martin H. Hager, Luigi Insabato, Marsha A. Moses, Francesca Demichelis, Michael P. Lisanti, Hong Wu, Michael Klagsbrun, Neil A. Bhowmick, Mark A. Rubin, Crislyn D’Souza-Schorey, Michael R. Freeman
  • Corresponding author: Dolores Di Vizio (dolores.divizio@childrens.harvard.edu); Michael R. Freeman (michael.freeman@cshs.org) (Division of Cancer Biology and Therapeutics, Cedars-Sinai Medical Center, Los Angeles, CA)
  • 雑誌: The American Journal of Pathology
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2012-09-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23022210

背景

腫瘍細胞由来微小小胞 (TMV: tumor-derived microvesicles) は、細胞間シグナル伝達複合体を細胞および組織コンパートメント間で伝達する役割を担うことが知られている。これまで、TMV の主流は直径 80〜500 nm のエクソソームサイズが中心であったが、著者らの先行研究 (Di Vizio et al. 2009) では、DIAPH3 (フォルミン) サイレンシングによりアメーバ様挙動が誘導された前立腺癌細胞が、直径 1〜10 µm の大型膜小胞を産生することが示されていた。しかし、このアメーバ様小胞が生体内で検出可能か、また臨床的意義を持つかについては未解明な点が多かった。GTPase ARF6 は、アクチン-ミオシン依存的な大型小胞産生の正の調節因子として知られており、侵襲性腫瘍細胞の細胞膜からプロテアーゼを搭載した小胞の脱落を媒介することが最近示唆された Muralidharan-Chari et al. CurrBiol 2009。このことから、ARF6 は in vivo での大型オンコソーム追跡マーカーとして有望視されていた。

前立腺癌は西洋諸国において男性のがん死亡率第 2 位であり、進行性で治療困難な前立腺癌への進行を理解し、治療前後の疾患経過を評価するための信頼できるマーカーの特定は、依然として主要な臨床的課題である。既存の PSA (前立腺特異抗原) は、炎症や良性前立腺肥大症などの良性疾患でも上昇することがあり、疾患進行の予測ツールとしては不十分であることが指摘されている。エクソソームサイズの EV (extracellular vesicles) については、抗原提示や転移前ニッチ形成における機能研究が進んでいたが Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008; Cocucci et al. TrendsCellBiol 2009、直径 1 µm を超える大型の EV については系統的な解析が不足しており、その生物学的役割や臨床的意義はほとんど未開拓であった。特に、アメーバ様運動を示す腫瘍細胞が産生する大型の膜小胞が、生体内でどのように機能し、疾患の悪性度と関連するのかという知識ギャップが残されていた。本研究は、この大型腫瘍由来微小小胞(large oncosomes)の特性、生物学的活性、および臨床的意義を明らかにすることを目的とした。

目的

本研究の目的は、前立腺癌細胞のアメーバ様膜ブレビングにより産生される直径 1〜10 µm の大型腫瘍由来微小小胞 (large oncosomes) を、1 µm および 10 µm ビーズで較正した FACS サイズゲーティングを用いた独自手法で特性解析し、以下の点を明らかにすることである。(1) これらの大型オンコソームの形態、組成、産生機序、および生物学的活性(内皮細胞、間質細胞、腫瘍細胞への遊走促進作用、MMP 活性、転移促進因子の誘導)を in vitro で評価すること。(2) マウス転移モデルにおいて、血中大型オンコソームの検出可能性、その存在量と腫瘍重量および疾患進行との相関を明らかにすること。(3) ヒト前立腺癌組織における大型オンコソーム様構造の存在を同定し、その病理学的悪性度(Gleason score)および転移状態との臨床的意義を評価すること。最終的に、大型オンコソームが前立腺癌の悪性度および転移のバイオマーカーとなり得るか、また腫瘍微小環境の修飾に寄与するメカニズムを解明することを目指した。

結果

Large oncosomes の形態、組成、および産生機序: LNCaP/MyrAkt1 細胞は、アメーバ様膜ブレビングにより直径 1〜10 µm(モード径 3.1〜4.0 µm)の大型小胞を産生した (Figure 1, A, B, G)。FACS-PI 染色により RNA 含有が確認され、ゲノム DNA も共存していた (Figure 1, C, D)。Western blot 解析では、MyrAkt1(膜局在型)、ARF6、Cav-1 が大型 EV 画分に濃縮されていることが示された (Figure 2B)。DIAPH3 siRNA サイレンシングにより大型小胞産生が著明に増加し、アメーバ様膜ブレビングとフォルミン活性の逆相関が確認された (Figure 2B)。ゼラチンザイモグラフィーにより MMP9 および MMP2 の活性バンドが確認され、FITC ゼラチンマトリックスへのプロテアーゼ活性(proteolytic clearance)は直径 2〜4 µm のスポットとして可視化された (Figure 1E, F)。ARF6 陽性大型 EV 画分は小型 EV 画分より高い MMP 活性を示し、基質分解能の大型 EV 特異性を裏付けた。WPMY-1 前立腺間質細胞は LNCaP/MyrAkt1 conditioned medium 中に最少量しか大型小胞を産生せず、産生量差は p<0.001 で有意であり、大型オンコソームが主として腫瘍細胞に特異的な現象であることを示した (Figure 1E)。

Large oncosomes の生物学的活性: LNCaP/MyrAkt1 由来 shed vesicles (SVs, 10 µg/mL) は、MDEC 遊走を有意に促進し (p=0.038)、TEC 遊走も有意に促進した (p=0.028) (Figure 2C)。DU145 細胞遊走も SV 処理により有意に促進された (p=0.011) (Figure 2D)。WPMY-1 間質細胞を SV で処理すると、DU145 の WPMY-1 誘導性遊走が有意に増加した (p=0.021) (Figure 2E)。SV 処理 WPMY-1 細胞では pAkt1 の活性化が確認された (Figure 2F)。マウス前立腺線維芽細胞 (n=3 replicates) では、BDNF、CXCL12、オステオポンチン、IL-6 などの転移促進因子 mRNA が、対照と比較して有意に上昇した (Figure 2G)。これらの結果から、Large oncosomes が腫瘍細胞-内皮細胞-間質細胞の 3 者間クロストークを同時に促進する多細胞型パラクリン因子として機能することが示された。

マウス循環中 Large oncosomes の検出と腫瘍量相関: LNCaP/MyrAkt1 腫瘍担持 SCID マウス (n=8〜16 匹のマウス) の血漿中に、MyrAkt1+・HA+ の 1〜10 µm 粒子が FACS で検出された (Figure 4C, D)。LNCaP/LacZ 腫瘍担持マウスの血漿では同粒子はほぼ検出されなかった。検出された MyrAkt1+ 粒子の比率は腫瘍重量と有意に相関した (p=0.007) (Figure 4E)。血漿から回収された MyrAkt1+ 大型オンコソームは MDEC 遊走を促進し、in vitro と同様の生物活性を保持していた (Figure 4F)。腫瘍組織の TEM 観察では、血管近傍に内部構造(ポリリボソーム様構造を含む)を持つ大型膜嚢状構造が観察された (Figure 4H)。TRAMP マウスでは、転移例(リンパ節・肺)で Cav-1 陽性大型オンコソームが器官限局腫瘍例の約 30 倍に増加し (p=0.0002)、前立腺上皮内腫瘍 (PIN) や正常マウスには検出されなかった (p=0.0007) (Figure 6A, C)。重要な点として、Cav-1 陽性の <1 µm 粒子の血漿中存在量は疾患進行と相関せず、サイズ特異的なバイオマーカー性を示した (Figure 6D)。

ヒト前立腺癌組織での Large oncosomes 同定と臨床病理相関: ヒトコアバイオプシー 15 例中 3 例で ARF6+ 大型 oncosome 様構造が確認された。TMA 解析では、良性前立腺組織には ARF6+ 大型 oncosome 様構造が認められず、腫瘍 vs 良性で有意差が認められた (p<0.0001) (Figure 5D)。Gleason score > 7 の群がスコア ≤ 7 群より有意に多くの ARF6+ 大型 oncosome 様構造を呈した (p=0.02) (Figure 5B)。転移巣では器官限局癌より有意に高密度で検出された (p=0.001) (Figure 5B)。別の TMA 解析でも転移と構造の存在が有意に相関した (p=0.0008) (Figure 5D)。さらに、Pten/Kras 二重変異マウス(遠隔転移・去勢抵抗性を示す)の Pten PbKO /KRAS 前立腺組織では ARF6+ 大型 oncosome 様構造が豊富に存在したが、器官限局性の Pten PbKO /Trp53 PbKO マウスには認められなかった。公開前立腺癌データセットの in silico 解析でも、ARF6 発現が正常組織より腫瘍で有意に高く、転移・再発例では発現が上位 10 パーセンタイルに集中することが確認された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、先行研究 (Di Vizio et al. 2009) が in vitro で大型 EV 産生を示したのとは異なり、(1) 生物学的活性(内皮・間質細胞活性化・MMP 活性)、(2) マウス血中での腫瘍量相関 (p=0.007)、(3) ヒト高悪性度前立腺癌・転移巣での集積という 3 段階の in vivo-in tumor-in human 証拠を提示した点に独自性がある。特に Cav-1 陽性 <1 µm 粒子が疾患進行と相関しない一方、Large oncosomes のみが転移と相関するというサイズ特異性の実証は、液体生検開発における粒子サイズ区分の重要性を先取りした概念的貢献である。

新規性: 本研究で初めて、ARF6、MMP9、MMP2、Cav-1、MyrAkt1 を搭載した直径 1〜10 µm の新規 Large oncosome 集団を、FACS サイズゲーティング(1 µm および 10 µm ビーズ較正)と光学顕微鏡を組み合わせた独自の検出系で系統的に特性解析した。Large oncosomes は既知の 80〜500 nm サイズの TMV(エクソソーム等)とは明確に区別される大型腫瘍由来小胞であり、腫瘍細胞のアメーバ様挙動と密接に連動することが示された。また、大型オンコソームが腫瘍細胞-内皮細胞-間質細胞の 3 者間クロストークを同時に促進する多細胞型パラクリン因子として機能することを明らかにした点も新規である。さらに、循環中の大型オンコソームが正常内皮細胞の遊走を刺激し、転移部位への血管透過性を高める可能性を示唆した点も重要である。方法論的には、腫瘍細胞・内皮細胞・間質細胞の 3 者間クロストークを Transwell アッセイで段階的に検証した設計が、Large oncosomes の多細胞性パラクリン作用の全体像を明らかにしており、後続の EV 機能研究のモデルとなった。

臨床応用: 本知見は、Cav-1 や ARF6 を標的とした大型 EV 液体生検への臨床応用可能性を示唆する。循環腫瘍細胞 (CTC) に比べてより多量かつ採取・保存が容易な液体生検対象となりうることが示唆され、臨床的意義は大きい。特に、大型オンコソームの存在量が Gleason score や転移と有意に相関することから、前立腺癌の悪性度評価や予後予測のための新規バイオマーカーとしての有用性が期待される。血清 PSA が良性疾患でも上昇する問題に対し、大型オンコソームの評価はより特異的な情報を提供し得る。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) 大型オンコソームと他の TMV との生物学的・構造的差異の詳細なプロテオミクス解析、(2) ヒト血漿を用いた前向き大規模臨床バリデーション、(3) 大型オンコソームの産生細胞からの標的臓器特異的転送機序の解明、(4) Cav-1・ARF6 以外の大型 EV 特異的マーカーの同定と多変量解析による予後バイオマーカー開発が挙げられる。また、本研究は主に前立腺癌モデルに焦点を当てたが、他の固形腫瘍においても同様の大型粒子が検出される可能性があり、その検証も今後の研究課題である。

方法

LNCaP/MyrAkt1 (活性化 Akt1 強制発現前立腺癌)、PC3、DU145 などのヒト前立腺癌細胞株、および WPMY-1 前立腺間質細胞株から、100,000×g 超遠心分離により conditioned medium から shed vesicles (SVs) を精製した。精製された SVs は、蛍光コレラ毒素 B サブユニット (CTxB) 染色、FACS (1 µm および 10 µm ビーズで較正したサイズゲーティング)、電子顕微鏡 (TEM) を用いて、他の TMV から分離・検出された。FACS-PI 染色により SVs 中の RNA/DNA 含有が確認された。核酸の純度評価には RNase A および DNase 1 消化が用いられ、2% アガロースゲル電気泳動で分画された。

MMP 活性評価のため、ゼラチンザイモグラフィーおよび FITC ゼラチン分解アッセイが実施された。生物学的活性を評価するため、マウス皮内内皮細胞 (MDEC)、腫瘍内皮細胞 (TEC)、DU145 細胞、および WPMY-1 細胞に対する遊走刺激アッセイが Transwell アッセイ (10 µg/mL SV、16 時間) で行われた。WPMY-1 細胞を SV で処理した後、DU145 細胞の遊走に対する影響も評価された。さらに、マウス前立腺線維芽細胞における転移促進因子 (BDNF, CXCL12, オステオポンチン, IL-6) の mRNA 発現レベルが定量的 RT-PCR で分析された。

in vivo モデルとして、LNCaP/MyrAkt1 または LNCaP/LacZ 対照細胞を SCID マウスの皮下に異種移植し (各 8〜16 匹のマウス)、血漿中の MyrAkt1+・HA+ の 1〜10 µm 粒子が HA 抗体を用いた FACS で検出された。腫瘍重量と血中粒子数との相関が評価された。また、自発性前立腺腫瘍モデルである TRAMP マウスを用いて、Cav-1 陽性 EV が FACS で検出され、疾患進行との関連が分析された。Pten PbKO /Trp53 PbKO マウスおよび Pten PbKO /KRAS マウスも大型オンコソーム様構造の評価に用いられた。

ヒト組織における大型オンコソーム様構造の同定と臨床病理学的相関を評価するため、ヒト前立腺癌コアバイオプシー (n=15 患者) および転移あり/なしを含む TMA (>120 パンチ) が用いられた。ARF6 および CK18 抗体を用いた免疫組織化学 (IHC) 染色により、大型オンコソーム様構造の存在が評価され、Gleason score および転移状態との関連が統計的に分析された。統計解析には Student’s t 検定、Pearson’s χ2 検定、および Fisher’s exact test が用いられ、p<0.05 を有意差ありと判断した。